コンピューターグラフィックの最新技術が結集する、「SIGGRAPH(シーグラフ)」の第35回目が8月11日から15日の6日間、米カリフォルニア州のロスアンジェルスで開催された。SIGGRAPHは1947年に創立された全米コンピュータ機器協会(ACM)の分科組織(Special Interest Group)の一つで、コンピューターグラフィックス処理についての”SIG”、 つまり、”SIG?GRAPH”であるため、この名前が付けられた。

本来、学会論文発表の場であるが、基調講演、終日フルコースのセッションのほか展示会場が設けられ、映像編集やアニメーション作成に関わるソフトウェアから、画像処理や映像編集機器といった専門的・技術的なハードウェア展示も行なわれる、世界最大級の催しとなっている。しかしここ数年、出展者数、参加者数ともに好景気の時の半減まで陥っている。そのことを懸念してか、昨年には3年計画を立ち上げて、多様な新しい試みを進めている。今年の大会は、特に最新CG映像のメイキング解説やスクリーングといった表向きのエンターテインメントが濃く、やはり集客において意識していることが感じられた。

最高ピークからは半減

毎年夏に開催されるSIGGRAPH。隔年毎に場所を東と西に移して開催しており、西では大抵このロスアンジェルス会場で行われる。西海岸だと、入場者数も東よりはいつも多い数字の結果となる傾向だが、今年はロス会場としては史上最も少ない87カ国28,432人という結果になってしまった。ロスアンジェルスで開催された最高ピークは、42,690人(1999年)。今年の会場規模(展示ブースの総計サイズ)は、約80,000スクエアフィート(過去最大規模では、160,000スクエアフィート)、 出展社数は330社(ピーク時は337社)。以前のように大規模なブースを出す企業が少なくなったことが理由だろう。

“変革期”?エレクトリック・シアター

今年大きく変わったこととして、エレクトリック・シアターがなくなったことがあげられる。エレクトリック・シアターは、世界中から応募された映像作品から審査で選ばれたものを上映する人気のイヴェントだった。今年は「コンピューター・アニメーション・フェスティバル」という、独立した形がとられ、ノミネートの80作品がコンベンションセンター隣に昨年秋にオープンした、ノキアシアターで催事中上映された。優秀作品については、参加者の投票によって選考される形式で、14日には授賞式が開催された。今年の最優秀作品には、フランスの専門学校Gobelinsからのストーリー豊かな作品「Oktapodi」が選ばれた。ちなみにノキアシアターは、約2万平方メートルというロスアンジェルス最大級の劇場で、7000人ほど収容できる。また4日間通して、フェスティバル・トークという題名で、作品の制作者から技術を駆使した作品について説明するセッションが設けられた。

最優秀賞として選ばれた作品「Okatopodi」 日本からは6作品がコンペティションに残った。これはOLMデジタルからの「One Pair」 立体映画としても製作されているBjorkのプロモーションビデオ。テクニカル・トークセッションの論文でも、このWanderlustが紹介された。

また、毎晩夜8時から11時まで、エレクトリック・シアターを実施していた時間帯に「プロダクションスタジオ・ナイト」という、ハリウッドのCGプロダクションから特別なトピックが用意されたスペシャルイベントも催された。今回は、ピクサー・アニメーションスタジオから、”木を植える男”の上映と、主帝のジョン・ラセター氏と制作者Frederic Back氏との対談や、ソニーピクチャーズから、先日他界したビジュアル・エフェクトの巨匠、スタン・ウィンストン氏を偲んだ上映会、そしてルーカス・フィルムからは、フォトショップの生み親でもある、ビジュアルエフェクト・スーパーバイザーのジョン・ノール氏をプレゼンターに、スターウォーズ最新作「Star Wars: The Clone Wars」の監督Dave Filoni氏との対談に加え、一般公開前に映画作品が上映された(実は、翌日が一般劇場での公開日)。

コンベンションセンターから1ブロックほど先にあるノキアシアター。中ではセキュリティチェックを受けなければ入れない。 映画公開の前に、Knoll氏からFiloni氏へインタビュー。作品では仕事仲間という間柄。Knoll氏が質問のスクリプトを読み間違えたとき、「おい、その質問はお前が作ったんじゃないだろう?」と指摘される場面も。
プロダクション・ナイト。ルーカスフィルムから「Star Wars:The Clone Wars」が一般公開前に披露された。ステージに大勢の白い鎧のコスチュームを纏ったスタッフ達が、ホストのJohn Knoll氏と映画監督のDavid Filoni氏と一緒に登場。 Sony HDカムで会場の収録。上映された作品は以前と同じく2Kにアップコンされたフルデジタル。

このアニメーション・フェスティバル枠に、今年は立体(Stereoscopic 3D)映像に特化したセクションも設けられた。立体映画は米国で専門的設備を整えているプロダクションも増えていることもあり、3D作品のスクリーニングや技術関連のカンファレンスには大勢の人で賑わいを見せていた。スクリーニング会場には立ち見となるほど。配布された円偏光メガネは普通のサングラスのような形で掛けても違和感が全くないものだった。スクリーニングに選ばれた作品は今までIMAXシアターで公開された、「チキン・リトル」(ソニーピクチャーズ)、「Knick Knack」(Pixar)といったフルCGアニメーションのものから、NLFやサーフィンコンテストのような競技の実写、そして米国では先月公開された実写映画としては初の「Journey to the Center of the Earth」 (日本10月公開)や11月公開予定の「Bolt」 (Disney/Pixar)、来春公開予定の「Monsters vs. Aliens,RealD」(Dreamworks)といったものが取り上げられた。

Walt Disney、ソニーピクチャーズ、Rhythm and Hues Studiosといったプロダクションも恒例出展。プロダクションは作品を並べて次のプロジェクトのためのスタッフを募集する。 Pixar Animation – ピクサーのインハウスだったRender Manはいつも天井にアピール。
Digital Domain 香港を拠点とするアニメ―ションスタジオImagi Animation Studiosでは、来年10月公開予定のAstroBoyをプロモーション。ブースには大きなフィギュアが。フルCGアニメーションで、俳優ニコラス・ケイジがキャストメンバーになっている。

そして一番の目玉はU2の3Dコンサート・フィルムのフルプレゼンテーションの上映だ。2006年の”Vertigo”ワールド・ツアーの南米公演の模様を収めたもので、9台の3Dカメラで同時収録をして製作された初のライヴ・ドキュメンタリー映画だ。編集はナショナル・ジオグラフィック。今回公開された作品は2台のプロジェクターを必要としないRealD-3Dフォーマットのもので、会場ではクリスティ製の2K DLPシネマプロジェクター「CP2000-XB」にRealD-3Dの「Zスクリーン」(液晶偏光フィルター)が取り付けられたシステムを使って上映された。このRealD-3Dシステムも含め3D劇場数は、2009年度までに5000スクリーン(米国内)までに拡がると予測されている。

CG鉄人コンテストは定番に?

今年もFJORG!という、先行で選ばれた16チームが32時間という不眠不休の中、同じテーマの映像を創作するコンテストも開催された。テーマは「いままでもっとも悲しかった出来事」。今年の勝利チームは、「Grojf」の作品「The Red Truck」に決定した。このショート作品(15秒)は、SIGGRAPH公式サイトからダウンロードできる。また先端技術を集結した対話的な技術のデモ展示である「エマージング・テクノロジー」。年々日本からの出展数が増えているイヴェントだが、今年は「ニューテック・デモ」と改称され、今年も例年どおり画像認識技術の展示が多かった。