秋山謙一(イメージアイ)

USTREAMスタジオの開設で、日本でも本格的にUSTREAMが受け入れられてきている。iPhoneアプリケーションのUSTREAM Live Broadcasterによって、携帯から気軽に中継できるようになってきているとは言っても、それ以外の方法でとなるとWebカメラやDVカメラを使用してPC/Mac経由となってしまう。PC/Macを選択した時点で、周辺機材の対応も不可欠になり、ますます機動性が失われていってしまう。Webカム程度の気軽さで、PC/Macを使わずに中継できたらいいのになと思う人もいるに違いない。

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CEREVO CAM live!。USTセットは小型三脚と、三脚ホルダー、ワイドレンズ、microSD 4GB付き。

Cerevo(東京都千代田区)が開発したCEREVO CAM live!がそれだ。CEREVO CAM live!は802.11b/g/nの無線LAN機能を搭載した900万画素デジタルカメラだ。無線LANルータを使用すれば、カメラから直接YouTubeにHD720p動画をアップロードしたり、USTREAMに352×288のCIFサイズの映像を配信することができる。カメラの設定にはWebブラウザが必要になるが、いったん設定してしまえばカメラ単体で動作するのが特徴だ。つまり、カメラに登録した無線LANルータさえあれば、PC/Macを利用せずに中継ができるのだ。何かあった時にすぐ中継したいと考える人にとって、これほど心強いガジェットはないだろう。

ファームウェアバージョンアップで機能強化

CEREVO CAMのコンセプトについて岩佐琢磨社長は次のように話した。

「コンシューマ向け製品を製造している多くのメーカーは、量販店向けなので、1つのモデルを投入すると、発売以降に実現できそうな機能追加というものはハードウェアに余裕があったとしてもバージョンアップすることはほとんどないんです。バージョンアップするくらいなら、塗装を変えて、エンブレムとモデル名を変更して、新機種として実現したほうがいい。こうすることで、発売後の期間が過ぎて量販店での販売価格が下がっているのを、引き上げて戻すということができてしまうからです。当社は、大手量販店を使わずに、直販サイトで定価で売るというスタイルを基本にしています。その方が1つの製品寿命を長く取れるんです」

直販・定価販売という前提で設計することによって、販売価格の低下や次世代モデルへの変更というリスクを軽減している。CEREVO CAMが最初に発売されたのは、2009年12月。5カ月後の5月18日には、USTREAM中継機能を搭載したCEREVO CAM live!が発売されている。通常のデジタルカメラと同様に半年で新モデルが出たようにも思えるが、これには次のような理由がある。

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CEREVO LIFEページで呼び出せるリモコン機能。USTREAM中継をしているCEREVO CAMをブラウザからコントロールできる。

「撮ったものをアップロードが面倒だという声に応えて、自動アップロード機能を搭載したCEREVO CAMを昨年12月に発売しました。その後、急速にUSTREAMに注目が集まり始めたので、中継を簡単にできるようにしようではないかと。その段階で塗装も変更することができ、ファームウェアアップデートの準備が整った段階で新モデルのCEREVO CAM live!を発売しました。しかし、ハードウェア的には塗装とモデル名以外は変わっていないんです。旧モデル(CEREVO CAM)がグロスの艶あり、新モデル(CEREVO CAM live!)がマットの艶無しということ以外、中身は100%同じものでファームウェアも共通です。CEREVO CAMもファームウェアバージョンアップすれば、同じように使えるんです」

6月17日に提供され始めたv2.04ファームウェアでは、USTREAM機能の強化が行われ、無線LANルータの3G回線が途切れても、回線が復帰すればUSTREAM配信を再開するようになった。さらに、USTREAM中継をしている間に、2倍、4倍と、段階的にズームすることも可能になった。もともと持っている900万画素から取り出して拡大するので、画質劣化がないことがポイントだ。このほか、音声レベルの確認ができるレベルメーターの表示を追加するとともに、マイクゲインも調節可能にしている。こうした新たな機能追加のあるファームウェアを提供しながらも、無償バージョンアップを行っている。

「今回のファームウェアバージョンアップでは有償ということは考えなかったですね。今後は、機能向上の内容によっては有償にするという可能性はあります。例えば、あるバージョンのファームウェアを入れると、容量無制限のアップロードに対応したサーバが利用できますとか、グラビアアイドルの画像をカメラに転送してアルバム機能で楽しめますというような、ユーザーが対価を払ってもよいと思えるサービスや機能を付けられるというような場合ですね。現在のところ、こうした有償でのバージョンアップは考えていません」

サーバ連携によるセットアップを実現

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CEREVO CAMの設定を行うCEREVO LIFEサイトの入口は、Cerevoサイトの左上。

CEREVO CAMの設定はブラウザ上で行う。CerevoのWebサイトの左上にある「CEREVO LIFEへ行く」のバナーがその入口。CEREVO LIFEのユーザー登録を済ますとカメラの無線LAN設定やアップロードの設定が可能になる。カメラの無線LAN設定は、無線LANルータのESSIDと認証方式、認証に必要なパスワード、DHCPを利用するかどうかを入力すると、画面にQRコードが大きく表示される。これをCEREVO CAMで写すだけの手軽さだ。

