爺の嫌がらせメイン画像

txt:荒木泰晴 構成:編集部

完成したSIGMA fpのシステム

前回で「もう記事は書かない」と決めたが、結論を出さないままでは寝覚めが悪い。最近、ようやくSIGMA fp-CINEが稼働状態になったので、締めくくりとして報告する。

fp-CINEフル装備

爺が使う時はモニターなし。野外ロケではフォローフォーカスも使わない

システム収納箱とsachtler 3+3ヘッド付きマンフロット三脚

システム収納状態。他にシグマPLレンズ8本を収納する箱がある。石川トランク製

システムの詳細

(01)LEEの正方形軽量マットボックスを使っていたが、28mm以下のワイドレンズは、四隅が暗くなって使えなかった。ケンコー・トキナー社の協力で、同じLEEのワイドマットボックスを購入。これで24mmまで、ストレス無く使えるようになった。

(左)正方形小型フード。(右)ワイドフード。LEE製

ワイドフード取り付け

(02)外付ストレージはSamsung Portable SSD T5専用仕様に特化した。

外付ストレージのSamsung Portable SSD T5

T5専用取付部品は初期の製品らしく、リグ側に適合するネジ穴がなかった。そこで、L字金具を特注してネジ穴を開けた。三光映機製

同時に、SmallRigの部品「SIGMA fp専用ケーブルクランプ付きプレート」を購入して、収録中にコードが抜けるトラブルを防止。

SmallRigのコードケーブルクランプ部品。左右の開き方には余裕がある

(上)T5のUSBケーブル。(中央)モニターHDMIケーブル。(下)レリーズケーブル

500GBのスペアを買おうと思って量販店に行くと、Samsung Portable SSD T5は2TB以外在庫が無い。fpのCINEMA DNGで撮影できるSSDをシグマの推奨アクセサリーで確認してみると、サンディスク製などが紹介されている。ところが外装の大きさが違うので、固定部品を変更しないと使えない。

SmallRigのSSDを取り付ける汎用部品と取り外したT5専用部品。専用の方がスリムでデザインも洗練されていて、放熱性も良さそう。Samsung Portable SSD T7ではfpは動作しないそうな。SamsungはT5と同じサイズで、後継製品を作れないのか?

(03)エーディテクノの7インチフィールドモニター「75HB」を購入。

エーディテクノのHDMI入出力端子を各1系統ずつ搭載した7インチモニター75HB。フード装着、ノングレア保護フィルムを貼り付け

SmallRigのコードケーブルクランプは、ミニHDMIのコネクターの高さが合わず、少々削る必要がある。fpのHDMIミニコネクターから映像を出力するブラックマジック製コイルコードとマイクロHDMI-HDMI変換コネクターのプラスチック部品の根元を削り、抜け止め部品に適合させる処置をした。エレコムのマイクロHDMI-HDMIケーブルは無改造で使える。これで、コイルコード、ストレートコード、変換アダプターの3種類が揃い、どんなモニターにも対処できるようになった。

マイクロHDMIコードとアダプター。(左)エレコムのHDMIケーブル。無改造で取り付け可。(中)ブラックマジックコイルコードを上下左右を少し削る。(右)コード無しアダプター。上下左右を大幅に削る必要がある

マイクロHDMI~HDMIアダプターを固定した状態

(04)エーディテクノ用、ACアダプターのコードを利用して、モニターの電源をバッテリーアダプターまたはバッテリーのD-tapから供給できるようにした。

ACアダプターのコードを途中で切断。バッテリーとAC両方を交換して使えるように改造。NEP製

VマウントバッテリーアダプターからD-tapを介してモニターへ電源を供給

(05)大型のVマウントバッテリーをロッドの後ろに取り付けると、ルーペが覗きにくい。そこで横向きにもバッテリーを取り付けられるように金具を製作。ただし、大型のバッテリーを選ぶと、横に張り出しすぎるのが欠点。そこで(06)の処置を行った。

バッテリーを横向きに取り付け。大型Vマウントバッテリーはバランスが悪い

バッテリーを横向きに取り付ける金具を特注。三光映機製

(06)薄く、小型のVマウントバッテリーを導入。72Wだが、fpには充分な容量。2020年11月10日現在入荷せず。

fpのACアダプター「SIGMA DC CONNECTOR CN-21」をVマウントバッテリーから7.2Vを供給するように改造したもの

(07)Vinten Vision 10三脚にSachtler3+3ヘッドを載せて使っていたが、老朽化のため三脚の伸縮を固定する部品にヒビが入り、マンフロット100Φ三脚に代替え。fp+PLレンズの組み合わせに、バランスの良い大きさと重さになった。

