映像クリエイターが知るべき録音術

txt:渡辺健一 構成:編集部

本連載も半年目となり、1つの区切りとしてビデオグラファーのための最小システムをご提案したいと思う。今回は、小さく軽く、そしてプロの音質のための機材を紹介したい。

カメラマンが持っているべき最低限のシステムとは

カメラマンやビデオグラファーの本業は画作りだ。音は必要最低限のクオリティーを得るべきだとお考えかもしれない。映画やドラマなどの本格的な録音は、プロの録音部を呼ぶべきであって、カメラマンは画に専念すべきかもしれない。

しかし、少人数で撮影しなければならない事実がある。この場合、ビデオグラファーがたった一人で録音もすることが多い。そこで、そういったワンマンオペレーションで、これさえあれば大丈夫とし得る音声のシステムを考えてみた。

番組収録に必要な最小システムはこれだ!

筆者の最小システムはコレ

まず、YouTubeやテレビ番組を撮る場合にプロが使っている標準的なシステムを紹介しよう。

最近のテレビ番組の音声マンの荷物は、実はカメラマンよりも点数が多く重たい。特に最近はカメラも三脚も軽くなり、カメラマンの荷物はカメラと三脚とLEDライト程度だ。一方、音声マンは、

  1. ショットガンマイク(ウインドジャマー&ショックマウント)
  2. インタビューマイク
  3. 無線ピンマイク2セット
  4. マイクブーム
  5. 音声ケーブル(マイク用とカメラ用の3本:3m&5m×2)
  6. フィールドレコーダー(もしくはミキサー)
  7. 電池の予備(単三電池を16本程度)

点数も多く、重さでは7~8kgにもなる。

そして、カメラマンはカメラを三脚に載せて仕事をするが、音声マンは全てを持ったまま撮影に臨む。なかなか過酷な仕事なのだ。テレビの音質は、このような多くの機材でクオリティーを確保しているということだ。本格的なシステムを考えると、ビデオグラファーが取り揃えるにはちょっと無理がある。そこで、表題のように上記の音質を維持しつつ、もっと手軽なシステムを紹介しよう。

ビデオグラファー向けの最小システムはこれだ!

撮影から録音まで一人でこなすビデオグラファーの場合、上記のプロの音声マンの機材から何を削って装備を小さく軽くするかがポイントになるだろう。また、予算的にもそれほどお金をかけられないかもしれない。ところが、2020年は音声機材の革命の年だと思っている。プロが使うレベルの音響機材が、非常に小さく軽くなったのだ。つまり、ビデオグラファーの音声機材が圧倒的に小さく軽くなるのだ。

そこで、最新機材を使った必要最小限のシステムを紹介しよう。まず必要な機材としては、ショットガンマイク、インタビューマイク、無線マイクの3種類が理想となるが、その全てを備えるのは大変だし、予算が嵩む。そこで、マイク選びを工夫してみよう。

■一つのマイクで全てをカバーしよう

この連載では、マイクの適材適所が重要だと解説してきた。ただし、人の声を録音することに限定すれば、無線マイクはあらゆる場面で万能だ。そこで、無線マイクを中心とした最小システムを組んでみよう。

無線マイクはWireless GO

とにかくマイクとして何が必要かと問われれば、無線ピンマイクが1つでもあれば何にでも対応できる。無線ピンマイクの中でも、RODEのWireless GOは非常に小さく、そして高音質で使いやすい。外部入力(マイクレベル)はプラグインパワー(2.8V)対応で、様々な同社や他社のピンマイクが接続可能だ。

また、ピンマイクがなくとも本体に無指向性の内蔵マイクがあり、胸ポケット(内側)に入れておくだけでかなり良い音質で録音ができる。つまり、Wireless GOを1セット、理想的には2セットを購入すれば様々な撮影現場に対応可能だ。

ただし、ピンマイクがあった方がより明瞭な音が録れる。同社のラベリアマイク(ピンマイク)Lavalier GOも非常に高音質で、マイク先端が細く、仕込みマイクとしても使いやすい。1万円程度でお買い得だと思う。

