トレンドを先回りして把握すること
およそ4日間の取材を終え、CES取材から帰国した。コンシューマ向けのショーとは言うものの、プロはコンシューマからのニーズがなければ、仕事が発生しない。その点でコンシューマのトレンドを先回りして把握することは、プロの作り手として重要だ。
今日本の映像クリエイティブシーンでもっとも気になっているのは、4Kの行く末だろう。3Dのように短命なブームで終わってしまうのではないか、今投資するのはリスクが高いのではないか、そういう懸念が渦巻いている。
今年のCESでは、テレビメーカーで4Kを作らないところなどない、というのが現実だ。日本企業と韓国Samsung、LGはもちろん、中国大手のSkyworth、Hisence、TCLといったメーカーも4Kテレビを主力商品に据えている。もはや4Kテレビが作れることが競争力であった時代は、1年足らずで終わってしまった。
日本からこの状況を見ると、「4K放送もやってないのに4Kテレビ買ってどうすんの? ぷ」という反応かもしれないが、米国の答えは明確だ。すなわち、「4Kはディスプレイ技術であって、フォーマットじゃない」という考え方なのである。
4Kにテレビに映すものは何?
どういうことなのか?つまり4Kパネルに映すものは、ソースが4Kじゃなきゃダメだという考え方はない、という事である。シャープのプレスカンファレンスで、多くの米国人にテレビに求めるものをインタビューした映像が流されたが、多くの消費者が「でっかいこと」を第一の条件に上げた。Best Buyに行くために捕まえたタクシーの運転手は、こないだここで84インチのテレビを買ったのだと自慢げに話してくる。
それだけデカいと、HD解像度では画素が見えてしまう。どんなに画質に無頓着な米国人でも、それが美しくない事はわかる。だからドットをもっと細かく刻まないとダメじゃん、という理屈で4K(UHD)ならいいのかそうかそうか、というロジックなのである。
4Kソースがなければ画素だけ細かくしても無駄だよ、という議論は不毛だ。だったら超解像で刻めばいいじゃないか、要するに画素がわからなくなりゃいいんだから、そういう話で進んでいる。4Kソースは、そのうち出てくれば見るけど今はHDが綺麗に映ればいい、ということだ。
一方4Kソースの制作環境も、水面下で着々と整いつつある。番組情報サービス大手のRoviを取材したのだが、ここはDivXも買収して傘下に収めている。現在DivXはHEVC(H.265)のエンコーダプラグインをコンシューマ市場に向けて無償で配布している。なるべく多くのHEVCソースをユーザーに作らせれば、それが再生できるハードウェアが必要になる。それにはDivXライセンスのデコーダをテレビやSTBに搭載してくださいね、という流れだ。
放送向けの4K HEVCリアルタイムエンコーダも、日本ではまだそんなもの存在しないという認識である。だがHD解像度の24P/30P向けHEVCエンコーダは存在する。DivXのプライベートスイートでは、このボードを4枚挿して4K/30Pでライブエンコードするシステムが展示されていた。
WOWZA、Elementalも独自のLive 4Kエンコードシステムからのストリーミングを展示
日本ではどうしても放送がターゲットなので、4K/60Pでなければ、という縛りがある。だが4Kを放送するつもりがない他国では、IPTVやストリーミングで映画のプレミアムコンテンツという形で4Kをやるつもりなので、ターゲットが24Pもしくは30P、ビットレートは10~15Mbps程度になる。これなら無理せず、今でも技術的に行ける範囲だ。
MediaMarktのVODサービス
さらに言えば、現在H.264で行なっているVODサービスやテレビのネット再送信は、トラフィックを減らすためにHEVCに乗り換えようとする動きも出てきている。ドイツ系家電量販店「MediaMarkt」が展開するVODサービスは、現在DivX+ Streamingで配信されている。DivXのビデオストリーミングシステムは今後HEVCベースに切り替わっていくので、サービスそのものがHEVCベースになる可能性は高い。
4Kに架ける橋
日本において、4K/60Pという他国でやってない高水準の目標をいち早くセットすることで、技術的優位に立とうとする戦略はわかる。だがHEVCの浸透という意味では、4K/60Pにこだわらずどんどん使っていかないと、ストリーミングなどの利用ノウハウで負ける事になる。日本が4K/60P放送に注力しすぎるが故に、それが実現する頃には世界的浦島太郎になっているのではないか。そういう危惧を感じた取材であった。そんな未来が覗けるCES2015は、2015年1月6日から9日までラスベガスで開催される。
txt:小寺信良 構成:編集部