txt:江夏 由洋 構成:編集部

映像業界を驚かすBlackmagic Design製カメラ

その価格といい、BMCCの登場は驚きであった

これまでカメラプロダクツとは縁のなかったBlackmagic Design社から、突如想像もしなかった高スペックなカメラが発表されたことで映像業界に衝撃が走った。Blackmagic Cinema Camera(BMCC)という1台だ。BMCCは映像編集では人気の高いProResを世界で初めてカメラの収録コーデックとして採用し、さらに2.5Kという大きな解像度でCinemaDNGの12bit連番によるRAW収録までを30万円という価格の中で実現してしまった。それだけでは止まらず、EFマウントやMFTマウント搭載、Cinema Log搭載、収録メディアはSSD、そしてHD-SDIとThunderboltをインターフェースに持つという、まさに同価格帯のDSLRを圧倒する次世代のスペックを持ち合わせ、その登場はセンセーショナルなものとなった。

BMCCにはEFとMFTマウントの2種類あるが、センサーサイズは共にフォーサーズサイズと他のシネマカメラに比べて小さい

2.5K RAWというサイズ

2.5Kではスタビライザーが非常に有効に使えるためハンディの撮影の際はとても重宝する

今回特集しているデジタルシネマカメラの全てが4Kサイズの解像度を持っている中で、このBMCCの収録サイズは最大で2.5Kである。実際にフルHD納品する作品に対し2.5K(2400×1350)という大きさは、リサイズやスタビライズの面で非常に有効だ。感覚的には最終納品サイズをハーフHDとした場合に、収録をフルHDで行っていることに似ており、画角の微調整やちょっとしたズーミングにも対応できる大きさとして使いやすい。さらにポスプロ時に2.5Kをスタビライジングして画角にクロッピングが生じても、HDの解像度を維持できる場合もあるので非常に助かる。もちろん2.5Kからの純粋なHDダウンサイズも、より高い画質を生み出す効果的な手法だ。

また、2.5Kの解像度に加えて12bit RAWで収録できる点が魅力のひとつである。内部収録でRAW収録できるデジタルシネマカメラはかなりハイエンドのものばかりで、価格もなかなか個人が購入できるようなものではない。実際にRAWを使った収録ワークフローは限られた場所でしか展開されていないといっていいのだが、RAWデータの持つポストプロダクションにおける可能性には今多くの注目が集まっている。そんな中、高いコストパフォーマンスとともにRAW記録を可能にしたBMCCの影響力は計り知れないといっていいだろう。

更にBMCCのRAW収録では13絞り分のダイナミックレンジの広さを持つ。そのため、暗部から明部までの色情報を非常に細かく表現出来るのだ。これまでのDSLRのような8bit 4:2:0の画とは全く異なり、12bit RAWが映し出す画は階調も豊かで高いディティール表現を持ち、偽色などの問題もほとんどない。実際にこのカメラが捉える画質は正直「素晴らしい」の一言である。その価格からは想像をはるかに超えた、非常に高いクオリティの映像を収録することが可能だ。ただし、12bit非圧縮のビットレートは約1Gbpsとかなり高いため、データのインジェストやアーカイブの際における運用は丁寧に行う必要がある。

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一枚目:BMCCの2.5K RAW、二枚目:Canon EOS 5D Mark II。画質の差は一目瞭然だ。偽色は殆ど生じていない
※画像をクリックすると元サイズのpngデータが開きます

撮影スタイルによって周辺機器が必要に

インターフェイスはカメラ左面にまとまっており、カメラ史上はじめてThunderboltなどに対応した

実はBMCCは、本体を購入すればすぐに本番の撮影を迎えられるカメラではない。例えばDSLRのようなスチルカメラを使った動画撮影では、収録する際に本体だけでは十分な環境を作れない場合が多い。音声をよりしっかりと撮りたいときや、フォーカスや露出を確認するためのモニターを追加したりなど様々だ。しかし不満はありつつも、大判センサーが捉えるシネマライクな画質を優先して「頑張れば撮れてしまうからOK」という意識がユーザーの中には少なからずあったりする。

