WebカメラとPC/Macを用意してUSTREAM Broadcasterや無償配布のUSTREAM Producerを試してみると、Webツールなのに意外に簡単に動画を流すことができることに驚くはずだ。Webカメラ代という数千円の投資だけで、画面の向こう側で自分が話しているという体験に感動する人も多いだろう。それならばもっと画面を作り込んでみようと、Producer Proにバージョンアップし、Webカメラを増やして、テロップを入れて、Desktop Presenterで資料を映してみたところで気付く。「画面が足りない!」「マシンが重い!」「配信が途切れる!」──。そして、Producer Proの表示に気付いて驚くのだ。「CPU:100%?! こんなにもマシンを酷使しているのか」。
たまたまマシンスペックに余裕があっても、「エコーみたいに音声が回り込んでる!」「画面を切り替えると音量が変わってしまう」ということが発生したりする。音量調節もProducer Proの画面設定を開いて調節しなければならなかったりする。限られた画面スペースに、多くのウィンドウを開いて、アプリケーションを切り替えて……。さらに、カメラをズームしたい、マイクを増やしたいと悩み始めるのだ。
これと似たような経験は、USTREAMを活用する人であれば誰もが1度は通る道だ。ビデオ、オーディオ、エンコード、PC/Mac……、それぞれのスキルが組み合わさり、それぞれがうまく連携して初めてUSTREAM中継が安定するが、ビジネス利用シーンで誰もが全ての知識を持っているわけではない。
モニターと中継用音声を切り分けるライブミキサー
ライブミキシングコンソールV-Mixier M-300 |
USTREAMをよりシンプルに扱うためにはどうしたら良いのだろうか。PC/MacのCPU負荷が高まるのは、配信のためのエンコード部分とビデオエフェクトの追加部分が大きい。CPUに負荷がかかっている時は、アプリケーションの切り替えもスムースにはいかないほどなので、手っ取り早く安定させるにはPC/Macでエンコードだけを行うようなシステム構成を検討すればよい。こういう方向性でシステムを提案しているのがローランドだ。RSG営業部国内営業グループの飯田厚二氏は、製品展開のポイントについて次のように話した。
「当社の製品展開のキーワードは、ビデオもオーディオも『ライブ』です。コンサート、生中継、会議プレゼンテーションも含めて、ライブでしっかり運用できる製品を出すということです。製品展開もラインアップを網羅するようにモデルを増やすのではなく、必要としている人に必要な機材を提供するという方向で開発を進めています。ビデオ/オーディオの映像業界だけでなく、学校、官公庁、宗教法人などではビデオやオーディオの知識をあまり持たない人が操作するケースが増えて来ています。その機材を見ればなんとなく操作できる分かりやすいインタフェースを採用するのも大切なポイントです」
USTREAMが急速に普及して来た2010年前半は、ビデオ・ミキサーV-4/V-8に、ビデオ・サンプラーP-10、オーディオ・ミキサーM-16DX、USBオーディオインタフェースUA-4FXを組み合わせて小規模な機材でまず試してみたいというユーザー層が増えたという。特に、PC/Mac内蔵のマイクやビデオ会議用マイクの音質に満足できなくなった場合に、ファンタム電源に対応したXLR端子を持ち、オーディオエフェクトとしてマスタリング(音声レベルを安定させ整える)を搭載しているUA-4FXは、USTREAM基本構成の定番製品となった。
複数のマイクのレベルを合わせたいという段階になると、オーディオミキサーが必要になってしまう。UA-4FXはLINE入力を持っているので、アナログミキサーを組み合わせることも可能だが、飯田氏は業務クオリティーの配信用としてライブミキシングコンソールV-Mixer M-300の導入を提案する。M-300はラックマウントサイズのポータブルミキサーで、6月に米ラスベガスで開催された情報関連機器/音響関連機器の展示会InfoComm 2010で発表された新製品だ。
「オーディオミキサーを検討するようになると、主催者側のPC/Macの素材を流しておきたい、講演者のPC/Macの音声出力を入れたいと、12系統くらいはすぐに埋まってしまいます。さらに、会場のPAが必要になったり音声をモニターしたいということも出て来ます。通常のアナログミキサーではPAやモニターと中継用音声をしっかり分けるということが難しいので、ライブミキサーの方が扱いやすい。M-300なら出力に8バンドのパラメトリックイコライザーも入っていますし、入出力にそれぞれ搭載しているコンプ/リミッターでレベルが暴れないように調整できます。現場で回避したいことには対応できるという点でお勧めです」(飯田氏)
REACによりマルチチャンネルの伝送をLANケーブル1本で行うDigital Snake。写真はステージユニットS-1608 |
M-300は、ファンタム電源供給可能なXLR入力4系統、TRS標準プラグ入力4系統、RCAピンプラグ入力4系統、XLR出力4系統、TRS標準プラグ出力4系統、デジタル出力に対応している。パネル上では8AUXのコントロールが可能だが、4マトリクスに対応しているので最大32chを取り扱える。LANケーブルを使用したデジタル音声伝送REACも2系統搭載しており、各40chの入出力に対応する。入出力ユニットDigital Snakeを活用してステージ用、スタジオトーク用といったように分けて設定することで、ケーブルを変更することなく使い分けられる。パーソナル・オーディオ・ミキサーM-48を使えば、ステージ上やスタジオ内といったM-300とは離れた場所でのモニタ環境も構築できる。
