爺の嫌がらせメイン画像

はじめに

前回「千秋楽御礼」を書いたので、今回は「打上げ」。

PRONEWS読者なら動画撮影は当たり前かもしれないが、「これから動画を商売にしたい」アナタもいるに違いない。

昨今、雑誌やネットで「動画を撮れるデジタルカメラなら動画撮影しよう」と、新たな需要を喚起するための記事が多くなった。超高価な動画専用カメラも民生用機も、画質の差が判らなくなってしまったことも理由の一つだろう。

疑問1

静止画カメラマンに比べて動画カメラマンは少数派なので、伸びしろのある分野に見えるが、PCやスマホで見る動画に、4K以上の高精細動画を撮影する必要があるのだろうか。カンヌ映画祭の出品作品でさえ、スマホで撮影されたケースがあると聞く。映画館の大画面で見ても、ストーリーが面白ければ観客からカメラの画質を問われる時代ではない。

疑問2

カメラの生き残りもさることながら、プロカメラマンも必要とされない時代が来る。熱海の土石流の映像を見ても、現場に居合わせた人々が見事なカットを撮るのが当たり前になった。ハードも人も、プロとアマチュアの境界は消滅したように見える。

ここでは、「動画を安定して撮影するために整えた方が良い」と爺がハード面で実践してきたことをレポートする。ハードを整えたら商売になるか、とは別の話だが。

それでも、ライバルが多く、制作予算を削られっぱなしの映像業界に生きる(しがみつきたい)、プロを自認するアナタはどうするのだろうか。

足元を見よ

デジタル世代の監督は、「静止した画面はつまらない。動きのある画面や前後のボケた映画らしい画面を撮ってくれ」と注文を出す。駆け出しの学生監督でもそう言うのだから始末が悪い。

すると、レンズの絞りを開放で撮ったカットや、手持ちでやたらに画面を揺らしてみたり、ジンバル、スライダー、ドローンの画面が多く採用されるようになった。

大画面で上映する90分の劇映画の中で、数カット印象的に使われることには反対しないが、これでもか、と多用されると、途端に「しらける」のが爺。

「君の自己満足のために映画を撮ってるんじゃない。きちんと物語が理解できる画面を見せてくれ。それができないから、奇をてらったカットを使わざるを得ないんだろ」と、ツッコミを入れたくなるね。

「たまには、じっくりと腰の据わった画面を撮ってみたい」、と考えるアナタはまともなカメラマン。

そこで、選ぶのが三脚。

「ね、ここがカメラから選び始める並みのカメラマンとは違うでしょ」

70歳を過ぎた老人である爺は、「何とか一人でオペレートできる高精細動画機を作らないと、体力が持たん」と、考えて作ったのが「SIGMA fp+PLマウント専用機」。

ところが、PLレンズが重く、マットボックスやフォローフォーカスなんぞを取り付けると、持て余す始末。

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SIGMA fp、PLマウント専用機、これにモニターを載せると爺は扱いたくない
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もっと検討が必要と、まず三脚から選び直して、システムを再構築。

PLマウント専用機で岡山ロケに使った三脚は、「Vinten 10とSachtler3+3ヘッド」の組み合わせ。

このシステムでも全体重量が負担で嫌になり、Vinten 10のプラスチック部品が割れたのを契機に、マンフロットの65mmΦボールヘッド三脚を導入した。軽くて持ち運びには便利だが、ワイドレンズで使う分にはまだしも、望遠レンズになると三脚の剛性とヘッドの精度が十分ではなく、パン、ティルトが思うようにならない。

「Vinten 10に代わる三脚はないですか」と、Vintenのメンテナンスを担当するテクニカルファームの片岡会長に相談すると、

「マンフロットなら100mmΦの三脚がありますから、3+3が使えます」

Vinten 10とヘッドを持参して組んでみたら、バランスがピッタリ。全体の重さも爺が扱える程度で、価格も妥当だったので即決。これなら、300mm程度の望遠レンズまで対応できる。三脚は手入れをすれば一生物。現にSachtler3+3は1990年代の製品だ。

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左、マンフロット65mmΦ脚+専用ヘッド。右、同100mmΦ脚+Sachtler3+3ヘッド
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動画用三脚は、ボールヘッドとレベルが必須。水平垂直を合わせないと、パンやティルトの際に水平線、垂直線が傾いてしまう。

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65mmΦのヘッドは、雲台を傾けないとレベルが見えない
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Sachtler3+3はどの位置からもレベルが見える
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教訓その1

