「EOS-1D X Mark III」(以下:1DX III1)のリリースから4年と10カ月。EOS Rシステム待望のフラッグシップモデル「EOS R1」(以下:R1)が遂に11月29日リリースされる。

今回のレビューでは新機能を網羅的といった目線ではなく、日常的に「EOS R3」(以下:R3)をメインにスチル、ムービーの隔てなく様々な業務を行っている筆者の目線でより実践で参考になるようにまとめたので少しでも参考になれば幸いだ。

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ストラップはR3と同一のものと見られる、ボディ型名記載のないものが同梱されていた

現行の事実上フラッグシップモデルとなるR3だが、すでに極めて高い完成度のモデルであることが言える。この3年間、写真においても映像においても運用上の些細な不便を除いて、あらゆる環境下で全幅の信頼を寄せることができる正真正銘の写真映像ハイブリットカメラであると言えるだろう。

しかし長らく運用を行う過程においては様々なシチュエーションにて課題が見つからないわけではない。既存の課題についてはR1との比較をもって後述する。

既出とは思うが、外観の変化にも触れるとすると個人的に大きくは3点。マルチアクセサリーシューにに対応したロック機構付きのシューカバーが付属する。コツを掴むと脱着も容易に行えるし摩耗するとロック機構に触れずとも取り外せるようになるようだ。

というのも、評価機はロック機構が「外れにくい程度」に機能していて、逆に実用的なのではないかとすら感じた。このシューカバーだけを購入するR3ユーザーもいるとか。

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シューカバー「ER-SC3」
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続いてはラバーの質感が向上していてR3よりさらにグリップ性が増している。手に吸い付くようなこの質感は、未体験ながら筆者は非常に好ましい印象を受けた。

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そして何より、一番の収穫は端子カバーの形状が改善されたことだ。R3の端子カバーは、ケージや縦位置用のRRS(Really Right Stuff)クランプなどと干渉してしまい非常に厄介であった。改善されたというよりR3で改悪されたものが正常に戻っただけ、というのは往年のキヤノンユーザーの認識だろう。

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筆者所有のケージが装着されたR3
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R1は隙間から上下左右に逃すことができる形状に戻りより洗練された印象だ
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今回、評価機のテスト用途としてこちらの2本のレンズを用意していただいたので、早速現場へと持ち出した。

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左:RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USM 右:RF24-105mm F2.8 L IS USM Z

競輪撮影でEOS R1をテスト

※撮影協力:松戸競輪

まずは動体のスチル性能を試すべく松戸競輪場へと訪れた。ここはレース期間は入場無料で、2階一般席からであれば金網やアクリル板越しではないダイレクトな撮影ができる。私的利用に限れば撮影許可なども要らない。当然、三脚や視線を遮る、立っての撮影はNGとなる。

2階の一般席へ上がるとその中心付近には望遠レンズを携えた先客が数名いたので、その少し下手にポジションをとった。

今回、主に使用するレンズはRF100-500mm F4.5-7.1 L IS USMだ。主にR1で使用しR3でも確認を行う。

掲載している写真は下を除いて全て無編集のR1によるデータとなる。

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まずは全域フレーミングに進化したAF性能を、オートトラッキングの反応などを試しながら撮影。競輪における被写体検出が「人物」なのか「乗り物」かはトンチのようで悩ましいが、ここは素直に「乗り物」で試した。

実際にヘルメットを被って俯いたランディングポジションでは、およそ人物として認識されないのでどうやら正しい選択だったようだ。結果は極めて良好、合焦が早いだけでなく一度認識したターゲットのトラッキングも素晴らしい。

望遠側では良いが、広角側で流していては流石にどこにフォーカシングをすれば良いのか、手前に柱などが来ると手前を優先し認識するあたりは通常通りの挙動だ。その場合はタッチAFとの併用となるが、望遠レンズの手持ち状態では難しいため、スポット一点AFに変更し撮影した。

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引き構図の全域では手前の被写体に優先でフォーカスがいく様子

スマートポインタでAFフレームを制御しての撮影、これはキヤノン機フラッグシップモデルの絶対優位性として1DX IIIからR3に踏襲されたものだが、もちろんのことR1にも備わっている。筆者も重宝している機能だ。

AFポイントをジョグダイヤルでは到達できない速度で被写体付近まで移動させ、押し込んでやるとそこから自動トラッキングで追ってくれた。これは快適だ。

以下、手前の人物に引っ張られることなくトラッキングが行われてる様子が確認できる。

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ここまでであればR3でも全域フレームではない点、合焦速度で劣る点、トラッキングの追従精度を除いておよそ同様の結果が得られる。それほどにR3のスチル性能は完成系に近いと言えた。

