txt:江夏 由洋 構成:編集部

世界で初めて登場した4Kデジタルシネマカメラ「RED」

今やハリウッドでも常連となったRED。毎年NABのブース展開も拡大している

「RED Digital Cinema」という会社をご存じだろうか?―という質問はもちろん少々乱暴だとは思うが、5年前に「知っている」と答えられた人はあまりいなかっただろう。SONYやCanonという名前はあまりにもメジャーなため、あまり映像に詳しくない人に対しても相当のネームバリューを持っているが、REDが築いたデジタルシネマの世界は正にゼロからのスタートだった。サングラスで世界の頂点に立ったあの「オークレー」の創始者、ジム・ジャナードの次なる挑戦が詰まった会社だ。ジム・ジャナードはオークレーを売却し、第2の人生をカメラに賭けた。誰よりもいち早く「デジタルシネマ」という言葉を掲げて、更には4Kという技術を世界で初めて実現したのがこのREDである。

日本で一号機のRED ONE。誰もがそのスペックに驚いた

実機として2007年のNABで登場した世界初の4KデジタルシネマカメラRED ONEは瞬く間に世界を変える一台となり、その後も次々と新しい発想を形に変え続けた。RED ONEは4Kで撮影できるだけでなく、なんと当時からハイスピード記録に対応するなど、そのスペックは「怪物」と言われるほど高い技術と新しい発想を詰め込んでいた。もちろん価格という面においても、現実的で、誰もが手にできる設定にしてあったことも大きな注目を集めた理由だ。

少数精鋭のREDが持つ最先端の技術力

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EPICの撮影現場。カメラ本体が小さいため、システムが効率的に組める

私が初めてRED ONEを手にして撮影を行ったのが2008年の3月である。当時はまだ4Kという言葉すら相当な業界用語だったのをよく覚えているが、DPXによる4Kワークフローがとても重くて編集が大変だったことも記憶している。ただここで確かなことは、2008年という時代にすでにS35mmセンサーで4KをRAWで記録するという発想をREDは形にしていたということだ。少なくとも日本のリーディングメーカーは4Kのファイルベースカメラを形にするのに、更にここから4年程の年月がかかってしまっていることを考えると、REDの持つ高い技術力と軽快なフットワークが改めて評価されるところではないだろうか。もちろんバグの多かったファームウエアや、カメラが急にフリーズしたり、オーダーしてからカメラが届くまで1年近くかかったり、ビジネスマナーも含めて悪い印象を持っている人も多いようだが、それらも含めてREDという会社であると私は理解している。

デジタルシネマカメラの中でも最高スペックを誇る

EPICの5Kで撮影された作品。撮影時間2時間でここまでのクオリティを捉えられる。まさに理想的なカメラだ

歴史はさておき、現行のREDが誇るカメラこそが「EPIC」である。REDは現在このEPICとその廉価バージョンであるSCARLETの2種にカメララインアップを絞っている(1年前に6KセンサーのRED DRAGONについては発表があったものの、これについては早期のリリースを期待したい)。EPICの持つスペックはデジタルシネマカメラの中では最強といっていいだろう。何といっても5K(5120×2700ピクセル)という収録解像度を持ちながら最大で96fpsというハイスピードを捉えることができるというのが最大の魅力だ。4K(4096×2160ピクセル)では最大120fpsで、2K(2048×1080ピクセル)であれば最大300fpsまでの撮影も行える。他社のカメラであれば4K/60fpsというのが標準の機能であることを考えると、おそらく現存するデジタルシネマカメラの中では最もスペックの高いカメラであることが浮き彫りになる。

センサークロップがあるため基本的には5Kサイズで撮影する

HR13_02_004-1.png HR13_02_004-2.png5K(一枚目)と2K(二枚目)の収録サイズの差。クロップファクターを考えて撮影を行いたい。基本的には5Kで撮影するのがEPICのスタイルだ
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RED EPICの場合撮影解像度に併せてセンサークロップを行うため、レンズの画角を考えても、できればセンサーの全てを使用する5Kで撮影は行いたい。ハイスピードの映像を狙いたいときはもちろん解像度を落とす必要があるが、センサーの使用部分が次第に小さくなるため、どんどんと画角がテレ側に寄ってしまうので注意が必要だ。もちろん2K/300fpsというスペックが捉える世界も相当な画力を作品に与えてくれる一方で、レンズとしては2.5倍程度の寄りになってしまうということになるためレンズ選びが非常に難しくなるだろう。14mmなどの広角を使用しても、実効は30mm以上になってしまう。ワイド側での撮影は割と工夫を求められることも計算に入れておかねばならない。

圧縮RAWが維持するポストプロダクションでの可能性

圧縮RAWの設定画面。ビットレートを自分で選べるというのも珍しい。通常は6:1か8:1で撮影する。撮影フレームレートによってその上限が変わる

REDの更なる魅力が素材を「RAW」で収録できるということだ。これはRED ONEの時代から受け継がれる技術で、非常に評価が高い点でもある。REDの収録コーデックである「R3D」はRAWデータをWAVELET方式で非可逆に可変で圧縮する方式で、カメラの設定で圧縮率を3:1~18:1まで設定することができるのだ。RAWデータを圧縮するということ自体、今までにない非常に新しい発想である。もちろん圧縮率が高いほどファイルのデータ量を減らすことができる一方で画質を落とすことになるのだが、大体の撮影では6:1ないしは8:1で行っている。グリーンバックなどの合成を繊細に行いたいときなどは3:1で撮影することもあるが、そのあたりは撮影に使用するSSD(REDMAG)の運用との兼ね合いになるだろう。技術的な仕様をここで詳しく記述はあえてしないが、6:1での撮影であっても5K/24fpsのビットレートは550Mbps程度と、非常にハンドリングしやすいというのが素晴らしい点だ。

