今から3年以上前、RED Digital Cinema 社がRED ONEカメラの市場投入とともにそのカメラコンセプトとして掲げた、1台のカメラで静止画も動画も撮影できることを意味するDSMC(Digital Still Motion Camera)。
そして2008年末、キヤノンが発表したデジタル一眼レフカメラEOS 5D Mark IIの登場によってその文字が映像市場でも台頭してきたDSLR(Digital Single Lens Reflex=デジタル一眼カメラ)。
この2つのキーワード『DSMC/DSLR』に含まれる概念、そしてそのコンセプトは、ここ1、2年、日本の映像制作市場にも大きな影響をもたらしている。これらに該当するカメラが有する、大きな撮像素子により得られるその画像は、これまでのビデオカメラの画像とは大きく異なり、レンズの魅力を最大限に引き出した美しいルックが多くの映像制作者やクリエーター達を魅了した。
また最新のファイルベース・ワークフローがもたらした利便性と効率性は広く制作現場のディレクションなどにも影響を与え、幅広い意味でデジタル映像制作の世界を刺激し続けている。さらに2008年秋に起こったリーマンショック以降の経済不況の波は、広く放送/映像の制作業界においても、制作費の大幅削減=制作規模縮小、人員と機材の圧縮というカタチで大きく影響を及ぼしてきた。
しかしその中で特にEOS 5D Mark IIの登場は、その30万円前後という筐体自体の低価格もあり、従来の業務用ビデオカメラと比べても大幅なコスト削減に一役を担っているようだ。上質なルック、効率的なワークフロー、そして時代にフィットした低価格という3大要素が、いまの日本の映像制作市場でDSMC/DSLRを大きく後押ししている。
DSMC/DSLRがもたらした様々な市場変革
こうした制作市場における一連のDSMC/DSLR登用の流れは、今年になってもその余波を益々拡大させている。特に制作系の現場においては、使用するカメラ機材の2極化の影響は大きいようだ。
CM業界ではこのところの制作費の大幅減少に伴い、例えば某制作会社では制作現場においてフィルムカメラの使用を限定した。これはフィルムの後処理ワークフローに多大な費用がかかることから、よほど潤沢な予算が無い限り、フィルムカメラの使用には稟議が必要だという。さらにデジタルワークフローの浸透に伴い、現在のCMやMVなどの制作現場では、予算が潤沢なケースでは、従来通りの35mmフィルムカメラか、デジタルシネマカメラ(ソニーF35/F23やパナソニックP2 VARICAM(AJ-HPX3700G)、ARRI D-21など)が使用されている。
しかし、それ以下のほとんどの多くである予算が少ない現場では、EOS 5D Mark IIや7Dが当たり前、という上下2極化が進んでいるという。
結果として残念ながらテープベースのHDカメラは、こうした現場から少しずつ陰を薄めてきつつある状況のようだ。元々の機材価格差からDSMC/DSLRの機材に比べて、機材レンタル費の差は明らかだからだ。
また映画制作の現場においても4K画像の魅力からRED ONEはもとより、被写界深度の浅い映像狙いのポイント的な効果演出として、EOS 5D Mark IIや7D、またその他のDSLRカメラの動画機能が用いられる場合も数多くなっている。Web動画の世界ではかなりのパーセンテージでDSLRやそれ以外のスチルカメラでの動画撮影が行われているのも事実だ。
また静止画と動画の同時撮影が可能という点では、スチルカメラマンや写真スタジオ(ラボ)などの動画制作市場への参入や、広告制作会社などの動画同時制作など、DSMC/DSLRの登場によって制作フロー自体の大きな変動が各所で起きている。
この特集では、こうした現状を踏まえてDSMC/DSLRと現場の最先端で向き合っている方々への取材と、3月11日〜14日に開催されたカメラと写真映像の情報発信イベント『CP+(シーピープラス/CAMERA & PHOTO IMAGING SHOW)』のレポートを中心に、この2010年のDSMC/DSLRの動向について考察してみたい。
取材・記事 石川幸宏(DVJ BUZZ TV) 構成:編集部