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今年はバンクーバーでの開催。写真はバンクーバーの観光名所として知られるガスタウンの蒸気時計

はじめに

夏と言えばSIGGRAPH。SIGGRAPHと言えば夏。多くのVFX関係者の諸兄にとって、これについて異論はなかろう。今年のSIGGRAPH 2022は、カナダの彼方(爆)、バンクーバーのダウンタウンにて、8月8日(月)~8月11日(木)の4日間に渡って開催予定である。

例年であれば5日間の日程で開催されていたのだが、今年の会期はなぜか1日少ない4日間である。その代わり、並行して開催されるバーチャル・コンファレンスの期間が7月25日(木)~10月31日(月)と長めに設定されているのが、ポイントと言えばポイントであろう。

過去2年間はコロナの影響によりバーチャルで開催されたSIGGRAPHだが、今年は久方ぶりの現地開催である。また、今年は「現地視察」(In Person)と、「バーチャル参加」(Virtual)のハイブリッド開催なので、忙しくてバンクーバーへ行けない方にも便利である。

今回は、SIGGRAPH 2022の見どころを予習してみることにしよう。渡航前&滞在中にスケジュールを検討する際の参考用にご活用いただければと思う。

※このコラムで紹介されている内容は7月後半時点での情報である。開催内容、時刻や会場のホール等が予告なく変更されることも予想されるので、最新情報はSIGGRAPH 2022公式サイトや最新のフル・プログラムをご参照あれ

おさらい:SIGGRAPHって何?

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まずは「SIGGRAPH(シーグラフ)」をよくご存知ない方のために、SIGGRAPHとは何か?を簡単にご紹介しておこう。

SIGGRAPHは、毎年夏にアメリカで開催される、コンピュータ・グラフィックス分野の世界最大級の国際コンベンションである。正確には国際学会および展示会なのだが、連日映像作品の上映やVFXメイキング講演、ユーザー・イベント、パーティー等が開催されることもあり、その楽しさや華やかさから「祭典」的な存在としても知られている。

国際学会の性質にふさわしく、大学の研究者や、ハリウッドのVFX現場で開発された最新技術の論文発表も行われ、ここで公開された論文が、最新ハリウッド映画やゲームの技術に応用される事例も少なくない。アメリカのCG・VFX界では「情報共有」の考え方が浸透しており、こういった最新技術を惜しげもなく公開し、みんなでシェアしていこうという姿勢が見られる。その姿勢はオープンソース等に代表される業界標準化にも通じるものがある。

SIGGRAPHの歴史は古く、第1回は1974年にコロラド州の都市ボルダーで、参加者わずか600人で開催された。参加者数および出展者数のピークは1997年のロサンゼルス開催で、参加者48,700人に出展者539。それからは徐々に規模が小さくなり、ここ数年は参加者14,000人前後、出展者数150前後を推移している。昨年のロサンゼルスは参加者16,500人とやや改善したものの、近年の開催規模は残念ながら最盛期の3分の1程度に縮小してしまっている。しかし、CGの最先端技術の論文発表や、VFX作品のメイキング講演、エレトリック・シアターに代表される映像作品の上映など、まだまだ魅力は満載である。

SIGGRAPHは、毎年開催地を変えて実施され、過去にはボストン、シカゴ、フロリダ、ダラス、そしてラスベガス等の全米各都市で開催されたこともあった。しかし近年は規模縮小の影響もあってか、CG&VFXが盛んなロサンゼルス近郊やカナダのバンクーバー等で開催されることが多い。

SIGGRAPHでは「この場に来ないと見られない、門外不出の映像」が公開されることも少なくなく、著作権の関係でオンライン等では公開されていない極秘映像の数々を見ることができる。また、SIGGRAPHの場で憧れの著名人に出会えたり、実際にVFXを制作した著名VFXスタジオのスーパーバイザー等によるメイキング講演が生で聴講できるのは、大変貴重な経験となるだろう。

バンクーバー国際空港から、ダウンタウンへの移動手段は

会場のコンベンションセンターはバンクーバーのダウンタウンにあり、多くの方はダウンタウン近郊のホテルに宿泊されることと思われる。

バンクーバー国際空港(YVR)からダウンタウンへの移動はいくつか方法があるが、信頼できる消息筋によれば、スカイトレイン(SkyTrain)と呼ばれる電車を利用するのが便利だという。ダウンタウンまで9ドルほど、25分程度で乗り換えなしで移動ができる。

