txt:秋山謙一(イメージアイ)

ソフトバンクが、Ustream(米カリフォルニア州)に対し2,000万米ドルの出資を行ったと発表したのが2010年2月2日。3月28日にはソフトバンク本社(東京都港区)にUSTREAMスタジオ 汐留を開設したことを発表し、5月10日からはソフトバンク渋谷(東京都渋谷区)にUSTREAMスタジオ 渋谷を、6月1日からは渋谷シダックスビレッジクラブ(東京都渋谷区、運営=シダックス・コミュニティー)にシダックスUSTREAMルームを開設した、これと平行して、4月末にUSTREAMサイトの日本語化が行われたほか、5月18日にソフトバンクがUstreamと共同でUSTREAM Asiaを設立することを発表した。

USTREAMはこれまで、米国企業で米国内サーバを使用していることもあって、著作権許諾を取ることが難しかった。この状況に対し、ソーシャルネットワークサービスMySpaceを運営するマイスペースが、著作権管理団体のジャパン・ライツ・クリアランス(JRC)と共同で、USTERAM上での音楽著作物の利用に関する権利処理スキームを構築。JRC管理楽曲の著作権処理代行を3月末から3カ月間の期間限定で処理をしてきた。6月末に暫定契約期間が終了するはずであったが、USTREAM Asiaの取り組みの正式発表まで暫定期間を延長していた。

7月6日には、USTREAM Asiaとして初のプレスリリースを公開。日本音楽著作権協会(JASRAC)、イーライセンス、JRCの3著作権管理団体と包括的利用許諾契約(包括契約)を締結し、ようやく各社管理楽曲の自己演奏における利用が可能になった。カラオケについては、自分で歌っていてもカラオケ楽曲そのものの著作隣接権あるので、自己演奏にはならないので注意が必要だ。JRCの管理楽曲については、ホワイトリストに示される隣接権者の許諾が得られた楽曲は、CD音源など原盤利用も可能になっている。

7/27 記事中「イーライセンスの管理楽曲については、ホワイトリストに示される隣接権者の許諾が得られた楽曲」とありましたのは「JRCの管理楽曲については」の誤りでした。関係者の皆様にお詫びするとともに、本文を訂正させていただきました。

国内トップのライブ配信サイトに成長

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USTREAM Asia 中川具隆社長

このように、日本におけるUSTREAMサービスは、まさに激動の半年間だったと言える。ソフトバンク子会社で動画配信を行って来たTVバンクの社長であり、このほどUSTREAM Asiaの社長に就任した中川具隆(なかがわ ともたか)氏にUSTREAM Asia設立と、これからの取り組みについて聞いた。

──ソフトバンクがUstreamに出資をすることになった経緯は。

「2009年夏頃にベンチャー投資会社を通じて、ソフトバンクにUstreamへ出資をしないかという話がありました。これを機に、Ustreamがどのような会社であるか、そこに投資すべきかどうかを検討するプロジェクトがソフトバンクグループ内にできました。財務的な評価はソフトバンクの財務部門・投資部門が判断したのですが、技術的検証やビジネス的検証という部分についてTVバンクが担当しました。TVバンクは、ソフトバンクグループの中でYahoo!動画などのインターネット配信をしたり、独自のP2P技術を使用したライブ配信にも取り組んでいます。ライブ配信では、同時接続数10数万人ということもP2P技術で実現していましたので、Ustreamは競合するのではないかと見ていました。しかし、ビジネスモデルやUstreamが保有する技術を調べると、『これはかなり面白いことが実現できるかもしれない』という思いが強くなって来ました。最終的には、プロジェクトの意見を取りまとめて、孫(正義 ソフトバンク代表取締役社長)が出資すると判断したわけですが、決め手になったのは(1)Twitterとの連動(2)iPhoneで簡単にブロードキャストできること(3)成長率という3つでした」

──iPhone用の「USTREAM Live Broadcaster」アプリケーションが登場したのが2009年12月のことと記憶していますが、かなりギリギリまで出資するかどうか検討を続けていたということでしょうか。

「いえ、iPhoneアプリケーションについては大分前から見せていただいていました。ブロードキャストできるiPhone公式アプリケーションということでは初となるということでしたし、それだけの技術力を持ち、Appleとの関係が良好なことも最後の判断材料にはなりましたね」