三脚に投資しないと、まともな動画は撮れない

カメラをそぎ落とす

三脚が整って、初めてカメラに手を付ける。SIGMA fp Lが発売されたので、早速シグマのプロサポート課、関口さんへ電話。

「関口さん、fpの売れ残りがあったら買いたいのでよろしく」

「あります。キャッシュバックキャンペーンをやってますから、お得です」 即、注文。

今度は、Lマウントレンズかマウントアダプターを使うことを前提に、改造はしない。

当面、AI Nikkorシリーズを使うので、ニコンF-Lマウント用マウントアダプターをmukカメラサービス小菅社長に発注。即納。

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SIGMA fp+L~ニコンアダプター
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SmallRigはそのまま使うが、

  • PLマウントレンズを使わないので、望遠レンズ以外にはレンズサポーター不要
  • AI Nikkorは、ほとんど52mmΦの丸フィルターとフードで足りるので、マットボックス不要
  • フォーカスはほとんど送らないので、フォローフォーカス不要

で、15Φのロッドは20cmで足りる。望遠レンズ用の長いロッドとレンズサポーターは、1年に数回使う程度。

4K30(29.97)P、CinemaDNG(RAW)収録機としては、非常に小型軽量に収まった。

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SIGMA fp+ニコンシステム
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ワンマンオペレート機材に余計な付属品はいらない。劇映画のスタジオ撮影を前提にシステムを組んでも、助手がいなければ役に立たない。

教訓その2

動画カメラはシンプルなシステムを組むべし

三脚プレートにはネジ2本で止める

フィルムカメラでは16mmでも大ネジを使う。スチル用の小ネジでは心もとない。SmallRigには大ネジが使えるようになっているが、1本では軽いカメラが回転するのを止められない。そこで、今回は小ネジ2本で三脚プレートに固定。三脚に載せてもカメラが安定しなかったら何の役にも立たない。

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三脚プレートにネジ2本止め
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教訓その3

三脚には確実に固定すべし

大容量バッテリー

動画撮影では電源を入れっぱなしにすることが多く、大容量バッテリーが必要になる。カメラ内蔵の小型バッテリーでは、長時間の動画撮影はできない。

岡山ロケでは、大型のVマウントバッテリーを使ったが、厚くて大きいので、ルーペが覗きにくく、横向きに取り付けたがカメラバランスが悪くなり、対策を迫られた。

NEPの政岡社長に相談すると、

「中国で小型軽量の薄いバッテリーを開発中なので、近いうちに輸入します」と、渡りに舟。

ところが、待てど暮らせど入って来ない。Vマウントバッテリーは持っていないので、暫定バッテリーを考えた。fpは7.2Vで駆動するのだから、7.2Vをダイレクトに供給すればいい。

ソニーLバッテリーの在庫があるので、「政岡さん、Lバッテリーを2個使って、電源供給できるプレートはないですか」 「作ります」 と、頼もしい回答。

1週間かからず完成して、東北ロケと北陸ロケで使った。

バッテリーの厚みはあるが、小さいのでルーペの邪魔にならない。45Wが2個並列なので電源が落ちるトラブルは無し。それどころか、カメラの電力消費が少ないので、1日中回してもほとんど容量が落ちず、チャージも短時間で済んでしまう。終いには、横着にも1本だけ装着して撮影していたが、十分。

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ソニーLバッテリー2本装着電源プレート
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北陸ロケを終わって数日後、

「お待たせしました。Vマウントバッテリーが入荷しました」

テストすると、Lバッテリーより薄く、全くルーペの邪魔にならず快適。1本でLバッテリーおよそ2本分に匹敵する72Wの容量。これ以下の重さと大きさで、長時間安定して撮影できる4K動画機は見当たらない。

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NEP製、小型軽量リチウムVマウントバッテリーを装着
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ENG初期に「重いBPバッテリーを、山のように準備した時代」は遥か昔。

教訓その4

動画機はできるだけ大容量バッテリーを使え

レリーズ

リグを組むと、動画のシャッターボタンの位置が曖昧になり、押したつもりでもカメラが動作せず、チャンスを逃がすことがあった。これを避けるため、レリーズをマジックテープで最適な位置に固定できるようにした。

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シグマ製レリーズ
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教訓その5

動画機にレリーズは必須

メディア

4K30P ALL-Intraで撮影すると、高価な高速SDカードが必要。しかし、fpの4K30P CinemaDNGは、2021年7月現在、Samsung Portable SSD T5などの4種類しか収録できない。できれば内蔵SDカードを使ってコンパクトに組み上げたいのだが、致し方なし。T5の価格は高速SDカードと大きな差は無いので、渋々1TBを2個導入。

