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はじめに

今回のテーマは、三脚のヘッドとズームレンズの再活用です。爺が管理するフィルム映画用の機材はカメラ、レンズ、三脚、編集用具など多岐に渡っています。

その中で今回は、以下の機材を再活用します。

1.vinten20ヘッド

1990年代の製品で、ビスタビジョン(フルサイズセンサー同じ大きさのフィルムを横に駆動する)カメラの海外ロケ用に使っていました。150Φのボールヘッド+3段の三脚で全長が短くコンパクトになり、比較的軽量でタフな製品です。

現在では、デジタルカメラの小型軽量化が進み大型三脚の需要は限られていますが、中型のvinten20クラスは運搬が容易で、安定した操作が期待でき、大型の映画用ズームレンズを組み合わせて使おうと再活用を試みたものです。

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vinten20三脚

2.Angénieux 25~250mm F3.2 No.1375058

レンズ単体の重さは2.4kg。1960年代から長く使われた定番の10倍ズームです。ズームレンズの草分けで、他社には同等品が無く独占状態でした。Arriflex 35 IIとセットで使いました。

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Arriflex 35 II C+Angénieux。これが本来の使い方)

東京オリンピック(1964年)以降の映画界はズームレンズの普及期でした。特にフランス製のAngénieux 25~250mm(35mmスタンダード用)、12~120mm(16mmスタンダード用)の開発は、10倍ズームの威力で世界を驚かせました。クローズアップからロングショットまで、面積比100倍の変化を1本のレンズで撮影できるのですから、映画のカットを根本から変えてしまいました。

爺の会社、日本シネセルでもたくさんのAngénieuxが活躍していました。その中で今でも印象に残るズームカットは、クライアント「日立製作所」、撮影協力「日本国有鉄道」の35mmドキュメンタリーモノクロ作品「蒸気機関車」の空撮で、列車全体から動輪のクローズアップまでズームし、その後、ズームバックして列車全体が山間に消えて行くまで撮影した長大な1カットです。

撮影は「山本駿」(やまもと・しゅん)カメラマン(名匠山本薩夫監督のご子息)。爺にとって忘れられない画面です。

3.COOKE CINE-VAROTAL 25~250mm T3.9 No,788035

レンズ単体の重さは4.5kgでヘビー級です。1990年代の製品で、Angénieuxの次に発売された定番レンズでした。Arriflex 35 III付属の高価なレンズでしたから、爺の会社では1本しかありませんでした。

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CINE-VAROTAL、レンズの第1面(G1)が凹面)

vinten20ヘッドの改良

ヘッド、パンバー、大小兼用の3段伸ばし三脚、スプレッダー、円筒形プラスチックケースが1セットになっていますが、今回の改良点はヘッドの操作ノブです。

ティルトとパンの速度や粘りを調整するオリジナルノブはプラスチック製で、長い間使っていると割れます。同じ大きさの部品はテクニカルファームで販売していますが、三光映機でアルミ削りだしのノブを新しく作りました。

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ティルト調整ノブ
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パン調整ノブ

ノブがプラスチックなのは、ケースの中でこの部分が緩衝材になっているとも考えられますが、割れたまま使うことは気持ちの良いことではありません。

レンズサポーターの製作

株式会社ナックイメージテクノロジー社(以下ナック)から、廃棄されようとしていたAngénieuxズーム用のレンズサポーターを頂きました。

レンズを支えるリング部品は欠損していましたが、「何か使い道があるはず」と保存していたところ、

  • APS-CセンサーのニコンD50+ニコンZ~ARRI PLマウントアダプターとAngénieuxズーム+ARRI STD~PLアダプターの組み合わせ
  • ニコンD50+FTZマウントアダプターとCOOKE CINE-VAROTALズームの組み合わせ

この2種を、同じサポーターで兼用することを思いつきました。既存の前部レンズサポートリングはそのまま使い、カメラサポート部は切り離し、後部にレンズサポートリングを新設する、のが改造の基本です。

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後部のレンズサポートリングを新設
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カメラサポート部を切断

三光映機に二種類のズームレンズとサポーターを持ち込んで相談。レンズのマウント側の直径が違うので、細いAngénieuxに太いクックに合わせたリングを装着して、後部サポートリングを共通に使えるようにしたいこと。

