txt:奥本 宏幸 構成:編集部
現場から見えてくる事
これから、プロジェクションマッピングの現場からの声をいくつかの事例を見て行こう。まずは、いち早くプロジェクションマッピングを取り入れた株式会社タケナカから。同社は、東京、大阪、名古屋、京都、上海に拠点を置く。映像機器レンタルからオペレーション・コンテンツ制作・演出までイベント演出をワンストップで行う「演出映像総合会社」だ。その演出力・技術力を組み合わせて制作される3Dプロジェクションマッピングのブランド「ビームペインティング」。2009年に上海で展開をはじめてから国内外で50以上の事例がある。
右:営業本部 営業企画部 海外戦略チーム クリエイティブディレクター・メディアプランナー 谷田 光晴氏左:技術部 チーフ 山田 浩徳氏
Case01:動く物体に「立体的に」プロジェクションマッピングを施す
本番CMからの切り抜き
2013年2月に公開された「HONDA CR-Z」のCMではターンテーブルの上で回転する車体にプロジェクションマッピングが行われた。監督からの最初のオーダーは「マッピングした車の周りをカメラが回って撮影する」というものだったという。
監督と打ち合わせする谷田氏
谷田氏:プロジェクションマッピングは映像を投影した物体を見る場所「ビューポイント」が命なんです。そのビューポイントからどうやって見えるのかを計算して映像を作るんです。360度どこからでも破綻なく見えるようにするには、かなりの数のプロジェクターが必要になり、さらにそのプロジェクターの数だけ映像を用意しなければいけないんです。加えて、背景にHD素材を2面、床面にHD素材を1面も、それぞれのアングルに対応させないといけないので、ソース数はそれだけで3倍以上になります。それは現実的ではないので「車の方を回しちゃおう」という提案をしました。
coolux社 Pandoras Box Media Server
「動く物にプロジェクションマッピングする」というこのプロジェクト。キーポイントとなるのはタケナカ「ビームペインティング」の心臓部、映像送出を担うcoolux社のPandoras Box Media Serverだ。
山田氏:ベースはPCなんですが、動画をHDDに入れて、映像信号を送出するという機材ですね。照明の制御信号を扱えたり、照明の卓からの信号で映像が再生など色々同期できるという利便性があるんです。なぜこれが必要かというと、ほかのメディアサーバは平面補正しかできないんですがPandoras Box Media Serverはジオメトリ補正がリアルタイムに、しかも3Dオブジェクトで行う事が可能なんです。
ジオメトリ補正とは立体の凹凸の部分に沿うように映像を歪めて補正する機能だ。Pandoras Box Media Serverはリアルタイムに動いている立体物に対しても補正可能なのだ。
山田氏:立体物のモデリングデータとその展開図に合わせて作った映像を用意し、カメラなどのセンサーを使って立体物の動き・向きを検知します。Pandoras Box Media Serverでセンサーからの情報を元にモデリングデータのオブジェクトに展開図の映像を貼り付けてをリアルタイムレンダリングして立体物の向きに合った映像を送出しています。
2Dでやろうと思うと回転に合わせた動画をあらかじめ作らなければならない上に、回転と映像のタイミングを合わせるのは難しい。その点、Pandoras Box Media Serverは柔軟に対応できる。
回転台下のマーカーをセンサーで読み取り、車の角度を認識させるテスト
谷田氏:リアルタイムでセンサーが角度を認識して、プログラミングや演算を介して出された数値をサーバーに送ってレンダリングしているので回転のスピードや角度を微妙に変えても映像がついてきます。実際にカメラマンから「もう少し角度を変えて撮影したい」という要望にも柔軟に応えることができました。
Pandoras Box Media Serverの機能を使いこなすタケナカテクニカルチームとクリエイティブチームのノウハウがあってこそのプロジェクトだが、新しい試みが故の苦労は絶えなかったという。
テスト用ミニチュア
谷田氏:今回は新製品ということもあって実物が1台しかなく、テスト段階で借りることができなかったんです。ミニチュアを買ってテストを行い、さらに前モデルの実車をレンタルしてきてさらにテスト。最終的に実車に投射できたのはスタジオに車が入ってからでした。結構寄りアングルで撮影するシーンもあったため、ミリ単位のズレもあってはならなかったので。プロジェクターの設置プランニングは、事前の3Dシミュレーションで念入りに行いました。プロジェクターの現場の調整あまりありませんでしたが、それでも微妙なズレは発生しました。ミリ単位の調整をPandoras Box Media Serverで調整を幾度となく繰り返しようやく完成したんです。テクニカルチームは本当に良くやってくれたと思います。加えてこのようなエキサイティングな事例にチャレンジさせてくれたクライアント、プロダクションには大変感謝しています。
出来上がったCMはHONDA CR-Zのページでも視聴ができる。メイキングと合わせて見ていただきたい。
