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SIGGRAPH 2022にて。開演直前のエレクトロニック・シアター(画像提供:ACM SIGGRAPH)

はじめに

SIGGRAPHに参加したら、とりあえず外せないのがエレクトロニック・シアターである。ここでは、世界中から応募された膨大な作品の中から、審査員によって選び抜かれた作品だけが一挙上映される。まさに全世界のCG/VFX業界における「過去1年間のハイライト作品」が楽しめる場でもあるのだ。

エレクトロニック・シアターは、アカデミー賞でお馴染み米国映画芸術科学アカデミーより「アカデミー賞短編アニメーション部門ノミネート作品の選考対象となるフィルム・フェスティバルの1つ」として認可されており、1999年以降、このエレクトロニック・シアターで上映された数々の作品が、アカデミー賞の短編アニメーション部門でノミネート、もしくは受賞を果たしている。

今年の傾向

それではさっそく、今年の傾向を、筆者独自の視点から解析してみることにしよう。今年は世界10カ国から325本もの作品の応募があり、審査員によってエレクトロニック・シアターでの上映作品が選定された。そして、今年は昨年の上映作品数よりも1本少ない、全25本が上映された。

さて、今年の入選作品を国別に見てみることにしよう。

  • フランス:8(8)
  • アメリカ:7(8)
  • ドイツ:2(0)
  • デンマーク:2(0)
  • カナダ:1(3)
  • スイス:1(2)
  • スウェーデン:1(0)
  • 日本:1(0)
  • 台湾:1(0)
  • 中国:1(0)

※()内は昨年度の本数。比較用に入れてみた

毎年のことながら、フランスからの短編作品の入選が多い。昨年はフランスとアメリカが8本の入選で同点の第1位だったが、アメリカは今年は7本で第2位。次いでドイツとデンマークから2本の入選があった。そして今年は2年ぶりに日本からの作品が入選したのが嬉しいニュースである。

入選作品をジャンル別に比較してみると、今年の傾向が見てとれる。

  • 短編アニメーション(学生作品):9(12)
  • 短編アニメーション:6(3)
  • サイエンティフィック・ビジュアライゼーション:2(4)
  • VFX:2(2)
  • 長編アニメーション:2(0)
  • ゲーム・シネマティック/トレイラー:1(3)
  • リアルタイム:1(1)
  • ミュージックビデオ:1(1)
  • 博展映像:1(1)

※()内は昨年度の本数

エレクトロニック・シアターは、冒頭でもご紹介した性格上、短編アニメーション作品の比率が多い。今年も昨年と同じ全15本の短編が上映された。うち学生作品が9本と大半を占め、しかもフランスの学生作品が多い。学生作品はSIGGRAPH常連校からの出展が目立つが、なぜか今年はアメリカの常連校からの入選が1本も見られなかったのが、意外と言えば意外であった。

また、今年入選した短編作品は、何かを訴えかけるようなテーマ性の高い作品が多かった点も、特徴と言えるかもしれない。動画配信やハリウッド映画のVFXリールからの入選は、昨年と同じ2本のみ。また、今年もTVコマーシャル作品は1本も入選していなかった。長編アニメーションは、昨年は1本も入選していなかったが、今年は2本が入選したのはナイスである。リアルタイムは昨年と同じ1本であった。サイエンティフィック・ビジュアライゼーションは、昨年より2本減の2本が入選。

…以上の観点から筆者が思うことは、今年のエレクトロニック・シアターのラインナップは、昨年同様に少々アンバランスであったということだ。もっとVFX大手の最新VFXリールや、アイデアやユーモアに富んだ世界中のCM作品の数々なども見たかったというのが正直な気持ちである。しかしながら、これはあくまでもVFX業界に従事している筆者の目線から感じることなので、教育分野や開発分野等の他のジャンルでご活躍されている皆様のご意見も、ぜひ伺ってみたいものである。

では、まずは予告編から。

SIGGRAPH 2022 Electronic Theater Preview

続いて、今年のエレクトロニック・シアターの上映作品を、筆者のひとことコメントを添え、一挙ご紹介してみることにしよう。

※文中では、上映された映像のリンクを可能な限りご紹介しているが、映像が公開されていない作品については、類似したクリップのリンク、もしくは関連リンクをご紹介している

※リンクは2022年8月現在のものである。日数が経過すると、リンクが切れる可能性もあるので、ご了承あれ

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(画像提供:ACM SIGGRAPH)

Attack on Mutant Plants

ECV(フランス)