荷物が多い方、観光も含めいろいろ車で巡りたい方は、レンタカーを借りるのも楽しいだろう。

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SIGGRAPH 2022の会場となる、バンクーバー・コンベンションセンター(SIGGRAPH 2018にて筆者撮影)

全体像を把握するのに便利なフル・プログラム

例年であればアドバンス・プログラムのPDFが公式サイトから閲覧&ダウンロードできたが、今年はこれに代わってFull Programというページが用意されている。

このページを参照すると、行動予定が立てやすくなることだろう。スケジュールが時系列で掲載されているので大変分かりやすく、使い勝手も良い。各チケットによるアクセスレベルも明記されている。

文字検索(Windowsの場合、Ctrl+F)を使えば、自分が探しているプレゼンテーションやイベントへ直ちにジャンプできるので便利だ。

チケット&レジストレーション

SIGGRAPH 2022のチケット&レジストレーション情報はこちらから見ることができる。

SIGGRAPHにはさまざまなイベントや講演があるが、チケットのカテゴリーによっては入場できないものもあるので、注意が必要である。

今年のチケットは例年とは異なり、大別すると下記の3種類がある。事前にFull Programを確認した上で、購入するチケットを決めると良いだろう。

フル・コンファレンス

現地視察は、全32カテゴリーへアクセス可能。バーチャル参加は、全32カテゴリー中、20種類へアクセス可能。

Full Conference Supporter サポーター/現地視察orバーチャル参加

会員$1,390、非会員$1,595

詳細はこちら

※「サポーター」は、現在失業中のSIGGRAPH会員や、学生会員向けのディスカウント・プログラムをサポートする目的の上乗せ料金が含まれており、現在安定収入がある方へ、サポートおよび協力を呼び掛けている

Full Conference 現地視察orバーチャル参加

会員$1,240、非会員$1,445、学生会員$415、失業中の会員$570

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Virtual Conference Supporter サポーター/バーチャル参加のみ

会員$1,200、非会員$1,400

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Virtual Conference バーチャル参加のみ

会員$1,050、非会員 $1,250、学生会員$350、失業中の会員$500

詳細はこちら

※フル・コンファレンスの現地視察にはエレクトリック・シアターのチケットが価格に含まれているが、バーチャル参加の場合、チケットは別途購入する必要があるのでご注意を。購入方法については下記をご参照

※SIGGRAPHのコンファレンス自体にレジストレーションをしていなくても、エレクトロニック・シアターだけをバーチャル鑑賞できるチケットが購入可能だ。チケット代は$60。こちらのページの下の方にある「Electronic Theater Tickets」をご参照あれ

エクスペリエンス

Experience Plus 現地視察orバーチャル参加

全32カテゴリー中、20種類へアクセス可能
$515

詳細はこちら

※エレクトロニック・シアターのチケットは別途購入する必要あり

Experience 現地視察のみ

全32カテゴリー中、13種類へアクセス可能
$260

詳細はこちら

エキシビット・オンリー

Exhibits Only 機器展/現地視察のみ

$30

詳細はこちら

※エレクトロニック・シアターのチケットは別途購入する必要あり

今年の見どころ

さて、今年で開催49周年を迎えるSIGGRAPH 2022だが、今年はどんな見どころがあるのだろうか?

一口に「見どころ」と言っても、参加される方の専門職種によって着目点が異なると思うが、ここではVFXアーティストの諸兄が興味を持ちそうな分野を、筆者の独断と偏見に基づき、ピックアップしてみた。

特別ゲストによる講演(Featured Speakers)

今年は、複数の著名ゲストによる講演が予定されている。下記はその1つ、エド・キャットマルパット・ハンラハンによる特別講演である。

Monday, 8 August 2022
2:15pm – 3:15pm PDT

会場:West Building, Ballroom C/D

詳細はこちら

機器展(Exhibition)