http://www.honda.co.jp/movie/201302/cr-z/
本田技研工業 CR-Z MOVE篇
A&P:電通+TYOプロダクションズ1 SHINBASHI-2
Case02:レーザーと融合したプロジェクションマッピング
2012年8月16日から6日間行われた「ならファンタージア」。奈良国立博物館のなら仏像館西側壁面に縦約20メートル横約60メートルの日本最大級のプロジェクションマッピングとなった。
谷田氏:奈良県からの要望は夏の時期に観光客を集められるイベントを作ってほしいという依頼でした。2011年に1回目を開催し、今回は2年目でした。そのためには老若男女、実際に見に来たお客さんがどれだけ感動できるか?肉眼で見た人にどれだけ歓声をあげてもらえるか?「現場でしか味わえないライブ感」を突き詰めました。それを考えた時に思いついたのが、平面というお客さんが正対して視聴するだけのものではなく、実際にお客さんが作品の演出空間の中に入ることができる環境を創れる、レーザーとの融合でした。世界的にも映像と照明の演出統合の流れもあるのでチャレンジしたかったというのもあります。加えて、いつも通り現場品質を追求する為に解像度と明るさにもこだわりました。
ならファンタージアの様子
レーザーとの融合を実現可能にしたのはPandoras Box Media Serverだ。Pandoras Box Media Serverの制御ソフトウエアにはタイムラインがあり、投影する映像ソースを並べるのと同時に照明機器を制御するDMX信号を並べることができる。
山田氏:ディレクターの合図で映像とレーザーを手で同期させるのはなかなか難しいです。照明を制御する信号もタイムラインに並べてしまえば。映像とレーザーを完全にシンクロさせることができるんです。
ならファンタージアの様子
もう一つのこだわりは解像度と明るさだ。屋外でのプロジェクションマッピングでたまに見かけるのだが、プロジェクターの光量が足りず、写真やムービーで撮影した場合は映像が明るくみえるが、実際は周辺環境が明るいために後ろの建物が見えてしまい興ざめすることがある。タケナカはお客さんにできるだけ作品の中に入り込んでほしいと解像度と映像の明るさにこだわるという。
谷田氏:ならファンタージアの場合、再生する映像は4720×1080というサイズのものをAdobe AfterEffects上で最終コンポジットをし、出力は1400×1080のサイズのもの4つと、1920×1080で1つ、合計5つのファイルにわけます。それをPandoras Box Media Server内のタイムラインに並べてさらに建物の凹凸に合わせてマスクを切ってレイヤー分けをして補正し投影しています。最終出力はXGA 1024×768を3つで出しています。よく「なぜ16:9で出さないのか?」と聞かれますが対象物の形状によっては4:3のほうが解像度と光量のロスが少ないんです。また、DLPプロジェクターと液晶プロジェクターで明るさを感じる違いもあります。特に光量を稼ぎたい場合はできるだけ細かく数台のプロジェクターに分けて投影するようにしています。
プロジェクター6台
さらに明るさを稼ぐために今回は3ソースの映像に対して6台のプロジェクターを使用したそうだ。
山田氏:3ソースの出力をそれぞれをさらに分配器で2つずつに分け、1ソースの映像に対し16000ルーメンのプロジェクター2台を使いスタック(2つの映像をあわせる重ねる)して明るさを稼ぎました。今回の場所は街からも離れていて周りの環境光も少なくかなり明るいビームペインティングができたと思います。
ならファンタージアの様子
筆者も実際現場で鑑賞したが圧倒的な明るさと解像度、そして映像とレーザーがリンクしているため、映像の世界に引き込まれる今までにない体験ができた。
レーザー制御ブース
谷田氏:今回、技術的には明るさとレーザーの融合を意識しましたが、子供から大人までが見て楽しめるものにしたいという思いから、インスタレーション的なものでなく作品にストーリー性を持たせたかったので、オリジナルストーリーを1から書き起こしました。ビームペインティングを流行の一過性のモノにしたくないので、ただ映像を映すだけでなく、演出方法や内容にもこだわり常に新しいものを模索しています。
今、新たに動いているプロジェクトでは、ビームペインティングのライブ化を進めています。ステージ等でのライブパフォーマンスをカメラで撮影して、その映像をスイッチャーに取り込み、マッピングのコンテンツと共存させることで、ビームペインティングをより進化させて具体的にもっと他の分野で使えるライブ感あるものにしていこうとしています。例えば4Kカメラを使って高解像度で撮影した映像を、ローランドのライブスイッチャー複数台をV-LINKで制御し、マッピングコンテンツの中に入れて行くようなことも考えています。さらにMIDI信号を制御して、音楽とのシンクなどをとりいれていくと、可能性はどんどん広がります。我々は、日本におけるハイエンド・プロジェクションマッピングのパイオニアとして、また同時にイノベーターとして新しい概念を常に取り入れて進化させて行く責任があると思っています。
Roland V-800HD
配線図