今年は日本人のゲストスピーカーも
特別講演(Featured Speakers)は、今年は3名の方が招かれた。初日に登壇したのは、ウォルト・ディズニーとピクサー・アニメーションスタジオの社長を兼任する、Ed Catmulll氏。技術出身ではあるが、今回は、これら二つの会社の合併(というか、実際は、ウォルト・ディズニーがピクサーを買収)により、特にCatmulll氏の出身のピクサー・アニメーションのリエイティブな独自のカルチャーをいかに活かし続けるか、そしてクリエイティブな環境の経営についての持論を語った。
「トイ・ストーリー」はあまりにも有名な作品であるが、ピクサー・アニメーションは、かつてこのようなオリジナルのフルCG作品を制作し続けてきた。これら作品もよい人材がなければ生まれなかっただろう。よい人材が育つ環境、お互いが学びあえる環境、を守ることが重要であるとCatmulll氏は強調した。
2日目火曜日は、3D作品のスクリーニングにも登場した「U2-3D」(U2コンサートの模様を3D映画化したもの)のディレクターを務めた、Catherine Owens女史。講演内容は、テーマ「Giving Technology Emotion: From the Artist’s Mind to “U2 3D”」というように、アーティストとしてのOwens女史がインスパイアされた内容について語られたもので、U2-3Dを取り上げて解説する内容とはちょっと次元が違ったものになった。
講演では、Owens女史がこのU2-3Dに関わる上で、影響したアーティストの作品が次々と紹介された。3日目は、カーネギーメロン大学(CMU)教授の金出武雄教授。「My Personal Take on the Last 30 Years in Robotics and Vision」というテーマどおり、教授自身が視覚とロボティクス研究に駆使してきた30年間を追っていくものであった。
金出教授は、98年に米カーネギーメロン大学U.A. and Helen Whitaker University Professor、つまり記念全学教授という、大学を代表する特別な称号を与えられている。京都大学工学教授のとき、カーネギーメロン大学からロボット工学研究所発足の際に招聘され、10年間ほど同大ロボティクス研究所所長を務め、200名以上の研究者を擁する世界最大のロボット研究所に育てあげた。
97年には、アメリカ工学アカデミー特別会員に日本人として最年少で選ばれた。2001年には、東京・台場にある産業技術総合研究所のデジタルヒューマン研究ラボ長併任となり、2003年からデジタルヒューマン研究センター長を務めている(非常勤)。金出教授は、250以上の研究論文を発表し、20件以上の特許を取得している。C&C賞、エンゲルバーガー賞、Marr 賞など受賞も多数。
人工知能、コンピュータビジョン、ロボット工学の世界的権威であり、最も注目されている学者であると言っても過言ではない。金出氏は、CMUロボット研究所所長を務めていた間の様々なプロジェクトについて紹介してくれた。その中で一般国民にもプロジェクト名が知られているものとしては、2001年1月にフロリダ州タンパで開催されたスーパーボールで実証実験された大型システム「Eye Vision」がある。これは米CBSから依頼を受けて、教授の率いるチームが開発したもので、対象物(プレイヤー)を360度の角度から30台のカメラで同時に収録、その映像をつなぎあわせることで、対象物をある軸を中心に回転させて全方位から見ることができるという、仮想化現実を採用した大型シングルシステムだ。映画「マトリックス」を思わせるようなシーンが実現する。
33台のカメラはスタジアムを囲むように上部に設置し、スタジアム外の中継トレーラーからオートメーション制御できるように仕込まれている。トレーラー内にある、カメラスタンドが装備されている装置は33台のカメラ全部とリンクされ、このカメラスタンドを制御すれば、スタジアムにある実際のカメラ全てが連動して対象物を撮影する。33台で収録した映像をつなぎ合わせると全方位から撮影したシーンが再現できる。対象物の切り替えや映像の回転軸を変更することも迅速に行え、不必要なフレームをカットすれば、要らない対象物を外したシーンも可能だ。
CBSはこのEye Visionプロジェクトに2憶5千万ドルをつぎ込んだ。このEye Visionはスーパーボールでのデビュー後、日本を含む国内外のイヴェントで何度か使われたそうだ。しかし、イヴェント毎に組み上げる形式ではなく、小型・低価格のカメラをスタジオに固定設置するなど、システム全体のローコスト化を図れば、もっと浸透していくだろう、と述べる。そして今、教授が注力する「クオリティー・オブ・ライフテクノロジー(QoLT)」と呼ばれる一つ、高齢化社会での人間生活を支援していくロボティクスについての紹介もあった。QoLTは、CMUとピッツバーグ大学のメディカルセンター(UPMC)がタイアップし2006年に設立した「The Quality of Life Technology Center」という研究団や、教授がセンター長を務めるデジタルヒューマン研究センターなどで研究、開発が進められている。最後に、教授が過去を振り返り、今まで充実感ある様々な研究をしてきたことについて「Kanade had a lot of fun」と括ったことが印象深かった。
ブースレポート
リアルタイム性を追求する論文
論文といえば、開催初日に論文発表者が自分の論文の内容を1分間で説明する「ファストフォワード(早送り)」が2日目に開催された。これも人気の1つで、会場は3Dスクリーニングと同じフロアの隣のホール。それも同じ時間からとなっており、両方のホールでは開催時間前に長蛇の列が見られた。
ファスト・フォワードは、まじめに1分間一生懸命プレゼンテーションする人から、コスプレで現れる人もいる。今年は90本の論文が発表された。テクニカルセッションの論文は、例年120本以上の論文が発表されるのだが、今年は初めてACM SIGGRAPHの論文誌「Transactions of Graphic」で採録された論文も一緒に発表されることとなったため、数の調整が試みられたと思われる。合計で114本の論文が28セッションで発表された。
今年の研究論文は、モデリング、レンダリング、計算写真分野(コンピューテーション・フォトグラフィー)等、関連全域に渡った感があるが、話題となったものを挙げるとすれば、米インテルのマルチコア・アーキテクチャ「Larrabee(ララビー)」についての詳細が初めて発表されたことだろう。コードネームLarrabeeは、キャッシュ階層構造とx86構造の互換性はCPUのようだが、SIMDベクトル単位と織地標本抽出ハードウェアはGPUであるような派生型をシェーダーコアとしている。従来の3Dゲームに加え、GPGPU (general purpose GPU)、ストリーム・プロセッシングにも柔軟になお且つ迅速に対応できる、と期待されている。