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ネットレイティングスが5月26日に発表したニコニコ生放送とUSTREAMの訪問者数推移(2009年4月〜2010年4月、グラフ上)。2010年4月ではニコニコ生放送 138.3万、USTREAM 99万だった。中川氏によると、翌5月にはUSTREAMが160万超となったという(USTREAM Asia提供、グラフ下)。

──実際の利用者数の推移はどんな感じでしょうか。

「ワールドワイドの月間ユニークユーザー数(日次累計)は、12月時点で7,000万くらいでしたが、6月で1億1,000万くらいまで伸びています。日本では、ネットレイティングス調べで、ソフトバンクが投資を発表した2月では月間ユニークユーザー数(月次)は40万強でしたが、5月末には160万を超えています。5月26日に発表されたネットレイティングスのプレスリリースでは4月末のデータで、99万。このときはニコ生さんが上の状況でしたが、この後、USTREAMの利用が上回り、日本でのライブ配信では名実共にUSTREAMがトップになったと自負しています」

──この利用者のうち、どのぐらいの人がライブ配信に取り組んでいるのでしょうか。

「日本での統計は取っていないのですが、日本では毎日約2,000~3,000がライブ配信されているという状況です。日々累計で毎月数万という感じでしょうか。ワールドワイドでは、4月に約560万アカウントあり、そのうち400万がライブ配信しています」

──USTREAM Asiaとして、アジア地域全体の取り組みは。

「これまで多国語展開は考えておらず、英語しか利用できなかったんです。サイトを日本語化するとともに、2バイトコードを使用して他言語対応できるように、内部構造を大規模に変更しました。今後は、権利処理がしやすいという意味では、まず台湾と韓国を考えていますが、台湾、中国、韓国におけるローカライズはプログラムに手を加えずにテキストを置き換えるだけですむようにしています。これで、現地法人を作れなくても、サイトだけ先行して変更できるようになりました」

──課金サービスについてはどう考えていますか。

「USTREAMサイトにおける課金サービスについても検討しています。すでに、米国でいくつかのライブイベントにおける課金サービスをテストしました。これを標準システムとして組み込んでいくつもりです。米国ではPayPalシステムを利用していますが、日本では馴染みのある課金決済方法として銀行振込やカード決済、ポイント利用を実装して、秋ぐらいには利用できるようにしたいと考えています」


長期的視点で著作隣接権に取り組む

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7月8日の中川社長のツイート。ここには挙げていないが、著作隣接権者を調べるところから始める難しさも吐露している。

中川社長は7月8日、Twitterで著作権・著作隣接権への取り組みに対して「最終目標は、USTREAMでCDをかけたりカラオケで歌ったりDJプレイするところを配信者(プロ、アマ問わず)が個別交渉すること無しに配信できるようにすることです。」「音楽著作権管理団体3社との包括契約というのは、ようやくスタートラインに立てたというところだと思います。しかし、走り出すからには必ずゴールまで辿りつこうと決意しています」とツイートしている。これまでのインターネット配信サービスやライブ中継サービスでは決して踏み込むことのなかった著作隣接権の許諾契約に対しても取り組んでいくことを、強く表明したことになる。この点についても聞いてみた。

──コンテンツ著作権に対してはどう考えていますか。

「著作権に配慮していることは、プロフェッショナルな業界でも利用してもらうために重要なことと認識しています。米国大統領選挙などの政治分野での利用だけでなく、映像分野や音楽分野などでパブリックに使われるために、著作権侵害コンテンツの徹底排除が必要です」

──USTERAM Asiaとして、日本における違法コンテンツの監視は、TVバンクが行っていくのですか。

「USTREAMのNOC(ネットワークオペレーションセンター)は米国とハンガリーにあり、24時間365日体制で全チャンネルの監視をしています。今後は日本(USTREAM Asia)が加わっていくことで、3拠点で監視していく形となります。日本のコンテンツは現在、月間3,000~5,000コンテンツくらいが削除されています。NOCで監視して削除するもの以外に、利用者からの『通報』により削除するものがあります。削除も、そのチャンネルだけなのか、該当する1日分を削除するのか、アカウント自体を利用停止にするのかといった段階も設定しています。さらに米国では、公式アカウントを持つ放送局にツールを配布し、放送局がUSTREAMに依頼することなく違法コンテンツを一時削除できるようにしています。そのコンテンツが違法であるとUSTREAMで確認・承認された段階で完全に削除されます。この承認プロセスは、競合他社のコンテンツを削除させないためにも必要です」