USTREAM中継の設定も、CEREVO LIFEの「ライブストリーミング」でブラウザ上から行う。ライブストリーミングだけでなく、画像や動画の共有など、アップロードが必要な設定項目についてはCEREVO LIFEサイト上で行い、その設定はサイトに保存されている。つまりカメラ側には情報を持っていないのだ。その機能を使用する時に、CEREVO CAMは自動的にCEREVO LIFEのサーバにアクセス。カメラのIDから、ユーザーの登録済みカメラであることが確認されると、アップロードの設定がCEREVO CAMに渡されるという仕組みだ。あらかじめ設定した無線LAN経由で接続して、ユーザーの登録カメラであることが確認されないとアップロードできないというダブルチェックをしているというわけだ。

CEREVE CAMの機能強化について岩佐氏は、CPU性能を使い切りつつアプリケーションを切り替えることで実現していると話した。

「CEREVO CAMは超小型のLinuxコンピュータが入っている器なんです。ゲーム機を想像してもらいたいんですが、それぞれのゲームごとに性能を100%使い切っていますが、カートリッジやディスクを変えると別のゲームができますよね。ただし2つのゲームは同時にはできない。それと同じような考え方ですね。USTREAM機能を使いながら別のことをするCPUやメモリの余裕はないんです。しかし、アプリケーションを入れるエリアには余裕があります。ですから、ファームウェアアップデートで追加されたアプリケーション機能から、ユーザーが必要なものを立ち上げて使うということになります」

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USTREAMのログイン設定や番組設定もCEREVO LIFEサイトで行う。CEREVO CAMは、まずサーバにアクセスして情報を取得してからUSTREAMに接続する仕組み。

すでにHD720p動画撮影とYouTube自動アップロードにも対応しているCEREVO CAM。現在は352×288のCIFサイズの映像でUSTREAM中継しているが、さらに大きな解像度での中継もできるのだろうか。

「現在搭載しているCPU性能では、現状でも限界に近いです。ですから、より高性能なCPUを使用して高解像度の中継ができるように、次世代、次々世代で目指していくという考え方はありかもしれません。無線LANを接続しているのが光回線で、上りの帯域幅がとれるということであれば、帯域に見合った高解像度映像は十分に流せると思っています」

USTREAMは現在、16:9画面への移行も徐々に図ってきているようだが、CEREVO CAMに対する利用者の16:9・高解像度への要望は意外に少ないという。

「むしろ、安定して、簡単に、便利に配信できる仕組みが欲しいという人が多いですね。16:9で高解像度の映像を撮るには、大きなレンズが使える通常のビデオカメラでないと、この小さなレンズでは満足できないと分かっているのかもしれません。解像度という意味では、持っている解像度の中でどれだけ綺麗に撮れるかが大事だと思っています。WebカムではQVGAサイズの割に映像がボケて汚かったり、デジタルズームすら出来ないことも多いです。CEREVO CAMはv2.04ファームウェアでロスレスズームに対応しましたが、出力映像を拡大するのではなく、900万画素センサーから取り出すので拡大しても劣化しないのが特徴です」

現在は、CEREVO CAMをメインカメラとして配信することしかできない。複数台を組み合わせて使ったり、別のカメラの映像と組み合わせて使用するといったことに対しては前向きに検討しているようだ。

「CoHostに対する要望は出ていますので、時期はまだ決めていないのですが、いずれ対応しなければと思っています。CoHostを必要とするような人たちにとっては、CEREVO CAMはサブカメラとして使われることになると思うので、他のメインカメラの映像の中にCoHost表示されるということを想定しています」

プロ向け用途にはカスタマイズ仕様にも対応可能

コンシューマ製品でありながら、カメラからダイレクトに中継できる機能を搭載したCEREVO CAMは、ある意味、プロが現場で使用する取材中継カメラに欲しい機能であったりする。スムースな映像が中継できるかどうかは、アップロードに使用する上り帯域幅によるので、接続する無線LANルータを何の回線に接続するかで決まってしまう。むしろ、プロが活用しやすいものにするには、画質よりも16:9に対応できることかもしれない。CEREVO CAMはプロ市場向けを想定していなかったこともあって、かなり割り切った仕様になっている。岩佐氏は、プロ市場から見た機能面でのカスタマイズなどの要望にも耳を傾けていきたいと話した。

「映像業界向けにはCEREVO CAMではないのではないかと思い込んでる部分があるんです。もしプロ映像業界で、CEREVO CAMをこんな風に使っていますとか使ってみたいとか、ソフトウェアをこうカスタマイズしたらこんなことが可能になるといったものがあれば教えて欲しいです。当社は、さまざまなカスタム案件にも取り組んでいます。例えば、いきなりUSTREAM中継するのではなく、放送局内のコンテンツサーバに飛ばして映像素材として利用できるようにするというようなカスタム化も可能です。CEREVO CAMをうまく活用してもらえればと思います。また、CEREVO CAMの次、その次という製品も考えています。完全にプロ向けの製品ではありませんが、コンシューマ製品でありながらもプロが使用できるような製品も検討していますので、ご期待下さい」