Adobeが最強の相棒

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ネイティブにこだわった効率的で迅速なワークフローを組めるのはPremiere ProとAfter Effectsのコンビネーションだ
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REDの素材を編集するのにはいくつかの方法がある。最近になってようやくさまざまなノンリニアソフトでR3Dは「ネイティブ」対応を果たしてはいるものの、私はPremiere ProとAfter Effectsを使ったワークフローをいつも勧めている。何せ、完成まで全く中間コーデックに書き出すことを必要としないため、撮影後すぐにドンドンと編集を進められる「効率」を得ることができるからだ。本来ならばR3DはRAW素材のため、RGBへの変換が必要だ。いわゆる「現像」の作業であるが、Premiere ProやAfter Effectsであれば、現像を行うためのメタデータを付帯させながら編集を進められ、またそのメタデータの編集をいつでもすぐに行うことができるスタイルを組めるのだ。たとえ5Kの素材であっても、あたかもDSLRのHD素材を扱うがごとく簡単で手軽な編集を進めることができる。またPremiere ProのMercury Playback Engineが5Kの素材であっても、ノーレンダリングでガンガンとR3Dの素材をリアルタイム再生してくれるというのも、正直すごいことだ。そしてPremiere Pro内蔵のR3D現像パネルをつかった作業は、色編集でいうプライマリーカラーコレクションに似ている。まずはPremiere Proで編集し、素材の現像に関してはPremiere Pro内のREDのカラーサイエンスを使って、コントラストを決定し、色バランスを整え、最後に彩度を決める。セカンダリーに関しては、After Effectsを使って作品や演出上の狙いに併せて好きに合わせていけばいい。ソフトウエア間の移動は簡単なコピー&ペーストで完結するため、おそらくREDとAdobeの組み合わせは史上最強のデジタルシネマワークフローだと言っていいだろう。レンダリングは最後の納品用のエンコードと現像を合わせた一度の書き出しだけだ。

HR13_02_007.png DaVinci Resolveとの相性も素晴らしい。12bit RAWの良さを発揮させられる
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もちろん最近はDaVinci Resolveを使って色編集を行う人もかなり多くなってきた。RAWのメタデータの編集も簡単だし、何といってもDaVinci Resolveの色編集機能のレベルは相当高い。特にREDは12bit RAWというビット深度を持っているため、DaVinci Resolveの色編集の効果がテキメンに表れる。RAWによる収録はサブサンプリングされてエンコードされた素材とは違い、RGB 4:4:4の色を持つことができる唯一の方法だ。さらに5Kという解像度をもつR3Dは、ポストプロダクションではかなりの編集幅をもつため、カラーグレーディングでは多大なる自由度を得られるというのも嬉しいところだ。

HDRxという更なる武器

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HDRxのAフレームとXフレーム。2枚の映像を「ブレンド」することで更なるダイナミックレンジを得ることができる。早い動きを撮影した際はMagic Motion技術を利用できる

5Kやハイスピードに加えて、REDにはHDRxという機能がある。これは文字通り2枚の異なる露出映像を混ぜることで、更なるダイナミックレンジを稼ぐという高度な技術手法だ。HDRxで撮影をする際には、1~6までの露出設定を行える。例えば通常の露出による撮影を1/50のシャッターで行った場合、露出設定を2にすると2ストップ露出を下げた1/200のシャッタースピードでもう一枚の映像が撮影される。現像の際に2つの映像を「混ぜる」ことで更なるダイナミックレンジを稼ぐことができるという仕組みだ。露出をシャッタースピードだけで変えるため、同じISO、絞りの値の映像を重ねられるという利点があるが、逆に動きの速い物体を撮影する際には異なるモーションブラーの映像をHDRxで収録することになってしまう。その際に使用するのが「Magic Motion」だ。Magic Motionは2枚の異なるモーションブラーもキレイに混ぜてしまえるというREDが独自で開発した技術だ。どんなシチュエーションでも、高いダイナミックレンジが必要となるような屋外と室内が共存するカットなどでは、HDRxは大活躍する機能である。

豊富なレンズマウントも人気の理由

豊富なレンズマウントを持つEPIC。EFレンズを使えるというのもREDのこだわりだ

REDが更に汎用性を高めたのが、豊富なレンズマウントであろう。PLマウントはもちろんのこと、EFマウントやニコンマウント、ライカMマウントなどを用意しているのは本当に素晴らしいと思う。PLマウントのレンズはどうしても導入したりレンタルすることが難しい場合があるが、スチルレンズを使用できるとなると、一気にレンズの選択肢があがるというものだ。私は主にEFマウントで撮影をしているが、EFのキレ味や描写能力はPLを凌ぐこともあると感じている。コストパフォーマンスの高いシステムを5K撮影で組めるというのもEPICの大きなメリットであると感じる。

視点

4KのパイオニアともいえるREDの技術革新は、そのほかの多くのカメラメーカーに大きな影響を与えた。そしてDRAGONセンサーの発表に引き続き、グローバルシャッターや電子NDフィルター機能を備えた「Motion Mount」や、4KプレーヤーのREDRAYなど、次々と新製品を市場に送り出そうとするその勢いは、2013年になって更に加速している。発表後の商品化が遅いというのもREDらしいところではあるが、その動向には目が離せない。


Vol.01 [High Resolution! 2013] Vol.03