はじめに
Lマウントで500mmに届く純正ズームが必要だと感じていた。そして登場したこのレンズは、想像していた大きさより少し小さくて少し軽い、そんなレンズに仕上げてきた。
全長はおよそ20cm弱、質量は約1.3kg。数値上は特別に軽いわけではないが、肩掛けストラップで一日回してみても"携行の負担"が撮影の邪魔をしない。ここに強力なO.I.S.と、ズームトルクを切り替えるTight–Smoothなど、現場寄りの機能が乗る。さらに1.4×/2×テレコンに対応し、必要なら光学的に最長1000mmまで届く。
いかにもLUMIXらしいアプローチをした100-500mmが登場した訳だが、このレンズの真価はそれらの数字には表れない部分だと認識している。今日はそこを語っていこうと思う。
ビルドと操作
鏡筒はがっしりしており、クオリティの高さを感じることができる。ズームリングはTight–Smoothの可変で回転時のトルク感が変わる。今回筆者がお借りしたサンプル機はまだその機能が実装されておらず、トルク感の違いを感じることができなかったが、自分の好みに合わせてトルク感を変えられるのは嬉しい機構だ。
今回の撮影では恩恵に預かれなかったが、LUMIXの防塵防滴の信頼感は私の中では非常に高く、小雨や海風程度なら問題ない点も使用する上で安心感が高い。
着脱式の三脚座は金属製でこちらもクオリティが高い。ベアリング式とはいかなかったようだが、内側には硬度の高い樹脂がつけられており、レンズ回転時の節度が適切だと感じた。縦位置の切り替えや微妙な水平出しにストレスがない。
手ブレ補正と"像の落ち着き"
このレンズを語るとき、解像や収差の話より先に像の落ち着きに触れたい。500mmはファインダー像が呼吸で揺れる距離だが、O.I.S.とボディ側補正の協調で、構図決定までの時間が稼げる。これは数値で測るより、実際に触って体感してもらうのが良いだろう。
フレームの四隅でラインが暴れず、水平を合わせる操作が素直に決まる。結果として、同じ場面で構図の試行回数が増える。被写体の動きが一瞬止まるタイミングを、迷いなく拾える。流し撮りでも"揺れの性格"が読めるので、歩留まりが底上げされる。筆者はこれまでSIGMAの100-400を使ってきたが、メーカー純正レンズの強みをここに感じることができた。
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画質の印象
写りは"硬さでドヤる"タイプではなく、しっかり解像しつつ見た目がうるさくならない。主役の輪郭はきちんと立ち、背景は素直に下がってくれるので、被写体がすっと前に出る感じだ。望遠端でも情報がキチンと残るため、遠くの被写体でも「撮った手応え」がある。
背景のボケはクセが少なく、細かい木の葉や金網みたいな場面でも、ざわつかずにまとめてくれる印象だ。逆光で白い部分のにじみがうっすら出ることはあるが、露出を気持ち落とすか、あとで軽く整えれば気になることはないだろう。LUMIXらしく解像感を担保しながらボケの美しさを上手く両立させたレンズと言えると思う。
S1RIIとの組み合わせ―ハイブリッドズームの効用
このレンズの使い勝手を一段引き上げるのが高画素機であるLUMIX S1RIIとの組み合わせである。S1RIIのハイブリッドズームは、光学ズームに連動して電子的なクロップ倍率を滑らかに可変する機能だ。動画なら4K記録で約2倍弱、FHDで約4倍超の拡張幅があり、フレーミングを途切れさせずに"もう一歩寄る"を実現する。これは単なるデジタルズームの一括拡大ではなく、光学操作の延長として自然に使える点が肝心である。
静止画でもS1RIIの高画素を前提に、必要なカットだけ段階的なクロップで追い込める。もちろん最終解像は下がるが、用途を選べば十分に実用だ。筆者の使用感だが、単純に後からクロップした結果より良好に撮影できている気がする。この機能を使えば100-500が"100-1000mm"として意識せず手持ちで使える点は高く評価したい。
近接域と"擬似マクロ"的な使い方
最短撮影距離は広角端で約0.8m、望遠端で約1.5m。500mm側で被写界深度は極端に薄くなるが、これを"弱点"ではなく"道具の性格"と捉える。構造物のテクスチャや産業系ディテールを圧縮で切り取ると、平板なモチーフでも画になる。ボケの素直さはここで効いてくる。
