2010年カメラに何が起こったのか?
今年も昨年同様、この1年間を通じてのトレンドを追ってみよう。今年のカメラの潮流として特徴的だったのは、何か新たな突破口を開くべく、その種類や方向性も非常に多岐に渡ったことだ。その中でも最も大きな話題となったのはステレオスコピック3D(S3D)による立体映像撮影だろう。高品質の3D映像を得るには、ハイエンドカメラ2台による並列、もしくはハーフミラー専用リグ使用による撮影方法が主流だったが、今年8月にパナソニックから発売された一体型2眼式の3DHDカメラ「AG-3DA1」は、これまでより低価格かつ小型軽量という点で、これまでにない新しいS3Dコンテンツを撮影できるなど、世界中で大きな話題を呼んだ。また、これまで映画やバジェットの大きなイベント作品などでしか制作出来なかった3D作品が、この「AG-3DA1」の登場によって、TV、PV、果てはブライダルまでと、業務用の世界にもその可能性を拡げた。コンテンツ・クリエイティブの世界に新たな創造力を加えたという点でも、その功績は大きいだろう。
もう一つの潮流は昨年からのDSLR(デジタル一眼)ムービーの隆盛による大判センサーを有したカメラの台頭である。4月のNAB時にパナソニックが発表したAG-AF100を皮切りに、ソニーのPMW-F3、民生用のNEX-VG10など、デジタルスチルカメラと同等の被写界深度を得るための大判センサーを搭載した、新しいコンセプトのビデオカメラが次々と登場して来た。また、REDも新機種のEPICを発表、最終仕様段階で発売直前ではあるが、高額であることを除けば、映画/CM業界には大きなファクターとなるだろう。
それにしてもDSLRブームの火付け役でもあるキヤノンのEOS 5D markⅡは、昨年発売された汎用機種である7D、今年9月に発売された60Dが出たにもかかわらず、35mmフルサイズセンサー搭載と独特のルックの魅力は、いまだ多くの制作者を魅了し続け人気を保持しているという点では、歴史に残る名機の仲間入りを果たしたことは言うまでもない。
業務用ビデオカメラでは、XDCAM EXのショルダータイプのカムコーダー「PMW-320」「PMW-350」も非常に良い売れ行きを示した製品であり、EXの普及もファイルベース化の浸透に大きな役割を果たしている。キヤノンもMPEG2 4:2:2 50Mbpsで収録出来るファイルベースのカムコーダーXF305/300、年末には小型版のXF105/100を発表。世界の放送基準に沿った仕様の低価格高性能カメラのラインナップにも大きな注目が集まった。そんな中でソニーのAVCHDカムコーダー「HXR-NX5J」が大きく売り上げを伸ばした。操作性の点でこれまでの慣れ親しんだソニーカルチャーを踏襲しつつ、AVCHDでの撮影に解像度的な劣等感を感じないことと、何より価格的に”所有出来るファイルベースカメラ”という値ごろ感は大きな魅力となった。
txt:石川幸宏 構成:編集部
PRONEWS AWARD 2010 カメラ部門ノミネート製品
- ソニー HXR-NX5J
- ソニー PMW-F3
- ソニー NEX-VG10
- パナソニック AG-AF105
- パナソニック AG-3DA1
- キヤノン EOS 5D markⅡ
ノミネート基準と講評
「HXR-NX5Jは春以降に大きな売れ行きを示した。これによって業務系のカメラマンにもファイルベースカメラへのアレルギーが無くなったのではないか?」 「PLマウント仕様のPMW-F3は、映画/CMはもちろん、サイズ的に放送・業務用にも使えそうなカメラだ」
「話題のDSLRムービーの機能や仕様を、そのまま民生用ビデオカメラにシフトしたNEX-VG10はまさにエポックメイキングな製品」
「XDCAM EXシリーズも良いが、HXR-NX5Jは所有出来る製品ラインナップとして魅力的」