しかし、次のテストでは歴然とした違いが現れた。R1の圧倒的な優位性として間違いなく挙げられるであろう、連写継続性能だ。R1の最高画質RAWデータにおける連写継続性、これがR1の最大の武器であることは間違いないだろう。

R3ではRAW+JPGで撮影した場合140枚となり、30枚/秒で撮影した場合5秒と持たずにバッファが発生してしまうところ、R1では延々と連写を継続していられると感じた。それもそのはず、R1の場合ではRAW+JPG撮影時で1000枚以上が可能とされている。

松戸競輪場はトラックが333mとなり一周平均タイムが1分を切ることが特徴だ。そのためトラック1周分を全て連写しても全くもって安定していることになる。これは驚異的だろう。

速報でSNS広報担当が活用すべくJPG撮影と、決定的瞬間を逃さずに最上画質のRAWで連写し、後日仕上げるような需要を満たすことができる。まさにプロ専用モデルのミラーレス一眼カメラだ。

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完全なブラックアウトフリー機能も追加されていて、電子シャッターでは異次元の快適さとなっている。

また、今回会場の照明ではフリッカーが発生していたため、フリッカー軽減機能でかなりの改善が確認できた。こちらはR3にも搭載されていて、同様の結果を確認した。

フリッカーレスオフのスチル撮影をスライドショー化したもの

フリッカーレスONのスチル撮影をスライドショー化したもの

瞳AFに関しては筆者がR3との相性が非常に良かったのもあり、特別向上は感じられなかった。学習を繰り返していくなり、レンズとの相性などもあるだろうが、R1の瞳AF強化はファインダーから少し離れていたり、眼鏡使用時の認識向上がベースなのだろうと考察する。

スタジオ撮影でEOS R1をテスト

続いてスタジオライティング環境で人物撮影を行った。こちらは美容専門学校の生徒が就職活動用に行う作品制作の手伝いといった現場だ。生徒の1人が就活用に映像コンテンツも必要となり、LED定常光ライティングで組み映像も同じ質感で撮影できるようにしている。

システム構成としてはMacBook ProでDPP4(Digital Photo Professional 4)を立ち上げての有線テザー撮影。

R3での問題点は多くの商業カメラマンが口にしているとおり、通信接続時に給電が行われないという点だ。結論から言って、ここに仕様の変更はないようだ。

長時間の撮影ともなると予備バッテリーを用意しバッテリー交換が必須となる。その際だが、パソコンとの再接続がスムーズに行かない経験をされた方は私だけではないだろう。

アプリケーションを終了するだけではなく、パソコンを再起動するなどした方が円滑に再接続が行える印象だ。そのため、ShutterSnitchなどの外部アプリを使用するなり、カメラ側を無線接続にして給電を行いながら撮影を行うことで、長時間撮影の冗長性を担保している人も多いだろう。筆者も例外ではない。

今回、R1の新機能としてムービー撮影中にJPG撮影ができるという機能が加わった。RAWデータが必要ない場合、メイキング風のムービー素材を撮影しながらスチル撮影が行えることになるが、テザー撮影中においては動画モードにするとパソコンとの接続が終了してしまうため相性が悪い様子だ。

肝心の再接続性だが、パソコンの再起動は不要であったがアプリケーションの再起動は必要だった。このあたりは、再接続を迅速に百発百中で行えるようになるか、撮影中の給電に対応してほしいのが正直なところだ。

人物1人を撮影する際の瞳AFなどは申し分ないのは当然、一瞬で優先指定した瞳にAFが行き、スマートポインタを指でスワイプするだけで左右に移動が行える、この辺りのレスポンスに関してはR3より確実に速くなっていると感じた。

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RF135mmで髪の毛の繊細なディテールを描写すべくハイスピードで、サングラスへの映り込みも嫌って撮影、風を送っているヘアメイクがしっかりと映り込んでいる
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自撮り風のカットはレンズに手を伸ばしてもらって至近距離で構図を微調整するため瞳AFの速度と精度が肝心

(モデル協力:Iori

舞台でEOS R1をテスト

※撮影協力:studio if

続いて筆者の主要ジャンルでもある舞台撮影に持ち出してきた。

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ここでの既存の課題として筆者が認識しているのはスチル撮影時で2点。

  • 逆光や暗転時のAF挙動が不安定
  • 背景に人頭ぐらいのサイズの照明があると比較的誤認してしまう

ムービー撮影時では1点。

  • Rec終わりにAFポインタが一瞬フリーズする

と、どちらもAF要素でかなり細い要素ではあるが、貴重な一瞬を可能な限り逃したくないといった記録主体撮影ともなると、構成やセンスといった要素より、単純反射能力とそれにいかに追従してくれるかといったマシンの基本要素がウエイトを占める。メーカー側にこのあたりを厳しく要求するプロユーザーが多い傾向である。

