さて、ベローズの話の前に、以前掲載した引伸しレンズの紹介で、「50mmレンズは無限遠が撮影できなかった」と書きましたが、「爺の手持ちヘリコイドアダプターでは撮影できなかった」が正確です。
MUKカメラサービス小菅社長の引伸しレンズに関するレポートが、同社のホームページに載っています。MUKは厚さの薄いヘリコイドアダプターを販売していますので、それを使えば50mm引伸しレンズでも無限遠から撮影できるそうです。ヘンタイマニアの方々は相談してみてください。
はじめに
引伸し用レンズ、拡大専用レンズを採り上げてレポートしてきましたが「あれ、何か抜けてるな」と思った、スルドイ方々もいるに違いありません。忘れていません。今回は接写や拡大撮影の王道「ベローズ」です。
「ベローズって何だ?」と思った若い世代のカメラマンもいるでしょう。現在、ベローズの中古価格は非常に安価になっていますので、購入して試してみると、面白い画が撮影できる道具だとわかります。ベローズを使いこなすと接写だけでなく、オールドレンズを活用して遊ぶこともできます。
では、ベローズの事情と使い方で暇つぶし。
ベローズ(蛇腹)って何?
2次大戦以前のクラシックカメラを見ると、コンパクトに折り畳んで持ち運びを楽にするために、レンズとボディを繋ぐ部分に革製の蛇腹が使われています。
ベストのポケットに入るほど小型に折り畳めるカメラとして、戦前の大ベストセラーカメラ。これは爺の祖父の形見で、100年以上我が家にある「ご神体」カメラ。引伸しの概念が無かった時代のカメラは、大型のフィルムを使う必要もあったので、木製や金属製の鏡胴では小型化することが困難でした。そこでカメラ設計の先達は様々な工夫を重ねて、蛇腹を使いこなしたのです。
中には「こうまでして折り畳まなくてもいいじゃないか」と思うほど、摩訶不思議なカメラもありますし、現在でも4×5インチの大型カメラには不可欠の部品です。革や合成皮革で作られた薄い素材ですから、尖ったもので突けば穴が開き、長年使って折り畳み回数が多くなれば角から劣化して破れて来ます。
そんな素材でも、天然皮革なら100年、合成皮革では10年程度の耐久力があります。
蛇腹は修理できるの?
できます。
大型カメラの蛇腹を交換修理できる職人は数が減ってしまいましたが、株式会社セコニックの営業「吉澤隆史(よしざわ・たかし)さん」にご教示いただき、最近2台のカメラの蛇腹交換をしました。
TOYOカメラサービス
代表 儀同 正勝(ぎどう まさかつ)さん
〒102-0072 東京都千代田区飯田橋2-3-1 東京フジビル402
電話・FAX 03-3262-8488
地下鉄九段下が最寄り
酒井特殊カメラ(トヨビューの製作会社)出身の、儀同さん一人が作業されています。蛇腹交換の他、大型カメラ全般の修理調整、レンズシャッターの修理調整、露出計の計測など、業務は多岐に渡っています。「4×5インチなど大型カメラの修理に困ったら相談してください。ほとんどの機種の蛇腹は揃っていますし、特注もできます」と力強いコメントをいただきました。
ベローズ
爺は専門学校時代からニコンFとニッコールレンズを使っていますので、ベローズシステムもニコンです。
PB-5型とPB-6型を使っていますが、どちらにも35mmポジスライドをコピーするための、スライドコピアが付属しています。
ニコンは顕微鏡も作っていますので、接写、拡大撮影のシステムが充実していて、ベローズ以外にも接写リングなど多彩なシステムを展開しています。
ニコンFには膨大な交換レンズや便利なシステムが開発され、その展開図を見ただけで楽しいものでしたが、そのためドイツのカメラメーカーから「付属品狂」と揶揄された時代もありました。
使い方
ベローズの後ろにカメラを取り付けます。PB-5は35mmフィルムカメラ「ニコンF」の時代の製品です。ニコンは、ニコンFマウントを継承しているために最新のニコンZ6でも古い付属品が使えますから、何の苦労もなく静止画も動画も撮影できます。そのために技術革新が遅れたとも言われましたが、爺のような頑固なユーザーにはかけがえのない素晴らしい長所です。
ニコンFマウントレンズならどれでも取り付けることができますし、全てマニュアル操作の絞り環付きのAIニッコールシリーズなら無敵です。ベローズにはレリーズで絞りを開く機構が付いていますから、最近のGレンズでも大まかに絞ることができます。また、拡大撮影の画質を上げるために、レンズを逆向きに取り付けることもあります。この場合、マクロレンズでなくても拡大撮影に適用できます。
被写体に対して適当な焦点距離のレンズを選び、撮影ディスタンスを決めれば調整は完了です。TTL露出計が完成していない時代は、露出の決定に経験(勘)と計算が必要でしたが、デジタル時代は本当に楽になりました。
テスト
ベローズにヘリコイドの付いた通常レンズを取り付けると拡大撮影専用になります。接写はマクロレンズに任せ、肉眼では見えない拡大された世界を見てみました。被写体はブーゲンビリアで、紫色の花弁の中に白い花の本体があります。
2本の105mmを比較すると絞り開放では、マイクロニコール105mmの方がシャープですが、F11に絞るとどちらも実用できます。
35mmを使えば、オリンパス38mm並みのクローズアップが撮影できます。
オールドレンズを使う
アナタの機材の中にも蛇腹の付いたクラシックカメラがあると思います。生産されていないサイズのフィルムを使う機種や、蛇腹が破れてしまって放置してあっても捨てられない機種もありますね。
そんな場合、思い切ってレンズを取り外し、ベローズで撮影することを考えたらいかがでしょう。100mm以上の長焦点レンズなら、ベローズを使っても無限遠から撮影が可能です。爺も何本か持っていますので、実例をお目にかけます。
ベローズのニコンFマウントに、BR2Aリングを取り付けて52mmのネジマウントにします。レンズのフィルターネジにステップリングを取り付けて52mmに変換すればベローズで自由に撮影できます。適当なネジが加工されていなかった「トリオプラン120mm」は三光映機で52mm変換リングを特注しました。
テスト日 | 2021年10月8日(無限遠)、9日(ブーゲンビリア) |
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カメラ | ニコンZ6 |
ホワイトバランス | 晴 |
ISO感度 | 100 |
画質 | JPEGファイン |
センサーサイズ | フルサイズ |
オールドレンズと言えどもF11に絞ると、最新レンズに劣らない実力を発揮します。残念ながら、キヤノン85mmは無限遠ではピントが合いませんでしたので、接写のみ。
まとめ
昨今、「カメラボディは消耗品。レンズは資産」と言われていますね。カビや傷、バルサムの剥がれなどがあっても、整備してクリーニングできるレンズは維持したいものです。安価なクラシックレンズを価格以上の資金と手間を掛けて治せ、とは言えませんが、爺以上に「ヘンタイ」の方々もおいでになることでしょう。
ここまでのベローズを使ったテストで、どんなレンズを使っても「ベローズの内面反射を考慮する必要は無い」のがお判りいただけたでしょうか。ベローズは雨に弱い素材ですし、風が吹けば被写体が揺れて屋外の接写撮影は困難になります。デジタルカメラとマウントアダプターで何でも簡単に撮影できる時代に、「他人様とは違った画を撮りたい」と考えるのが若いカメラマン。そんな要求に、面倒くさいのは承知の上で、引伸し用レンズ、拡大専用レンズ、ベローズを紹介してきました。
先人技術者がその時代の必要に応じて開発してきた機材を活用しない手はありませんぞ。