ライブ中継は、映像がコマ落ちして見辛くなることよりも、音声のレベルが低かったり途切れたりする方が不快感が高まる。映像品質が高いことに越したことはないが、スライドショー的なコマ撮り映像であったとしても、聞きとりやすい音声が流れるだけで番組の印象がガラリと変化する。USTREAM中継機材を段階的に拡張したいならオーディオ部分から手を付けたい。
SD/HDが混在可能なライブスイッチャー運用
Producer Proを使用してみると、PinPに制約があったり、トランジションをかけるとCPU負荷も出力ビットレートも高まったり、かなりアメリカンな印象のタイトルしかなかったりといったことが気になるだろう。オリジナルタイトルとしてPhotoshopなどで作ったタイトルを読み込んだり、KeynoteやPowerPointプレゼンテーション画面を出しながら……と考えると、Producer Proではかなり操作が難しくなる。Webカムではなく、複数台のビデオカメラを切り替えたいという要望も出でくる。エンコードに負担をかけずに、カメラを切り替えたりテロップを乗せたりするのはビデオミキサーを使うのがいいだろう。
画質を向上させるにはビデオカメラを使用する必要があるが、PC/MacにFIreWire/i.Linkで接続できるSDビデオカメラは、USTREAMの普及で中古市場でも高めになってきている。手に入りやすいのは民生HDビデオカメラだが、出力がHDMIということも多いので、PC/Macにつなぐには工夫が必要になる。いずれのビデオカメラを使うにしても、手軽に複数台を切り替えて使用するには、黄色のピンプラグでお馴染みのコンポジット信号を使うのが簡単だ。
しかし、今後のことを考えて、HDに対応した機材をしっかり揃えたいというユーザーに向けて、ローランドは4月の2010 NAB Showで、HDに対応したマルチフォーマット・ビデオ・ミキサーV-1600HDを発表、今夏出荷される予定だ。
マルチフォーマット・ビデオ・ミキサーV-1600HD |
「コンポジット/Sビデオ信号以外にも対応するには、ビデオコンバーター機能やスケーラー機能などが必要になるので、安価で提供するのは難しかったんです。コンポジット信号は数10mなど長距離伸ばせることもライブ向きなんですが、やはりHDやRGBにデジタル信号も含めてしっかり対応したいという気持ちがありました。今回のV-1600HDでは、今後のライブ・ビデオスイッチャー環境を考え、業務用カメラのSDI出力や民生ビデオカメラのHDMI出力を受けて、さまざまなフォーマットで出力したり、マルチ画面出力できるところを目指しました」(飯田氏)
V-1600HDはラックマウントサイズのポータブル・ビデオスイッチャーで、入力端子にHD/SD-SDI入力8系統、市販変換コネクターでHDMIにも対応できるDVI-D入力2系統、RGB/コンポーネント入力4系統(DVI-D入力時2系統)、コンポジット入力とSビデオ入力(同時入力はいずれか1系統)を持つ。出力端子は、HD/SD-SDI出力2系統、DVI-D出力2系統、RGB/コンポーネント出力2系統、コンポジット出力とSビデオ出力(同時出力はいずれか1系統)を持つ。映像プレビューモニターに活用できる8.5型液晶モニターを搭載していることがポイントだ。
「V-1600HDは、1台のHDカメラ映像から、複数の部分を切り出してスケール調整することでマルチカメラで撮っているようにスイッチングする『マルチズーム』があります。HDカメラを使用してSDで出力しているような場合は、切り出した映像のまま使用することも可能です。カメラごとにカメラマンを配置して撮ることが基本ですが、吊りカメラや、カメラマンを配置しにくいアングルで撮るときに、ちょっと画角変更したいという場合などに便利に利用出来ます」(飯田氏)
これまで、SDでの運用を考えていた企業が、アーカイブをHDで残し、YouTubeで映像を紹介しつつ、イベント時にはUSTREAMで中継するというように、マルチフォーマットに対応なV-1600HDの検討を始めているようだ。飯田氏は、今後の企業のUSTREAM活用を、社内向けに利用することも増えていくと見ている。
「社内関係者に向けて、現在のイベント会場はこんな感じです、これだけの人が集まっているところで、こんな風に製品を紹介しているんですよというのを流すだけでも意味があると思うんです。6月の新製品発表会で当社もUSTREAM中継したのですが、海外拠点から見てもらったり、部門間でのコミュニケーションに役立ったりと、情報共有ツールとして強力だなと実感出来ました」(飯田氏)
USTREAM中継には、こうしたライブミキサーの音声出力とライブスイッチャーからのコンポジット出力を、トムソン・カノープスのADVC-55のようなアナログ-DVコンバータを通してFireWireでPC/Macに入力する。PCはFireWire/i.Link入力映像をそのままエンコードするだけなので、より安定した動作になるはずだ。ローランドでは、SD 3系統/オーディオ6系統のスイッチングに対応したSDライブスイッチャーのオールインワンモデルも開発中のようで、製品発表会のステージで型番も出さずにコンセプトモデルとしてチラ見せした。この製品についての詳細は現時点でコメント出来ないということだったが、年内に登場して来る予定だという。
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