txt:江夏 由洋 構成:編集部
大切なのはデジタルシネマの映像を操作できる環境
MacBook Proの15インチRetinaモデルは映像編集において高いパフォーマンスを実現する
今回は6台のメジャーカメラを通じてデジタルシネマの可能性を探ってみた。どのカメラも素晴らしく、個性があるというのが私の感想だ。最初にも述べたが、単純なカメラ映像の比較はあまりアテにならないと思っているので、やれこのカメラはノイズが多いだとか、やれこのカメラは解像感があるとか、そういう議論はここでは敢えて展開しなかった。大切なのは自分が表現したい画をどう技術的に捉えていくかというところであると感じている。そしてすでにフィルムと肩をならべる、あるいはフィルムを超えた映像を表現できるデジタルシネマカメラが次々とラインナップされたことで、我々クリエーターは新しい可能性に自分たちの創造をぶつけることができるまでになった。まさに夢のようだ。
そんな中、一つだけ心がけておくことがある。それは編集環境を整えるということだ。つまりそれはデジタルシネマカメラの素材をキチンと操ることのできるパソコンを持つということである。一番簡単なのはMacBook ProのRetina15インチとThunderboltのストレージを用意することかもしれないが、やはりここはデスクトップの安定性があって、ストレスのない環境を用意しておくことを強くお勧めする。MacBook Pro Retina15インチはNVIDIAのグラフィックカードを積んでいたり、SSDにシステムが入っていたり、USB3.0やThunderboltといった次世代のインターフェースが入っていたりと非常に「使える」一台であることは間違いない。パワフルで携帯性も優れていることから私も現場だけでなくいろいろなシチュエーションで活用させてもらっている。しかし仕事でデジタルシネマを編集するとなると、やはり堅牢なデスクトップマシンに勝るものはない。今のところWindowsのシステムが効率的な一台を実現してくれそうだ。
スタンダードはHPのZ820。堅牢で高いスピードを誇る一台
今最も映像編集で「パワフル」なものはHPのZ820である。世界中の映像編集のプロフェッショナルが選ぶ一台としてデファクトスタンダードであると言っていいだろう。特にデジタルシネマカメラのような容量が大きいデータのやり取りや、4Kやハイフレームレートといった素材の編集には高いパフォーマンスがパソコンに要求される。Z820の場合、Xeonプロセッサーの安定感もさることながら、単純明快のサーバー用として設計されたシンプルで頑丈なシステム構造で、高いデータ量の映像編集を行う条件をしっかりとこなしてくれるのだ。
しかしZ820の導入にはそれなりのコストがかかる。実に誰でも買えるようなマシンではない(私も未だ旧モデルのZ800ユーザーである)。ただ工夫次第でかなりのパワーアップを図れるので、ここでは少し私の今のシステムを紹介したいと思う。いわゆる自作系になってしまうのだが、注目は今年の6月に発売となったインテルCPUのHaswell世代と、NVIDIAの新Kepler世代GPUである。
新しく作成したHaswell世代のCPUと新Kepler世代のGPUで組んだマシン
求められるのはGPUとディスクスピード、そしてメモリ
NVIDIAの新Kepler世代のGeForce GTX 780。ゲーマーのためのハイエンドカードでもある
まず最近の映像編集の傾向として、パソコンに求められるスペックは大きく3つに絞られる。まずはGPUの性能だ。これはシンプルにNVIDIA社製の高性能なチップセットを載せているかということだ。NVIDIAのCUDAテクノロジを利用した映像演算が、デジタルシネマの編集で非常に大切になってくる。一昔前は、Quadroシリーズといった業務用のグラフィックカードの中には50万円以上したものもあったが、最近はいわゆるゲーマーのためのリアルタイム性を非常に重視したコストパフォーマンスの高いGeForceラインアップが注目され始めている。今年の6月にいよいよリリースされた新Kepler世代のGTX 780、770には映像編集でも大いに活躍が期待できるラインアップだ。GTX 770にいたっては5万円台で購入が可能ということもあり、非常に汎用性の高い一枚であるといえる。
