広告業界における画像処理の世界でも、DSMC/DSLRの登場によってこれまでと違った潮流が起こりつつある。

フォトレタッチの世界では、多くのメジャーな広告を手がけ、この業界でもトップレベルのクオリティを誇る画像処理/制作会社、こびとのくつ。ここでもDSMC/DSLRの登場を契機に映像という新たな分野へチャレンジしようとしている。今後の会社自体の方向性を再考する、大きな要素となっているようだ。

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▴こびとのくつ CEO/Visual Technologist 工藤美樹 氏

「RED ONEの出現で、これで撮影された4K/2Kサイズの画像から切り出した画像を、加工処理する作業から動画の世界に親和性を持っています。今ではREDのデータを扱ったことがあるという経験から、映像系素材のお仕事を頂くことは多くなりました。特にRAWデータを現像するという処理は、私たちはいままで数多くこなしているので慣れているのですが、RED RAWのデータを扱うことは映像制作の業界ではまだ浸透率が低いようですね。我々は当たり前だと思っていることもまだ理解されていないことも多いようです」
(CEO 工藤美樹 氏)

事実、広告業界では合成系の素材撮影では、RED ONEが多く使用されるようになっているが、ポストプロダクションでもそのデータを容易に扱うには、専門的なスキルを要求される。RED ONE撮影の指定は、コスト面での優位性からクライアント側からの要求も多くなっており、最近では有名飲料メーカーなどで、本国でのCM撮影にRED ONEを使っているため、日本でもRED ONEでの撮影を要請、また撮影クルーも全て本国から来るといったケースもあるようだ。

大手広告制作会社でも、静止画としても撮影の売り上げはこのところかなり落ち込んでいるようだが、その分、コスト削減という理由で動画や3DCGを同時制作することで、その売り上げが増している所もあるという。広告制作のマネジメントという点でも静止画と動画の垣根は無くなりつつある。

「広告撮影の現場では、スチルのカメラマンには危機感があり、どのカメラマンもEOS 5D Mark IIなどで動画も撮れるようにしたいという方向性はあるようです。そうした際にDSLRムービー撮影に関わる多くの講習会などでも、カメラの動画撮影機能に終始するものが多いのですが、プロの現場にはもっと重要な視点があると思っています。それは、根本的にDSLRムービーが出てきたことにより、市場や制作スタッフの役割、またはワークフロー全体がどう変わるのか?といったマクロな視点の内容です。我々もそこを欲しているのですが、こうした内容のセミナーなども少ないのも現状ですね」
(工藤氏)
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現在、こびとのくつでは、Apple Final Cut Studioでの編集システムを導入、Matrox MXOなども導入、ある程度の映像加工/編集が可能な、コンパクトなポストプロダクション施設もすでに併設しており、スタッフも現在、Apple Final Cut Studio/colorのレクチャーを受けている。

Visual Technologistとしての認知

こうした背景から、同社が持っている高い技術力は、各方面で作品の重要なポジションを担っているケースが出てきた。

kobitoyabe 2.jpg ▴Visual Director/Visual Technologist 矢部一芽 氏 / Visual Technologist 中島隆太 氏
「あるCMの撮影で、カラーコレクションのスーパーバイザーという立ち位置で現場に入ったことがありました。その写真家の方が、スチルでの絵作りの際に、非常に繊細な色指定をされる方だったので、After Effectsを使用して、現場で最終仕上がりをプレオペレーションしながら、クリエイティブスタッフのイメージを統一しながら進めるのが目的でした。結果、クライアントにも納得して頂きました。まだまた課題はありますけれども」
(矢部一芽 氏)
「その現場ではセットの色味のことで問題が起こり、途中でセットを全て作り変える、というような大げさな話になりそうだったのですが、現場でカラコレしてみせことで、最終仕上がりをクライアントにその場で見せる事ができ、事なきを得たという感じでした」
(中島隆太 氏)

この会社の画像制作についての考え方には「どんなに技術が優れていても、「デッサン力=物の本質を見極める力」がなければ、真の意味でのソリューション/ディレクション/クリエイションはできない」とある。同社の理念として、「わたしたちは縦軸としての職人的専門性と、横軸としての業界全般に関わる知識と経験をもって、応え続ける会社でありたいと思っている」としている。まさにこの理念が、これからの映像制作現場に必要なマインドであり、さらにこれから世界に通用するレベルで勝負するには、この部分が大きく求められてくるだろう。

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こびとのくつがこれまで蓄積してきた技術と知識、そして経験は、今後2Dのレタッチャーとしてだけ活かして行くつもりはないと工藤氏は語る。それはビジュアルクリエイション全般に関してのスペシャリストとして通用する技術力を持たなければ、世界には通用しないという自身達への訓示でもある。

「我々が映像の分野に本格的に参入するには、まだまだいくつかハードルがあり、まだ「映像やります」と断言できる段階ではありません。しかし今後の広告制作では、2Dだ、ムービーだ、3Dだという区別は重要な区分ではないと思うのです。いまの若いスタッフには柔軟かつ詳細に、どんな現場でもビジュアルスーパーバイザーとして「絵を観れる」人材になって欲しいのです。そのような思いも込めて、我々の肩書きは『Visual Technologist』としています。その視点と考え方は、日本という市場だけでなく、世界に通用するものになっていくと考えています。プロとして技術を提供する立場である以上、専門機関や人的ネットワークを通じて、基礎的な知識や技術をしっかりと学んだ上で、映像制作という分野を自分たちの体内に取り込んでいきたいと考えています」
(工藤氏)

『誰もみていないうちにこっそりと、しっかりいい仕事をする』こびとたちが、映像の分野でも職人としての高い能力を発揮する日も近いかもしれない。

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