米国コロラド州デンバーの会場とオンラインとでハイブリッド開催 SIGGRAPH 2024

AIとCGとの相乗効果で勢いづくSIGGRAPH 2024

毎年北米で開催されるコンピュータグラフィックスの学会、祭典である今年のSIGGRAPH 2024は、初の開催地となる米国コロラド州デンバーで、世界各国から参加者を集めて行われた。

また、一部のセッションはバーチャル(オンライン)でも配信され、ライブ配信や収録済みのセッションを一部の地域を除く世界中どこからでも試聴でき、会期後も約1ヶ月間、2024年9月1日まで配信される。

SIGGRAPH(シーグラフ)は世界最大のコンピュータグラフィックスとインタラクティブ技術に関する歴史ある学会・展示会である。毎年のSIGGRAPHは7月または8月の1週間、北米の巨大なカンファレンスホールで世界中から数万人を集め開催されるのが定番となっている。

第51回となるSIGGRAPH 2024は、2024年7月28日から8月1日の5日間開催され、数年前から始まったコロナ禍での対応を継続し、閉会後も9月1日まで一部のセッションがオンデマンド配信で観られるバーチャルカンファレンスも併設されるという形態で実施された。

SIGGRAPH 2024の公式ページ、セッション配信画面

オンライン視聴ページ。参加チケットの種別によって見られるセッションが異なる。現地での発表のみで配信のないセッションも多い

キーノート(基調講演)より

SIGGRAPHでは毎年の基調講演で、コンピュータグラフィックス分野の専門家ではなく、その周辺の重要人物を何人か呼んで示唆の富んだ話が聞けるのが定番です。過去の基調講演ではSF作家や、コンセプトアーティスト、ゲーム作家などが講演をしています。

いくつかある基調講演のうち、今回のSIGGRAPHで一番の話題だったのは元Facebook/現Meta CEOのマーク・ザッカーバーグとNVIDIA CEOジェンスン・フアンの基調講演でした。

 AI and The Next Computing Platforms With Jensen Huang and Mark Zuckerberg
SIGGRAPH基調講演:元Facebook/現Meta CEOのマーク・ザッカーバーグとNVIDIAの革ジャンCEOジェンスン・フアンの対談

SIGGRAPH 2024基調講演でのマーク・ザッカーバーグとジェンスン・フアン

従来コンピュータグラフィックス用に用いられていたコンピュータチップ製品がChatGPTをはじめとする生成AIの計算にも大量に活用されていることで株価と時価総額が絶好調のNVIDIA。CEOジェンスン・フアンは、このSIGGRAPHのためにいつも着ているトレードマークの革ジャンを新調したそうです。

このMeta CEOマーク・ザッカーバーグとの対談は、SIGGRAPH会期直前に登壇が決まり、大きな話題を集めました。

普段ニュース番組でしか見ることのないマーク・ザッカーバーグを目の前で見ることができたと大変反響のあった基調講演でしたが、特に新しい発表はなく、Meta社の取り組みやAIの未来について当たり障りのない内容が話されており、期待はずれだったとの声も会場では聞かれたそうです。

ザッカーバーグは、今回初めてのSIGGRAPH参加で、Meta社のAIへの取り組みについて話されました。

Meta社のVRで手の動きを追跡したり、フォトリアリスティックなアバターの開発について、また現在の生成AIが市場をどのように革新していっているか、特にあまり表には出てこないInstagramやFacebookのレコメンデーションシステムについて紹介がありました。

Meta社のAI Studioは、クリエイターが自分自身のAIバージョンを構築し、コミュニティと繋がるためのツールを提供することを目指しているとのこと。

またMeta社はLlamaやPyTorchなどのプロジェクトでAIコミュニティに大きく貢献していることも紹介されました。

最後は Jensen Huangがザッカーバーグに黒の革ジャンをプレゼントして基調講演が締めくくられました。

アワード(表彰)より

Computer Animation Festival優秀作品のダイジェスト版が公開されています。

SIGGRAPHの一つの人気カテゴリとして、Computer Animation Festivalがあります。

これはコンピュータグラフィックスを活用した様々な分野の短編の映像作品を表彰する枠組みで、ここでの優秀作品は、数十本まとめて会場の大スクリーンで視聴するElectronic Theaterでの上映が行われます。