植物が存在しなくなった世界で、14歳の少女ヘーゼルとロボットの友達のスモコが植物を発見し、それを保護しようと試みるのだが、いろいろあって、さぁ大変(←全然説明になっとらん)というお話。ほのぼのしたコメディ作品である。

The Outer Worlds 2 – Official Reveal Trailer

Goodbye Kansas Studios(スウェーデン)

「さよならカンザス」というユニークなスタジオ名でおなじみ、Goodbye Kansas Studiosによるゲーム・トレイラー。

予告編

A Web Around Asteroid Bennu

NASA Scientific Visualization Studio(アメリカ)

NASAによるサイエンティフィック・ビジュアライゼーション。小惑星ベンヌからのサンプル採取を目的とした宇宙探査機オサイリス・レックスの、2年半にわたる観測の可視化映像。

The VFX of Dune – Part1

DNEG VFX(カナダ)

映画「デューン」のVFXリール。尺も長めで、様々Before/Afterが観られたのは嬉しい。

Yallah!

Nayla Nassar/RUBIKA(フランス)

★★★Best Student Project★★★

フランスのRUBIKAの学生作品。1982年の内戦下のベイルートで、故郷から逃れる準備をしている男性ニコラスと、「泳ぎに行くという自由」のために奮闘する少年を描いた、シュールなコメディ作品。

予告編

The Soloists

Miyu Distribution(フランス)

この作品は、フランスの商工会議所が人材育成のために立ち上げた、アニメーション教育で有名なGOBLINSの学生作品。ちなみに、クレジットされているMiyu Distributionは、学生作品を含む短編映画の海外配給を手掛けるフランスの会社で、今年は3本の学生作品が同社を介して異なる国から入選している。

ばかげた法律に支配された中東の小さな村で、歌手の3人姉妹と飼い犬が、毎年恒例の秋祭りのリハーサルを開始。しかし、予期せぬ出来事が彼女たちの計画を大混乱に陥れ、さぁ大変、というお話。エンディングには、「今でも、多くの国で女性が次のことが禁じられています。犬を飼うこと、1人で歌うこと、自転車に乗ること、ダンスすること、など。」と出ており、そうした国々での女性の権利解放メッセージが込められたコメディ作品である。

また、音作りも意外と凝っていて、楽しめた。

Severance – Intro Title Sequence Credits(Apple TV+)

Oliver Latta/EXTRAWEG(ドイツ)

Apple TV+の同題作品から、仕事とプライベートの狭間で苦しむ主人公のジレンマと心情を描いた、タイトルシークエンス。

The Seine’s Tears

Yanis Belaid/Pôle 3D(フランス)

★★★BEST IN SHOW★★★

フランスのPôle 3Dの学生作品で、今年のBEST IN SHOWに選ばれた作品である。1961年にパリで起こった、アルジェリア人虐殺事件を描いた作品。

町並みの描写や画作りが印象的で、人形風のキャラクターが独特の雰囲気を醸し出している。それに加え、手持ちの16mmカメラで撮影したようなカメラワーク、フィルムルックな画質や4:3の縦横比などが、当時の時代背景を視覚的に再現している。

予告編

3.5%

Lukas Bieri/Hochschule Luzern Design&Kunst(スイス)

★★★WORLD PREMIERE★★★

近未来のルツェルン(スイス)が舞台。カメラはトラックバックしながら、放棄されたキッチンや荒廃した街をとらえ、干上がったルツェルン湖を映し出していく。そして、画面には「人口の3.5%が暴力に対する抗議活動に積極的に参加すると、彼らは常に変化を生み出す」というメッセージが。

Atlas of a Changing Earth: Visualizing the Vavilov Ice Cap Collapse

Advanced Visualization Lab, National Center for Supercomputing Applications(アメリカ)

ヴァヴィロフ氷帽が変化していく様子を可視化した、サイエンティフィック・ビジュアライゼーション。SideFX「Houdini」とFoundry「Nuke」を駆使しているらしい。

Everything Everywhere All at Once

A24(アメリカ)

今年話題を呼んだSFアクションコメディ映画「Everything Everywhere All at Once」のVFXリール。一見単純そうに見えて、実は複雑な処理をたくさん重ねて作り上げられているこの映画のVFXは、500ショット弱のVFXショットの9割をたった5人のVFXアーティストが完成させたという。

Samurai Frog Golf

Marza Animation Planet Inc.(日本)

