txt:江夏 由洋 構成:編集部
満を持して登場したPMW-F55
2012年にF65が発表になった際に、すごいカメラが登場したという印象よりも「一体このモンスターは誰が使うんだろう?」という感想を持った。確かに8K RGBセンサーやRAW収録のワークフロー、ロータリーシャッターを搭載していることなど全てがハイエンドであるF65は、デジタルシネマカメラ史上の最高傑作といっていいだろう。映画「オブリビオン」で使用されてようやく本格的な使用が始まり、2013年になってもそのファームウエアは更新され、iPadによるコントロールや新しいRAW Viewerなどが登場しF65は頂点に立つカメラに相応しい進化を遂げている。しかしカメラの価格やワークフローに必要な様々な環境を考えるとF65の制作は相当大がかりになってしまう。カメラ本体のサイズもさることながら、撮影データの大きさもなかなか簡単にポストプロダクションでハンドリングできるものではない。
そんな中2012年11月にSONYが発表したのがPMW-F55だ。水面下で長い期間かけてSONYが温めてきた技術が詰まった一台である。REDが4Kのデジタルシネマカメラを形にした2007年から5年の歳月をかけて、遂にSONYも現実的なカメラを完成させた。もちろん長い月日をかけてきただけの技術がギッシリとつまっている。
XAVCという可能性に満ちた新コーデック
XAVCの4K切り抜き。その解像感は素晴らしく、なんとビットレートもお手軽だ※画像をクリックすると元サイズのpngデータが開きます。約12.4MB
まず4Kの映像を収められるXAVCというコーデックを搭載した。これはSONYが独自で開発した4K対応の10bit 4:2:2のイントラフレームで構成される新しいコーデックだ。その特徴はなんといっても高圧縮・高画質というところだ。4K/24fpsでそのビットレートが何と240Mbps程度、HDでいうとProRes422のHQと全く同サイズでかなりの「お手軽」コーデックと言えるだろう。そのため素材データの運用が、コピーやアーカイブ時に効率的に行えるというのが嬉しい。PMW-F55で使用されるメディアはSxS PRO+(エス・バイ・エス プロプラス)だが、128GBであれば1時間程度の収録が可能で、シネマガンマとしてS-Log2を搭載し14Stopものダイナミックレンジで被写体を捉えることができる。F55で撮影した4K素材は、従来のHD映像のようなワークフローでポストプロダクションを迎えられるという、まるで夢のような話が実現した。
次世代のセンサーを搭載
ストロボを焚いて撮影した映像の切りぬき。フラッシュバンドは全くない。基準感度ISO1250という次世代のセンサーには可能性が詰まっている※画像をクリックすると元サイズのpngデータが開きます。約5.7MB
またF55のセンサーも非常に素晴らしい。REDやC500といった他のセンサーの基準感度は大体ISO800程度で十分に高感度で大変優れていると言えるのだが、F55の基準感度はその上のなんとISO1250である。また「イメージフレームスキャン」というグローバルシャッターの機能も搭載し、ローリングシャッター現象やフラッシュバンドノイズなどの映像破たんを完全にシャットアウトしているというのも注目に値する。いろんな進化を遂げたF55のセンサーは間違いなく次世代のセンサーであると言えるだろう。
SONYのF55オフィシャルムービー
4K市場のど真ん中
まずはF55で撮影した素材を見て頂きたい。これぞ4Kと言っていいほどの解像感を感じて頂けると思う(YouTubeでは4096×2160の4Kでアップロードしております。解像度設定を「オリジナル」にすると4K再生が行われます)。ここまでのディティールの表現力は、REDを凌ぐかもしれない。おそらくF55はデジタルシネマカメラという位置づけでありながら、放送というジャンルも視野にいれているため非常に正直な表現をめざしているとも感じられる。このあたりがSONYらしいチューニングの仕方だ。
更には4KのSDIモニター出力を搭載していることに表されているように、4Kのあらゆるニーズに応える一台をF55に込めたのではないだろうか。実際にF55を使った制作事例には、CMやPV、映画といったシネマの表現に加えて、スポーツ中継などの放送なども各所で紹介している。F55が「4Kカメラのスタンダード」として位置づけられるのも、そういった汎用性の高いスペックを兼ね備えているカメラだからであろう。ズバリ4Kマーケットのど真ん中にPMW-F55は投入されたといっても過言では無い。
