日本の音楽映像シーンを最前線で目撃し続けたライター林永子(a.k.aスナック永子)が、映像の現場を牽引するプロフェッショナルにインタビューを行う連載企画。
第5回のゲストは、90年代からMVやCMの監督として、また撮影監督としても活躍し続ける竹内スグル氏。ご自身以外の監督の現場にもカメラマンとして参加するなど、独自のスタイルで撮影と向き合う竹内氏にその極意を伺った。
竹内スグル(Suguru Takeuchi )|プロフィール
映像監督、DOP、写真家
1962年兵庫県神戸生まれ
90年初頭から、撮影監督、演出家として活動。TVCM、MV、ドラマ、ショートフィルム、写真など、視覚表現領域を横断し、様々な作品を世に送り出している。
主な監督作品に永瀬正敏主演のドラマ『私立探偵 濱マイク』第10話「1分間700円」(2002)、BS開局特番「bakuha.com」、主な出版物に写真集「Radiation Tokyo」、自ら監督を務めたTV東京ドキュメント番組「比類なき者」、出演者を撮りおろした「告白録」がある。最近の仕事はTOYOTA GRやI HOPE KANEBO、RAYS、KEIRINなど。
https://glassloft.jp/profiles/suguru-takeuchi/
演出と撮影の「考える」の違い
――自らカメラを回す監督として、またカメラマンとしても活躍されていますが、演出と撮影の比率はどちらが多いのでしょうか。
自分が演出と撮影を行う仕事が一番多いです。なるべく撮影の方をたくさんやりたいと思っているのですが。というのも、演出はクライアントのオーダーや情報整理など、画作りに集中する以外の分野でやらなければならないことがたくさんありますよね。一方で、カメラマンは動物的かつ感覚的に撮影に集中できる。
――ご自身の演出でカメラも回すスタイルはいつから?
90年代のMVから、自分で演出する時は100%自分で撮っています。最初のきっかけは上田現「お祭り」MV(1991年)。予算がないというネガティブな理由もあったのですが、自分で撮影してみた結果、びっくりするぐらい良い作品ができたんです。その3カ月後に撮ったDJ3「vinyl boogie」MVも出来が良く、絶対に自分で撮った方がいいと確信しました。
――ご自身以外のカメラマンを介して撮るよりも、自分のイマジネーションを具現化する距離感が近くなるのでしょうか。
そうですね。ずいぶん後から分かったことですが、机の上でコンテを書く時に生じる演出の「考える」と、撮影の「考える」は別物。僕にとっての「考える」は、自分の身体と感覚を使う撮影の方と直結しているんです。「今、ここで撮りたい」と思う瞬間を逃さず、どう撮るか。自分以外の監督の現場では、もちろん演出意図に重点を置きますが、「今、撮りたい」と感じた瞬間に、「この画はどうだろうか」と監督に確認するコミュニケーションが当然ながら生じますよね。自分の現場では、カメラを構えていれば、今、ここというタイミングで身体が考えて撮れる。
――動体視力の世界ですよね。ボクシングみたいな。
そう、だからカメラを持ったままずっと被写体を見て、「今だ」というタイミングでズームするとか。スチールの場合、被写体に対してカメラ側が動いて撮るべき瞬間を探すこともありますが、ムービーはその移動時間で撮り逃がす。だから、動く時もあるけれど基本撮りっぱなしのまま、今、何か起こると直感的に思った瞬間にズームするなど、その瞬間に反応することが「考える」。
――1990年代から2000年代のMVでも、人間にフォーカスし、フィックスで捉えた画面から魅力を抽出する、本質に迫る演出が印象的でした。
MVを撮っていた当時は、歌詞や曲の世界観を自分の解釈で狭めてはいけないと感じていたんです。対象となるミュージシャンには、育ってきた環境があって、その人なりに音楽に触れた時間があって、音楽を作り続けて今、ここにいる、という歴史がある。そこへのリスペクトがあるからこそ、ミュージシャンが積み上げてきた世界観を自分の解釈で狭めたくない。なるべく、その人が放つ魅力やエネルギーをそのまま、動くポートレートとして切り取ることが潔いと考えて、人にフォーカスする演出を心がけました。
カメラマンの仕事は「場を作ること」
――最近、印象的だったお仕事について教えてください。
KANEBO「I HOPE.」は、長年お世話になっている電通の小松洋一さんが、GCD、AD、企画、演出、編集を担当された広告プロジェクトで、その中のいくつかの撮影を依頼されました。小松さんとは、2000年のベンツCM、日立製作所「つくろう。」CM、Coccoと漫画「ブラックジャック」のコラボによる日立「企業」CMなどの演出でご一緒しています。
「I HOPE.」では、まず小松さんから50枚以上ある分厚い企画書をいただきました。そこには単なるコンテではなく、コンセプトに自分がどう向き合うか、あらゆる視点からの答えが書かれていて、その多視点をベースにベストな撮影プランを一緒に考えられたのが面白かったです。
――いずれも人間の魅力に迫りながら演出の趣向も凝らしているところが素晴らしいです。人や光景や天気などと、カメラでセッションしている感覚をお見受けします。ロケはお好きですか?
好きですね。スタジオで何時間もかけて色や光や影を作り込む素晴らしさはもちろんありますが、予測不能な何かが起きるのはロケです。カメラマンの仕事は、カメラを向ける前に準備することがいっぱいあるわけですが、基本的には「場を作ること」。アングルや光を決めるのは最後の最後。ここで、何を、どうすれば、想像を超えていくような場を作れるのか。その予測できない範囲を広げるような準備や計算をして現場に臨んでいます。そこに人や車が入ると、何かが起こる。起きた瞬間からは、フィジカルで「考える」。
広告の仕事は性質上、確約や予定を守って進めていく必要がありますが、想像の範囲内を目指すと合格点くらいの表現しか達成できない。120点、200点の完成度を目指すためには、予定調和を上回るセッションを起こす場を作ることが大事だと考えています。
大迫力の「RAYS」の臨場感
――昨今は、TOYOTA GRなど車のCMも数多く手掛けられていると伺っております。
昨年末には、ホイールメーカー「RAYS」のCMを演出・撮影しました。LAで開催された「RAYS」の国際的なファンミーティングがあったのですが、所有者の美意識が詰め込まれた個性的な車の数々と、なかなか撮れない走行シーンを撮影しました。車のマフラー付近にGoPro的な使い方でSONY FX3を装着して撮るなど、迫力の臨場感を切り取っています。
RAYS | OFFICIAL COMMERCIAL 60 SEC | ISN’T IT COOL?
さらに後日、日本でプロドライバーによるドリフトのカットを追撮しました。工場跡地での撮影だったのですが、レース場のように整備された場所ではないので、3回のドリフトでタイヤが摩耗し、交換。煙も音もすごかった。ただ、プロによるドライビングは無駄なスピードが出ず、何度やっても動きが同じなので、信頼した上でカメラカーからかなり近づけました
――車の表情に顔や皮膚感を感じて、まるで人や動物のようです。
そう、よく「スグルさんの撮る車は、人ですよね」と言われます。優秀なレースドライバーさんに自由に走ってもらうと、車は本当に動物を撮っているのと同じような感覚になります。
――そんな「生きた被写体」を撮るうえで、撮影機材の機動力は重視されますか?
機動力はあった方が良いけれども、単に軽ければ良いというわけでもなく。Roninなどのジンバルは持ち手が自分の体から離れていて、重心が取りづらい。体に引きつけられる設計だったら腰の重心でセンターが取れて、コントロールしやすい。フィジカルにフィットするカメラや周辺機材があれば嬉しいですね。
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