Wireless GOは、内蔵バッテリーで最大7時間(カタログ値)だが、実際には5時間程度の運用が可能だ。通常のロケであれば十分な稼働時間だ。ただ、映画やドラマではちょっと稼働時間が足りない。充電はUSB-C端子で行い、空の状態からだと2時間半程度で満充電となる。充電時間の2倍くらいの運用時間ということになる。タバコの箱くらいの小さなモバイルバッテリーを用意して外部電源で稼働すれば丸一日動いてくれるので、工夫次第で長時間撮影にも対応できる。ただし、Wireless GOが満充電の場合にはモバイルバッテリーの出力がオフになることもあるので、充電状況は適宜確認する必要がある。

余談だが、一般的なモバイルバッテリーは内部で3.7Vを5Vに昇圧するが、この仕組みがノイズを出す。これが音声機器に悪影響を与える場合があるのだが、Wireless GOに関しては全く問題がない(筆者が試した限り)。電源ノイズ対策ができているということだ。

一方、Wireless GO(受信機)とカメラの接続は、付属の3.5mmステレオケーブルで行う。カメラ側の入力は通常のマイク端子で大丈夫だ。Wireless GOの出力レベルは3段階あり、通常のマイク端子があるカメラなら接続可能だ。この3段階のレベル調整はかなり便利で、あらゆる録音機器や映像機器に接続できる。私がWireless GOを勧める理由の1つが、このレベル調整機能にあると言ってもいい。

つまり、Wireless GOが1つあればビデオグラファーも録音環境はかなり向上すると言える。これによって、撮影の自由度向上と機材の軽量化が可能になり、プロ級の音質が手に入る訳だ。

Wireless GOシステムを進化させよ!

Wireless GO(送信器)のマイク端子には、インタビューマイク(SM63など)やショットガンマイクMKE600などファンタム電源を必要としないマイクが接続可能だ(XLR-3.5mmステレオジャック変換が必要:TS-TSR変換)。ショットガンマイクが無線で接続できるのは、非常にメリットが大きい。まず、長いケーブルが不要で、マイクブームの取り回しが楽になる。というのは、マイクブームにケーブルを這わすのは、現場ではかなり面倒な作業になり、荷物の重量もかなり増える。高価なケーブルになると5mで1kgにもなり、これを持って歩くだけでも重労働だ。

もちろん、SM63やMKE600を有線でカメラにダイレクトに繋いでもいい。しかし、ケーブルの取り回しの面倒さや重さを考えると、Wireless GOとの組み合わせがビデオグラファーにはメリットが大きいと思う。まずはWireless GOを手に入れて、必要に応じてシステムを拡張すればいいのだ。

余談だが、最近はソーシャルディスタンスを稼ぐためにインタビューマイクを短いマイクブームで差し出すことも求められている。そういう意味では、Wireless Go+インタビューマイクという組み合わせは即戦力となる。

Wireless GOは変幻自在だ

さて、SM63やMKE600を使えばベターだが、Wireless GOをショットガンマイクやインタビューマイクの代わりに使うこともできる。純正部品として、Wireless GOをインタビューマイクにするグリップInterview GOがある。Wireless GOを先端に付けて使うグリップだ。ウインドシールド(スポンジ)が付属しており、Wireless GOがインタビューマイクに早変わりする。

実際に使ってみた感じでは、SM63と音質的には遜色がない。非常にいい音で声が録音できるし、グリップを握ったときのハンドリングノイズもSM63と同じでほとんど出ない。

また、自撮り棒などの先にWireless GOを取り付ければ、簡易のマイクブームになる。自撮り棒の先に、カメラシューアダプタを取り付け、Wireless GOのクリップに固定する(Wireless GOのクリップはカメラシューに差し込めるようになっている)。ただし、Wireless GOの内蔵マイクは無指向性なので、ショットガンマイクよりは周囲の音を拾ってしまう。MKE600などのショットガンマイクよりも被写体に近づけないと環境ノイズが下がらないことは覚悟してほしい(理由は連載の第1回を参照)。

