今回の特集は、前半戦として、ファイルベース収録カメラの基礎をお伝えしてきたが、これから4回にわたって、実際にカメラを取り上げながら、ファイルベース収録について考えてみたい(稲田 出)。
池上通信機テープレスカメラHDS-V10
機能・特徴
同社はビデオカメラの老舗メーカーとして、箱型のスタジオカメラを始めとして局用のビデオカメラを数多く手がけており、業界では定評のあるメーカーである。GFCAM HDS-V10はこうした同社のカメラ技術と東芝のNAND型フラッシュメモリー技術のコラボレーションによるMXFに対応したファイルベース収録可能なビデオカメラだ。
記録フォーマットは、MPEG-2 422@HLで、1920×1080iに対応している。なお、オプションで1280×720pにも対応可能だが、1080iと720pでは異なるCCDを搭載するようになっており、工場出荷時指定である。記録媒体はGFシリーズ専用のフラッシュメモリーパックで16GB、32GB、64GBの3種類が用意されており、MPEG-2 422@HL/I frame only 100Mbpsで最大120分の記録が可能となっている(64GBパック使用時)。また、オプションのコンパクトフラッシュアダプターGFPAK CF ADAPTORにより、一般に普及しているCFメモリーカードを使用することができる。ただし、転送レートの問題もありこの場合の記録フォーマットはMPEG-2 HD LONG GOP 50Mbpsとなり、MPEG-2 422@HL/I frame only 100Mbpsでの記録はできない。
2006年に発売されたEditcam HD(HDN-X10)は、Avid DNxHDの8bit・145Mbitをサポートしているほか、1080i/59.94だけでなく1080i/50、1080/24p、720/60p、720/50pなど全てのHDフォーマットに対応している。このあたりがGFCAMとEditcamのすみわけとなりそうだ。
記録媒体はGFシリーズ専用のフラッシュメモリーパックを採用 |
コンパクトフラッシュアダプターGFPAK CF ADAPTORにより、CFメモリーカードを使用す可能 |
外観・操作性
外観デザインはEditcam HDを踏襲しており、入出力や操作スイッチなどは機能的な違いから異なる部分はあるがほぼ同様なデザインだ。ホワイト/ブラックバランスやゲインアップ、カラーバー/カメラ、色温度のプリセット、電源といったよく使う基本的なスイッチ類はこのクラスのENGカメラでは標準的な配置で、他のカメラからこのカメラに乗り換えても操作に戸惑うことはないだろう。
ホワイト/ブラックバランスやゲインアップ、カラーバー/カメラ、色温度のプリセット、電源といったよく使う基本的なスイッチ類はこのクラスのENGカメラでは標準的な配置だ
また、後部には3.5型のLCDモニターが装備されており、記録モードやメモリーの残量、電源、音声レベル、タイムコード情報などが表示され、これを見れば一目でカメラの設定状態が把握できるようになっている。この表示部は記録されたクリップの再生画像確認やサムネイル表示などが行えるので、収録クリップの簡単な整理にも使えるようになっている。
LCDモニターが装備されており、これを見れば一目でカメラの設定状態が把握できるこのあたりの作り込みは、テープベースのカメラからファイルベースのカメラへの移行がスムーズに行える配慮であろうか。テープベースのカメラと簡易再生プレーヤーが一体となったイメージで、メニューも含めテープベースでの運用になれたカメラマンでも違和感なく操作できるようになっている。
GFCAMは主に報道としての用途として設計されているようで、電源を入れてから3秒以内に収録することができるクイックレコーディング機能やRECボタンを押した時点からさかのぼって最大25秒前の映像を記録することができるレトロループレコーディング機能などを備えており、撮り逃しがなく確実な撮影が行えるようになっている。
また、カメラの各種セッティングのメモリーや頻繁に使用するスイッチ機能をカメラ側面のP.FUNCスイッチに割り当てることが可能など、迅速なセッティングや誤操作を防ぐ機能も備えている。 オプションのコンパクトフラッシュアダプターGFPAK CF ADAPTORなども、取材先での記録メディアの確保を考慮してのことであろう。