またオンラインでも作品が配信されます(有料)。

Electronic Theaterの上映作品は翌年のアカデミー賞短編アニメーション部門へのノミネートの選考対象ともなっています。2010年代はSIGGRAPHでのアワード受賞短編が、アカデミー賞短編アニメーション部門でも受賞という流れが多くみられましたが、ここ数年は新しい映像表現を歓迎する傾向の強いSIGGRAPHでの作品と、作品性、作家性を重視するアカデミー賞短編アニメーション部門とうまく住み分けがされている傾向が見受けられます。

Best in Show:The Art of Weightlessness

Moshe Mahler with Carnegie Mellon University
ベスト・イン・ショー(いわゆるグランプリ):無重力アート[抄訳](カーネギーメロン大学とモシェ・マーラー氏)

アーティストでありパフォーマーでもあるビル・シャノン氏を描いた短編アニメーション・ドキュメンタリー。
股関節の変性疾患を持って生まれたシャノン氏は、松葉杖をついてのダンスやスケートボードを通して表現する新しい方法を見出しました。
この映像作品ではビル・シャノン氏の動きをモーションキャプチャ技術で取り込み映像制作に活用されています。
制作にはMaya、ZBrush、Houdini、AdobeのSubstanceが使われています

Best Student Project:After Grandpa

Juliette Michel,Swann Valenza,Florian Gomes Freitas,Axel Sence,and Victoria Leviaux with Ecole MoPA
学生奨励賞:おじいちゃんとぼくの秘密(フランスの映像学校MoPAの学生の皆様:Juliette MICHEL, Axel SENCE, Victoria LEVIAUX, Florian GOMES FREITAS&Swann VALENZA)

ポスター
全てが木工細工で作られたような世界の表現が独特の作品。
メイキング、ブレイクダウン(制作作業を分解して解説した映像)、ストーリーボード等はこちらでみられます

Jury’s Choice:Patterns

Alex Glawion

審査員特別賞:パターン(アレックス・グラウィオン)
公式サイト

PATTERNS (2024) – Trailer from Alex Glawion on Vimeo.

約30秒の予告編

ポスター
繰り返しパターンの図柄に囲まれた不思議な世界を描いた作品。
Cinema 4D、After Effects、Premiere Proが使われています

その他、デジタルアート分野での長年の貢献が称えられ、ドイツを拠点とするアメリカ人アーティスト、タミコ・ティール氏がDistinguished Artist Award for Lifetime Achievement in Digital Artを受賞しました。

リアルタイムライブ(リアルタイムCGコンテンツの発表)より

SIGGRAPHの目玉イベントの一つであるReal-Time Live!はリアルタイムCGに特化したデモンストレーションイベントで、会場で大いに盛り上がった様子がYouTube LiveとTwitchで配信されました。

映像アーカイブも残されています。どなたでも無料で観ることができます。

SIGGRAPH 2024 Real-Time Live!

約2時間、10件全てのデモンストレーション発表が観られます

約2分のダイジェスト予告

Phases:Augmenting a Live Audio-Visual Performance with AR
ライブ・ステージ・パフォーマンスにおける拡張現実(Augmented Reality)を探求する作品。
Bolton AV LLCと10 Bit FX Limited、Université Paris-Saclayによるもの
AI in mixed reality – Copilot on HoloLens
MicrosoftのAIであるCopilotを利用し音声による解説や要約とHoloLensでリアルタイムに作業者を支援するシステム

SIGGRAPHのこれから

今年2024年冬にはSIGGRAPHのアジア版、SIGGRAPH ASIA 2024が、3年ぶりに東京、有楽町にある東京国際フォーラムで開催されます。

前回の2021年の開催は、日本もコロナ禍の真っ只中でしたが、2024年12月3日(火)から12月6日(金)の4日間開催される会場には、2018年に開催された時のような1万人規模の参加者が世界中から再来するのを期待しています。

SIGGRAPH Asia 2024:テーマは Curious Minds。

日本屈指のデザインエージェンシーTakramが制作したプロシージャルテクスチャを利用した生成系ロゴにも注目!

また、次回SIGGRAPH 2025は、8月10日から14日の5日間、CG産業の盛んなカナダ・バンクーバーで開催されることが決まっています。

生成AIの登場で、映像制作の業界の仕組みやフローが大きく変わりつつある状況で、SIGGRAPHで知ることのできるCG業界の動きから目が離せない状況はこれからもしばらく続きそうです。

WRITER PROFILE

安藤幸央

安藤幸央

無類のデジタルガジェット好きである筆者が、SIGGRAPHをはじめ、 国内外の映像系イベントを独自の視点で紹介します。