F値を少し絞って、被写体側の情報量を揃えれば、輪郭が浮き上がり、背景は面として後ろに下がる。望遠で寄るという撮り方を日常化できるのは、機材一式の総重量を増やさずに画作りの幅を広げるという意味で大きい。
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動画での扱いやすさ
手ブレ補正がよく効くので、500mmでも画面が落ち着き、ゆっくり動かすカットが作りやすい。ピントを動かしてもフォーカスブリージングが少ないため、見た目が揺れにくい。Tight–Smooth機能でズームリングのトルク感を調整できるので、ズーム送りをしたい場合も思った硬さで動かすことができ、手持ち中心でも狙いどおりの構図・ピント・ズームを安定して作れるレンズであると感じた。ただそれなりに重量はあるので、三脚ないし一脚は用意したいところだ。
運用で見えてくる強みと限界
このレンズの強みは、まず"持って行ける"ことに尽きる。サイズと重さが現実的で、思い立った時に撮れる。現場では500mmでも画面が落ち着き、構図づくりに集中できるので、結果として「撮れた」が素直に増える。ズームもピントも動きが読みやすく、思った通りの位置で止まる感触がある。S1RIIと組むならハイブリッドズームで"もう一歩"寄る余裕も生まれ、レンズ交換の回数を減らしながらシャッターを思う存分切れるのが嬉しい。
一方で、明るさは控えめだ。暗い場面や被写体の動きが速い場面では、シャッター速度とISOの折り合いをつける前提になるし、テレコンの使用は明るい条件の良い時に限るのが賢明だと思う。F5–7.1という明るさは、どうしても使用する時間帯を制限してしまうので、それを理解した上で使ってほしいレンズである。
SIGMA CONTEMPORARY 100-400mm F5-6.3 DG DN OS
同じLマウントの"超望遠ズームレンズ"として比較したい相手である。100–400mmというレンジは500mmに届かないが、本体はやや軽く、価格はぐっと身近だ。取り回しの軽さは長時間の歩き撮りや流し撮りで効いてくるし、直進操作にも対応するズーム機構は、素早く画角を合わせたい場面でテンポが良い。
手ブレ補正(OS)は実用的に効き、400mm域なら手持ちでの構図決めも十分現実的である。一方で"もう一段寄る"必要が出たときは、別売テレコンで800mm相当まで拡張できるが、明るさはさらに厳しくなる。ここは撮影条件と狙いの優先度で線を引くべきだ。
描写は価格帯を超えて素直にまとまり、中心の解像と周辺の落ち着きのバランスが良い。背景ボケも癖が少なく、雑多な背景でも主役が沈みにくい。レンズの個性で押すというより、カメラ側の設定と現像で狙いに寄せやすい"器用さ"がある。総じて、まずは軽く、手の届くコストで超望遠を日常に入れたい人には強い選択肢だ。
一方で、500mm常用やテレコン込みの1000mm到達、ズームトルク可変や純正レンズとしてボディとの連携などの作り込みまで含めて"道具としての余裕"を求めるなら、LUMIX 100–500のほうが有利に感じる。まとめると、SIGMAは導入のしやすさと軽快さ、LUMIXは500mmとボディとの連携のしやすさにそれぞれ優位性を感じた。同じLマウントアライアンスのレンズとして悩ましく頼もしい競合相手であることには違いない。
総括
今回使用させてもらい、400mmから500mmへの差を大きく感じた。ハイブリッドズームを使えは、800から1000mmへと変わる。
1000mmを常時携行できることは、撮影者の行動を変える。携帯性の良さや手振れ補正の優秀さは、その1000mmをどう活かすかの手段でしかない。カメラバッグにこのレンズを付けたLUMIX1台を入れて撮りに出かける。他は何もいらない。それを許容してくれるこのレンズの懐の深さを感じることができた。野鳥、航空、モータースポーツ、そして望遠圧縮の風景。望遠を身近に感じさせてくれる一本だと感じた。
あきあかね
1977年生まれ。本業の傍ら2020年よりYouTubeにて映像作品や製品レビュー等を発信している。
近年では副業として企業VP制作や自治体からの依頼で映像制作や配信業務を請け負うサラリーマン映像作家として活動中。
