江口靖二
NABの2013のキーワードはやはり「4K」と「マルチスクリーン」である。マルチスクリーン関連の提案は10社以上が行なっており、昨年に比べると大きな時代の流れを感じさせる。
マルチスクリーンサービスを俯瞰する
Harmonicは、このところ年々出展規模を拡大し、今年はサウスホールのアッパーフロアの入口付近に陣取った。まずは同社のブースで手に入れた、IPベースの局内外のシステムの全体構成概念図が非常にわかりやすいので紹介しておきたい。
Harmonic Comprehensive IP Video Infrastructure
今回Harmonicは、この図の外側に位置づけられるものとして、クラウドベースのメディア処理システムと、マルチスクリーンワークフローの提案を行った。特にメディアトランスコーダーソフトウエアであるProMedia Carbonがクラウド対応になった「ProMedia Carbon MP」のデモに注目。これによって他拠点間でのトランスコードが自在に行われるようになる。4Kを見据えたH.265にも近い将来対応するとのことだ。
マルチスクリーンソリューションとしてはHEVCエンコーディング、タイムシフトや広告挿入を行うマルチスクリーンワークフロー、高速VODトランスコーダー、「ProMedia Xpress」などのデモを行った。
またEnvivioブースでも同様の概念図を入手できた。
Envivio On-Demand Infrastructure
「Halo」はマルチスクリーンに対応するソフトウエアベースのネットワークメディアプロセッサー、「Muse」はファイスベースのエンコーディング/トランスコードソリューション、「4Caster」は個別のヘッドエンドを用意する必要がないエンコーディング/トランスコードソリューション、「4Manager」はネットワークマネージメントのための次世代のヘッドエンドマネージャー、「Sparkは」バリアブルビットレートに対応するデコーディングソリューション、という構成になっている。ユーザーの利用目的に応じて最適な組み合わせで利用することができる。
そしてマルチスクリーン、セカンドスクリーンを最終的に実現させるためには、こうしたテレビ局内システムやワークフローに加えて、家庭側のセカンドスクリーン端末を何らかの方法でテレビと紐付ける必要がある。
音声透かしを使ったセカンドスクリーンソリューション
CivolutionのACR「Syncnow」
オランダのCivolutionは、音声透かしを使ったセカンドスクリーンソリューション「SyncNow」を出展した。SyncNowは、同社のオーディオウォーターマーク(音声透かし)を使い、時間軸情報とコンテンツのIDを可聴範囲の周波数帯域に分散して透かしとして挿入することで、映像シーンに応じて自動的にスマートフォンやタブレットのアプリで関連情報を表示するというもの。アプリ側の設計次第で番組関連情報商品やクイズ、プレゼント応募などが可能である。
こうしたセカンドスクリーンを実現するためのコンテンツ認識技術は、Automatic Content Recognition (ACR)と呼ばれる。CES2013に出展したGracenoteやMagic Ruby、IBC2012に出展したNTTデータ、またゼータブリッジなどがACRを提供しているが、各社の方式の違い(フィンガープリント、ウォーターマーク)と、特性、重視する市場が異なるようで興味深い。
またNABではほとんど具体的な展示や言及がなかったが、局内システム、ACRで同期が確保できたとしても、その番組、コンテンツの内容が何なのか、コンテンツIDだけではなくてその中身、すなわちメタデータが裏側に存在しないと何のサービスも提供することができない。このメタデータを誰がどう作るのか、それはどれくらい自動化できるのか、メタデータをトリガーにしてセカンドスクリーン側ではどういうサービスにするべきなのかといった提案や、その具体的な事例は放送機器展であるNABではほとんど見ることができなかった。この点では日本のJoinTV、マルチスクリーン型放送研究会(マル研)、ハイブリッドキャストはテレビ局主体で検討されているので期待していいと思う。
またIBCと比較すると、マルチスクリーンに対する積極度合いとか、参入企業はなぜかヨーロッパ企業の比率が圧倒的に高い。最新マルチスクリーン事情を知りたいならば、IBCにも足を運ぶべきだろう。