須藤 高宏(マイクロサウンド)

増えるUstream中継の中で…

通常音にまつわる仕事を筆者は、しているのだが、最近は、Ustream中継で音を多く担当する事が多くなってきた。実際トヨタ自動車のイベントやミュージシャンの向谷実氏が主謀する向谷倶楽部で企画作成された楽曲のレコーディングの模様を生中継配信した際の音声も担当している。Ustreamは、まだまだ新しい領域で、一般に考えられる「音」の扱いとも幾分異なる。ここでは、幾つかの現場から得たノウハウと合わせて、Ustream中継においての「音」について考えてみたい。

実際の配信現場の音声機器群

「音の重要性」とは?

Ustreamでは最初は映像に注目しがちだが配信を何回か経験すると音声の重要性に気が付くだろう。まずこの音声の重要性について説明する。映像は多少の途切れ等があっても比較的視聴に大きな影響を与える程ではない。実際1秒間に数十枚の静止画で構成されているものが動画として認識されるのだからその内の1枚が抜けたとしても全体の流れに大きな影響は与えない。しかし音声には「静止音」は存在しない。連続した情報として成り立っておりその情報の一部が欠けても前後関係が崩れる場合が殆どである。音声はその情報の連続性が大きな意味を持っており途絶無く順調に配信される事で初めて内容が伝わるのである。では「音の重要性」とはなにか?

  • 「音」はその情報の連続性に重要な意味がある。
  • 「音」は常に変化する音波を認識する事で内容を把握している。
  • 「音」はそれ自体に途絶や歪み(音割れ)等の障害があるとたちまち伝えるべき内容は破綻してしまう。

Ustreamでは音質の良さは視聴の開始や継続する動機付けになる。これらは「ながら視聴(パソコンのトップ画面上で別の作業をしながら別画面のUstreamの音声のみを聴取し、自分の興味のありそうな場面が出てくるとUstreamをトップ画面にして映像も合わせて視聴する)」を誘発する。音声が良好でなければ視聴者はこの「ながら視聴」をする動機とならず、Ustreamの配信自体視聴を続けられない(実際、聞くに堪えない音質の配信は視聴者が離脱する傾向がある)。故にUstreamで配信する側は配信時には常に音の重要性を意識すべきである。

音の質として音の聞こえやすさとは何か?聞き易い音の重要な点は「必要な音が確実に聞こえる事」そして「不要な音が含まれていない事」である。何を伝えるかを明確にする事、そうすれば収音すべき目的の音が明確になる。それらを確実に捉える事に注力すればよい。「良い音=原音」という誤解について基本的に原音を再生する事はかなりのリソースを費やす。しかしこれが必ずしも良い音とは限らない。最高品質の機材でなくとも良い音は充分目指せる。

視聴者によって目的とする音声が異なる場合、各個人毎に音の印象が異なる。音量を始め音色、音域等個人の嗜好に依り同じ音であっても受ける印象が異なるのである。また各個人の聴力の差異も影響する。自分にとって100点満点の音ではなく万人に対して80点程度のニュートラルな音を目指す様に心がける。誰かにとって100点満点であっても他の人には0点という事は充分有り得る。

では実際に音に関しての実際の注意点を上げていこう。

収音時の注意点

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マイクと音源の位置関係で収音される音質はかなり変化する。マイクの種類によって感度、音質が異なるのでマイクの設置位置やミキサーのトリムやEQで調整して揃える。演者の声を収録する場合には演者に声量をなるべく均一に心がけてもらう事は勿論、滑舌良くハッキリとした話し方を予めお願いしておく。複数の演者が居る場合には同時発言はなるべく避けたい。風、空調機器(これらは人間にとってはあまり音として聞こえていなくてもマイクは空気の流れを大きな低い音として収音する)、息(マイクに息を吹きかけると「ボン」と大きな音がするノイズ「ポップノイズ」)、近接効果(マイクに口を近づけて話すと低域が強調されて収音される)等には留意する。

実際の配信時における注意点

配信時に注意すべき注意点をいくつかあげておこう。

  • 音声調整は問題の発生にいち早く気付きゆっくり確実に行う。
  • マイクは視聴者の耳である(取り扱いは慎重に!)。
  • メーターやフェーダー位置は常に最適を目指して調整する(決め打ちしない)。
  • 音声は種類によって感じる音量感が異なる。
  • 音声デバイスの認識はアプリケーション起動前に確認する。
  • 問題が発生したら緊急を要するもの以外は慌てて対処しない。

対処すべき問題点に優先順序を付けて順番に問題の原因を確認して確実に対処する。複合的な問題であっても問題毎の切り分けを行い対処方法を単純明快にする。対処に関しては他に影響が出ないか、影響が出る場合にはその波及効果も考慮する。問題の原因への対処が正しかったかを対処後に必ず確認する。ソーシャルストリーム上での問題点に関する指摘には発言自体に時間差があるのでそれを考慮しないと音量の調整等で過大な修正をしてしまう恐れがある。

  • 機材の設置を頭の中で完全にイメージできる様にしておく(配信時の必要機材の選定と設営作業に必ず役立つ)。
  • 機器構成はできるだけシンプルに必要最小限の機器で構成すれば問題発生の原因自体を減らせる。
  • DVカメラ等の音声が画像と一緒にエンベッドされている場合にはミュートしておく。
  • デバイス名に日本語 (2バイト文字)が含まれているとアプリケーション側が認識しない場合がある(Windowsの場合)。
  • 同じ設定が次回も同様に動作するとは限らない。

「正しい設定のはず」と思い込みがあると問題の原因を発見するのは難しい。複数ある問題への対処は一度に行わないのがベストだ。1つずつ確実に対処する方が結果的に早く的確に対処できる。

最後に担当技術者としての心得としては、良い技術者とは良い仕事をする程その存在が透明化して対象物の存在が際立ってくるのが望ましい。視聴者が配信の内容に安心して没頭できるのが理想である。