★★★WORLD PREMIERE★★★

戦場で数々の悲劇に立ち会ってきた"元サムライのカエル"。刀をゴルフクラブに持ち替えて、平穏な余生を過ごすつもりだった。しかし、忍び寄る悪の手によってその穏やかな日々に陰りが差す…。荒廃したゴルフ場を舞台に、正義を掛けた動物たちの戦いがはじまる!というお話である。

"Samurai Frog Golf" MARZA original animation / MARZA ANIMATION PLANET

この作品の制作経緯について、下記のコメントをお寄せ頂いたので、併せてご紹介したいと思う。

作品が生まれた経緯/ブレント・フォレスト監督

ゴルフ好きの父の影響で、子供の頃から日常的にゴルフに触れていました。

雑誌「Character Design Quarterly」のSNSで毎月開催されるデザインコンテストのために、初めてカエルのキャラクターをデザインしました。それが主人公のカエルのベースとなりました。

SNS上で高評価が得られ、「このキャラクターで何かしたい」と思いました。そこで「サムライがゴルフドライバーを持つか、ゴルファーが刀を持つか、どちらのほうが面白いか」を周囲に聞いたところ、前者が圧倒的でした。

私は「サムライジャック」「サムライチャンプルー」等のサムライのアニメーションシリーズ・映画の大ファンです。アドベンチャー作品も好きです。サムライのように、ゴルフには、鍛錬・体力・冷静な判断が必要なだけではなく、礼儀を重んじる点においても侍の精神に通ずるものがあると考えました。

こうしてできたのが「Samurai Frog Golf」です。

制作経緯/マーザ・アニメーションプラネット「Samurai Frog Golf」制作チーム

日本的な浮世絵・木版画のタッチを、カナダ出身の監督の新解釈によって斬新なルックに落とし込んだ作品です。

元々は、シリーズものとして企画されました。VIPO(特定非営利活動法人映像産業振興機構)の「J-LOD(コンテンツ海外展開促進・基盤強化事業費補助金)」制度のご支援を受け、海外向けプロモーションのピッチ用素材として短編映像を制作しました。

既存のアニメーションスタイルを模倣するのではなく、今までなかったビジュアルを生み出そうと努めました。プリプロが始まってすぐ、アートチームと一緒に木版画工房に行き、日本の木版画がどのように作られているかを見学しました。その経験から受けたインスピレーションをSFGの世界観の根幹になるスタイルに落とし込み、コンセプトアートを作り出しました。

制作チームの半分は外国人スタッフで構成されていたことも、本作のユニークなルックを作り上げた1つのポイントだと考えます。様々なバックグラウンドのチーム全員の意見を聞きつつ、モデリング、テクスチャリング、BGペイント、コンポジット、手描きエフェクトなどの技術を結集した結果、"日本人の考える、日本らしさ"に落ち着くのではなく、斬新なルックが誕生しました。

そこで、面白いものができたので、世界中の映画祭に出して反応を探ってみたところ、SIGGRAPH 2022のエレクトロニック・シアター上映作品に選出されるなど予想以上の反響が得られました。ゴールは、この作品をシリーズ化し、世界中の多くの方に長く楽しんで頂ける作品にすることです。

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SIGGRAPH2022にて「Samurai Frog Golf」制作チームの皆さん。左から、アリーナ・コデシュ(Alina Kordesch)、ブレント・フォレスト(Brent Forrest)、立川真由美(たちかわ・まゆみ)、大野彩絵子(おおの・さえこ)、松成隆正(まつなり・たかまさ)の各氏
(画像提供:マーザ・アニメーションプラネット)
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エレクトロニック・シアター初日の入場列(画像提供:マーザ・アニメーションプラネット)

Encanto:Creating a Magical Place

Walt Disney Animation Studios(アメリカ)

ディズニーの映画「ミラベルと魔法だらけの家」から、メイキングリール。

Alternate Mesozoic

Lucie Laudrin/ESMA(フランス)

ESMAの学生作品。古代→中世→現代と時代を超えつつ、はた迷惑な人間さんたちと共存する恐竜さんのお話。ほのぼの笑える。エンドクレジットによると、Pixar Animation Studios「RenderMan」を使ってるらしい。フランスの学生作品は、映像のみならず、音楽や音響も完成度が高く、いつもながら驚かされる。

Tell me a story

Sara Arzalier/ESMA(フランス)

