txt:江夏 由洋 構成:編集部

EOS C500が持つ特殊な4Kシステム―外部収録という自由度

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C500が捉える4K画質は、実に素晴らしいの一言だ

High Resolution/4Kの特集の最後にフォーカスを当てるカメラは「EOS C500」である。CINEMA EOSシリーズのハイエンドモデルであるEOS C500は昨年10月に発売された4K RAW収録が可能なデジタルシネマカメラだ。発売されて約10か月が経過する中、4Kワークフローへの認知度や信頼性はまだこれからの段階なのか、そこまで撮影事例数が多いカメラではないというのが現状だ。その大きな理由は、やはり外部収録機に依存される4K収録システムだろう。C500の内部メディアであるCFカードには最大HDサイズでしか収録されないため、4K、2Kを収録するためにはサードバーティーの外部収録機を必要とする。現在ではC500に対応した外部収録機が5種類出ており、撮影のスタイルに合わせて機種を選べるようになっているものの、C500の4Kソリューションは自由度が高く、システムへの知識や経験も必要とされ今のところ少し敷居が高い印象が強いのかもしれない。ただしC500が捉える4Kの映像は非常に解像感が高く、豊かな表現力を持っていると、撮影を通じて実感している。

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C300に4K収録機能を追加したC500。形状は大きく変わりはない

Ki Pro QuadによるProRes 4444撮影

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Ki Pro Quadは4K RAW収録も可能だが、Thunderbolt経由で外部ストレージに収録することとなる

今回はC500と組み合わせる外部収録機にAJA Video SystemのKi Pro Quadを選択した。C500の外部収録機としては「待望」の一台ともいえるKi Pro Quadは、C500のSDIからのRAW信号をProResで収録できるという優れものだ。また12bitでRGB4:4:4の色情報を持てるProRes 4444を4Kの収録フォーマットとして選ぶことができるため、RAWに劣らぬ撮影を効率的に行える。C500の4K出力は10bitRAWのため、実質はRAWであれ4:4:4:4であれ10bitでの収録がマキシマムとなる。ちなみにKi Pro Quadを使用するRAW収録はThunderboltケーブルを通じてMacを介したオペレーションを必要とする。今回はステディカムに搭載して撮影する演出があったこともあり、ProRes 4444をKi Pro Quad内部で記録することにした。個人的にRAWの場合は60fpsの収録ができることは魅力ではあるが、画質という面ではRAWとProRes 4444は非常に肉薄していると感じている。ということで撮影は4K30fpsで行うことにした。

撮影素材の時点でノンリニアソフトと非常に相性の良いProResにより収録できることは、ワークフローにおいて非常に大きな利点である。さらにKi Pro/Ki Pro Miniが撮影現場で非常に多く使用されてきた様に、これまで培われた実績からKi Proシリーズに対する信頼性はとても高く、4K収録においてもKi Proが使えたら…と言う声も多かった。またKi Pro Quadの価格は約50万円と他の4Kレコーダーの中では比較的安価なことも魅力の一つであろう。C500に限らず、SONY PMW-F55などとも併用可能で、シンプルな操作感なども人気の理由だ。インターフェースに4KとHDの出力も持っているため、4KモニタリングやHDにダウンサイズしたモニタリングも行えるというのも素晴らしい。将来的に4Kのモニタリングは様々なワークフローの布石になることは間違いない。

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Ki Pro QuadにはSDI入力が4本・4K出力とHD出力、Thunderboltなどの豊富なインターフェイスを持つ

4K映像をフル画質で再生できるProResの魅力

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SSDのAJA PacシリーズはKi Pro Quad上部に2枚挿入でき、リレー方式など安定した収録を行える

これまでのKi Proシリーズにおける最高画質はProRes422だったのに対し、Ki Pro Quadでは4Kまでの解像度を最高品質のProRes 4444で収録できるように仕様が追加された。ProResコーデックの大きな魅力がQuickTimeのデコードの速さであり、再生にもたつくことなくサクサク動いてくれることが何と言っても強みだ。これまでの4KフォーマットのR3DやEOS-1D CのMotion JPEGなどのRAWデータの運用に比べ、編集の軽さには定評がある。さらにProRes 4444はRGBによる収録のため、RAWデータに近い画質を持つことができる。現像という過程がないものの、ProRes 4444は色調整範囲もとても広く、RAWに次ぐ調整範囲を持つコーデックだと考えている。

ProRes 4444の信号はKi Pro上部に差し込むSSDに収録される。このSSDはAJA製のAJA Pakシリーズにのみ対応しており、汎用型のSSDとの互換性はない。スロットには2枚挿入することが可能で、リレー形式の収録にも対応しており、長時間の撮影でも安心して行えるシステムとなっている。またSSDも256GBと512GBの2種類があり、ProRes 4444の場合、24fpsで512GBに約30分の記録が可能だ。

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AJA Pakは専用のリーダー、AJA Pak Dockで行う。転送はThunderboltかUSB3.0のいずれかを使用でき、高速で転送が可能だ

「C300」のシステムをそのままに4K撮影を

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C500のスーパー35mmセンサーはC300よりも若干大きい

