デジタルシネマから考える
押さえておくべきは、映像の雄である映画分野からの言及。今回お話を聞いたのが、シネマトグラファーである早坂伸氏。開口一番「映画はフォーカスが全てです」そう言い切るのが印象的だ。映画はフィルム時代から最新のデジタルシネマまでENG等の他の映像制作形態にぶれる事無く、頑にワークフローが完成されている世界だ。その映画一本で勝負しているカメラマンの言葉は簡潔で力強い。
経験に裏付けされた力強い言葉
早坂 伸 1973年宮城県生まれ。98年よりフリーの撮影部。プロデューサーを手がけることもある。 主な作品に李相日監督『青~chong~』(’99)、『BORDER LINE』(’02)、江川達也監督『東京大学物語』(’07)、柴田一成監督『リアル鬼ごっこ』(’08)、小沼雄一監督『結び目』(’09)、『nude』(’10)、小原剛監督『アサシン』(’11)などがある。プロデューサー兼任作に佐々木友紀監督『ちょちょぎれ』(’10)、継田淳監督『ファッション・ヘル』(’10)などがある。撮影においては、とにかく画角と被写界深度のコントロールをいかに自分の物にするのかが、一番重要だと思いますよ。残念ながらそれを解ってない制作者が少なくないですね。そんなに浅い被写界深度で何を表現しているのか解らない部分も多いです。もちろんミュージックビデオ等、演出上インパクトを狙う事はありですが、魅せる芝居でそんなカットばかりでは全く意味がない。むしろパンフォーカスで魅せるべきなんですよ。
この言葉からは映画出身の早坂氏の心情だと感じる事が出来た。早坂氏の愛機はSONY PMW-F3。元々はEOS 5D MarkⅡを使用していたが、色んな所に疑問を持っていたので PMW-F3 がリリースと同時に手に入れる事になったという。5Dの機能で残念な部分は、フォーカシングについてだと言う。確かにEFレンズではピン合わせのストロークが短すぎるうえ、撮像板は現状のムービーでは最も大きいためにそれだけピントがシビアになってくる。それどころかEFレンズでは全く対応出来ないというのが本音。PLレンズに変換入れて撮影するには暗部のノイズ感がどうにもこうにも許せないと言う。感度が良いと評判の5Dも、早坂氏に言わせればISO感度400でも使いたくない、逆にF3はその暗部が非常に強いという。とにかく今回のインタビューで早坂氏から感じる事は「もっとフォーカスについてみんな考えるべき」と言う事だ。
実は、玉(レンズ)の特性にもっと気を遣うべきなんですよね。レンタル屋から借りてきたままのレンズをそのまま使用するなんてありえません。その時点でその作品は信じられない事になりかねません。現在使用しているレンズは PMW-F3 標準の純正PLレンズです。本音を言えばもう少しマシなレンズを買えば良かったですね。このレンズの一番の不満は焦点距離なんです。やはりもっとワイドなレンズ、特にT2.0程度の24~5mmレンズを標準に入れて欲しかったと強く言いたいですね。
少なくとも5D以上には満足しているというPMW-F3だが、シネマトグラファーとしては最低限どう言う機能(性能)が欲しいかと尋ねてみた。
自分はプロデューサー出身という事もあり、コストの事もキッチリ考えられるカメラマンでもある。無駄な作業を極力減らして、予算を上手に使いたいんですね。まずは、ちゃんと見る事が出来るVF(ビューファー)が欲しいですね。できれば光学系で。少なくとも PMW-F3 のVFは覗いた事すらありません。取り外せるなら取り外したいくらいです。LCDもあの位置では見辛くてしょうがないですね。
録画コーデックはやはり4:2:2が欲しいところですね。外部入力にしても後ろ方向に大きくするのはもったいないですね。狭い場所での回り込みを放棄する事にもなるのですから。カメラデザインに関しては特に現状では問題ありませんね。撮像板に関しても元々フィルム出身と言う事もあり、現状のスーパー35mmがむしろ感覚的に好ましいです。シネマトグラファー・フォトグラファーとして理想のカメラは、まずはしっかりフォーカスコントロールの出来る、出来の良いレンズ、その次にそれをしっかり見る事の出来るVF、最後に外部録画装置に頼ることなく本体内蔵で満足できるコーデックのカメラと言う事になりますね。
余談だが、早坂氏はカメラマンという顔の他に多数の顔を持っている。プロデューサーの顔に加え、VEとしての知識やスキルも高い。カメラプロファイルをしっかり調整できるように、外部に引き出せるコントロールパネルがあると便利だと話す。今回シネマ系の方と話す事が出来て、筆者もまた色々な事を吸収することが出来た。早坂氏と筆者、つまりシネマカメラマンとENGカメラマンの違いはF1ドライバーとWRCドライバーの違いに似ている。徹底的に情報を整理し繊細なコントロールを要求されるF1ドライバーと、常に目の前に流れてくる現実に対してアドリブを効かせるWRCドライバー。まさにこの関係はシネマトグラファーとENGカメラマンとの関係に近いのではないだろうか。
理想のカメラを求めて!~レンズ編~
PLレンズを基本としながら、純正標準装備で2/3inchマウント変換を同梱。レンズに併せてガンマ値の補正をしてくれる(オート機能時)。本体に付属する標準レンズはPLマウントの12倍程度のズームレンズ、AE機能とエクステンダー(×2)を搭載する。イメージ的にはF3オプション扱いの10倍電動ズームをリファインした物。シネレンズに関しては敢えて新製品よりも従来からある信頼性のあるメーカーからチョイスする。