3+3ヘッドの専用ノブではマンフロットに適合せず、細いノブを特注。三光映機製

岡山、倉敷ロケ

2020年9月29日から10月3日まで、岡山・倉敷の美観地区で、伝統工芸やモデルを使った風景の撮影を行った。データは4K30P。CINEMA DNG、12ビット。後日、4K60Pにアップコンバートするので、シャッタースピードは1/125。

機動性を重視して、現場ではフォローフォーカスとモニターは使用せず。宿に帰ってからのチェック用にモニターは持参したが、カメラのバックモニターの方が速く、現実的。IDX製のVマウントバッテリー1個で、1日分の収録は問題ないばかりか、残量はほとんどフルのまま。チャージ時間も短い。fp本体の電力消費量は少ない。実働3日間、1TBのSSDで100GB以上余裕があった。劇映画と違って、NGは出せないのだから、そんなものだろう。

結果はノートラブル。価格20万円強のカメラをシネスタイルに仕上げるまで30万円ほどの投資。総額約50万円でフルサイズセンサーの動画専用カメラができた。

2020年1月からfp-CINEシステムを整備し始めてから、9ヶ月掛かっている。もっとも、サークルビジョンやビスタビジョンなど、フィルム用の特殊カメラを開発する場合、熟成に2年掛かるのがフツーだったから、稼働状態になったのは速いほうだろう。

一方、今回の岡山・倉敷方面のロケでは、爺がfpで4K30P、スケールファクトリーの糸屋覚君がBMPCC6K 3台で6K60P、12Kの横長画面の撮影を同時に行った。BMPCC6Kは23.10✕12.99mmのスーパー35mmセンサーで、6K60Pを撮影する。BMPCC6Kカメラ3台を突き合せれば18Kが撮影できるが、オーバーラップさせてステッチし、12Kの超大画面を得る。

両機種とも、カメラ固有の最高データで撮影することを求められたが、爺がfpの初期に戸惑った現象がBMPCC6Kでも起きた。

糸屋君が、通常ソニーα7R IVで使っているSDカードでは6K60Pは収録できず、高価なCFastカードに限定された。Blackmagic DesignサポートWebに 推奨メディアのリストが載っているが、爺の場合も糸屋君の場合も、「やってみて初めて判った」ことだ。

また、炎天下のロケで気温が上がると、カメラシステムが熱を持ち、収録が停止する現象が起きた。仕様には作動温度も0°~40°Cと書いてあるが、その範囲内だけで使うことは現実的でない。

熱問題はキヤノンEOS R5の8K収録でも指摘されているようだが、現場で実際に使ってみなければ判らない。RED Digital CinemaのRED ONEを夏の撮影で使用し、水で濡らした雑巾を放熱部に被せて冷却していたのを思い出した。

結論

記録メディアは「推奨」という表現は止めるべき

新しいミラーレスDSLRカメラが開発発売された場合、「最高画質で撮影するならば、動作確認済のメディアでなければ撮影できない」とメーカーは正確にアナウンスすべきで、「推奨」という表現は止めるべきだ。業務用シネマカメラは映像制作専用メディアが常識で、爺が機材管理をしている藝大のソニーF65は放送局で使われるSRMemoryメディアのみに対応。16bitのF65RAWで記録しても、相性やコマ落ちなどのメディアのトラブルに悩まされることはなかった。

ただし、SRMemoryメディアは、512GBで30万円以上の価格だった。主にアマチュアを対象として大量販売を目指す静止画動画兼用DSLRに高価なメディアを薦められないことは理解できるが、過酷なプロの現場で収録が滞る事態があってはならない。

取り扱い説明書のプロ向けページ

DSLRの取扱説明書の表現は、「アマチュアにとって動画はおまけ」「最高画質で撮影するモノズキは少数だから、どっかに書いておけばいいや」と、爺には読める。最高画質で収録するのはほとんどプロが使う場合なのだから、プロ向けのページを独立させたらいかがなものか。