このBMCCもDSLRと同じように足りない機能が若干あるというのが本音だ。ただDSLR同様にアクセサリーで補える部分が多く、同じく「補えば問題なし」のカメラなのだ。一番の弱点は、バッテリーがカメラに内蔵しているという点だ。もし現場でバッテリーが切れたとしたら、カメラごと充電する必要があり、撮影を中断しなければならないという少し変わった仕様となっている。そのためリグを付けて、そこにVマウントバッテリーなどの外部給電の仕組みを組む必要があったりもする。また背面モニターだけではフォーカスや露出の調整が難しく、そのために外部モニターなどを別途用意しなければならない場合もあるだろう。ただしBMCCに様々なアクセサリーを追加したとしても、リグを含めて大体60万円程度で1セットを用意できてしまうため、依然そのコストパフォーマンスの高さには驚かされる。

カメラ上部にはネジが切ってあるように、アクセサリーを追加できるような設計となっている
実際の運用にはリグが最低限必要であり、カメラ単体での使用は少し難しい。外部モニターで露出チェックを行うと安心して撮影が行える

同梱するDaVinci Resolveで編集も可能!?

HR13_05_009.pngDaVinci Resolveでしか今のところCinemaDNGの連番を展開できない
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RAW収録されるデータは、収録メディアにAdobeのCinemaDNGファイルの連番で収録される。この連番ファイルを扱うには、無論DaVinci Resolveが最も適している。BMCCを購入するとDaVinci Resolveは同梱されており、BMCCユーザーにはマストのソフトウエアだ。このDaVinci Resolveの強みは、色調整を非常に細かく行えるだけではなく、多種多様に存在するカメラコーデックのほとんどをネイティブで扱えるという点だ。さらに精度の高いトラッキングやマスキング機能なども搭載し非常に高度なグレーディングを行えるため、一気にデジタルシネマの素材を「支える」ソフトウエアとして人気を博すことになった。今年中にはDaVinci Resolveがバージョン10にアップグレードされる予定で、編集機能なども強化されることになる。現在のところ、AVCHDに非対応ということだが、それ以外のコーデックにはほぼネイティブ対応しており、今後はグレーディングソフトの枠を超える「映像編集ソフトウエア」に進化すると期待されている。BMCCのRAW素材は今のところDaVinciを使って必要な部分を中間コーデックに書き出すことになるが、いずれ編集も含めた作業をまとめてDaVinci内で行えることになるだろう。

効率的なワークフローの「ProRes」フォーマット

前述の2.5KのCinemaDNGの他に、BMCCにはHDサイズのProResとDNxHDの2種類の収録コーデックが用意されている。特に動画ファイルとして大変人気の高いProResを直接SSDに収録できることが大きな魅力だ。ちなみにProResのコーデックは10bit 4:2:2のProRes HQで収録となっている。また、ProResコーデックはOSに依存することなく、多くのノンリニア編集ソフトでネイティブに扱うことができるのでFinalCutやPremiere Pro、Avidを使った従来のメジャーワークフローで運用が即可能だ。

CinemaDNGとProResの運用性

インタビューなどの2カメのシーンではデータ量を考慮してProPesで収録し、ダイナミックレンジが必要な外ロケではCinemaDNGで行うなど、撮影に合わせてコーデックを変えるのもいいだろう

実際にCinemaDNGとProResを比較すると、解像度は違えどその画質には差が無いように感じる。しかし、DaVinci Resolveでグレーディングを行うと、その調整範囲には歴然の差を感じることとなる。暗部/明部のコントラストが高い屋外の撮影の素材を比較したところ、ProResではクリップしていた部分の情報をCinemaDNGの素材では戻すことができた。逆にProResはCinemaDNGほど補正範囲は広くはないが、ProResゆえにサクサク編集ソフトで動くことは強い味方だろう。