同じくESMAの学生作品である。仲良し姉妹のソレンとルナ。ソレンは毎晩、妹のルナに自分が主人公の幻想的なストーリを語る。しかし、ルナはセリフの間に隠された秘密を、まだ知らない。そして、いろいろあって、さぁ大変、というお話である。

予告編

Colors and Shapes

Sam Mason/4 Strikes(アメリカ)

NYの映像作家サム・メイソン氏が、2018年に亡くなったラッパーのマック・ミラー氏の家族からの依頼を受けて制作した「Mac Miller – Colors and Shapes」のミュージックビデオ。夢の中にいる子犬が、探求の旅に出るというストーリー。リアルなアニメーションに加え、フォトリアルな画作りにもご注目。

本編

Under The Medal 榮光之下

LIU, YING-YING/National Yunlin University of Science and Technology(台湾)

台湾の国立雲林科技大学の学生による作品である。メダルを授与された紳士。しかし、スリにメダルを掏られ、犯人を追いかけている間、その脳裏ではメダルを手にするまでの過去の人生を振り返っていた、というストーリー。手書きの水彩画のような、印象的な画風が特徴。

本編

The Bad Guys Show and Tell Reel

DreamWorks Animation(アメリカ)

★★★WORLD PREMIERE★★★

映画「バッドガイズ」から、DreamWorks Animationが持つ高度なテクニックや底力が、この作品の随所で効果的に使われていることが伝わってくるShow And Tellリールである。エフェクト1つにしても、スタイライズされていてカッコ良い。

The end of war

Lei Chen/Tsinghua University(中国)

中国は清華大学の学生作品。ドイツの彫刻家ケーテ・コルヴィッツ氏の作品や彼女の人生に影響を受けた作者による、各フレームに彫刻された膨大な数のCGモデルで構成されたこの作品は、戦争の本質について語っている。

ブロンド像のような重圧な質感のキャラクターが、ストップモーションで動き、緊迫感ある映像に仕上がっている。特に戦闘シーンは圧巻で、画面から伝わってくるパワーには惹きつけられるものがあった。

筆者的には、この作品が今年のベストである。

Wet

Marianne Bergeonneau/Miyu Distribution(フランス)

こちらも学生作品。主人公の女性が抱いているマッサージセラピストへの愛情を、柔らかい桃色の肉の大地を舞台に、女性の夢を"蒸気のように"描いた作品。女性アーティストによる作品である。

Living Worlds:City Regreening

Ryan Wyatt/California Academy of Sciences(アメリカ)

今年唯一の博展映像で、アメリカ・カリフォルニア州サンフランシスコのゴールデンゲートパーク内にある世界最大の自然史博物館、カリフォルニア科学アカデミー(California Academy of Sciences)で上映されている映像。

予告編

BusLine35A

Elena Felici/Miyu Distribution(デンマーク)

デンマークのVIA Animation Collegeの学生作品。ある日の市バスの中。3人の乗客、そして後部座席で中学生をナンパする若者、そんな人間模様を描いた作品。

予告編

Zoon

Jonatan Schewenk/AUTOPRODUCTION(ドイツ)

白く光るウーパールーパーのような小動物たちがほのぼのしていると、そこに2本足の森の住人がやってきて、小動物を食べ始める。すると、森の住人の体は宙に浮かび始め、陽気なゲームが始まる。全編を通じてモノトーンで、ほのぼの感が漂う作品である。

予告編

Enemies

Unity Technologies(デンマーク)

Unity Technologiesによるリアルタイム作品。ある惑星に接近する宇宙船の中で、謎の女性が、力の性質について考えながら、チェス盤を準備しているというストーリーらしい。

本編

Orogenesis

Axel Vendrely/RUBIKA(フランス)

RUBIKAの学生作品。夜明け前、空から生まれたキャラクターが雲をすり抜けて落ちてくる。地球上で目覚めた彼は、空に戻ろうと奮闘する。しかし、彼の足元では、何かが起こって、さぁ大変、というお話である。

予告編

以上が、今年上映された全25作品のご紹介である。

当レポートで、エレクトロニック・シアターの楽しさや雰囲気を、少しでも感じ取っていただければ幸いである。

さて、VFX JAPANでは今年もエレクトロニック・シアターオンライン配信上映を年内に予定しているそうなので、ご興味をお持ちの方はこちらを定期的にチェックしてみると良いだろう。

WRITER PROFILE

鍋潤太郎

鍋潤太郎

ロサンゼルス在住の映像ジャーナリスト。著書に「ハリウッドVFX業界就職の手引き」、「海外で働く日本人クリエイター」等がある。