txt:石川幸宏 構成:編集部
プロジェクションマッピングの今を知る
ここ最近のプロジェクションマッピング(PM)の認知度アップで、イベント、舞台演出、ディスプレイ等様々なジャンルでPMの利用頻度が上がっている。近年では専門企業や広告代理店の大掛かりなPRイベント企画として、PMが多く取り入れられ映像演出手法の1ジャンルとしてその存在感を増してきた。
しかしその実現には映像技術以外での上映環境等を含めた条件の成立が必然であり、日本という国で行うには法律的、環境的制約も多い。昨年末の東京駅でのイベント「TOKYO HIKARI VISION」では、一気にPMの認知度をあげて市民権を得たが、周知の通りこれもマスコミでの告知の影響で想定外の混雑を招き、結果として会場制御不能の危険から、会期後半は上映中止に追い込まれた事実は記憶に新しい。大規模イベントとなればPM的な手法は、ともすれば『もろ刃の剣』ともなってしまい、まだまだ完全実行への課題は多い。そこはPMという映像技術の手法以外の部分についてもさらなる研究や、また地域性を含めた開催企画の根本的な理解が求められる部分だ。
日本での現実的なPMの普及を軌道に乗せる動きの一つとして、2011年6月に『プロジェクションマッピング協会(PMAJ)』が発足している。そのスタートアップイベントの模様は、2011年の夏にPRONEWSでもご紹介した。
ここでは、PMAJの代表理事である、”michi”さんこと石多未知行氏に、2013年現在におけるPMの現状と今後のPMの普及・発展についてお話をお聞きした。
――PMの現状は?
昨年末の東京駅でのPMイベント「TOKYO HIKARI VISION」を境に、日本でもPMを取り巻く環境や外部の見方が大きく変わったと思います。間違いなく市民権を得たというか、一般の方にも『プロジェクションマッピング』という言葉自体がかなり浸透しました。クオリティもいま日本で出来るものの最高の質のものだと思いますし、我々がPMを説明する際にも、これまでよりも遥かに楽になりました(笑)。今年になってから、さらに事例自体もかなり増えて来ていますし、広告代理店からもPMを使ったイベントなどの売り込みが盛んに行われています。
ただし、あの「東京駅」のイベントのイメージが強すぎて『建物に投影する大掛かりな映像イベント=プロジェクションマッピング』と思われている方も多く、これから作ろうとしている方があのイメージでPMを作ろうとすると、かなりハードルの高いモノになってしまい、新たな参入志望者も二の足を踏んでしまうなど多少の誤解を生んでいます。いまはPMのちゃんとした認識の啓蒙が必要だと感じています。またPMの数は増えたのですが、質の面でそれが向上しているかと言えば、そこはなかなか上がっていっていないのも現実です。大掛かりなPMにしてもその規模で驚かれる方は多いのですが、内容面からすればある程度のクオリティはあるものの、海外等の事例からすればオリジナリティやPMとしての新しさがあるかと言えば、そこも今ひとつというのが現状でしょう。
――日本のPMにおける問題点とは?
いま日本で行われているPMというのは、そのほとんどが海外の事例の真似、もしくはそのレベルのものが多いです。その意味で海外からも評価される作品にはなっていない。新しいモノを生み出して、どれだけ新鮮なショックを与えられるかというのもPMの表現の重要な部分だと思います。ただここ数年の日本のPMというのはまだまだ黎明期であり、まずは誰もが『とりあえずやってみよう!』という段階でしたので、それがようやく今年ぐらいから変わってくるのではないかと感じています。
今後作品の数が出て来くれば、その後はある程度クオリティの高いモノでないと残れないでしょうし、やはりオリジナリティという側面が重要視されてくるのではないかと考えています。また例の『東京駅』の事例が大きな反響を呼んだ背景には、マスメディアを絡ませた宣伝効果など広告的認知の側面も大きかったのですが、その結果として『PMは広告手法の一つです』と表現しているSNSの書き込みやメディアの表現もありました。僕としてはあまり広告に偏ってほしくないと思っています。
僕自身は、PMは一つの手法でしかなく、あまりにその手法ばかりに目がいってしまうと、面白さであるとか伝えたいことや表現したいことの本質が失われてしまい、奥行きがなくなるという危険もあると思います。僕は今後PMを一つの映像文化と捉えて、時に映画を観るように、もしくは花火を見るように、PMを皆で楽しんでいくという方向で考えれば、もっと根付いたものになっていくと考えています。
――今後PMは、どうなっていくのでしょうか?
