3年ぶりの東京開催。CGの祭典「SIGGRAPH Asia 2024」。日本のコンテンツと海外資本の融合[Report NOW!]

グローバルな動画配信サービスの資本と、日本のIP(Intellectual Property:知的財産)が大躍進

コンピュータグラフィックスの学会、祭典であるSIGGRAPHのアジア版「SIGGRAPH Asia 2024」が、2024年12月3日から6日の4日間、多くの参加者を集め3年ぶりに東京国際フォーラムで開催されました。

前回の東京開催は2021年、その当時はコロナ禍真っ只中での開催だったため、海外渡航者の入国制限により、日本在住の参加者だけでの開催でした。

2024年は無事、世界各国からの参加者を集めた、SIGGRAPH Asiaとなりました。

今年のテーマは「Curious Minds」。直訳すると「好奇心旺盛な心」。

ニュアンスとしては「知的探求者たち」や「探究心あふれる人々」といった意味合いがあります。

このテーマに込められている想いは、アーティストも技術者、研究者もコンピュータグラフィックスを生業とする人であれば、誰もが「好奇心」を原動力とし、作品を創造し、研究を進め様々な成果や論文を生み出しているのではないかという考えです。

コロナ禍の影響で、大規模カンファレンスのオンライン配信も一般的になった中で、今年は特に会場での体験にフォーカスし、作品を皆で試聴し、最新機材を体験し、対話し、議論することを重視したSIGGRAPH Asia 2024となりました。

SIGGRAPH Asia 2024の公式ページ、全セッションの概要が掲載されています。

3年前のSIGGRAPH Asia 2021と比較して、また今年夏に米国で開催されたSIGGRAPH 2024や、昨年12月にシドニーで開催されたSIGGRAPH Asia 2023と比較して、強く感じた変化のひとつは「動画配信サービス資本の映像制作と、日本原作の映像作品を、世界中のクリエイターが関わって作っている」ことです。

Netflix、Disney+その他、動画配信サービスで配信されている日本の漫画やアニメ、日本の歴史を原作とする作品は、原作を愛し、深いリスペクトを持った、世界中のクリエイターたちと日本のクリエイターたちが協力して制作が進められている作品がほとんどです。

さらに動画配信サービスが持つハリウッド映画以上とも言われる潤沢な予算のもとで、ハリウッド映画にはないテーマや映像表現など、リスクと自由度を持った多くの作品が作られ始めています。

こういった日本由来の作品は世界中で配信され、中には最初から全世界展開を考え、英語のセリフで制作され、日本語原作でありながら吹き替えや字幕で日本語版を楽しむといった作品もあります。

特にNetflix作品である「ウルトラマン:ライジング」「幽☆遊☆白書」のメイキングセッションでは、原作と日本の文化をとても尊重し、作品の歴史を調べたり、細やかな取材や調査の上で、日本の視聴者はもちろん、世界中の視聴者が作品を楽しんでもらえるよう、最大限の配慮と努力をしている様子が伺えます。

ちなみにウルトラマン:ライジングのちょっとした1シーンで、とんかつ屋さんがでてきますが、これは目黒にある老舗のとんかつ屋さん「とんき」をモチーフにしており世界観がそっくりです。

「とんき」で働く、とんかつ揚げ師の方に雰囲気がよく似たキャラクターが登場しています。

ILMによるウルトラマン:ライジングのメイキング講演
白組の高橋正紀さんによるゴジラ-1.0のメイキング講演

一方、映画「ゴジラ-1.0(2023年公開)」のように、少人数、短期間、低予算、全員がなんでもこなせるCG/VFXのジェネラリストのクリエイターが集まって作り上げた作品が世界的に評価された事例も、SIGGRAPH Asia 2024で、再度大きな注目を集めていました。

特に最近の傾向である、極限まで細分化され分業化されたハリウッドスタイルのCG/VFXの制作スタイルに大して、日本的なCG/VFX制作は映像制作の原点に帰ると捉えられ、世界的な大規模プロダクションからも注目を集める形となっています。

「ゴジラ-1.0」を手がけた白組は、総勢35名、CG/VFX制作の中心となるメンバーは、たったの20名程度、約8か月の期間で610ショットを手掛けるというハリウッド映画の制作体制や規模感からすると驚きの効率とスピードです。

現在は数百人規模で1本の映画のCG/VFXを手掛ける大手CGプロダクションも、黎明期はジェネラリストなアーティストたちが日々試行錯誤しながら、全員で楽しみながら作品を創っていたそうで、本来の映像制作の姿に世界中のクリエイターたちの憧れのような視線が集まっているのも確かです。

Computer Animation Festival 受賞作品

SIGGRAPH Asiaの中心は学会でありますが、Computer Animation Festival(CAF)という短編のCGアニメーション作品の創造性、革新性、技術芸術性を称えるコーナーがあります。

今年は世界31カ国から361作品の応募があり、その中から4本の受賞作が選出されました。

ダイジェスト予告編:SIGGRAPH Asia 2024 – Computer Animation Festival Trailer



3年ぶりの東京開催「SIGGRAPH Asia 2024」レポート説明画像  
初日のCAF上映会のプリショーとして披露されたライブコーディング(その場でコードを書いて映像を制作)

最優秀賞(Best in Show Award):Au 8ème Jour(フランス)

