交換レンズの世界では「大三元」という言葉がよく使われます。この言葉は麻雀の役(手牌の特定の組み合わせ)の一つであり、白(ハク)・發(ハツ)・中(チュン)という3種類の三元牌をそれぞれ3枚以上に揃えると麻雀では最高得点である役満が得られるという、麻雀の役としてはもっとも/有名で多くの麻雀ファンの憧れの役の一つですね。
しかしその「大三元」は元々中国の官僚登用試験から由来する言葉で、中国の官僚登用試験である科挙(かきょ)において、3つの主要な試験全てで首席(元=トップ)合格を果たすこと、とされています。3つの試験の「元(トップ)」をすべて揃えることから「大三元」と呼ばれ、空前絶後の栄誉とされたそーな。
転じて交換レンズの世界で「大三元」は、開放F値がF2.8で固定された(F2.8通し)広角・標準・望遠ズームレンズの総称であり、ラインナップの中でももっとも/優れた(元)高品質ズームレンズ3本(大三元)として定着しています。
これは各レンズメーカーとしてはメーカーを代表するレンズであり、メーカーの技術力を示す代名詞のような存在、ということで、各社がもっとも/力を入れているレンズです。
ニコンは2018年8月にミラーレスカメラ専用のZシリーズを発表し、Zマウントという新しいレンズマウントを新規開発しました。その特徴は16mmという超短距離のフランジバック、そして内径55mmという大口径にあります。
従来のニコンで用いられてきたミラーボックスのある35mm一眼レフ用のFマウントでは、長いフランジバックや小さな口径によってレンズ性能の向上に制限がありましたが、Zマウントでは、35mmフルサイズ用レンズマウントとしては最短のフランジバック、最大の内径を誇るマウントとなり、レンズ設計の自由度が上がったことから光学性能の大幅向上を実現したとされています。
Zマウントでこの「大三元」レンズも刷新され、2019年4月には「NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S」を発売し、新「大三元」の標準ズームレンズとなりました。
そして2025年9月26日、24-70mm f/2.8は6年ぶりに刷新され、第2世代となる「NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S II」が登場となります。「NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S II」は、第1世代「NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S」と同様に、ニコンのプロフェッショナル向け高性能レンズ「S-Line」に属し、F2.8の明るい固定絞りが特徴の、プロやハイアマチュアにとって欠かせない「大三元レンズ」の一つですが、その標準ズームレンズのど真ん中が第2世代となりました。
自らもニコン Zシリーズユーザーである筆者の日常は動画撮影がメインであることから、今回は筆者所有のニコン Z9を組み合わせて動画撮影を中心に据えて、この新型大三元をレビューしたいと思います。
新旧モデルのポイント比較
旧モデルである1型と新モデルである2型の主な特徴をまとめると以下の通りとなります。
| NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S II(2型) | NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S(1型) | |
| 発売日 | 2025年9月26日 | 2019年4月19日 |
| レンズ構成 | 10群14枚(EDレンズ2枚、非球面レンズ3枚) | 15群17枚(EDレンズ2枚、非球面レンズ4枚) |
| コーティング | メソアモルファスコート & アルネオコート | ナノクリスタルコート & アルネオコート |
| ズーム機構 | インターナルズーム 全長:約142mmで変化しない |
伸縮式 最短:約126mm 最長:約156mm |
| ズーム鏡筒径 | 約79mm | 約81mm |
| 質量(重さ) | 約675g(クラス最軽量を達成) | 約805g |
| AF駆動 | マルチフォーカス方式 シルキースウィフトVCM (SSVCM)採用 |
マルチフォーカス方式 IF(インターナルフォーカス) |
| AF速度 | 1型比で約5倍高速化 | |
| フィルター径 | 77mm | 82mm |
| 最短撮影距離 | 0.24m(焦点距離24mm) 0.33m(焦点距離70mm) |
0.38m(ズーム全域) |
| コントロールリング | クリックスイッチ搭載(クリックON/OFF切替可) | クリックなし |
| 情報パネル | 非搭載(OLED表示パネルなし) | 搭載(OLED表示パネルあり) |
重要な進化点
重要な進化点を個別に見ていきましょう。
1.インターナルズーム機構の採用と大幅な軽量化、クリック機能の付加
ズーミングしてもレンズの全長が変わらないインターナルズーム機構のため、動画撮影でジンバル等を使用する際にも重心位置の変動が少なくバランス調整が容易になったということです。ただし旧型よりも全長は長めで、1型の広角時126mmから2型は約142mmの固定となることから、カメラ全体のバランスはレンズ前端方向へ寄ることになります。