カメラ内部にキャッシュメモリーをもっており、25秒以内であればメモリーパックを交換しても連続した記録ができるパックレスレコーディング機能をもっているので、テープチェンジのタイミングなどを見計らう必要はなく長時間の撮影が可能だ。また、パックも使いきってから交換できるので、利用効率は高い。
GFCAMは単にテープベースのカメラをファイルベースのカメラに置き換えただけでなく、ファイル記録の利便性を機能追加したようなイメージだ。記録媒体であるGFPAKのサイズも昨今の小型ビデオカメラが採用しているような切手サイズのメモリーではなく、そこそこの大きさをもっており、コートのポケットなどに無造作に突っ込んでも後で探しまわるようなことのない程よいサイズだ。GFPAKにはテープのようにある程度書き込みができるスペースがあり、メモリーの使用量も液晶のバーグラフで常時表示されるようになっており、汎用のメモリーでは絶対に真似のできない専用パックならではの利便性で好感がもてる部分だ。
カメラ後部のコネクター部分にはビデオ、オーディオなどほとんどのコネクターが集中配置されている |
ハンドル下にはメモリーパックのエジェクトボタンやテープデッキを思わせるトランスポート系のスイッチが並んでいる |
メモリーパックはテープと同様な感覚でカメラに装填する |
メモリーの使用量も液晶のバーグラフで常時表示される |
性能、画質
感度はF11で標準的な感度といえ、カラーチャートや室内での実写映像を見ても画質的に変な偏りもクセもない標準的な画質である。HDのカメラで、撮像素子もフルHDに対応したCCDを採用しているので、当たり前といえばそれまでだが、解像度も遜色なく、600本以上でも変調度もかなりありキレも良いと思う。カメラの設定はデフォルトの標準状態だが、画質的にアラを隠すような細工はしていないようだ。サーキュラーゾーンチャートでもモアレも殆どなく、へんな色つきもない。報道用途向けとはいえ水晶フィルターなど局用のカメラとして押さえるところはきちんと抑えているという印象だ。
高解像度チャートのカラーモニター写真。右はその一部分
マルチバーストチャートの波形モニター写真と実写映像
カラーチャートのベクトルモニター写真と実写映像
最大で+54dBの感度アップが可能だが、さすがにここまでくるとノイズが多くまともな画像とはいえなくなるものの、それなりに色つきはあり、報道用途では威力を発揮する場面も多々あると思われる。照明が届かない遠景での撮影など事件や事故は昼夜を問わず、どのような状態で撮影出来るか現場に行ってみないと分からない。しかも予想に反して長時間の撮影になることも多々あるわけで、「画質」よりも「写っている」事の方が優先されるのが報道の現場だ。
さて、報道と一口にいっても記者発表や事件や事故現場の撮影など様々なシーンがある。インタビューや対談なども報道の範疇に含めるとカメラで収録するだけでなく、スイッチャーやFPUへの接続も当然ありうるわけで、他のカメラやスタジオカメラとの連携運用も考えられる。SDI出力は当然としてCCUやリモート、伝送などが必要になってくる。
こうした運用のために、光アダプターFE-C100A/FE-B100AやリモートコントロールボックスRCP-50B、リモートコントロールユニットRM-51Aなどが用意されている。小型ビデオカメラでもサードパーティーが用意している場合もあるが、実際の運用面でかなり無理をしているような印象を受ける製品も少なくない。トータルのコストや運用面での確実性などを考えると、なにがなんでも小型ビデオカメラでシステムを組むというのは危険ではないだろうか。
主な仕様
- 撮像素子:2/3 型 230 万画素AIT CCD×3 (1920×1080 有効画素)または2/3 型 100 万画素IT CCD×3 (1280×720 有効画素)
- 限界解像度:1000TVL(1080i 仕様)、700TVL(720p 仕様)
- 感度:F11 / 2000lx
- S/N:58dB(1080i仕様HDTV)、56dB(720p仕様HDTV)
- GAIN:-6(オプション)、-3、 0、+3、+6、+9、+12、+18、+24、+30、+42、+54dB
- 記録フォーマット:MPEG-2 HD LONG GOP 50Mbps/I frame only 100Mbps
- 電源:DC12V約40W、VF5W
- 外形寸法:幅130×高さ215×奥行320mm
- 質量:約4.5kg(本体)
- 価格:¥378万(VF、マイク、三脚アダプター含む、レンズ別)
txt:稲田出 構成:編集部