ただし、Wireless GOでショットガンマイクの音が手に入るわけではない。ショットガンマイクは、マイクの画角とピントの中に被写体があるときに最もいい音(自然な音)になり、画角から外れると遠くの音になる。Wireless GOは無指向性なので、そういった音の距離感をコントロールすることは無理だ。もう少し解説すると、Wireless GOでマイクから離れて喋れば遠くの声になり、同時に不明瞭な声になる。

一方、ショットガンマイクの画角を外した音というのは、遠くに聞こえるが声は明瞭である。つまり、Wireless GOをマイクブームに付けて使う場合の目的は、あくまで声を綺麗に録音することにあって、マイクで音を表現するためではない(明瞭な声のまま距離感を作るのはショットガンマイクの役割だ)。

■複数のWireless GOを使うとさらに良い

Wireless GOが複数あると、さらにいろいろなことができるようになるし、余計な機材を買う必要もなくなる。例えば、Wireless GOが2台あれば、1つは出演者の仕込みマイクに、もう1つはマイクブームに付けてショットガンマイクの代用という組み合わせができる。仕込みマイクとInterview Goの組み合わせでもいい。もちろん、2つとも仕込みマイクに使ってもいい。実は、複数のマイクを使う場合、音質の違いが問題になることがあるのだが、全てのマイクをWireless GOにすれば音質問題もなくなるわけだ。

ちなみに、マイクブームを使うシーンというのはどういう時かというと、旅番組などで出演者が急にお店の人に話しかけるような時だ。その場のノリや雰囲気を活かすにはガンマイクを使うべきなのだ。つまり、出演者にはピンマイクとしてWireless GOを付けておいて、お店の人の声はガンマイクで拾うシーンだ。この場合、マイクはピンマイクとガンマイクの2つ必要となる。これは、Wireless GOを2つ使えば実現可能だ。

時間があればお店の人にもピンマイクを付ければいいのだが、手間や時間がかかる。このような撮影を行う場合、Wireless GOを自撮り棒や2m程度のマイクブームの先に付けて差し出せば良い。もし、ビデオグラファーが手持ちで撮影している場合にはブームを出すわけにはいかないかもしれない。

その場合には、カメラがお店の人に近寄ってカメラマイクで声を録るか、(ピンマイクなしの)Wireless GO本体をお店の人の胸ポケットや胸のボタンあたりに付けてもいい。ピンマイクはケーブルの取り回しに時間がかかるが、Wireless GOの本体だけならあっという間に設置できるので、雰囲気を壊さずに撮影を続けられる。

ヘッドホンをケーブルレスへ

また、前述のようにWireless GOはマイクとしても使えるし、外部マイクの伝送にも使える。さらに、カメラのヘッドホン端子に送信機を繋ぎ、受信機にヘッドホンに繋ぐと、カメラからケーブルレスで録音状態を観測できる。これも非常に便利だ。いずれにせよ、工夫次第でいろいろな使い方ができるわけだ。

■マイクの台数に応じたミキサー選び

Wireless GOが複数ある場合には、ミキサーが必要になる。ミキサーと言っても、それほど高価なものを使う必要はない。電源を必要としないパッシブミキサーというのがあって、2chで5000円しない。実は、中身はスイッチとボリュームだけで、アンプが入っていない。メリットはほとんど音質が変わらないことと電池の心配がいらないこと。一方、途中にボリューム(可変抵抗)が入っているので、マイクの音量が下がる。

だが、Wireless GOの出力はかなり大きいので、パッシブミキサーが入っても問題がない。また、安いパッシブミキサーにはリミッターなども入っていないので、カメラ側でリミッターをかける必要があるし、レベルメーターもないのでカメラのレベルメーターに頼るしかない。この辺りは、事前に十分なテストを繰り返してから現場に臨んで欲しい。特にレベルオーバーには注意が必要だ。

写真のパッシブミキサーは、2つの入力をステレオ音声で出力するか、2つを混ぜたモノラル出力にするかを選べる。つまり、Wireless GOを2つ繋ぐか、片方をインタビューマイクにして、それを左右別の音として出力(ステレオ出力)にしたり、ミックスしてカメラへ送ったりすることができる。2つのマイクをミックスしたモノラル出力か、左右別のマイクに振り分けたステレオ出力が選べる。カメラのマイク端子がステレオ入力対応であれば、ステレオ出力にしておくと2つのマイクを別々にカメラに記録でき、編集時に音の再調整の幅が広がるのだ。