用語や記号の統一

説明書の記号や用語の統一は、デジタル業界が一丸となって取り組むべきだ。機能によっては各社がバラバラに表記し独自性を誇示しているものももみられるが、本質は同じなのだから、いい加減統一して欲しい。記録フォーマットなど、カメラの価格と性能によって収録できる圧縮率が違い、どのように画質の差があるのか、を含めて非常に判りにくい。

ユーザーの考え方を理解せよ

面倒な操作を「ユーザー側が理解して使え」と、メーカーが説明を放棄していると、今以上にスマホにシェアを奪われる。「デジタルカメラが売れない」と嘆く前に、初級、中級DSLRの最大のユーザー「女子とお母さん」や「中高年層」を対象に、易しく親切な機能と解説が必要だ。一般のユーザーが使う機種は、決してプロ専用の高級機ではない。

16mmフィルムは元々アマチュア向けの規格だった。需要が減りつつある時期に、プロの側が門戸を広げる易しい教育を怠り、フィルム会社、現像所もアマチュアへの対応が悪かったために、衰退を助長した歴史がある。このままでは、DSLRもその轍を踏むだろう。逆に考えれば、「レンズ交換のできるスマホ」「スマホの機能を搭載したDSLR」をカメラメーカーが開発すべき時代なのかもしれない。

画質の差

今や、最高画質のプロ用デジタル動画専用機の映像と、DSLRで撮影した映像を繋いでも、アマチュアはおろか、プロでも判別不能になったからこそ、爺はSIGMA fp-CINEを作った。

既に、杉原涼太(すぎはら・りょうた)監督作品「環(かん)」を、東京藝大撮影照明領域15期生、藤田恵実(ふじた・めぐみ)さんと16期生、関瑠惟(せき・るい)君が、全てSIGMA fp-CINE+シグマプライムPLレンズで劇映画を撮影し、完成を待っている。

スタッフは、

  • 助監督:羽蚋拓未、牛島礼音 
  • 制作:山﨑公太
  • 撮影助手:大川愛理沙
  • 照明:大迫秀仁
  • 照明助手:祝立志、ムカダス ムキタル
  • VFX:Richard Lee

約25分、各種映画祭へ出品予定。

「環」の動画。SIGMA fp-CINE+シグマプライムPL 35mm T1.5、T2.8で撮影

暗いシーンの多い映画だが、暗部の描写は十分なように見える。

爺がfpで撮影した4K30P映像は60Pにアップコンバートされて、6K60Pの映像と混ぜて1本の動画に編集され、幅14mのソニーCrystal LEDディスプレイで上映される。フルサイズセンサーカメラの4K動画なら、幅20mのスクリーンに24Pで上映しても良好な画質を保てることが判っている。低予算の映画で、価格の安いカメラを選んだからと言って、画質を気にする必要は無い時代になった。

スマホを「運転手のいらない自動運転車」に例えるなら、ハイエンドの動画専用機は「F1」、ミラーレスを含むDSLRは「オートマ車」の位置付けだろう。もう1機種加えるなら、フィルム時代の映像学校で、多くの学生に採用されていた「ニコンFM」のような、撮影の基礎を学ぶ若い世代が原理原則を理解するために、「全てを自分で操らなければならない最低限の機能しか積まず、その同じ機種を長年に渡って販売し、サポートするDSLR」、言わば「マニュアルシフト車」が必要だ、と爺は思う。

機能を積み過ぎて操作の面倒なDSLRは、岐路に立っている。

主にアマチュアを対象としたDSLRをプロが使うことは、矛盾が多くなることを承知で、SIGMA fpが「カタログ上で謳った最高の性能を期待」して、爺は開発を進めてきた。その結果、カメラとレンズを合わせて数千万円のシステムと比べても、画質の差は判らないのが実感だ。

「もはや、道具(カメラやレンズ)ではない。君たちの腕が問われている」。

SIGMA fpとシグマシネレンズPLマウントシリーズはそこに一石を投じた。

WRITER PROFILE

荒木泰晴

荒木泰晴

東京綜合写真専門学校報道写真科卒業後、日本シネセル株式会社撮影部に入社。1983年につくば国際科学技術博覧会のためにプロデューサー就任。以来、大型特殊映像の制作に従事。現在、バンリ映像代表、16mmフィルムトライアルルーム代表。フィルム映画撮影機材を動態保存し、アマチュアに16mmフィルム撮影を無償で教えている。