「数千万という機材でしか実現不可能だった3D制作を身近にしたAG-3DA1の功績は大きい」
「AG-AF105は非常に期待値の高い製品。NAB時期に発表した理由として、年末の発売時期にはサードパーティーの周辺製品が充実し、同時期に発売というのは、このカメラを使いたいユーザーレンジを良くマーケティングをしていて素晴らしい」
「キヤノンEOSシリーズは、7D、60D、kiss Digital X4など後継機種やラインナップが出て来て充実しているが、5D markⅡの35mmフルセンサー搭載と独特のルックの魅力は、制作ジャンルを超えて未だに色あせない」
など、様々な意見が出された中での受賞製品の決定となった。
PRONEWS AWARD 2010 カメラ部門受賞製品発表
カメラ部門 ゴールド賞 |
AG-3DA1
パナソニック |
世界初の一体型2眼式フルHD 3Dカメラレコーダー。本体重量2.4kgの小型軽量な筐体ながら、左右チャンネルのフルHD映像をAVCHD方式(高画質PHモード)でSD/SDHCカードにファイルベース収録できる。左右のフルHD信号はHD-SDIサイマル出力可能。人間の眼の間隔とほぼ同じ約60mmの光軸間隔に設定された、3D撮影のために新設計されたツインHDレンズは、フォーカス、アイリス、ズームが正確に同期、またコンバージェンスポイントも自由に調整可能で自然な3D映像が撮影可能。今年の最も話題となった潮流でもあるステレオスコピック3D。これを業務用レベルにまでハードルを下げ、制作の新たな可能性を拡げた、この「AG-3DA1」登場の功績は大きい。
カメラ部門 シルバー賞 |
HXR-NX5J
ソニー |
MPEG-4 AVC/H.264コーデックを使用したAVCHDフォーマットを採用した、ソニーの業務用映像制作機器”NXCAM”シリーズのカムコーダー。ハンディタイプの筐体に広角・高倍率のソニー「Gレンズ」を搭載、低ノイズの1/3型”Exmor”3CMOSセンサーを採用し、HD-SDI端子などの多数の入出力端子を装備。AVCHD規格でのHD記録に加えて、MPEG-2コーデックを用いたSD記録も可能。メモリーカードメディアは、メモリースティックPROデュオとSDHCメモリーカードに対応。今年後半、業務用ビデオ業界にファイルベースを定着させた。
総括
ステレオスコピック3Dが一年を席巻したと言える今年の映像業界。この気運を牽引するに充分な存在だった「AG-3DA1」。「アバター」以後のキラーコンテンツの不在や、3DTVでのコンテンツ不足やその市場見込みに懐疑的など、まだまだ課題の残る3D市場ではあるが、広く多くの映像制作者に新たな可能性を見いだしてくれた「AG-3DA1」の登場による3D制作の裾野拡大は、冷え込んでいた映像業界においては大きな意味を持った。そして、これまでの業務用プロビデオという世界にファイルベースを浸透させた「HXR-NX5J」の具体的な功績も大きい。操作系などソニーカルチャーに慣れ親しんだ日本ならではの普及の仕方かもしれないが、テープからどうやってファイルベースに切り替えるかの転換期にこのカメラが出てきた本当の意義は、これから数年後にわかるのかもしれない。
またDSLRムービーが未だ隆盛を示す中、DSLRカメラは今年も当然ノミネート候補に上がった。しかしソニーNEX-5、パナソニックDMC-GH2などユニークで良い製品は出て来たものの、制作用途としては未だに昨年グランプリ受賞したキヤノンEOS 5D markⅡの驚異的とも言える総合的に高いポテンシャルを、同社の新製品でも超えることが出来ず、最終的に受賞には至らなかった。今年後半に登場した大判センサーカメラ群は、まだ実機発売目前のため、あえて受賞は見送ったものの、来年の市場開花にぜひ期待したい。