コンティニュイティー性を極めるHD制作環境と、4K/8Kを見据えた新機軸
4K/8Kといった次世代高画質映像への技術革新が期待されるなかで、2013年におけるファイルベースソリューションとはどういったものだったのだろうか?すでに昨年の段階でも一通りの市場への浸透を成し得たと記したファイルベースソリューション分野。記録メディアの変化という点においてはすでにほとんどの分野では、メモリー記録への移行=ファイルベース化でのワークフロー確立への移行は終了したかのように見える。
思い起こせば一昨年の東日本大震災を機に、当時ソニーのテープメディアの起点であった仙台・多賀城事業所の被災等にもともなって、世界中の放送現場がテープからメモリーメディアへの移行が加速したと言われている。日本では当時その動きは鈍かったがそれでもこの一年で急速に加速、一部の地方放送局などではテープメディアもまだ生きているが、大手メーカーでもいくつかのテープメディアは生産終了し、その配給もすでに終了に向かっており、メモリー記録やHDD、SSDといったデバイスへの移行とともにファイルベースとしての基本的な仕組みは確立されたと言って過言でないだろう。
確立という観点からすれば、ここで大きく見えて来たのは、HDにおけるコンティニュイティー(連続)性のあるワークフローをいかに実現出来るか?といったポイントだ。今年の特長としてここが大きく強化された製品が多く登場してきたことが上げられそうだ。作業を断裂させない、環境が変わってもスムーズな作業移行が可能な、ワークフローにおいても成熟度の高い、実用性を伴う製品が求められている現状がある。
そして2020年東京五輪を見据えた4K/8Kへの更なる高解像度化へ向けて、特に放送分野が大きく舵を切って来たこの2013年は、ファイルベースソリューションにとっても大きな転機だといえそうだ。もちろん昨年からの流れで、次世代の4Kフォーマットをサポートする製品/ソリューションも新たに登場してきたが、今年はその様相も更に加速。特にソニーはF55/F5の4K収録の基本フォーマットであるXAVCに加えて、今春のNABで発表されたコンスーマー向けにMP4ファイル形式を新たに加えた新コーデック「XAVC S」を発表。この夏には同フォーマット記録を主とした民生用4Kカメラ「FDR-AX1」、そして発展型の業務用機である「PXW-Z100」を発売するなど、その仕様拡大に余念がない。それらへのポスト対応もしかるべきという状況だ。その他でもHD以上の高画質対応のコーデックが増え、ソフトウェア側の対応も各社しのぎを削っている状況はユーザーにとっても期待の高まる部分だろう。
また日本においては、先日のInterBEE2013に見られたように、一時期のシネマ分野への傾倒から、より市場が大きいと言われてきた放送分野への注力が増す傾向は今後加速しそうな気配が濃厚だが、この部分でも一部では懸念がある。すでに8Kを見据えた4K対応ソリューションの買い控えなど、短期投資への懸念も残る中で、その状況下におけるファイルベースソリューションは、今後4K、そして8Kにおいても、作業のコンティニュイティー性を重視したもの、また現場作業における安心した継続性重視の仕様がさらに求められそうだ。
PRONEWS AWARD 2013 ファイルベースソリューション部門ノミネート製品
- グラスバレー EDIUS Pro 7
- アドビシステムズ Adobe Creative Cloud
- ブラックマジックデザイン DaVinci Resolve 10
- アビッドテクノロジー Media Composer 7
- アップル Final Cut Pro X(ver.10.0.9)
何が受賞するのか…?
PRONEWS AWARD 2013 ファイルベースソリューション部門受賞製品発表
- ファイルベース部門
ゴールド賞 - Adobe Creative Cloud
アドビシステムズ
昨年の最初の発表時にも新たなデスクトップソフトウェアソリューションの基軸となり得るか、機能面はともあれ、その方法論に賛否両論が上がったアドビシステムズのAdobe Creative Cloud。今年6月のアップデートで従来のデスクトップアプリケーションを全て統合、30以上のツール&サービスを集約したことで、その利用も今年8月末の時点でのアドビ社からの発表でもすでに契約ユーザーが100万人(ワールドワイド)を超えたことが発表されている。月額払いというクラウド型の新たな契約購入方式は、価格改定された後も未だに疑念を持つユーザーも多いようだが、細かいバージョンアップ対応や刻々と仕組みも改善されており、さらには次々と変化するファイルベースに、Adobe CCを購入さえしていれば自動対応されるという環境は、多くの制作者に受け入れられたようだ。特に主要なアプリケーション間の連携では、最新コーデックへの即時対応など際立った利便性を備えており、今後の機能進化にもより一層の期待が持てそうだ。
- ファイルベース部門
シルバー賞 - EDIUS Pro 7
グラスバレー
いつも真っ先に新しいコーデックやフォーマットへの対応を実践してきたグラスバレーのEDIUS。日本発祥のノンリニアソフトウェアとして進化して来たが、今年のバージョン7への対応でも、Windows7/8の64bitネイティブ対応、4K/S3Dでの実用的なマルチレイヤー編集やIntel第4世代Core iシリーズ:HaswellへのCPU最適化など、また大きな進歩を見せている。特にHDと4Kなど異なる解像度の映像データ混在時でもリアルタイム編集が可能なことや、最新のコーデックへの対応はもちろん、同社製品以外のブラックマジックデザイン、AJAなどの製品にも対応している点でのユーティリティ性は非常に高い。基本となるHQXコーデックの劣化耐性能の良さも評価したいところだ。
総括
ノンリニアシステムの進化という点ではすでに各社の機能面で大きな差というものは存在しない現状で、いかに現場のファイルベース環境を有意義なものにしてくれるものか?つまり、先を見据えた投資とその可能性においても、ソフトウェアはイコール、今後のメディアリテラシー(使いこなす常識)の基盤を担って来る。現状の様々なコーデックやファイルフォーマットが乱立するHD環境への対応、そして次々と現れて来るニューメディアへのデリバリーの簡便さなど、その作業の一貫性、連続性を重視した視点で今回の製品は選考された。
スマホやモバイルタブレット等による撮影や編集が進化しても、プロ業務におけるPCベースデスクトップによるポスト環境は、これからも存在し、進化し続けることは間違いないが、その中において、今後の5年先、10年先を見極めることは難しい。であるならば、未来が見えながらもいまの現場環境を最大限に有意義なものにしてくれるツールを選びたい。その点において受賞した製品には、現時点でその一翼を担っている典型的な製品だといえるだろう。