──7月8日のTwitterでのツイートを拝見しました。これまでの配信サービスとは異なり、著作権だけでなく著作隣接権に対しても取り組むということですが、その真意は。

「TVバンクはYahoo!動画を担当してきましたし、私自身は有線役務放送事業者免許第1号のBBTVにも携わっていました。TVバンクは、JASRAC会員であり、管理楽曲を保有しており、プロ野球パリーグ6球団の衛星・ケーブル・インターネット・モバイルへの配信権利を持ち、格闘技K-1については海外に対して番組独占優先販売権を持っていて衛星・ケーブル・インターネット・モバイルで130カ国に販売しています。つまり、原盤権、著作隣接権を買う立場でもあり、売る立場でもあるんです。こうした経験を生かして、USTREAMでは単に許諾を受ける/与えるということではなく、どうやったら一般の人達が自由に配信できるようになるかという先見的なところに取り組もうとしています。ある意味、啓蒙的なことです。映画であれば、映画館でスクリーンを再撮して配信したら犯罪ですよね。CD借りて来て配信することが犯罪と思わないのは何故ですかと。あるいは、CDを素材としてDJプレイを行うということに対して、楽曲を作った人にはどのようなメリットがあるのですかと。一次著作物であれ、二次著作物であれ、それを作った人には何らかの対価が戻るような仕組みづくりは必要だとも実感しています」

──この時期に取り組もうとした理由は。

「インターネットで音楽を流す、映像を流すということに対して、放送とは異なる縛りは以前からあって、特に各業界の拒否感は5年前の方が厳しい状況でした。現在は、音楽も映像も印刷も、何らかの形でインターネット配信に取り組まざるをえない状況になってきています。さらに、USTREAMで楽しさを見出して活用しはじめたプロの人達が、本業でやっていることをUSTREAMでは合法的にできないことがあると感じている。5年以上、配信サービスに取り組んで来て、ようやく著作隣接権にも取り組む機運が高まって来たと感じています。既得権益者VSネットただ乗り業者みたいな単純な話ではないという議論に至るまで場がようやく育って来たので、今がきちんと話をしていく時期と捉えました」

──今後は、著作隣接権に対してどう進めていくのか。

「まだまだ摩擦はありますが、これはUSTREAMだけの問題ではないので、他社の配信サービスなども巻き込んで、著作隣接権に対する新たな動きになればとは思います。これまで権利を売買する人しか認識していなかった著作隣接権ですが、今後は一般の人にとっても、著作権だけでなく著作隣接権というものがあること、そこで何が問題になっているのかを明らかにしていくことが必要です。例えば、CD音源を流したら何が問題なのか、カラオケで自分が歌うところを配信したら何が問題なのかということですね。音楽や映像の著作権について、これまでは一部の業界人や識者だけがカーテンの向こう側で話し合って来ました。しかし、誰もが中継サービスを利用できるようになってきた現在、全ての課題や問題点を明らかにしたうえで共通の理解基盤を作っていかないといけないのではないでしょうか。その結果として法律を変えるのか、業界人や著作権管理団体が動けば実現できるのかといった議論に発展させていく必要があります」

──長期的な展望に立った動きであると。

「音楽も映像もまずプロコンテンツの部分から取り組み、最終的に個人レベルまで波及させる流れになると思います。一気に全部を変えようとしたり、どこかが変わるまで待っているのでは、いつまでたっても動かないということになります。まず出来る部分から1つずつやっていきます。それでも1~2年で出来るとは思っていません。最低でも5年ぐらいはかかるのではないでしょうか」

──包括契約にあたり、コンテンツに使用した楽曲を申請するという方法を採りました。現在は包括利用ですが、全曲申請利用に切り替えていくという考えもあるのでしょうか。

「最終的にはそうですね。現在は技術が追いついていないので、配信者に手で書き出してもらうという方法を採っていますが、近い将来デジタル処理で流された楽曲を自動判別して報告できればと思っています。著作権管理団体は本来著作権処理の代行ですから、集めた著作権料が正しく権利者に振り分けられなければなりません。全部還元されるべきもので溜まっているはずがない。包括契約で全曲処理ではないので戻り先が分からないという言い分については、全曲申請がその一助になればと思っています」