ズームリングとなると、動画勢としてはそのリングの感触が重要ですが、今回のズームリングは擬音で表現すると「にゅるり」とした重さがあり、この滑らかな感触は今までのニコンのズームレンズとは違う感触で、滑らかなズーム操作が可能です。惜しいところはやや重たすぎるきらいがあるところで、「シュッ、スコン」と回る1型と比較すると滑らかさは上回りますが、ズームリングの回転にはやや指先の力を要します。
また1型から約130g(16%)軽量化され、クラス最軽量の約675gを実現して機動性が向上したということです。レンズ外径もズームリング部分で2型が約79mmと1型の81mmと比べて細くなりました。フィルター径も1型の82mmから77mmへと小径化され、全体に細長くコンパクトに軽量化されたことが手にとっても実感できます。個人的にはやや太すぎる1型と比べて、細くなった2型は取り回しやズームリングの感触などが好ましく感じました。
あとNIKKOR Zレンズには、ボディ側の設定で自由に機能が割り当てられる電子コントロールリングが装備されているのが特徴で、そこにも今回新たな操作感としてクリック感が付くクリックスイッチがZレンズとして初装備されました。
最後端のコントロールリングがスイッチONだと割り当てた機能の設定値が1変わるごとに1クリック感があり、OFFだとクリック感のない操作感となります。
通常最後端のコントロールリングにはデフォルトでは絞り機能が割り当てられていますが、筆者はここに露出補正を割り当てるのが好みです。素早い露出補正ができるのが気に入っており、1リングのレンズではフォーカスに通常割り当てられますが、この場合も露出補正を割り当てますね。またSS固定、f値固定にしたい場合には、ISO感度を割り当けることもよくします。
2.高速AF(SSVCM)
ニコン独自のシルキースウィフトVCM(ボイスコイルモーター・SSVCM)をAF駆動用アクチュエーターに採用したマルチフォーカス方式によって、旧モデルに比べてAF速度が約5倍に高速化されており、ニコン史上最速・最高精度のAFとうたわれています。
またフォーカスブリージングは1型の半分以下にまで抑制されており、フォーカス位置を変えても画角がほとんど変化しないとのことで、より動画に向けて磨き上げたという感触がありますね。
ただ動画に使用するとすでに1型でも十分な速度は感じており、2型の高速性能はなかなか実感しづらいところ。ですが、やはり高性能なボディの測距性能を活かせるのは最新のレンズであることは間違いなく、動きの速い被写体や、素早いズーミング時などでも、確実にフォーカスを捉えてくれるものとなるのではないか?と感じます。
実際に最短距離から無限遠までのフォーカス移動をレンズを付け替えて試してみましたが、ボディ側のフォーカス制御を素早く合うフォーカスよりもジワっと合う制御に設定してあったこともあり、2型と1型の合焦速度には大きな違いは感じませんでした。
またAF時の駆動音がほとんど聞こえないほどに低減されたのは素晴らしいことです。2型と比べると1型はクシュクシュとした駆動音(それでもそれほど目立たないが)がありましたが、2型はほぼ無音と言って良いレベルでした。
3.優れた描写性能:
軽量化とインターナルズーム機構の陰に隠れてしまいましたが、筆者がもっとも関心があったのが、本機2型の画質です。過去にも大三元レンズのモデルチェンジは多く行われてきましたが、今回のようにレンズ構成(1型15群17枚から2型10群14枚へ)まで変更したアップデートは大変興味深くワクワクします。
今回の2型は最新の光学設計を用いて使用レンズを1型よりも減らしつつ、S-Lineレンズ最高クラスの画質を実現したとあります。その光学設計と共に、ニコン最高性能のメソアモルファスコートとアルネオコートを組み合わせることで、ゴースト・フレアの抑制と高い解像力を実現したとありますが、ここは実写データを見ながらインプレッションしましょう。
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非常に限られた状況での比較ですが、筆者は思ったよりも違いは少ないなと感じましたがいかがでしょうか?もちろん重箱の隅をつつくような論評は可能でしょうが、ごく僅かに2型の逆光時のフレアが少ないかな、という印象程度です。
それは2型の描画力の向上が少ないというよりも、1型もやはりニコンを代表するS-Lineであり、描写力は2型に劣るものでもないということだと思います。逆に言うと小型軽量化と使用レンズの削減を行ったのにも関わらず、従来型と変わらぬ以上の描画力を2型は達成していると言えるでしょう。
それにしても双方ズームレンズでありながら、単焦点レンズに劣らない描写を見せているところに、ニコン Zシリーズ「大三元」レンズの実力を見せつけられた印象です。
総評
ニコンの新しい「大三元」レンズである「NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S II」は、「大三元」の第2世代となって従来型以上の描写力と、小型軽量化によって、よりカメラマンに寄り添うプロダクトになったと言えます。
このうち小型軽量と全長の変わらないデザインは、動画クリエイターにとってはより武器となる機動力をもたらすことになったと言えるでしょう。

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