txt:江夏 由洋 構成:編集部

4K 120fpsの「空間解像度」と「時間解像度」

HR13_04_001.jpg

HS撮影をこれほど簡単に行えるカメラはこれまでなかっただろう

4Kという言葉はいわゆるHDからの空間解像度の向上を意味するのであるが、今回注目するSony NEX-FS700J(以下、FS700)は空間解像度に加えて、一秒間に捉える映像を増やす「時間解像度」をスペックアップした一台で、ハイスピード撮影の付加価値をつけて発売されているカメラである。FS700は2012年の発売当初、70万円という価格でフルHD最大240fpsを撮影できるカメラとして注目を集めたが、1年後の今年6月にアップグレードを行い、遂に4K RAW収録(4096×2160)ができるようになった。また驚くことに4K収録にはカメラ本体以外にRAWレコーダーなどのアクセサリーが必要にはなるが、4Kで最大120fpsの収録に対応しているのだ。

FS700の発売当初、将来的な4K撮影が可能なセンサーと謳っていたが、1年が経ち、ついに4K収録に対応することとなった

さらにこのFS700が今回のアップグレードで注目を集める点は、ガンマカーブにソニー純正のS-Log2を搭載したことだ。今までFS700にはLogカーブが搭載されていなかったため、シネマカメラとしては少々の不十分さを感じざるを得ないところがあったが、今回のLogの搭載は、特にポスプロにおける色編集で、更にこのカメラの可能性を高めることになりそうだ。これにより4K RAW/ハイスピード/Logという走攻守揃ったFS700は非常に大きなポテンシャルを持ったカメラになったと言えるだろう。

選択肢の一つとしてのFS700

Metabones社製のマウントアダプター SpeedBoosterでFS700はさらに大きな付加価値を得た

ハイスピード撮影は昨今の映像表現で多用される表現の一つであり、CMやドラマの演出で数多く使われている。そのため、時間解像度を手軽に操ることができるFS700が注目を集めるのは当然のことなのだろう。ノーマルスピードもハイスピードもボタン一つで切り替え可能で、デジタルシネマカメラの中でも筐体が軽く、FS700はまさにあらゆるシーンに対応できる機動力を持ち合わせたマルチなカメラなのだ。

これまでのハイスピード撮影と言えば、Phantomなどのハイスピードに特化したカメラの専売特許であった。しかしそういったカメラを使ったハイスピードの撮影ではそれなりの知識や技術力が必要で、カメラの価格も決してリーズナブルではないと言っていいだろう。そのためフレームレートが240fpsで、ワンマンでグイグイ撮影ができるFS700には相当の需要が集まった。もちろんS35mm相当のセンサーが捉えるシネマライクな映像も相乗し、一気に人気を博すことになったのだ。

またサードパーティーがリリースするレンズマウント交換を使用すれば、EFマウントを使用することが可能で、より多くのレンズの選択肢を持つことが可能だ。注目なのはMetabones社のSpeedBoosterというEマウントをEFマウントに変換するマウントアダプターで、フルサイズ用のEFレンズをつけても35mm換算にしたときの倍率が1.1倍に抑えられるという優れものだ。さらに集光機能が高く、開放絞り値が1段分明るくなるスペックを持っており、FS700を最大限に生かすことができる変換マウントアダプターだ。絞りのコントロールもFS700の本体から行えるというのも魅力的である。

SDIケーブル1本で行うRAW収録

R5(右)にIFR5(左)を取り付けた状態。このユニットで4K収録ができる

FS700の内部収録形式はAVCHDで行われ、NXCAM専用のメディアレコーダー「FLASH MEMORY UNIT(FMU)」と、SDカードに同時収録される(ハイスピードの場合は、FMUかSDカードのどちらかに収録)。ただし、FS700の3G-SDI出力からは8bit 非圧縮4:2:2の映像信号が出力されているため、この出力を外部収録器などでキャプチャすれば、ProResなどのコーデックでも収録が行えるのだ。240fpsなどのハイスピードを収録する際は、カメラ側の出力が60fpsになるため、60fps入力に対応したレコーダーが必要となるため、注意が必要だ。

今回の4K RAW映像は、この3G-SDI信号を使用し、外部RAWレコーダーに収録する形だ。RAWレコーダーはPMW-F55と同時に発売されたAXS-R5(以下、R5)をFS700でも使用する。しかし、F55はカメラの背面側へR5を直接取り付けられるのだが、FS700では、新たに発売されたインターフェースユニット、HXR-IFR5(以下、IFR5)を介してR5に信号を送ることとなる。

IFR5にはSDI INがあり、SDIケーブル1本で4K収録を行う
R5にはVマウントバッテリーを取り付けて稼働する。またR5にはSDI出力があるため、モニタリングも簡単に行える

AXSメモリーカードと圧縮RAW

AXSメモリーカード(左)とFMU。AXSメモリーカードは512GBで18万円と比較的安価だ

R5にはAXSメモリーカードというメディアを使用する。AXSメモリーカードに記録される記録フォーマットはF55やF5で記録されるRAWデータと同じく、MXFファイル形式だ。ちなみにこのRAWは圧縮されたRAWデータであり、膨大な量のデータをコンパクトにするための工夫が施され、3G-SDI1本でデータを転送できるようになっている。ただしビットレートは非常に高く、512GBのAXSメモリーカードには24pベースで約60分しか収録されないため、メモリーカードの運用には気を付けた方がいいだろう。ちなみにAXSメモリーカードは1枚18万円前後の価格である。EpicのREDMAGが512GBで51万円、EOS-1D CのCFカードが128GBで7万円ほどなので、メモリーを1GB単位で考えると4K収録メディアの中では安価であると言える。

