望まれる制作用3Dシステム構築の急務と現場の効率化
1月下旬、東京・大泉にある東映東京撮影所において、今後の3D作品撮影のための技術検証会が行われた。国産3D映画作品として先端を走り続けるコンテンツ「仮面ライダーシリーズ」「戦隊シリーズ」を製作する東映では、このような検証会が定期的に開催されている。ここでも毎回レンズに関する様々なことが論じられているが、いま現在も常に進化し続ける3D撮影機材とその周辺技術を見極めるため、その都度、最新技術を撮影関係者が集まって検証が行われている。
今回は技術統括のアップサイドのもと、テックス、アストロデザイン、日本ビクター、池上通信機、西華産業の協力を得て行われた。
今回のテストでは、3D撮影現場での運用スピードの向上と撮影領域の拡大を主な目的としており、5つの3D撮影セットでの検証が行われた。東映では昨年、3D劇場公開映画作品として3本の実写3D映画を制作した。その中で「仮面ライダーシリーズ」「戦隊シリーズ」の制作は、映画とTVオンエア、そしてイベントやウェブコンテンツまでを含めると年間で約200タイトルもの作品を制作しており、撮影現場では多いときには1日150カットという超ハイペースでの撮影が求められる。その中で技術的ハードルも高い3D作品を撮影するため、いかに効率的かつスピーディーな撮影現場を作れるかが重要になってくる。
SET1:Mサイズミラー式リグ
- 3Dリグ:エレメントテクニカ/TSD-P(Pulsar)
- カメラ:ソニー/PMW-EX3×2
- レンズ:フジノン/HA16x6.8BEZD-T5DD
SET2:ミラー式リグ
- 3Dリグ:エレメントテクニカ/TSD-Q
- カメラ:池上通信機 HDL-F30×2
- レンズ:フジノン: HA21x7.8BEZD-T5DD
SET 3:Sサイズミラー式リグ
- 3Dリグ:C LINK CKT-R-1
- カメラ:池上通信機 MKC-300HD
- レンズ Cマウントレンズ8mm、15mm
SET 4:並行リグ
- 武蔵オプティカルシステム TA-3DTH(3D撮影用レンズシフトアダプタ)
- カメラ:Panasonic AG-HPX2700G
- レンズ:フジノン:HA21x7.8BEZD-T5DD
SET 5:一体型二眼式3Dカメラレコーダー
- カメラ:パナソニック AG-3DA1
- ワイドコンバージョンレンズ:Zunow WDA-06P
SET 1、2では、今年発売予定のREDの5Kカメラ『EPIC』やソニーの『PMW-F3』等、今年注目される最新カメラの搭載を想定。SET1のリグにはエレメントテクニカのPulsarが使用されたが、設定のしやすさから総じて人気が高かった。ミラー式の3Dメインシステムとして、組み立てから撮影までの迅速性など実運用の効率性などが主な検証ポイントで、これまで通りのスタンダードなリグ撮影システムとして使い勝手もよいという評価だ。
SET 3は、今回、Cマウントの小型HDレンズを搭載した池上通信機MKC-300HD HDカメラヘッドを使用。レンズには8mmと15mmのレンズが付けられ、手持ちやステディーカムなど機動力を生かした撮影に対しての効果を検証。またリグの運用性と、搭載カメラの画質評価を検証し、小型リグ特有の映像表現の拡張性などが検証された。ポイントとして、このサイズのカメラヘッドならば、レンズ間隔は並列でも50mm程度にはなるが、今回の制作作品対象である子供向けの映像作品では、過激な飛び出し映像によるモーション・シックネス(視覚動揺障害)などの原因ともなる。
東映では制作側の内部規定として、ある程度のステレオベース以上は開けないという取り決めもあるようだ。なるべくステレオベースを開けずに数mm単位でレンズ間隔を狭めた撮影に対応出来る3Dシステムが必要とされる。今回のシステムではステレオベースとコンバージェンスポイントが固定なので、カメラワークは制約される。またこの種のカメラの問題点として、カメラからリモコンまでのケーブルが短いため現場には不利という意見もあったが、Cマウントの小型3Dカメラとしては今後の機材に期待したいところだ。
SET4の並行式リグセットでは使用カメラの選択肢も豊富で、現場の撮影時の押しが利く。ただし台座の遊びが少なく、レンズの光軸ズレ調整がセンシティブで難しい。また光軸シフトアダプターの装着でステレオベースはある程度狭くとれるが、最短でも80mmが限界でコンバージェンスポイントの調整範囲が問題となる。セッティングが容易面で撮影スピード向上への期待に添えるシステムのアップグレードに期待が高まる。
SET5は、撮影条件が限定されてしまう事などの問題は残るが、一体型ニ眼式カメラの現場使用での可能性を検証。レンズ部ではAG-3DA1カメラ用ワイコンとして昨年のIBC2010で発表された、ズノーの0.6倍ワイコン『WDA-06P』も装着。3Dエリアの狭さや低感度の問題はあるが、運用が容易で小回りが利く優位性や3Dエリア表示機能などの便利さも実証された。
また今回のテストでは、2D撮影しかできない撮影現場においての3Dシミュレーションなどに有効な2D→3D変換による、実撮3Dとの比較検証も行われた。日本ビクターの業務用3Dイメージプロセッサー『IF-2D3D1』を使用して、実撮の3D画像と、2D→3D変換の画像を比較検証した。
ドラマ制作用3Dシステムの確立
今回集められた機材はここ最近で大きく進化した製品だが、そのほとんどが昨年のサッカーワールドカップ用の3D撮影システムとして放送用準拠の製品として作られたものがベース。3Dの場合、問題となるのはカメラ選択とその同期であり、映画やドラマ専用という3Dシステムはまだ少ない。豊富なシネレンズ等を利用出来るカメラなどに対応する制作向け3Dシステムの開発を望む現場の声も多い。現場スタッフはすでに3D撮影経験もあるので、リグのセッティングなど高い習熟度が見られた一方、現場をスムーズに進行させるにはカメラ/レンズ選び、ステレオ撮影を意識した人物配置とカメラアングル、サイズ、リグの調整法など、やはり”ステレオグラファー”のスキルアップが重要であることも再認識されたようだ。
人気TV「相棒」シリーズの撮影監督で今回のテストの技術統括を担当したアップサイドの会田正裕氏は「これまでの経験を元に、今回の検証でより具体的で確実な方法に辿りつきたいと考えていた。撮影時のモニター環境(擬似スクリーン環境の構築と有効性の検証)の検証では、ステレオ撮影と2D→3D変換画像を同時に見ることができ、とても興味深いテストになった。このようなテストは撮影期間の問題や求められる映像表現に対して、適切な技術的回答を導くための大きな材料になると考えている」と語っている。