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Angénieuxの後部にリングを装着してCINE-VAROTALと太さを揃えた。ARRI STD~ソニーEマウントアダプターは大型レンズで使うと少々華奢

また、レンズ固定ネジは手で絞められるようにしたいと、依頼しました。仕上がったレンズサポーターは出色の出来。大きなズームレンズに取り付けると、後部のニコンD50はほとんど目立ちません。

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Z50を取り付けるとこんな感じ

フィルムとの比較

両ズームは35mmスタンダードをカバーするレンズですが、AngénieuxはソニーF65のAPS-C16:9画面をカバーできましたので、今回の組み合わせも画面の四隅が暗くなることはありません。

35mmスタンダードネガフィルムの解像力は4K相当と言われています。実際に幅12m程度に拡大上映しても良好な画質を保っています。フィルムの場合は圧縮という概念はありませんから、非圧縮のRAWデータを見ている、とも考えられます。

一方、非圧縮RAWで撮影した4Kは幅20mまで拡大上映しても破綻はありませんでしたから、デジタル4Kカメラでも、レンズそのものの動画に対する性能は十分に比較して評価できるでしょう。

映画用ズームレンズの特徴

現在販売されている静止画用のズームレンズはほとんどがバリフォーカル(焦点距離によってピントの位置が異なる)で、F値も変動します。焦点距離によってピント位置が違っていても、オートフォーカスカメラなら自動的に合焦してくれますから不都合はありません。また、F値が変動しても、オート露出なら問題になりません。

映画の場合、全ての焦点距離でピント位置と、F値が一定でなければズームカットは撮影できませんから、パンフォーカルとF値を保つ機能が必須です。

レンズの内部を見ると、複雑なアナログのカムやスプリングで中玉を動かしてピント位置を一定に保っています。新品の内は精度が保たれていますが、長年使っていると摩耗などで僅かに狂って来ます。

ズームして焦点距離を変えても、ピント位置が常に直線上にあるのが理想ですが、新品でもうねったピント状態にあるのはアナログの工作精度からやむを得ません。このピント範囲から逸脱しない焦点深度で開放F値が決められていますが、更に焦点深度を深くしてピント精度を確保するためにF8まで絞って使っていました。

また、マウントアダプターのフランジバックを厳密に調整しても、レンズの取り付け状態やガタなどでピント位置がズレるのを補償するためにも「絞らなければならない」と言えます。

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理想のピント位置は直線なのだが、赤線が実際のピントライン。T8まで絞って焦点深度を確保

静止画の評価

まず、250mmから25mmまで、レンズ鏡胴に表示されている焦点距離を順に撮影してみました。絞りは両ズームともT8です。35mmフィルムカメラでズームレンズをテストする場合、静止画で画質を検証することはありませんでしたが、デジタルカメラでは厳しい画質チェックが簡単にできてしまいます。

Angénieuxは、ソニーα6300+ソニーE~ARRI STDマウントアダプターで使うこともできますが、マウントアダプターが少し華奢なのでPLマウントにしてテストました。

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ARRI STDマウントにPLアダプターを取り付け
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Z50にPLアダプターを取り付け

レンズサポーターに正確に取り付けないとズーム操作によって画面が横にズレて行きますから、狙った被写体がセンターからズレないように調整します。静止画を250mmから順に引いてくると、途中で少々甘く見える焦点距離がありますが、ピントを合わせなおすとピシっとした切れの良い画面になります。

コリメーターで観察した250mmのINFのピントは正確で、フランジバックは合致していましたので、長年使ったメカニズムの摩耗なのか、1960年代の設計の限界なのかは不明です。

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Angénieuxは250mmから順に引いてくると、途中で少々甘く見える焦点距離がある

CINE-VAROTALは、どの焦点距離でも破綻はありません。現在のレンズに比べても非常に良い画質です。ナックがきちんとバックフォーカスを調整したニコンマウントで、ニコンZ50+FTZマウントアダプターの精度がジャストINFでしたから、レンズ性能が最大に発揮できたのでしょう。

