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この度、ゼンハイザー社から新しいMS(Mid-Side)ステレオショットガンRFコンデンサーマイクロホン「MKH 8018」が発売された(希望小売価格はオープンで、参考価格は税込363,000円)。

もともと、このジャンルの製品として、同社には「MKH 418-S」がありこの製品は超定番である「MKH 416」をミッドマイクの母体としてこれにサイドマイクを足したMS(Mid-Side)ステレオ構成となっていた。

筆者は以前よりこのMKH 418-Sを現場で使用してきた。通常のペアマイクロホンとは違い1本のマイクロホンでステレオの拡がりを無段階で調整可能でしかも収録しながらでも後からでも調整が可能な点はMS(Mid-Side)ステレオ方式の最大のメリットと言える。

ミッドマイクがあるので、先ずステレオ設定におけるセンター音が弱くなってしまう中抜け現象を避けることができる。またサイドマイクとのMS合成で無段階に左右の拡がりをMSデコーダーを用いることで可能になっている。

このレコーダー等のハードウェア内に内蔵された機能を用いても、オーディオプラグインに依るMSデコード処理でも、どちらでも良いので作業環境に合わせてセレクトしていた。

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SENNHEISER MKH 8018(右)とMKH 418-S(左)

音質はRFコンデンサーマイクロホンである「MKH 416」独特の「芯のある音」を継承して、さらにサイドマイクも同じ傾向の音質にまとめられているので、出来上がりの音質を想像しやすい点が非常に使いやすかった。

ハンドリング性と機能性を向上させた一体型構造

今回のMKH 8018は超指向性「MKH 8060」をミッドマイクとし、サイドマイクに双指向性のMKH 8030とを組み合わせてMSステレオとしての構成にして運用していたものを、一本のマイクにまとめ上げたものだ。

音質は従来の物よりもグレードアップされており、価格にもそれは反映されているが、ミッド、サイドの2本マイクで構成した場合の価格よりは抑えられている。何よりもハンドリング性が向上している点が大きい。

MS、XY-narrow、XY-wideの3つの切り替え可能なステレオモードを新たに加えて、マイク本体のみでステレオ音声出力が可能となっている。

因みにMKH 418-Sはミッド、サイドの出力のみでステレオ音声化するには必ずMSデコーダーが別途必要になる。レコーダーにこの機能が内蔵されていれば大丈夫だが、レコーダーによってはその機能がないため、正しいステレオ音場の確認ができないデメリットがあった。それだけにこの「MS、XY-narrow、XY-wideの3つの切り替え可能なステレオモード」の搭載は望んでいた方々が多かったのではないだろうか?
(筆者は元々、MSデコーダーを複数用意して運用していたのでMid-Side出力のみの構成でも不便を感じていなかったが、普通に左右のマイク出力を望む声が多かったと推測される)

運用を支えるケーブルとコネクター

マイク本体の出力端子は5P XLRとなっており、一般的なステレオマイクと同様にL-R 3P XLRへの変換ケーブルが必須となるが、延長ケーブルはステレオ構成のまま5P XLRの方が運用上は便利なので筆者はそうしている(写真参照)。

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XLR 5P F – XLR 3P M x2(L-R)変換ケーブル
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XLR 5P延長ケーブル

また、5P XLRからミッドマイクのみ取り出せる変換ケーブルを用意しておけばMKH 418-Sを擬似的にMKH 416として運用できる(違いはマイク本体の全長が20mm程長い)体制が確保できて便利だ。これはMKH 8018でも同様にできる。

運用上の利便性を上げたいならばこの種の変換ケーブル類は何種類かを用意したい。筆者がMKH 418-Sで使用しているものの写真を示すが、出力コネクターは同じなのでそのまま流用した。

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XLR 5P M – XLR 5P FとXLR 3P M – XLR 5P F変換ケーブル

音質のインプレッション

ゼンハイザー社は確固たる地位を確保した「MKH 416」の音質をとても大切にしており、MS(Mid-Side)ステレオショットガンRFコンデンサーマイクロホン「MKH 418-S」もその音質を踏襲している。実際、ミッドマイクのみの運用ではMKH 416と全く同じ音質で収録できる。

また最近注目を集めている Ambisonic(VR)用マイクロホン「AMBEO VR MIC」も複雑な構造ながらも「MKH 416」の音質を踏襲しており一聴して「あっ!いつものあの音だ!」という安心感を与えてくれていた。

