txt:小寺信良 / 編集部 構成:編集部

すでに多くのレポートが物語っているように、今年のCESのテーマはIoTということで間違いなさそうだ。もちろん、4Kテレビの新モデルは出たし、カムコーダも出た。だが、そこは主役ではなかったという事である。

アメリカは4Kをどう見ているか?

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当然各社からは新しいテレビの形をプレゼンテーション

米国の4Kに対するニーズは、はっきりしている。「画面をでっかくしたらHD解像度じゃ足りなかった。もっとドットを刻め」という事である。だからアップコンでも、よほど結果がひどくなければ全然構わないし、ビットレートもそこそこでいい。10bitだ4:2:2だとかは、コンシューマで語る話ではない。

さらに言えば、4Kが注目されている分野は映画産業に限られる。日本企業では4Kが撮影可能なカメラを多数展示したが、来場者の関心は今一つといったところだ。自分で撮るビデオが4Kになることには、あまり関心は高くないように見受けられた。さらに言えば、4Kテレビ放送のニーズもそれほど高くない。米国ではスポーツ中継が強いテレビコンテンツだが、それに対する関心も今回のCESでは確認できなかった。

むしろケーブルテレビやネットのストリーミングサービス事業者が提供するコンテンツ(主に映画)をどう見るかが主眼であり、4Kテレビはスマホなみにサービスをヌルヌルと切り換えられるディスプレイ装置にならざるを得ない。そこで登場するのが、スマートOSを搭載したテレビというわけである。

かつてGoogle TVは、テレビ大のスマホを作ろうとした。そして失敗した。人類はテレビの前のソファにケツを下ろした瞬間にIQが20下がるので、スマホのような使い方をテレビではやらなかったのである。だから今度のスマートTVは、テレビはテレビのまま、IQが20下がった状態でも使えるようにソフィスティケートするため、スマートOSを使う。

HDRとは何か

今回映像関連技術で少しだけキーワードが出てきたのが、“HDR”という技術だ。元々写真では、2つの異なる露出で撮影した写真を合成してダイナミックレンジを押さえ込む技術としてよく知られている。一方映像におけるHDRは、どちらかと言えばRAW収録~現像のイメージで捉えるべき手法で、この2つは違うものだ。

ご存じのように現在のBT.709では、輝度のコントラスト比は1:100に制限されている。BT.2020では色域は拡がったものの、輝度方向は現状維持だった。だがLEDバックライト技術の発達により、実際にはそれ以上の輝度が表現できるようになってきた。よって輝度を1:1000から1:10000ぐらいにまで拡張しようというのが、動画HDRの正体である。

実はこの技術、次世代4K対応のBlu-ray規格と同時に華々しく発表されるはずであった。ところが土壇場になって4K Blu-rayの発表そのものが見送られたため、公式に公開できず、パナソニックブース内にてフライング的にちょろちょろと展示されるに留まった。パナソニックのプレスカンファレンスでチラ見せされた、4K Blu-rayプレイヤーがそれである。

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プレスカンファレンスでチラ見せの4K Blu-rayプレーヤー

詳しい内容は4K Blu-rayの公式発表を待つ必要があるが、これまで撮影時に100IREに向かってなだらかにねかせてきたガンマカーブを、ディスプレイ側でまっすぐ伸ばして表示する、ダイナミックレンジの復元技術だと捉えていただければいいだろう。今のところ映像制作者側は取り立てて何もすることはないが、将来的にはHDRを視野に入れた新しいカーブが登場する可能性もあるかもしれない。

IoTで誰が得をするのか

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Sandsコンベンションセンターでは、IoTの展示が多く行われた

IoTとは、基本的にはセンシングによる情報収集とクラウドでの解析、そして最終的に人間へフィードバックするという技術だ。ヒトやモノのインターネット化である。

これらのテクノロジーがプロの映像制作に何かをもたらすかと言えば、直接的にはあまり関係ないと言える。だがIoTを支える技術、例えば3Dプリンタの発展やモノづくりの小ロット化・効率化といった進歩は、プロ業界に大きく寄与する。

例えばネジ1つ、プレート1枚にしても、ニーズが少なければ製造されなかった。だが自分だけはこれとこれをくっつけるために要る、という話はよくある。こういうものは、自分で作れれば解決する。これまでは、作る方法がなかった、あるいはあってもコストが合わなかったものが、作れるようになってくる。30個作っただけで元が取れるようなネタは、プロ業界にはゴロゴロ転がっている。その点では、プロはIoTそのものよりも、その背景のモノづくり技術に注目したほうが得策といえるだろう。

今回のCESは、これまで知らなかったコトやモノがスタートアップした。立場は違えどみんなが知らない、わからないところから同時スタートしているため、出展者も来場者もお互いの情報を交換し、同じように勉強になったことと思われる。これほどまで、色々勉強になった回も珍しいと思う。そしてその知恵とアイデアのるつぼの中に、次の世代のシード(種)が生まれてくる。来年は同じ会期で1月6日から9日まで開催される。来年何がトレンドなのか?現地からお伝えしたいと思う。


txt:小寺信良 / 編集部 構成:編集部


Vol.08 [CES2015] Vol.00