強化されたハイスピードモード

IFR5は出力を自動で読み込んで撮影が行えるため、設定などの作業はほとんどいらない

4K収録時のフレームレートは24、30、60、120fpsの中から選択でき、60fpsまでは秒数制限がなくメモリーがフルになるまでカメラを回し続けられる。また、120fpsではバッファーメモリーなどの問題から収録時間はリアルタイムで約4秒間だけとなっている。4秒という数字は非常に短く感じるが、最終的にスローの映像となるため4秒と言えども充分なことが多い。例えば120fpsで4秒間撮影した場合、全部で480フレームを収録したこととなる。その480フレームを24pベースで再生すると20秒尺の映像素材となる論理だ。人物が歩いているスロー感やスポーツの一瞬を切り取るのであれば、4秒という時間でも映像演出で充分躍動感のある画を手に入れることができるだろう。

またR5には4Kだけではなく2Kサイズ(2048×1080)でも収録をすることができる。2K最大フレームレートは240fpsとなり、驚くことに秒数制限はない。そのため、24pベースの場合10倍のスロー映像を限りなく撮影ができるのだ。従来のFS700はHDサイズで8秒間しか240fpsは撮影できなかった。そのため例えば1テイクしか撮影できないような規模の撮影時などでは、RAWの無制限記録は非常に心強いスペックであるといえる。

ISO2000のノイズ感

S-Log2の搭載でダイナミックレンジを1300%まで使用できるようになった

今回のバージョンアップで4Kと共に注目される「S-Log2」により、FS700の色表現の可能性は大きく向上したと言っていいだろう。これまでピクチャープロファイル内にCINE2というLog風なガンマカーブが入っていたが、そのカーブを使ってもLogまでの色編集の自由度を得ることはできなかった。デジタルシネマとしての映像を収録する際には、FS700に若干の不満を感じていたのは事実である。

そして今回実装されたS-Log2は、ダイナミックレンジをなんと1300%というレンジで使用できるようになっており、豊かな諧調で収録ができるようになった。他のLogがダイナミックレンジを800%まで使用できるものが多い中、1300%であれば明部・暗部のコントラストが強くてもヒストグラム内にデータを収めやすくなった。ただし注意すべきことは、S-Log2を選ぶと撮影のISOがISO2000となってしまう。センサーはアップグレード前と同じため、ISO2000でのノイズ感は心配である。

S-Log2にするとISOは2000になってしまう。その際にこのISOは下げることができない

「S-Log2」の実用性

実際にはR5とカメラはSDIでつながっているため、カメラから離して使用しても問題ない

実際にS-Log2で4K RAW収録を行い、ISO2000の使い勝手とS-Log2の諧調を見たところ、予想を上回る画質で収録されていた。晴天下の屋外で雲も少なく暗部から明部へのコントラストが強い日で、これまでのピクチャープロファイルを使用していれば、間違いなくダイナミックレンジに映像情報は収まりきっていなかっただろう。しかしS-Log2のダイナミックレンジは広く、収録段階で白飛び/黒潰れも見られなかったため、ポスプロの段階でも余裕を持って色補正を行うことができた。

しかし、ISO2000のノイズ感は否めない。FS700のISO感度設定でノイズが顕著にならない上限はISO1250だと思っているので、さすがにISO2000ではノイズが目立つようだった。特に人物の髪の毛などの暗部にはノイズが出現してしまったのだ。そのノイズは輝度を調整するとやはり顕著に表れてしまうため、S/N比をかせぐためにもフレーム内の情報はクリップさせない程度に明部側に寄せて、飛ばさないように攻めて撮影することがいいだろう。ポストプロダクションの色補正では、今回はAdobe After EffectsでMagic BulletのDenoiserを用いてノイズ除去を行った後、アンシャープマスクを若干調整した。編集用のモニターで確認する限りではノイズも綺麗に消え、シャープネスにより立体感も出すことができた。

4Kはフォーカスがシビアになるため、モニタリングが非常に重要になる
HR13_04_013.pngSonyの無償ソフトRAW VIEWERで4K素材のモニタリングや書き出しなどを行う
※画像をクリックすると元サイズのデータが開きます。

視点

FS700が4K対応、そしてS-Log2を導入したことで、F65、F55と続いてきたSonyの4Kソリューションがひとまず整ったと言えるだろう。もちろん価格帯も4Kカメラの中では非常に安く、カメラ本体とIFR5など一連のキットを含めても総費用は約170万円ほどだ。なお既存のFS700では4K収録には対応しておらず、4K対応を希望する場合にファームウエアの有償バージョンアップが必要となるため注意が必要だ(バージョンアップの費用は約3万円)。4K+ハイスピード+Logを兼ね揃える新たなカメラとしてどんどん活用してもらいたい一台だ。


Vol.03 [High Resolution! 2013] Vol.05

WRITER PROFILE

江夏由洋

江夏由洋

デジタルシネマクリエーター。8K/4Kの映像制作を多く手掛け、最先端の技術を探求。兄弟でクリエイティブカンパニー・マリモレコーズを牽引する。