  • 制作チームおよび監督:Agathe Sénéchal、Alicia Massez、Elise Debruyne、Flavie Carin、Théo Duhautois(Piktura)
  • プロデューサー:Carlos De Carvalho(Piktura)

世界が創造されるのに7日を要したが、その均衡が崩れるのに必要なのは、たった1日だったという物語。

審査員特別賞(Jury’s Special Award):Sopa Fria(ポルトガル)

  • 協力:Emanuel Oliveira(AGENCIA – Portuguese Short Film Agency)
  • 監督:Marta Monteiro
  • プロデューサー:Vanessa Ventura、Nuno Amorim(ANIMAIS AVPL)、Claire Beffa、Sidonie Garnier(La Clairière Ouest)

「Sopa Fria」は、深みのある物語と視覚的アプローチを通じて家庭内暴力を探る作品。

手描きアニメーションで主人公の日常と感覚を描き出す一方、写真や象徴的なイメージといった「発見映像」により、物語の比喩的な意味を深めている。

主人公の恐れ、怒り、悲しみ、不安は行動だけでなく、視覚的・聴覚的に感情を深く描写することで伝えられる。

「家」は単なる舞台ではなく、危険、抑圧、孤立を象徴する積極的な存在となっている。その抑圧的な性質は、夫の暴力を反映し、脆弱な瞬間には主人公への支配を強める。一方で、他人がいるときには「普通に振る舞い」、家の中での現実を隠す。これは虐待にしばしば伴う静かな共謀を象徴している。

最優秀学生プロジェクト賞(Best Student Project Award):Courage(フランス)

  • 制作チームおよび監督:Margot Jacquet、Nathan Baudry、Marion Choudin、Jeanne Desplanques、Lise Delcroix、Salomé Cognon(Supinfocom Rubika)
  • プロデューサー:Philippe Meis(Supinfocom Rubika)

オリンピック選手のアンナは競争で遅れを取るが、失望させないために努力を重ねる。しかし限界を超えることで燃え尽き、棄権に伴う批判の波に直面することになる。

ビビッドな脈動感のある力強い映像が印象的な作品。

例年フランスやドイツの映像学校のチームによる作品の評価が高い傾向があります。

その理由としてヨーロッパの映像制作学校では様々学んだあと、卒業制作に比較的長い時間取り組むことができ、日本学生のように就職活動に早い時期から取り組む環境と異なることが大きな影響があると考えられているそうです。

特別賞(Honorable Mention Award):Fire(フランス)

  • 協力:Laure Goasguen(Miyu Distribution)
  • 監督:Baptiste Fraboul、Léna Gittler、Esther Lamassoure、Julie Le Forban、Florent Sabuco、Valentin Serre(Miyu Distribution)
  • プロデューサー:Julien Deparis(ENSI)

炎が近づく中、時が止まったかのように感じられる、独特の映像表現をもった作品。

映像によって不安な気持ちや説明のつかない恐怖感を感じられる、ユーモアを交えながら恐ろしい映像が展開する作品。

基調講演「一枚の布が持つ無限の可能性」

SIGGRAPH Asia 2024の目玉である基調講演は3者の講演が行われ、その中でも注目と喝采が多かったのは、「一枚の布が持つ無限の可能性」というイッセイミヤケの宮前義之氏の講演でした。

三宅一生と藤原大が率いる世界的なファッションブランド、イッセイミヤケを代表するプロダクトA-POCの初期メンバーとして活躍されているイッセイミヤケの宮前義之氏からファション業界とテクノロジーの関係性について、これまでの取り組みが紹介されました。

コンピューター・テクノロジーは、デザインにまだ目に見えない美しさをもたらすことができ、コンピューター技術がデザインの領域を超えた新しい発見を与えてくれると熱弁しました。

A-POCで用いられているフラットな素材が、スチームアイロンによって形状が変化する、縫製のない近未来的なファッション素材についてのデモンストレーションが行われました。

論文発表:ベストペーパーはGoogleが受賞。素材に困らない近未来の映像表現の予感

SIGGRAPHの本文は論文発表であり、今年もっとも評価されたのは、数枚の画像から高精細な映像を生み出すGoogleの研究チームの研究「Quark: Real-time, High-resolution, and General Neural View Synthesis」でした。

Quarkは、少数のRGB画像入力やビデオストリームから、1080p解像度で毎秒30フレームの新しい視点の画像をリアルタイムに生成する革新的なニューラルアルゴリズムです。

これは単なる生成AIとしてではなく、新たな映像制作手法として活用が期待される、カメラで撮影されていない方向からの映像を補完する技術です。

SIGGRAPH、SIGGRAPH Asiaのこれから

次回北米で開催されるSIGGRAPH 2025は、2025年8月10日から14日の5日間、CG産業の盛んなカナダバンクーバーで開催、2025年12月15日から18日の4日間、香港でSIGGARPH Asia 2025が開催されることが決まっています。

生成AIの登場で、CG/VFXはもとより、映像制作のフローやスタイルが大きく変わりつつありますが、機材やテクノロジーの進化に関わらず、美しいと感じる映像、楽しいと感じる映像ストーリーの展開など普遍的な部分も引き継がれています。どんなに生成AIが進化しても、CG/VFXに限らず、映像を作り続ける、映像作りを楽しむ、映像作りを研究することは、これからもずっと続くと感じられた、とても世界の熱量を感じたSIGGRAPH Asia 2024でした。