Post|Production World。大々的に行われていたイベント内イベントだ
手塚一佳
NAB2013最大のイベントはもちろんエキシビションだが、最高のイベントはカンファレンスである。特に今回は、ポストプロダクションワールドと題して、撮影後の工程に注目したイベント内イベントも併設され、大きな注目を集めた。そのあたりを中心にご紹介しよう。
単技能職では生き残れない時代へ
Post|Production World(ポストプロダクションワールド)では、完全な初心者向けの「Bootcamp」中級者向けの「in Depth」そしてライセンス認定の出る「ワークショップ」の3段階のトレーニング&カンファレンスが開催された。しかし、その実際は、レベルが全体に低く、「in Depth」であってもまずはグリーンバックのたたみ方を教えるような、学生制作レベルにも達していない段階での講習会が多数であった。これは、単に学生に裾野を広げようというのでは無く、急速に進むデジタル化、高画素化、そしてそれに伴う映画手法との急速な合流によって、放送映像系の人間やウェディング・イベント撮影系の軽撮影の人間でも、一通りの映画的なポストプロダクション手法を学ぶ必要が出てきたことが大きい。
一例として、欧米系シネマカメラ企業、特にREDとブラックマジックデザインが、シネマカメラの発表をNABでやるという習慣が定着しつつある。この両社はシネマカメラを従来の映画用途だけでは無く、ウェディングやイベント撮影など、いわゆる街のカメラマンに向けて販売しようとしている会社だ。シネマカメラとは、24P、あるいはその倍数の静止画をそれぞれのコマが写真として成立するのに近いレベルで連続撮影することが可能なカメラ、と定義していいだろう。動画を作るカメラがビデオカメラ、連続した静止画を作るカメラがシネマカメラだ。そうしたカメラがそれまで安いビデオカメラしか触ったことの無い人々の手に渡れば、理解を深めるための講習会が必要になるのは当たり前なのだ。
振り返って日本企業では、NABはあくまでも放送関連機材に特化しているところが多いが、それでも例えばアストロデザインはシネマレンズを装着した8Kカメラを展示して話題をさらっていたし、イベントは異なるが、同じ放送機材テーマの幕張InterBEEではシネマカメラの発表を行っている。それを考えると、NABのこうした初心者向けのポスプロ技術講習会の動きも全く不自然では無い。
エキシビション会場内カンファレンスも魅力的
こうした、シネマ系技術の合流の動きは、カンファレンス会場の会議室だけでは無くエキシビション会場にも見られた。例えば、PanasonicがLUTの入る液晶業務モニタBT-4LH310という、明らかにシネ用途を意識したモニタを出してきた。これは専用映写機が無くとも色管理が出来る上、映写機のような広いスペースを必要としないため、映画制作現場の必需品になりそうだ。また、アドビブースの予想外の人気であったが、これは、AfterEffectsやSpeedGradeなどのシネマ系製品の強化がその理由だ。何しろ、Photoshopで作った色味を直接そのまま映像の各カットに適用できるのだから、ワークフローの大幅な改善が望める。零細企業の集まる通称「長屋」エリアでも、シネマ系を意識した製品が多数出ていて、参加者の度肝を抜いていた。
ランサーリンクブースのTONO B4 iPhone adapterも明らかに低バジェットシネマを意識した製品だ。iPhoneが業務カメラに化ける。マイクロフォーサーズ版もある、とのこと
また、会場の中央にはインテル提供の巨大ブースが「StudioXperience」として時間割で各企業に開放され、様々なエキシビション会場内カンファレンスが行われていた。こちらのカンファレンスは、会議室で行われるものよりもより実践的で、会場内の新商品と連動して行われることが多く、大いに人気を集めていた。
中でも、RED Giant社とDELL社によるプレスカンファレンスは、ミニシネマ「SPY vs GUY」のプレミア上映が行われ、大きな話題となっていた。
RED Giant社はAfterEffectsの低バジェット映画向けサードパーティプラグインメーカーであり、そこが、放送機器展であるNABで映画を流すこと自体が時代の変化だと言えるだろう。筆者の会社でも同社のプラグインは大量に使っており、そうした今までは若干畑違いと思われてNABの日陰的な存在であった企業が積極的にカンファレンスを開けるようになったのも、また、時代の変化だと言えるだろう。
ミリタリー&ガバメントは縮小・方針変更
さて、私のいつもの主目的「military & government summit」だが、開催はされはしたものの、むしろガバメント寄りの内容で、あまり軍事色が無く、ぱっとしない感じであった。
カンファレンスから軍事系の話が一切無くなったと言うだけでは無く、そもそも軍人の演者が一人も居ないのが今年の特徴で、当然のごとく、参加者も激減してしまっていた。この変化はカンファレンス会場だけでは無い。エキシビション会場でのミリタリー関連ブースが1、2個しか無く、それもサーバーと衛星通信という、どっちかというとシステム寄りのブースであったのも驚いた。
そもそも、ラスベガスの街は、元々、ネリス空軍基地や、ネバダ核実験場に併設されて発達してきた軍人の街という側面があり、街を歩いていても休暇中の軍人が目立つ街でもあったはずだ。そのためのいわば軍人たちの休養のための特例としてギャンブルやその他、大人の娯楽が許容されてきた背景があるのだ。しかし、NAB2013においては、街を歩いていてたった一人の軍人の姿も見なかった。
これは、一つには、オバマ政権による軍縮、予算削減の流れがある。しかしそれ以上に大きいのは、日本海を挟んだ、北朝鮮の核による挑発行為と、それに関連する戦争危機のために、どうやら多くの軍人が沖縄や韓国の米軍基地に移動してしまっているため、という裏事情があるようだ。
いずれにしても「military & government summit」は開始4年を経て、大きな岐路に立たされたことになる。世界が平和にならなければ彼ら軍人の生の話を聞くことが出来ないのだ。果たして来年、NAB2014では、再び興味深い軍事の話が聞けるようになるのであろうか?