解像度の高さと色編集への粘り‐XAVCの威力
Premiere Pro CCでの作業画面。ネイティブでXAVCがタイムラインに載る
XAVCのワークフローは従来のHDとさほど変わらない。AdobeのソフトウエアもCC(Creative Cloud)になってからネイティブでXAVCを扱えるようになった。そのためカメラからインジェストした素材をそのままPremiere Proに載せることができる。前述にあるように240Mbpsというお手軽さは、編集中もその映像が4Kであることを忘れてしまうほどである一方で、10bit 4:2:2という堅牢な数字に担保されるように、色編集にもその余裕を見ることができる。加えてS-Log2で撮影した14Stopのダイナミックレンジを持つ映像は、LOG素材としては相当のポテンシャルを持っているのだ。もちろんXAVCはDaVinci Resolveでもネイティブで扱うことができる。昨年F55でショートムービーを撮影した際にベテランのカラリストが「こんな素材が撮影できるなんて、すごいカメラですね。今までに見たことのないほどの色編集の自由度があります」と驚いていた。RAW素材と肩を並べるほどの粘りがあるそうだ。実際に私もDaVinciを使って作業をしていると、これだけの小さいファイルサイズでここまでの色をいじれることにチョットびっくりしている。
充実した周辺機器にも注目
そしてSONYは今回F55のリリースにあわせてPLマウントのシネマレンズシリーズ6本を発売した。SCL-PKシリーズで、20mm、25mm、35mm、50mm、85mm、135mmというフルレンジでラインナップをそろえてきた。個人的には135mmが捉える映像が非常に気に入っている。ちょうど絞りがF8程度のきれいな色味の中で、何とも言えない被写界深度を表現することができるからだ。SONYがレンズ群を発売するということ自体が驚きではあった。F3の発売の際にシネマレンズをリリースして以来、今回のレンズ群のクオリティは更に「ハイエンド」を狙った仕様になっている。
バッテリーにも新しい技術が投入された。オリビン型リン酸鉄リチウムを使用したVマウント式のバッテリー、BP-FL75である。そもそもF55自体の消費電力も25Whという、信じられないほどの省電力仕様なのだが、このバッテリーは従来の同容量のものと比べて「2倍長持ち、充電時間1/2」という性能を持っているため現場では非常に心強い。何といっても1日の撮影であっても2本~3本あれば十分に運用できるだけでなく、撮影中に使用済みのバッテリーを充電することが短時間でできるため、フィールドの撮影でもバッテリー交換の手間を省くことができるのだ。更にOLEDのハーフHDサイズのEVFや、7インチのフルHDモニターなど、4K撮影には欠かせない新しい周辺機器が続々と発表になり、F55のより快適な撮影をするための環境が整うことになった。
135mmの4K切り抜き※画像をクリックすると元サイズのpngデータが開きます。約8MB
そしてRAW収録という盤石のオプション
PMW-F55は内部収録のXAVCに加えて、RAW収録のオプションも用意されている。いわゆるモジュラー式となるRAWレコーダーのAXS-R5は、カメラのリア部分にドッキングさせる形で装着させることが可能だ。RAWレコーダーで使用するメモリはSxS PRO+ではなく、2.4Gbpsという超高速メディアであるAXSメモリーカードを使用する。なんとAXS-R5では16bit RAWという4Kの映像を収録することができるのだ。16bitという深度を持つ情報量は、おそらく無敵と言っていい。XAVCというハンディなコーデックと、RAWという隙のない収録ができるという意味で、F55は4Kデジタルシネマカメラとして盤石の体制を整えている。あらゆるシーンでの4K撮影のスタイルに応えてくれる。
視点
SONYはきちんと期待に応えてくれた。というかPMW-F55は期待を大きく上回る一台となったと言っていいだろう。その洗練されたデザインもさることながら、多くの4Kシーンをカバーできるその機能の数々は見事というしかない。4Kの市場に併せて、2013年というタイミングにうまくランディングしたのではないだろうか。当初発表されたスペックがリリース時のファームウエアで間に合わなかったという点もあるものの、このカメラがもたらしてくれる4K制作への可能性は、デジタルシネマという枠を超えて、中継や番組といった次世代のメディアを見据えていると言っていいだろう。世界中の4K制作でF55が活躍することは間違いない。