パッシブミキサーを介して、インタビューマイク(SM63など)とWireless GOを併用する場合は、インタビューマイクはかなり出力レベルが低いので注意が必要だ。接続にはコツがいる。カメラのマイク入力は「マイク」で、マイクボリュームも最大(サーというノイズが聞こえないレベル)まで上げておく。

その状態でパッシブミキサーのボリュームでインタビューマイクのレベル調整を行う。さらに、Wireless GOの出力は最低にしてパッシブミキサーのボリュームでレベルを整える。なぜこのようなことをするかというと、SM63などは出力レベルが低く、それに対してWireless GOは高い。

そこで出力の低いSM63の音が十分に調整できるようにカメラ側のボリュームを上げておいて、パッシブミキサーでちょうど良い音量に下げて使うのだ。実際にはカメラによって特性が異なるので、やってみてちょうど良いレベルを見つけて欲しい。

さて、3つ以上のマイクを使う場合には、マイクの本数に応じたミキサー(レコーダー)を使うしかないが、通常のロケなら2chのパッシブミキサーで十分だと思う。逆に、3人以上が同時に喋る場合には、音声マンがいないとおそらく録音の失敗が伴うだろう。複数人の録音はプロの音声マンでも難しく、喋っていない人のボリュームを下げるなどの操作が必要になるのだ。

つまり、ビデオグラファーとして知っておいて欲しいことは、一人でできることには限界があるということだ。難しい撮影とは何かということを知るのもビデオグラファーには必要だ。

まとめ

ビデオグラファーの最小システムを、今回はRODEのWireless GOをメインに組んでみた。カメラ上に付ける小さなショットガンマイクを使うのはナンセンス(本連載の第1回を参照)なのだから、そんなものに投資するくらいならWireless GOを導入した方が良い。ネット上ではWireless GOの音質に懸念を評しているものを散見するが、プロの目線で言えば、それは使い方やマイクの性質を知らずに使っているということだ。

また、2.4GHz帯の電波を使っていることで、電子レンジやWi-Fiとの混信を懸念する声もあるが、プロ用のUWPシリーズよりも他の電波との混信は少ないし、電波もよく飛ぶ。むしろ、UWPシリーズはB波帯という共用電波帯を使っているので、結婚式場などの会場マイクと混信する事故が多発する。それを苦労して回避するよりは、デジタル式の方が安全かつ確実だ。

ただし、場所によっては10m程度でも途切れることがある。例えば土の校庭の地面に送信機を置いたり、ドア越しなどだ。これは2.5GHz帯という電波の性質によるものだと思われる。受信機の位置を少しずらすだけで改善される。受信機の音声ケーブルを1m程度のものにして、受信機の位置を変えられるようにするとよい。

また、Wireless GOはデジタル通信方式なので、実は音声遅延の問題がある。さらに電波状況によって遅延時間は変化する。Wireless GOだけを同一条件(同じ場所)で使っている場合は良い(ほとんど気づかない)のだが、SM63などの普通のマイクと同時に使うと、Wireless GOの音が一瞬遅れるので、マイク同士が近い場合には編集では救いきれないエコーがかかる。理想的にはWireless GOと他のマイクを同時に使わないことが一番の対策となる。インタビューマイク(SM63など)と同時に使う場合には、マイク同士を十分に離して使うことが重要だ。

先ほど説明したように、マイクの本数が増えた場合にはミキサーのリアルタイムの調整が必要になるため、そういう場合には録音のプロを呼ぶことを推奨したい。

WRITER PROFILE

渡辺健一

渡辺健一

録音技師・テクニカルライター。元週刊誌記者から、現在は映画の録音やMAを生業。撮影や録音技術をわかりやすく解説。近著は「録音ハンドブック(玄光社)」。ペンネームに桜風涼も。