機器展を一回りするだけで、今年のトレンドが把握できる

会期中の火・水・木曜日の3日間(8月9日~11日)に渡って行われるのが機器展。

ここでは、さまざまCG/VFX関連のソフト&ハードの最新動向を見ることができる。会期中に一回りするだけで、今年のトレンド、各分野の勢い、そして大人の事情などが一通り把握できる場でもある。

2D&3Dアプリケーションの各ベンターが構えるブースでは、最新バージョンのデモや、ユーザー事例のプレゼンテーションなども行われる。人気アプリケーションのTシャツやバッチ、ノベルティ・グッズなどをゲットするのも楽しみの一つだ。

エレクトロニック・シアター(Electronic Theater)

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SIGGRAPH 2019におけるエレクトロニック・シアターの模様

シーグラフの数あるイベントの中で、VFX屋にとって絶対に外せないのが、このエレクトロニック・シアターである。著作権の関係でネット上では公開されないような映像も多数含まれ、まさに必見である。今年は月・火・水曜日の夜に3回実施されるようだ。現地および、バーチャルでも鑑賞できる。

エレクトロニック・シアターは、別売りチケットを購入すれば鑑賞可能である。購入方法は前述の通り。

Monday, 8 August 2022
6:30pm – 8:45pm PDT

Tuesday, 9 August 2022
6:30pm – 8:45pm PDT

Wednesday, 10 August 2022
8:15pm – 10:15pm PDT

会場:West Building, Ballroom C/D

※水曜日だけ時間帯が遅いので、この夜に飲み会やパーティー参加を予定されている方はご注意を(重要)

Immersive Pavilion

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SIGGRAPH 2019のImmersive Pavilionにて。連日、開場1時間前から行列ができる人気ぶりだった(筆者撮影)

これは2016年より始まった「VRビレッジ」が、さらに発展させた「没入型パビリオン(Immersive Pavilion)」として2018年に生まれ変わったもの。バーチャルリアリティ(VR)、拡張現実感(AR)と複合現実感(MR)の最先端情報を垣間見ることができるショーケースとして開催される。Immersive Pavilionの詳細はこちら

VR Theater

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SIGGRAPH 2019のVR Theater(筆者撮影)

今年のVR Theaterでは、世界中から寄せられた応募作品の中から厳選されたVR作品を鑑賞できる。ドキュメンタリーからファンタジーまで、様々なジャンルの作品が含まれているという。上映作品のリスト、およびVR Theaterの詳細はこちら

鑑賞には別売りチケットが必要だが、7月末の時点で、ほぼSOLD OUTとなっている人気ぶりである。

トークス(Talks)

各分野の舞台裏やアイデアを披露する「トークス」も、VFX関連の面白いプレゼンテーションが聴講できる。下記はその一例だが、今年もかなり盛りだくさんである。

[Talks]

  • Virtual Production
  • Engaging FX & Visualization
  • LookDev and Procedural Patchwork

詳細はこちら

プロダクション・セッション(Production Sessions)

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ハリウッド映画のVFXメイキング講演等が見れるProduction Sessionsはオススメ(SIGGRAPH 2018でのProduction Sessionsにて筆者撮影)

ここでは、最先端技術をプロダクションに応用したプレゼンテーションが行われ、毎年かなり見応えのあるメイキング講演を聴講でき、まさにVFX屋必見である。下記はその中から面白そうなものを抜粋。

[Production Sessions]

  • The VFX of Dune: Bringing an Iconic Story to Life[In person]
  • Weta FX Presents:The Batman[In person]
  • We Don’t Talk About Bruno : An Encanto Musical Sequence Unveiled[I n person]
  • Lightyear: Beyond the Infinite[Virtual]
  • Spider-Man:No Where To Swing[Virtual]

詳細はこちら

※プロダクション・セッションは、フル・コンファレンスのチケットでないと入場できないのでご注意を

ジョブ・フェアー(Job Fair)

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海外でのポジションを探すならジョブ・フェアー(Job Fair)。各社のリクルーティング・ブースがズラリ(SIGGRAPH 2019にて筆者撮影)

ジョブ・フェアーは、全カテゴリーのチケットが対象である。

SIGGRAPHでの就活やジョブ・リサーチを予定しておられる方は、ぜひこちらへ。リクルーターやスーパーバイザーとコネクションを作れるチャンスの場でもある。ここではSIGGRAPH開催前、そして終了後も求人中の各社とコネクションを築くことが可能となっている。