先日、BMCC2台で外ロケやインタビューなどを行う機会があった。SSDの数に限りがあったため、長回しとなるインタビューなどはProResで収録を行った。しかし外ロケでダイナミックレンジが必要な晴天下のビューティー撮影では、収録をCinemaDNGへ切り替えるようにした。さらにヘリコプターによる空撮シーンもあり、スタビライジングを行いたかったため収録をCinemaDNGに選択するなど、使用用途に合わせた撮影スタイルを選べたことは効率的な運用につながったと実感している。

堅牢なSSDの使用が理想

SSDはサーバー用などの堅牢なものをオススメする

収録メディアを自社オリジナルのメディアではなく、汎用性のあるSSDを選択したことは非常に有り難い。ただし、気をつけたいポイントは2つある。1つは、どのSSDも使用できるわけではなく、Blackmagic Design社のHPにある検証済みのものを選択することだ。もちろんそれでも種類は豊富にあるため、予算に見合ったものを選ぶといいだろう。さらに2つめは、繰り返しの使用に強いSSDを選ぶことだ。SSDは揮発性の高いストレージであり、データが一度消滅してしまうと復旧の可能性は0%に近い。できればサーバー用などの耐久性の高いタイプを使用することをお勧めする。

また、CinemaDNGは1Gbpsのビットレートで、256GBのSSDでも30分ほどしか撮影できないため、現場には1TB分くらいのSSDは用意しておきたいところだ。ProResにおける収録の場合はCinemaDNGの約1/4のビットレートであり、単純に収録メディアのSSDに約4倍の2時間程の尺は収録できるため、収録効率も良く撮影から編集まで効率的に進められる。2.5KRAWが持つ魅力も大切ではあるが、ProResが捉える画質も相当なレベルであるため、先述のようにバランスを考えて撮影に臨むといいだろう。

SSDのリーダーはUSB3.0に対応したケースなど量販店で購入できる

FilmモードとVideoモード

Filmモードで撮影したヒストグラムでは、少しクリップしているがデータの諧調は深い
Videoモードで同じ画角で撮影したところ、大きくクリップしており、ダイナミックレンジの狭さがよくわかる

BMCCでは収録のガンマカーブをLogカーブのモードである「Film」とRec.709のモードである「Video」から選ぶことができる。RAW収録ではガンマカーブはFilmに固定され、ProResやDNxHDではFilmとVideoからのチョイスとなる。もちろんFilmで撮影した場合はグレーディングの作業がマストとなるのだが、ダイナミックレンジが13Stopを確保できる収録を行えるためFilmモードで収録することがベターだろう。またBMCCのホワイトバランス設定では細かい色温度を指定できず、3200、4500、5200、5400、6500Kからしか選択できない。そのためポスプロの調整範囲が広いFilmを選択しておくことで、より補正の余地を残すことができるのだ。もちろんFilmモードで捉えられる映像の美しさとグレーディングへの自由度は、「格別」であることは誰もが同意してくれると思う。

視点

BMCCは性能と価格が全く見合っていない、あまりにもコストパフォーマンスが高いカメラだ。その分、一部で使いにくい部分もあるかもしれないが、それは他の機材で補えるところでもあるので大きな問題ではないと感じている。なんといっても画質の良さは同価格帯のカメラでは群を抜いており、さらに数々のハイエンドデジタルシネマカメラの映像と比較してもそのクオリティは肩をならべている。また、Blackmagic Design社の勢いはBMCCだけに止まらず、今後は4Kに対応したBlackmagic Production Camera 4Kや小型のPocket Cinema Cameraなどの新たなカメラも発売も決定している。DaVinci Resolveとのソリューションを含めて、Blackmagic Design社の動向には目が離せない。


Vol.04 [High Resolution! 2013] Vol.06