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CINE-VAROTALはどの焦点距離でも破綻はない

ただし、両レンズとも250mmの後ろボケは感心できません。

動画の評価

ニコン50DのHD24P、感度ISO100、320分の1秒、T8、高画質のMOV、オートカラーバランスで撮影しました。ピント位置は複雑なアンテナです。250mmで合わせると、ピント表示は無限より少し手前で、両レンズとも同じような位置でした。

Angénieuxは静止画と同様、僅かに甘い描写です。特に中間焦点距離から25mmに近くなると甘く見えます。フィルム時代の現役当時に大画面で上映しても判らないレベルでしたから、デジタル上映でもズームカットでは判別できないかもしれません。若いカメラマンなら「この描写が良い」という評価になるかも知れません。

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Angénieux、アンテナのピント位置

Angénieux 25~250mm F3.2 ズームバックテスト

CINE-VAROTALは静止画と同様、動画でも破綻はありません。Angénieuxと比較すると違いは顕著です。さすがに1990年代のレンズで、コンピュータによる設計とNC工作機械が実用化された恩恵でしょう。

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CINE-VAROTAL、アンテナのピント位置

COOKE CINE-VAROTAL 25~250mm T3.9ズームバックテスト

CINE-VAROTALが開発された影響で、AngénieuxもOPTIMOなどの高性能レンズを開発する転機になったようです。

ニッコール(NIKKOR)ED50~300mm F4.5(No.185807)と比較

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ニッコールED50~300mm+Z50

静止画用でも古くは、ニッコールED50~300mmF4.5のパンフォーカル、F値一定の6倍ズームレンズが販売されていました。爺はビスタビジョン(フルサイズと同じ大きさのフィルムを横に駆動する)カメラで使い、幅20m以上に拡大上映しましたが、ニッコールの単焦点レンズと比べても遜色ない画質でした。

フルサイズをカバーするレンズですが、Z50でF8に絞り、他のレンズと条件を揃えてテストしました。APS-Cセンサーでは、画質の安定したレンズの中心部分を使いますから、静止画、動画とも抜群の高画質とピントの切れです。ワイド側を無理して拡げていないことも寄与しているのでしょう。

ニッコールED50~300mmズームバックテスト

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ニッコール、アンテナのピント位置

ニッコール24~120mmF4などのワイド系のズームを組み合わせれば、2本でほとんどの映像はフルサイズで撮影できます。

まとめ

爺の評価は、ニッコール、CINE-VAROTAL、Angénieuxの順になりました。レンズは開発された年代、硝材(光学ガラス)や工作精度によって性能が異なりますから、当然と言えば当然の結果です。

藝大の学生がソニーF65とAngénieux1本だけで長編劇映画を撮影した例があります。夜間ロケでF値も開放に近いシーンがありましたが、柔らかな良い画質でした。

今でも万能のレンズはありません。フィルムの時代、ズームレンズはズームカットにしか使いませんでしたし、絞れるだけ絞って性能を補完していました。爺の手元には、ニッコール3本、Angénieux4本、CINE-VAROTAL1本があります。これらを死蔵するだけでは、いかにももったいないことで、使ってみる価値がある優れたレンズです。

現役のズームレンズ、例えばキャノンCN-E30-300mmはT.2.95からT3.7へ開放F値が変動します。価格は400万円以上です。Angénieux OPTIMO 25~250mmはT3.5を保っています。レンタル価格が1日当たり40,000円ですから、これも400万円を超える販売価格でしょう。

個人で購入できる価格ではありませんし、どちらもAPS-Cセンサー用です。フルサイズ用のパンフォーカルでF値が一定の10倍ズームレンズが製造できたとしても、非常に高価な上、大型で重いレンズにならざるを得ないでしょう。

さて、プロたるアナタはどんなレンズとカメラを使って創作するでしょうか。

WRITER PROFILE

荒木泰晴

荒木泰晴

東京綜合写真専門学校報道写真科卒業後、日本シネセル株式会社撮影部に入社。1983年につくば国際科学技術博覧会のためにプロデューサー就任。以来、大型特殊映像の制作に従事。現在、バンリ映像代表、16mmフィルムトライアルルーム代表。フィルム映画撮影機材を動態保存し、アマチュアに16mmフィルム撮影を無償で教えている。