C500のデザインや本体の仕様などは、C300をそのまま踏襲している。実際に内部収録される映像はC300と変わらず8bit 4:2:2であるため、C300を複数台で使用する際に、そのままC500も使用できるのである。大きな違いは、本体右に位置するハンドル取付け部が4K出力用のモジュールに仕様変更され、そこから4K RAWのデータが出力されることだ。この出力を利用して外部レコーダーに4Kを収録する。一体として使用する際はカメラ本体と外部収録機をリグでつなげる必要があり、電源やフォローフォーカスといった周辺機材も含めてセットアップすることになる。C500で4Kの収録を行う際はリグがマストなのだろう。このあたりが、このカメラの敷居を高くしているのかもしれない。

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カメラ右側はサイドハンドルではなく、SDIの出力モジュールが取り付けられている

Redrock Micro+Steadicam Zephyrの組み合わせ

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事前の機材チェックではステディカムに搭載することもあり時間を要した

今回はリグにはRedrock MicroのUltra Cage Black Professional SeriesのC500モデルを使用し、Steadicam Zephyrに載せることにした。この場を借りてライトアップの高橋さんと銀一の柳下さんにご協力のお礼を記しておく。ステディカムに搭載するということで、Redrock Microの無線フォローフォーカスやモニタリング用にランサーリンクの屋外対応型無線HDMIユニット SKYWAVEもリグに載せた。少々重量が増えたため、ステディカムの重心設定やリグ内の電源周り、排熱、SSDの差込口など様々な要素を考慮しなければならず、セットアップには結構な工夫が必要であった。特に電源供給は、カメラ・Ki Pro・フォローフォーカス・無線伝送の4系統を用意する必要があり、このあたりは経験や知識が求められるところだ。電源に関してはRedrock Microのパワーパックを使ってVマウントからの電源をうまく分配させた。今回はステディカムの運用をしたため、機材セットアップとチェックに3時間以上の時間が掛かったが、三脚を使う撮影であれば、より簡単に進められるだろう。

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ステディカムに搭載するためバランスを考慮し、Ki ProはRedrock Micro用のゲージの中に取り付けた

安定性の高いKi Pro Quad

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C500のメニュー内で4K/2Kのシステムを選択すれば、Ki Pro Quadは自動的に反映する

実際の現場では、C500とKi Pro Quadの相性の良さに驚かされた。C500側のRECボタンをトリガーとしてKi Pro Quadは自動的にRECを開始する仕組みで、ステディカムをオペレートしていて楽であった。またC500からKi Proへの信号は、自動的に解像度やフレームレートを識別するため、Ki Pro側で細かい操作をしなくてもいいため煩わしいことはない。さらにProRes 4444収録の場合はC500からのHD-SDI出力を1本で4K映像を転送することができ、ケーブル周りもシンプルにまとめられる。ステディカムを長時間担いだままでも、簡単に操作できる点は有難かった。

HR13_06_011.jpg Ki Pro Quadのステータスですぐに現在の設定がチェックでき、4K収録をされていることがすぐ確認できる HR13_06_012.jpg

4K撮影の場合、シネマレンズを使えばファインフォーカスが行える

撮影時にはCanon Logをガンマカーブに選び、それに対して露出を決めていった。レンズはカールツァイスのCP.2をメインに使用し、無線でフォローフォーカスを行った。4Kのフォーカスは非常にシビアな問題である。そのためフォーカスストロークの長いシネマレンズを使うことでより繊細なフォーカシングが行える。またフルHDサイズのモニターで監視業務を行うことで、わずかなピントずれも回避することが可能だ。

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ステディカムに長時間搭載したが、Ki Pro Quadの操作性は高く、収録・再生を煩わしく思ったことはなかった

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今回は銀一さんの協力もあり、特別にステディカム専用のマグライナーをお借りした。そのため撮影公園内の移動も非常に簡単に行えた

さすがとしか言いようがないC500の画質

撮影素材を見て感じたことは、高い解像感と豊かな色情報である。予想を超えるC500の4K映像の圧倒的な描写能力は、デジタルシネマカメラの中でも評価が高いと言えるだろう。逆にポスプロでプライマリーの作業が少し難しかった。情報量が多く、色への感度が敏感な印象でパラメーターを調整すると、ちょっとの動きで色が大きく変わってしまう、そんな印象だ。個人的な慣れの問題に大きく依存するところだが、これまで触ってきたRAWファイルやLogとはひと味異なり、C500特有の奥深い世界があると感じた。これは嬉しい誤算でもあった。グレーディング作業をもう少し続ければ、自分の思った方向へ色調整を行えるに違いない。

視点

撮影を終えて感じたことは、C500の実力の高さである。ただし本体とは別で外部収録を行うスタイルでは「Ready Go」で撮影を行えないため、取っ掛かりに時間と知識を必要としてしまうのが、非常にもったいない。C500が捉える映像の美しさを知れば、もっと多くのユーザーに支持されるのだろうと心から感じた。実際に、いったんリグさえ組んでしまえば撮影自体は非常にスムーズで収録・再生の作業もとても楽に行えたというのが感想だ。逆にC500+Ki Pro Quadという組み合わせの安定性の高さは目を見張るものがあり、4K ProResという収録スタイルは多くの可能性を持っていると思う。


Vol.05 [High Resolution! 2013] Vol.07

WRITER PROFILE

江夏由洋

江夏由洋

デジタルシネマクリエーター。8K/4Kの映像制作を多く手掛け、最先端の技術を探求。兄弟でクリエイティブカンパニー・マリモレコーズを牽引する。