そしてディスクスピードだ。4Kのように読み出しの速度が求められる場合、素材の置き場所なるディスクのスピードはRAIDを組むか、SSDにすることでスピードを稼ぐ必要がある。但しSSDは通常のHDDと比較しても高価であると同時に、揮発性が非常に高くなるため、データ損失のリスクもそれなりに伴うといっていい。ということで私はOSやアプリケーションを入れておくドライブにSSDを、そして大容量のデータを入れておく場所にHDDのRAIDドライブをアサインしている。こうすることでOSやアプリケーションの立ち上がりでストレスを感じることもない一方で、安価で大容量のHDDに大量のデータを安心して置くことができるからだ。最近はソフトウエアでRAIDを組むことも可能であるが、RAIDカードを使用する方法もある。ちなみにシステムで使用するSSDのスピードは300MB/s程度で、データ用のRAIDディスクは230MB/s程度と非常にストレスの少ない動きを見せてくれている。
RAIDを組んでいるデータフィールドのディスクスピードは230MB/s程度。どちらかというと容量を重視している
またSSDやHDDには相応のものを選ぶようにしている。最近は安くてスピードのあるSSDなどが人気のようであるが、やはり一日8時間平均でアクセスのあるシステムディスクにはデータセンター仕様のものを選んでおく方がいい。またHDDも最近注目をあつめているのが「ニアライン用」のものだ。ニアラインとは24時間中ずっとアクセスされているオンライン用と、アーカイブなどで使用されるオフラインの中間に位置するもので、個人が使用する頻度において堅牢性を追求されたものである。いずれにせよしっかりと安全性を担保したうえで、デジタルシネマの映像をハンドリングしたいところだ。
RAIDで使用しているニアライン用にHDD。TOSHIBA MG03ACA200
システムで使用しているSSDもIntelのデータセンター用のものを使用
あとはメモリの容量をそれなりに積んでおくといい。32GB以上あれば問題ない。Z820のようにデュアルCPUでシステムを組むとCPUの数に対してメモリを差す必要がある。レンダリングなどを考えるともちろんデュアルが勝るのだが、最近はCPUの性能がかなり上がったと同時にコストパフォーマンスを考えるとシングルCPUのマルチコア・マルチスレッドで動かすほうが効率がいいと感じる。そのためCPUは内蔵GPUを有さないXEONなどを選び、それに対してメモリをアサインするのがいいだろう。驚いたのは最新のHaswell世代のXeonクアッドコアCPUの価格が非常に安いということだ。XeonであってもE3シリーズは2万円台で購入できる。結局GeForce GTX 780やSSDのドライブ、Xeonや32GBのメモリを積んだすごいマシンは30万円以下で組み立てることができてしまう。ちなみにGeForceは複数枚のカードをSLIでつなぐことが可能だ。予算に余裕がある場合は、2枚のGTX 780をSLIでつなぐことで、驚くようなパフォーマンスを手にできる。
Haswell世代のXeonプロセッサー。E3-1240で価格は実売で3万円を切っている
いよいよ4Kの時代へ
DaVinci Resolveでの使用感はリアルタイム再生とまではいかないが、4Kの映像であってもストレスはない
このHaswellと新Keplerの世代PCの能力は、想像以上に高い。ベンチマークなどもさることながら、4Kのデジタルシネマ編集は結構サクサクと行うことができるのだ。テクノロジーの進化により、情報量の多い4Kのような高度な処理が必要とされる映像も、30万円で制作できるパソコンで余裕をもって編集できるようになった。2013年になってマシンの環境がよりハイスペック&高コストパフォーマンスになったことで、ポストプロダクションにおいてもデジタルシネマのワークフローは効率化されたことになる。4Kやハイスピードといった次世代の映像制作はいよいよ全ての人に開かれることになった。
NVIDIA GTX 780のCinebenchによるベンチマーク
視点
デジタルシネマを考える特集の最後は、パソコンの話になってしまったが、4Kの映像制作の中心は最終的にはマシンに委ねられることが多い。撮影は一日で終わっても編集は数日にわたることもある。撮影から完パケまでのワークフローをいかにHDと同様なサイズで構築していけるかがこれからのトレンドになることだろう。デジタルシネマカメラが各社からそれぞれ発売になり、それを支えるマシンも確実性を帯びてきている。2013年はあらゆる意味でデジタルシネマの時代が大きな一歩を踏み出す年だ。デジタルシネマの数々の作品が、映像に携わる大勢の人から形になっていくのだろう。夢だったことが、いよいよ現実のものとなる。大きな転換期を迎える映像制作の世界に、是非ともたくさんのチャレンジをしていただきたい。