今再定義されるファイルベース・ソリューション2010年の動きは?

まず、この部門の定義について少し解説しておく必要がある。昨年はこの部門はノンリニア編集関係としてまとめられていた。その中で編集、合成、カラーグレーディングなどのファイルベースを取り扱うソフトウエアツールに特化したのが、今年のこの部門である。一般的に現在ファイルベース・ソリューションというと、メーカー系の方はファイルサーバーなどのアーカイブシステムやレコーダー、そしてソフトウェアを含むプロダクションシステムを取りまとめた、統合的な表現としての方が一般的かもしれない。しかし、ここではあえてファイルベース化への過渡期とも言える状況の中で、主にファイルデータのやり繰りを司るソフトウエアツールの部分のみを取り上げている。また今年はその役目と意味合いの違いからレコーダー部分は別途項目を立てた。

さて具体的な製品に関しては、今年も様々な動きがあった。兼ねてから噂のあったアップルのFinal Cut Studioに関する更新情報はなかったが、アドビシステムズからは、Creative Suite製品の最新バージョン、CS5がリリース。映像制作ツールの要となるAfter Effects CS5では、REDのR3DとパナソニックのAVC-Intra50Mbps/100MbpsのネイティブサポートやカラーLUTのサポートなどのファイルベース化へ向けてのグレードアップが随所に施されている。

その他の動きの中で最もセンセーショナルだったのはNABでの、Blackmagic Designから発表されたDaVinci Resolve for Macの登場だ。これまで数千万円という価格帯だった本格的なカラーコレクション/カラーグレーディングのシステムがソフトウエアベースになり、価格も10万円を切るという超価格破壊的な値段帯で出してきたのには驚いた。もちろんこのソフトだけで充分なカラーコレクション作業ができるというわけではないが、カラーコレクションの普及という意味では大きな動きだったといえる。

アビッドからは主力ノンリニア編集製品の最新バージョンとしてMedia Composer 5が登場。AVCHDを除くRED R3D他の様々なファイルフォーマットにネイティブ対応。地味ではあるが正常進化と言えるバージョンアップを果たした。

米デジタルドメイン社からのスピンオフスタッフが中心となって創設されたThe Foundry 社製品はこのところ注目の製品が多い。STORMはその中でもREDのネイティブ作業をスピーディーに実現させるプロダクションシステムとして注目度が高い。

txt:石川幸宏 構成:編集部

PRONEWS AWARD 2010 ファイルベース・ソリューション部門ノミネート製品

  • Avid Media Composer 5
  • Adobe CS5
  • Vegas Pro 10
  • The Foundry STORM
  • Blackmagic Design DaVinci Resolve for Mac
  • Grass Valley EDIUS 6
  • Cineform Neo3D

ノミネートの基準と講評

「Media Composer5はFinal Cut Proユーザーにも使いやすい仕様になっている。ProResのネイティブ対応でMac版の利用価値が高まった」

「REDの編集に関してはMedia Composer5は大きな選択肢の一つとしての存在になった」

「EDIUS 6は108もの魅力的な機能追加がなされたが、MXFファイルフォーマットへの対応が日本版のみ、EDIUS 6 Broardcastで対応するというのが不評だ」

「Adobe Premiere CS5の高速化への対応は、64bitの限定している点でマシンとともにアップグレードするタイミングが難しい。逆に64bitベースのマシン環境が揃えられるならば、CS5は最高のパフォーマンスを発揮してくれるスイート製品」

「Adobe CS5製品のネイティブファイルベースや他のNLEとのオープンワークフロー対応は汎用性が高く便利だ」

「Windows版編集ソフトウェアの中では、Vegas Proは非常に高いパフォーマンスを有する製品だが、なぜか国内普及は今ひとつ。原因は慣れないインターフェイスか?」

PRONEWS AWARD 2010 ファイルベース・ソリューション部門受賞製品発表

ファイルベース・
ソリューション部門
ゴールド賞
Media Composer5

Avid

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長年アビッドテクノロジー社の看板製品として君臨して来たMedia Composer.がバージョン5となって新登場。新機能としては、Apple ProResを含むQuickTimeファイルやCanon EOS ムービーのデジタル一眼レフカメラデータ、Canon XFシリーズのファイルをネイティブ読み込みが可能。またAvid Media Access(AMA)の大幅機能アップとしてREDカメラのR3D素材とのリンク、カラースペースやヒストグラム機能追加などがある。その他、RGB 4:4:4素材の対応、AVCHDのダイレクトインポート対応、モニタリングデバイスとしてのMatrox MXO2 Miniの対応、またFinal Cut Proユーザー向けにインターフェースではスマートツールを搭載するなどの改良がある。

ファイルベース・
ソリューション部門
シルバー賞
DaVinci Resolve for Mac

Blackmagic Design

DaVinciResolve-1.jpg

最先端のリアルタイムカラーコレクションソフトウェアの単体ソリューション、DaVinci Resolve for Macは、高性能なGPUカードやTangent Wave™などの市販のコントロールパネルをサポート。エフェクト、パワーウインドウ、トラッキング、プライマリー、セカンダリー、3Dオブジェクトトラッカーには、32bit 浮動小数点演算によるYRGB処理が採用されている。Mac上のGPUが高速化するにつれ、DaVinci Resolveも高速で動作するようになる。また対応しているサードパーティのコントロールサーフェスやビデオI/O機器を追加することでシステムを拡大も可能。専用コントロールサーフェスは従来からの DaVinciユーザーにも定評がある。

総括

Avid は2007〜08年ごろ、本社内でのゴタゴタなどもあって一時期、製品群も迷走状態に陥ったが、このMC5の登場によってそこからの完全復活を遂げたといえるだろう。大きな変更等は何もないが、いま映像編集者にとって必要な機能をなるべく付け加えて、無駄な機能は排除して扱い良くした、というだけである。AVCHDのインポート対応も安定しないファイルベースに関してはDNxHDなどへの変換を促す等、編集時の事故を未然に防ぐような、施策がされているのもプロ仕様に徹底した表れだろう。しかしまさにこれこそがディファクトスタンダードと化したノンリニア編集システムの、ファイルベース時代に即した正常進化だと言えるのではないだろうか。

Resolveに関しては取り立てて何も言う必要は無いが、DaVinci Resolve for Macの出現で最も大きかったことは、映像作品のクオリティを決定的に左右するカラーコレクション/カラーグレーディングという概念とその世界を、より身近にしてくれたことに尽きる。この価格でこのスペックはBlackmagic Design社だからこそ成し遂げられたことであり、今後も映像制作者の強い見方として、驚きの製品群を発表してくれることに期待したい。