“レンズ”と”センサー”

05_kurata02.jpg

 ”レンズ”と”センサー”  

この2つの関係こそが、撮影の全てを決める要因であることはデジタルカメラの歴史からも明らかだ。そしてレンズを決める際の重要なファクターこそが、センサーの”大きさ”と”質”ということになる。REDユーザーでもある映画カメラマンの倉田良太氏は、早くからREDONEを個人所有して、この関係を自分なりに研究している一人だ。

この春に公開が予定されている、日米スタッフが合同で制作した、日本とハリウッドの新しいコラボレーションにより生まれた映画『TAKANMINE』(監督:市川徹、主演:長谷川初範)ではカメラマンを務め、倉田氏所有のRED ONEをMXセンサーにグレードアップして日本とアメリカの双方で撮影が行われた。またこの作品はハリウッドのDI(デジタル・インターミディエイト)のパイオニア的存在であるE-FLIM社でDIが行われた、日本映画作品としては初のE-FILMによるDI作品となっている。E-FLIMのスタッフによれば、これまで多くのRED作品が持ち込まれたが、これほどキレイな素材はなかなか無かったという評価だったという。この辺りはやはり個人所有している分の研究成果だと感じられるが、果たして新しいMXセンサーと初代MYSTERIUMセンサーでは、レンズの選び方などは変わったのだろうか?

MXセンサーは、前のセンサーに比べて対面積あたりの画素数は一緒ですが、以前に比べかなり感度が上がっている、何らかのバージョンアップがなされたセンサーです。前のセンサーの時はとにかく明るいレンズを!という選択でしたが、新しいMXセンサーは前のセンサーに比べてかなり感度も高いので、多少暗いレンズでも選べるようになったということは言えますね。

特に4K、3K撮影では前より絞れる様になった結果非常にシャープになった感じはありました。昨年、初めてMXセンサーで撮影した作品『TAKAMINE』では全てISO800で撮っていますが、ノイズは非常に少ないです。でもノイズが無いからといって全くOKかというとそういうわけではなく、暗部が真っ黒ではなく多少浮いてくる感じがあるので、後処理で黒を締める工程も必要でした。またこの処理を全体的にしてしまうと画全体が沈んでしまうので、後処理で暗部を締める工程を想定した現場のライティングでメリハリを付けておく必要はありました。

映画『TAMAKMINE』の撮影ではPLレンズを使用したかったが、日本とLAで撮影するために予算的にも現場的にも条件が難しかったという。そのため今回は自前のコンタックスのツァイスレンズシリーズとDPが所有していたキヤノンEFレンズを使って撮影されている。

05_kurata06.jpg

REDの長所であり短所でもあるのは、良くも悪くもRED CODE RAWというセンサー情報を圧縮してそのまま出してくるところですね。他のカメラはカメラ内部で加工してSDI経由で送出されるので後処理は不要なわけですが、REDの場合、このRED CODE RAWという画像データがそのまま出てくるので、このRAWデータをいかに活かすようなワークフローを組めるか?というところでしょう。その面でREDの今後の展開で期待されるのは、新機種のEPICにあるHDRの機能でしょうね。現にEPICぐらいのサイズ(5Kや4K)で撮れるDSLRも無いので、映画撮影から考えればあれは凄い機能だと思います。

倉田氏は、DSLRムービーに関しても撮影経験は豊富だが、DSLRムービーではカメラマン視点での問題点もあるようだ。

映画カメラマンの立場として言えることとしてDSLRを映画で使うときに一つポイントがあるとすれば、レンズ鏡筒のフォーカスリングの回転方向の問題はありますね。キヤノンやオリンパスなど以外はフィルムレンズとフォーカスリングの回転方向が逆なので、自分を含めて使いづらいと思っているカメラマンも多いと思います。同じようにズームリングの回転方向の問題もあります

実際メーカーに聞いてみると、スチル時代からのそのメーカーの元々の設計によるところが大きいようだが、この辺はある程度統一したほうがいいという意見は多く聞こえる。ムービー撮影において、多種多様なカメラが出て来た現況において、どんなカメラを選ぶのかという視点ではどうだろうか?

ムービー撮影において僕の現場の哲学として、要は『出来上がりの画を現場で見たいか、後で見たいか』だと思いますね。フィルム出身者としては完成形の画は後でいいんです。でもビデオカメラ的にベースを組んでモニター周りを遮蔽して完成形の画を見てという撮影方法が重宝されているのは現場で見たいからであって、やはり作品ごと、監督ごとの撮影スタイルによるわけですね。

ムービーに関して言えば、1カットごとに色調整して確認して撮るというのはものすごい時間のロスになる。撮影現場にはその作品に関わるスタッフがほぼ全員、キャストもいるわけですから、時間単位のコストを考えなくてはなりません。テクニカルな面を含めて1カットのロスを出来るだけ減らしつつ、どこまで画質を追い込めるかがいつもカメラマンの課題になるわけです。いつもその視点に立った上でレンズやワークフローも含めたカメラ選びが、このデジタル時代には重要になってくると思います


Vol.04 [Into the Lens] Vol.06