さて最新の「MKH 8018」はどうだろうか?
先行して発売されていた「MKH 8060」「MKH 8030」も高評価で市場に受け入れられており、従来品と比較するとかなり高額にはなるが、試用結果でそれだけの価格差の意味が充分に発揮できるのか注目したい。

評価で使用したオーディオレコーダーはSoundDevices社の「MixPre-10 II」を32bit/96kHzの設定で行った。マイク側はどちらもMSとした(MKH 8018のステレオモードは他の方々が評価してくださるだろう)。

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SoundDevices MixPre-10 II全体
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SoundDevices MixPre-10 II MSデコーダー設定(1ch-2ch)
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MixPre-10 II MSデコーダー設定(3ch-4ch)

Mid、Sideの2チャンネル音声をそのまま収録して、RAWデータ扱いでモニターにMSデコーダーを設定して実際のステレオ音像を聴ける状態にする。

収録後の編集もこのRAWデータからオーディオプラグインのMSデコーダーを介し、ステレオ音像化して実際の編集用音声として使用するのが比較的一般的な作業手順だ。だが、音声をカメラに直接収録してすぐに使いたい場合に、このRAWデータのままでは非常に都合が悪い。今回、マイクロホン自体で後処理の必要がないステレオ音声出力を可能にした点が大きな改善点である。

このステレオ音像のセッティングも単純なステレオ音像ではなく2種類「XY-narrow」「XY-wide」用意されており画角に合わせた拡がり感を持たせた収録が可能だ。

MKH 8018の音の第一印象はMKH 418-Sと比較して感度が高い印象だ。ノイズフロアは相応といったところ。

音質に関して、MKH 418-SはやはりMKH 416系の芯のある硬めの音だが、MKH 8018はそれを踏襲しつつ音域のレンジが拡がっている感じを受けた。歯擦音や破裂音といった大きな音で入った場合のサチュレーションにおいて、MKH 418-Sは高い音量では多少詰まった感じがあるが、MKH 8018ではその詰まった感じがなく余裕を感じさせてくれる。値段相応の音質差があると思われる。

マイク径が若干太くマイクホルダー等に取り付ける際に従来品のホルダーでは若干きつめになる。

ゼンハイザー社の製品は従来のマイクでも必要充分な性能であった。よりグレードアップを狙う新シリーズはいずれも高価なマイクで、導入には慎重にならざるを得ないが、新シリーズには納得させられる点が多い。

補足

補足:MSデコーダーについて

MS(Mid-Side)ステレオショットガンマイクロホンを使う上で「MSデコーダー」の使用は必須条件なので補足する。

補足:オーディオプラグインのMSデコーダー

使用中のDAWやビデオ編集アプリケーションのオーディオ機能には付属機能としてインプリメントされているのがほとんどなので取扱説明書等を確認していただきたい。

また、違うMSデコーダーを使ってみることもお勧めする。ライブ配信等で使用する場合にはリアルタイム処理が可能か?音声処理に遅れ(レイテンシー)がどの程度発生するか?使用中にパラメーター(左右の開き具合等)を変更する際にノイズが入らないか?等々の確認は事前に必ず行ってほしい。

補足:レコーダー内蔵のMSデコーダー

最近のディジタルハンディーレコーダーやフィールドレコーダー等々には、収録中のモニターのため為の仮想ミキサーが内蔵されているものがほとんどだ。そのミキサー機能の一部にMSデコーダーがあり、俗に言う「掛け録り」的にステレオ音声化して記録したり、RAWデータ記録しながらその音声モニターのみをステレオ音声化してチェックできる様にするといった機能があらかじめ用意されているのでこちらも取扱説明書を確認していただきたい。

補足:ハードウェアのMSデコーダー

ハードウェアのMSデコーダーが存在したが今ではほとんど需要がない。つまりレコーダーの付属機能として同様のことができるので、あえて外部に専用のハードウェアを用意する必要がなくなったためだ。

もし必要ならばオーディオミキサー3チャンネル分を使って擬似的にMSデコーダーの機能を実現することもできる。各フェーダーで調整することで全体の音量や左右のバランス調整によるステレオの拡がり具合の調整が可能だ。

WRITER PROFILE

須藤高宏

須藤高宏

東京・国分寺市に於いて録音スタジオ「マイクロサウンド」を運営し各種録音編集に携わる傍ら最近では各種イベント配信音声を担当。