例年であれば機器展会場内の一角にジョブ・フェアーのコーナーが設置されていたが、今年は形態がやや異なり、ミーティングルームを使って1日限定で開催されるようだ。

[Job Fair]

Monday, 8 August
10:00 a.m. – 3:00 p.m. PST

会場:Meeting Room 301 of the Vancouver Convention Centre

また、午後3時からはアイスクリームを食べながらのネットワーキング・タイムが設けられ、リクルーターとの親睦や、履歴書の作成、面接、キャリアパスの形成などに関するTIPSを紹介するコーナーも予定されているそう。

バーチャル参加も可能となっている。ジョブ・フェアーの詳細はこちらから。

また、事前に書籍「ハリウッドVFX業界就職の手引き」を読んで海外就活の予習しておくことをお忘れなく!

おまけ:SIGGRAPH以外の意外な見どころ

SIGGRAPH視察の後、夜はバンクーバーの街へ繰り出し、軽~く一杯行きたいところ。生ビールで乾杯。これ以外に、海外視察の醍醐味はないと断言できるだろう(なんだそれ)。

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北米でも、日本のおいしい生ビールが味わえるのはうれしい(筆者撮影)

下記はバンクーバー在住の日本人VFXアーティストの方から頂いたオススメ情報である。

Guu with 男前
コンベンションセンターより歩いて10分程度の場所にある、ガスタウン店。ここ以外にも複数の系列店あり。居酒屋さんだが、お昼のランチは豊富な定食メニューなども多い。

亀井Royal
天ぷら、お寿司、お蕎麦、和牛すき焼きまである、亀井系列と呼ばれる日本食レストラン。コンベンションセンターからも近いロケーションに位置する。

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金魚
神戸牛の石焼などユニークなメニューが多い。ランチタイムの幕の内弁当が人気。

ジャパドッグ
バンクーバー発祥!和風ホットドッグの有名店。

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Miko Sushi
日本でお馴染みのカウンターのある、純粋なお寿司屋さん。もし間違いないお寿司が食べたい場合は、ここがおすすめ。

Zakkushi on Denman
値段は張るが、日本の焼き鳥、刺身やおでん、そして日本酒が豊富に揃っている。

暖暮(ラーメン)
海外にも複数店舗を展開している福岡の豚骨ラーメン屋さん。大人気で、ランチやディナータイムの行列は必須。オープンと同時に行けば、すんなり入れることが多い。

まる玉(ラーメン)
バンクーバーは豚骨ベースのラーメン屋が多い中、この店では鶏ガラベースのダシで勝負の「究極濃厚白湯スープ」。麺は店内で手打ちされる自家製特注細ちぢれ麺。味玉子やチャーシュー、角煮などがトッピング可能で、替え玉もある。

バンクーバーでの視察、VFX留学など

バンクーバーにはVFX分野で有名な学校が複数存在している。もし、バンクーバーを訪問し、映像留学に興味を持った諸兄は、現地で日本人スタッフがサポートしてくれる留学エージェントもあるので、相談してみると良いだろう。

Teamove
※日本語で対応可能

このTeamoveでは、SIGGRAPH期間中にVFXツアーを企画しているという。定員に達するまで、会期ギリギリまで受け付けているそうなので、もしご興味をお持ちの方は要チェック!である。

また、今回初めてバンクーバーを訪問し、現地のVFX業界とのコネクションを持ちたい方や、将来バンクーバーへの留学を考えている方は、日本語でサポートや情報提供を得られるので便利だろう。

おわりに

以上がSIGGRAPH 2022の見どころ情報である。視察の準備や、現地でのガイドとしてお役に立てれば幸いである。

最後にひとこと:皆さん、「家に帰って、玄関の鍵を開けるまでが、SIGGRAPH」です。どうか安全で快適な旅を!

WRITER PROFILE

鍋潤太郎

鍋潤太郎

ロサンゼルス在住の映像ジャーナリスト。著書に「ハリウッドVFX業界就職の手引き」、「海外で働く日本人クリエイター」等がある。