結論から言うと、どちらも飛躍的な改善がされているのでその詳細について説明していこう。

まずスチル撮影時のAFに関して、確実に迷い、誤認が少なくなっている。RF100-500mmテレ端撮影時、人物から人物へパンニングしたタイミングであったり、焦点距離を大きく変えるなどした際に、大きなボケとなり復帰にラグが発生したが、プリAFのオフで改善を確認した。

願わくはプリAFの恩恵に授かりながら大ボケだけは嫌いたい、カメラ側でフォーカス挙動域の指定などをあらかじめステージ上限定になど制限できると、その間で極めて精細で高速なAF撮影が行えるのではと感じた。

被写体の動きがアグレッシブで顔が真横を向いて少しかげっていたり、さらには背景に照明が焚かれているようなシチュエーションでは、流石のAIも何がなんだかわからないのだろう。まだまだ人間の技術が必要不可欠であると、そう願いたい。

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衣装が黒い場合では特にフォーカスを見失う傾向がある
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顔が隠れていて、背景に照明が焚かれていてもコントラストの高い被写体には優先的にくいつく

続いて、ムービー撮影時のラグについては完全なまでに改善されていた。

いくらラン&ガンのような撮影でフレーミングを細かく刻んでカットを割ったとしても、MF撮影ではなくAF撮影で適切な撮影ができる領域にやっと到達をしたのだな、と感動を覚えた。

顔認識速度などもR3に比べてかなり速い。ボディ内での強調手ぶれ補正の影響なのか、手持ちでの精度を含め、とにかく異次元に楽だと感じた。RF 24-105mm F2.8 L IS USM Zの軽快なインナーズームの仕様を最大限に生かした撮影が行え、過去最も撮れ高を得られた。

対談収録でEOS R1をテスト

最後にマルチカム映像収録の現場にてテストを行った。

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メリット

  • Canon Log2に対応しダイナミックレンジが16stopに向上
  • 録画時ウェーブフォーム表示に対応
  • シャッターボタンでRec開始可能(親指AFとRecスタートを併用可能)
  • その他シネマファームウェア由来の利便性

デメリット

  • 4K30P 4:2:0 8bit収録時の最低ビットレートが100Mbpsになった(約倍増)
  • 発熱が増した

メリットに対しては対談などの長尺撮影ではほとんど恩恵に授かれないものだがよりクリエイティブな撮影には大きな要素となる。デメリットに関してはまさに対談や配信などのバックアップ収録時にはかなり大きく作用してくる。

例えばソニー製の業務機と比べて記録メディアや作業用SSD、バックアップに必要なドライブ容量が最大で倍容量必要となるため、潤沢な予算がある場合でもない限りはカメラ台数が増える程にコスト感が増す可能性がある(4K8bit収録時において)。

また発熱においてはLongGop収録でない場合、FHDでも熱警告が30分と経たずに表示され、高画質の4K30P収録では1時間程で熱停止を確認したのであらかじめ特性を理解する必要があるだろう。

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後日、LongGop設定であれば、4K30P 4:2:2 10bitでもメモリいっぱい(4時間強)の撮影が可能であることは確認した。

総評としては写真機として申し分ない、AF性能に関しては圧倒的な進化を遂げている。

反面、ムービー対応はショート案件であれば確実なクオリティーアップが期待できるが、長尺などの冗長性ではシネマモデルを選択肢に入れるか、低ビットレート4K撮影が可能なR3などの方が運用合理的に勝る場合もあるといった点は把握しておくべきだろう。

他、個人的に気になった点はやはり背面モニターは3軸への進化が望ましかったが、耐久性やデザイン性などで見送る判断も個人的には理解ができる。

しかし、少なくともスチルEOS特有の175°展開によるモニターの傾き改善はそろそろしてほしいと感じる。

またフル規格となって接触不良のリスクが限りなく低減したHDMI端子だが、バッテリーロストなどで認識を見失うと録画を強制停止してしまうスチルEOS特有の仕様も、そろそろ改善を期待したいのが本音だ。

以上、最新フラッグシップモデルの評価を行うには余りにも足らない時間での評価であったが一つの例として参考になれば幸いだ。

Nick Tsutomu|プロフィール
レストランシェフ引退後、IT系制作会社を経て2022年で個人事業10年目を迎える撮影監督兼カメラマン。ホテル、レストラン、ウエディング、不動産、舞台、イベント、芸能、映画、CMなど多ジャンルにて商業記録問わず小中規模の撮影をメインにスチルからムービー空撮までフレキシブルかつ的確な監修を強みとしている。美容学校写真講師を兼任していた経験やブライダルメイク室との人脈から各ジャンルに適したヘアメイクの斡旋なども行っている。サウナとビールが好き。

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PRONEWS編集部による新製品レビューやイベントレポートを中心にお届けします。