多様性、拡張性を重視した“痒いところに手が届く”製品が魅力
映像制作を生業としているプロではなく、いわゆるインハウス・プロダクションと言われるような、自社や親会社の業務やサービス、そのPRやSP(セールスプロモーション)に特化した、専業型の映像制作分野はますます盛んになってきている。これは年々締め付けが強くなっている製品技術の守秘や利権への配慮、また企業や団体自体の守秘問題など、情報保安といった側面も大きい。また商品の細かい性能や特長の把握、またサービスや仕組みの周知など、その特異性を表現するには、自分たち自身が制作しないと解説し得ないという業種は数多い。それは同時に自社内で様々なPRや解説ツールを製造しなければならないという副産物を生むことになっている。
しかし、いまや映像がスマホやタブレットで簡単に閲覧できることは、こうした企業や団体にとって非常に有効な説明手段になっている。これらの映像を自社内で制作するためには、選任の担当者もプロパー社員が多い。そのため機材も誰にでも扱えるようなものでなければならない。こうした広がる新機軸の映像分野へ向けた製品や、ジャンルを超えたニューテクノロジーを焦点に当てたこの部門では、今年も様々な新製品が登場して話題になった。
今年4月のNAB、そして11月のInterBEEでもいくつかのブースで見かけられたマルチコプター。国内でも今年前半に最も人気を得た朝の連続テレビ小説「あまちゃん」(NHK)のオープニング映像で、その映像が家庭のリビングで毎日映し出されたこともあってか、今年は空前の空撮ブームの年になったと言えるだろう。
4~8枚といった複数枚のプロペラを持つマルチローターを備えたマルチコプターは、隣り合うローターが互いに反対方向へ回転することから、プロペラの反力が打ち消し合って機体の回転を防ぎ、より安定した軌道制御が可能になる。これにより搭載したカメラによる空撮も非常に安定した映像を得ることが出来、またGoProなどの高性能なアクションカメラとの組み合わせによって、いきなり空撮映像の敷居が低くなり、誰もが入手可能なものとなった。さらにここで利用されているバランシング技術=3軸ジンバルなどのスタビライズ技術を撮影周辺機材へシフトしたFreefly社のMoVIなども登場し、その派生系で今後も新たな物が生み出される可能性は高い。
コンバーターや周辺機器でも、これまでのHD対応のものがさらに堅牢化、多様化し、性能拡張の方向をみせており、一部では4K(UHD)対応など、次世代利用に向けての製品も順次市場投入されている。AJAからも興味深い発表がいくつかあった。4K映像から自由な範囲でHD映像を切り出す「TruZoom」や、MacのThunderboltの出力データをHD-SDI/HDMI出力できる「T-TAP」など、より現場運用を重視した、細かい点が実用的な製品が多く出て来たのも今年の特長だろう。こうした細部へのソリューションが今後このジャンルでは重要視されてくると思われる。
PRONEWS AWARD 2013 プロスーマ・ネクストソリューション部門ノミネート製品
- DJI マルチコプター Phantom
- マトロックス Monarch HD
- Cerevo ライブ配信機能搭載HDスイッチャー LiveWedge
- ローランド ロスレス変換ミニコンバーター VC-1シリーズ
- AJA Video Systems Thunderbolt対応モニタリングデバイスT-TAP
何が受賞するのか…?
PRONEWS AWARD 2013 プロスーマ・ネクストソリューション部門受賞製品発表
- プロスーマ部門
ゴールド賞 - VC-1シリーズ
ローランド
昨年末に発表、今春に発売が開始されたローランドの堅牢設計の3G-SDI対応ロスレス変換のミニコンバーターVC-1シリーズ。各製品ともSDI→HDMI、HDMI→SDIといった基本コンバートの製品はもちろん、フレームシンクロナイザーを内蔵して発表当初から注目された「VC-1-DL」、さらに今年新登場したスキャンコンバーター「VC-1-SC」は、減衰をカバーするリクロッカーを搭載してジッターを低減、多様な変換が可能なので、あらゆる現場で有用な製品だ。海外製品に比べ堅牢性、安全設計、安定性などの点においても信用のおけるローランド製品の信用はどのジャンルにおいても厚い。
- プロスーマ部門
シルバー賞 - Monarch HD
マトロックス
このところ面白い製品群を開発して来ているカナダ・モントリオールに本社を置くマトロックス社。古くから非圧縮SDIキャプチャーボードなどのメーカーとしてすでに老舗の存在だが、最近は魅力的な小型デバイスを発表して来た。先に発売されている、PC/Macコンテンツを手軽に放送用素材にコンバートできる「Convert DVI」シリーズとともに、この12月に新発売された「Monarch HD」に注目。H.264の配信と録画が同時にできるコンパクトなストリーミングデバイス。カメラやスイッチャーのHDMI入力ソースからH.264の映像信号をリアルタイムにエンコード。ライブストリーミングに適切なビットレートでエンコードすると同時に、MP4の動画データをUSBメモリー、SDカードなどへ収録可能。このような動画を簡単に取り回すためのユーティリティデバイスは今後もさらに進化し続けそうな勢いだ。
総括
今年のマルチコプターなど、その年によってトレンドと言えるものは数多く出ては消えるが、業務で使う=投資対効果、費用対効果を基本の選択ポイントとして考え、これらの業務で幅広く長く使えるものとして判断すれば、そうした文字通りの“飛び道具”に、なかなか直接は結びつかない。やはり実用的かつ面倒臭さを簡便にしてくれるものを、このジャンルでは重要視したい。
受賞した製品はいずれも質実剛健で、堅牢性や耐経年性にも富んでいると思われる。そのなかでローランドVC-1シリーズを選んだ理由として、国産であること、さらに日本製の良さを上手く体現して製品化している点なども加味した。
これからのここ数年は4K/8K手前の、「ディープHD」と言われるような、HDソリューションをより深めた、更なる拡張性、汎用性を実現するソリューションに期待する意見も多い。これからの各社のアイディア製品に期待したいところだ。