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Samsung Portable SSD T5
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教訓その6

そのカメラの最高画質に対応するメディアを使え

配線

爺のそぎ落としたシステムでも、

  1. 外部バッテリーとカメラを繋ぐケーブル
  2. カメラとメディアを繋ぐケーブル
  3. レリーズケーブル
の3本が必要だ。その上、モニターを使えばカメラを繋ぐケーブルと電源ケーブルが加わり、合計5本のケーブルが収拾の付かない状態になる。配線が増えれば増えるほど、断線や抜線によるトラブルが増える。そこで配線の抜け止め対策が必須。

教訓その7

配線は整理して、最小限使え

レンズ

大きくて重いPLマウントレンズは嫌だ。

爺の手元にタムロン28~200mmがある。マニュアルフォーカスが使え、マニュアルズーム、マニュアル絞りが付いている。価格もニコンマウントで5万円前後。壊れたら買い替えることができた。標準レンズの代わりに使うには最適な焦点距離だが、製造していない。

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AF 28-200mm Super Zoom F/3.8-5.6 Aspherical XR [IF] MACRO。これ1本で、Nikkorの28、35、50、85、105、135、180、200mm8本分をカバーする
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センサーの性能が上がり、感度4000に上げても画質に影響することは無くなったので、明るいレンズは必要ない。

F4通しで、マニュアルフォーカス、マニュアル絞り付き28~200mmを作ってもらいたい。このスペックなら、無理なくシネマ向き高性能レンズができるだろう。こいつを1本と、20mm程度のワイドレンズがあれば、海外ロケも楽チンだね。

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標準レンズの代わりに使えるかもしれない3本。左から、タムロン28~200mm、Nikkor35~105mm、同28~85mm、比較用同50mm
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教訓その8

レンズは少ない方が良い

では、これらのレンズがどんな描写かテストしてみた。絞りは全てF8。ズームはテレ端とワイド端、及び50mm付近でチャートを撮影。

28~200mmは、ビスタビジョン(デジタルのフルフレーム相当)フィルムカメラで撮影して幅20mの大画面に拡大しても、他のレンズと見分けがつかないことが判っている。

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タムロン28~200の200mm
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同28mm
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同50mm付近
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Nikkor35~105の105mm
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同35mm※画像をクリックして拡大
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同50mm付近
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Nikkor28~85の85mm
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同28mm
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同50mm付近
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Nikkor50mm
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同50mm
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これらの画面を比較して、一目で動画画質の優劣が判断できるだろうか。おまけに、持ってはいるが数年に一度使うか、というレンズを紹介。

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シグマ500mmを装着
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シグマ500mm
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シグマ500mmF7.2は最もコンパクトな500mmだ。開放F値が暗いため、フィルム時代には売れなかったのだろう。デジタルカメラの感度が上がった現在、ロケ車に積んでおいても場所を取らず、野鳥の撮影などに非常に使い勝手が良い。

ニコンマウントなら、サードパーティ製を含めれば世界に出回ったレンズは数億本。中古なら優秀なレンズが選び放題。

動画を撮影するために

試行錯誤を繰り返してたどり着いたのが、爺の教訓だ。

簡単に動画を撮れる機能がデジタルカメラに搭載されたとしても、その機能を使いこなすには様々な仕掛けがいる。この解説と編集解説を抜きにして、「アマチュアでも簡単に動画を撮影できる」と書くのは間違いで、読者の混乱を招く。

面倒で金が掛かる動画を平然と撮れるのがプロ。それが嫌ならスマホで十分。

ああ、もうそうなっているんだね。

それでもアナタは映像業界で生きて行きますか?

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参考画面(白山・渓谷)
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参考画面(白山・渓谷寄り)
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参考画面(白山・姥が滝引き)
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SIGMA fp 4K30P CinemaDNGから1コマを抜き出し。静止画に比べて画素数が少なく、甘く見えるが、4Kなら幅20mに拡大しても破綻は無い。2025年大阪万博の大画面パビリオンで見たいものだ。

 

WRITER PROFILE

荒木泰晴

荒木泰晴

東京綜合写真専門学校報道写真科卒業後、日本シネセル株式会社撮影部に入社。1983年につくば国際科学技術博覧会のためにプロデューサー就任。以来、大型特殊映像の制作に従事。現在、バンリ映像代表、16mmフィルムトライアルルーム代表。フィルム映画撮影機材を動態保存し、アマチュアに16mmフィルム撮影を無償で教えている。