CP+2026のキヤノンブースにおいて、最新のフラッグシップ機以上に強い存在感を放っていたのが、「不完全さ」を肯定する新コンセプトカメラである。若年層を中心にレコードやフィルムといったアナログ文化が再評価されているが、その背景には効率化されたデジタルでは得られない「体験の質感」を求める欲求が確実に存在する。キヤノンが提示した「間(あわい)撮影体験」というコンセプトは、単なる懐古趣味を超え、物事の境界や余白を意味する「間(ま)」をデジタルカメラに落とし込もうとする本質的な挑戦と言える。

この試みが目指すのは、アナログが持つ魅力を「プロセス」「実体」「不完全さ」という3つの要素に整理し、デジタルの利便性と融合させることである。開発者自身がフィルムカメラのフィルム不足という壁に直面する中で、アナログの情緒を求めつつ即座にSNSで共有したいという、現代特有のジレンマに対する回答を模索している。

本機は、類を見ないほど独創的で挑戦的な内部構造を採用している。通常のデジタルカメラのようにセンサーが光を直接受光するのではなく、一度スクリーンに結像させた像を、別のカメラモジュールで「再撮影」するという二段構えの光学系を採用している。これはVlogカメラ「PowerShot V10」とロングセラーレンズ「EF50mm F1.8」を分解・再構築したものであり、スクリーンの微細な質感を画像に乗せることで、デジタル処理では到達できない物理現象としてのフィルムライクな風合いを実現している。

撮影プロセスにおける一連の動作が重視されている。ウエストレベルで光学像を捉え、可動ミラーを介してマニュアルでピントを合わせる仕組みを採用。効率的な撮影が主流の現代において、あえて手間をかける操作感は撮影という行為に独自の趣を添えている。高機能化とは異なるこのアプローチは、世代を問わず写真の根源的な楽しさを再認識させる可能性を秘めている。

描写面においても、安易な画像処理に頼らず、カメラの構造そのものによって温かみのある不完全さを生み出そうとしている。高性能機では排除されるはずの「揺らぎ」や「失敗」を表現の一部として肯定する姿勢に、このカメラの真価が宿る。

会場では、内部機構を活かした無骨な「モデルA」と、モダンな「モデルB」という対照的なデザイン案が提示された。

キヤノンはこのカメラの未来を、来場者の反応という不確定な要素に委ねている。スペックの優劣を競う時代から、何をどのように体験させるかというフェーズへ。商品化未定の試作段階ではあるが、展示からあふれる開発者の泥臭い熱量は、デジタルカメラが次なるステージへ向かうための重要な分岐点を予感させる。効率や完璧さを脱ぎ捨て、表現の「遊び」を取り戻そうとするこの挑戦が、新たな写真文化の礎となるのか。その一歩は、会場に集うユーザーの声に託されている。