いわゆる『東京駅』タイプの大掛かりな『打ち上げ花火』型の、大勢で参加するPMももちろん多く開催されていくと思いますが、一方で『線香花火』型といいますか、先日渋谷で行われた『The Ice Book』のようなPM手法にも今後は派生していくと面白い事になると思っています。こうした規模の作品の方が観た人の記憶には鮮明に残ります。彼らはすでにこうした作品を某酒造メーカーなどとコラボして、PMを絡めたアート作品として売り出すなど、作品的にもマネタイズの部分でも新しい創造活動を行っています。こうした動きが日本の中でも積極的に出来てくると理想的な状況が生まれて来るのではないかと考えています。
The Ice Book
今年1月に渋谷の”キノハウス(KINOHOUS)”で開催されたPMを応用したマイクロシアター作品。一回10人という規模で、ペーパークラフトにリアプロジェクションで物語を上映。イギリスのデイビー&クリスティン・マクガイアという夫妻のアーティストデュオによるPMとモノクロの無声映画を掛け合わせたような作品で、夫のデイビーがディレクターを務め、妻のクリスティンは元シルク・ドゥ・ソレイユのパフォーマーという経歴の持ち主で、デザインとパフォーマンスを担当
――いまmichiさんが特に注目されているPMとは?
注目しているアーティストとしては、マッピングアートのパイオニアとして有名なANTIVJの作品で、ポーランドにある7〜80mもある巨大なドームの空間で常設展示されている『Omicron』L字の壁にジオメトリックな線を描いてある空間の中で、立体的な視覚効果を生み出す『EYAFJALLAJOKULL』など、海外では魅力的な作品が生み出されています。日本では環境的、法律的に実現不可能なものも多いので、日本ではまた独自の方法論が求められるでしょう。例えばこれまでのような建物投影の大きな作品から、前述の『The Ice Book』のようなミニプロジェクターを使った手法で卓上サイズでできるような作品まで様々な表現方法があります。
Omicron
EYAFJALLAJOKULL
何かのプレゼンテーションの一部としてPMを取り入れた例なども面白いですし、すでに実用されている事例もあります。また投影されるスクリーンとなる物体も、小型であれば様々なバリエーションが生まれます。先日もニコニコ超会議ではキノコの”しめじ”に投影するPMなどが紹介されましたが、形が変われば投影する映像も変わってきます。僕はよく学生に、PMのセミナーやワークショップを行う時、まず最初に映像を投影する物体(スクリーン)の方を選ばせます。そこがまず様々な形=投影条件が変化することで、そこから映像への発想力やオリジナリティも生まれ易くなります。
――PMを業務として取り入れたい映像関係者も多いと思います、まずはどう動けば良いでしょうか?
一つ海外との大きな違いとして、日本ではPMは映像系の会社が中心となって行われていますが、海外ではアーキテクト(建築家、設計者)や空間演出などのアーティストが先導してPMを行っている場合が多いです。そこで感じるのは映像系作家の作品に比べて、彼らの創り出す作品は光と影の使い方のセンスが格段に違うことです。その部分では、映像以外の空間演出や建築構造などの知識も習得したり、もしくはそうした専門家とのチームづくりも大切かもしれません。また仕事としてPMを受注した場合、企画段階ではただPMがやりたいというだけの話題性優先の案件も多いのが現状で、PMを使って実際に何を表現でしたいのかが明確でないケースも多いのです。企画段階でまずそのことを明確にできるようなプリプロダクション時点での理解とその周知が必要だと思います。さらにPM制作というのはクリエイター、専門的な機材の技術者、そして上映場所や施設に関わるスタッフや機関など、多岐に渡るジャンルの、多くの人材が結集して作り上げるモノなので、クライアントも含めて同じ目線を合わせて作る、という関係性を築けるかどうかが成功のカギになるのではないでしょうか?
尚、5月30日に石多未知行氏を迎え、プロジェクションマッピングの最新事情が分かるイベント“CPP〜これからのプロジェクションマッピングビジネスの方向性〜”が開催される。プロジェクションマッピングの今を知る絶好の機会だ。詳細はこちらから。