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txt:江口靖二 構成:編集部
かつての主役の行方は…?
少なくともこの10年くらいは、CESはテレビを中心に構成されていたと言って過言ではないだろう。基調講演にはソニー、パナソニック、サムスンなどが登壇し、デジタル、大画面、スマートテレビを競い合った。ところが数年前から状況に変化が見え始める。基調講演にはインテルやフォードなど、家電以外の企業が登壇するようになった。そして何度も繰り返しになるが、昨年11月にはCESの主催であるコンシューマー・エレクトロニクス協会(CEA)が、団体名を新しく「コンシューマー技術協会(CTA)」と改めた。エレクトロニクスだけではない、幅広いテクノロジーを扱うという趣旨である。
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こういった傾向が、今年は更に鮮明になった。テレビは少なくともCESの主役ではない。パナソニックブースには65インチ4K OLEDが3台置いてあるのみで、隣には4K BDプレイヤーが展示されているものの、スマートテレビについては一切触れていない。それ以外のパナソニックブースはリテール、自動車、エアラインといったB2B関連の展示が9割ほどで、あとはテクニクスのオーディオのみだ。パナソニックのこういった傾向も3年くらい前から見えていたことであるが、広いブースにテレビが3台にまで減少したのは今年が初めてだ。5年位前には100台以上あったのではないかと思うとその変化はすさまじい。
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ソニーはというと、B2B商材が多いとはいえない同社であるために、展示自体の構成はほぼ例年通りである。しかし残念なことに、プレスカンファレンスで語られた内容には何一つ目新しい話がなかった。平井CEOは自社のコンセプトとして今年も何度も「Kandou(感動)」や「WOW」を口にしたが、プレゼンテーションからも展示ブースからも、「感動」を感じ取ることが私にはできなかった。
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他のテレビ関連の日本メーカーでは、シャープ、東芝などメーカーがそもそもブース展示を行なわない状況である。サムスンやLGも、パナソニックほど極端ではないが、テレビよりもスマート家電にウエイトが置かれている。スマートフォンですらその扱いは減少傾向だ。
テレビ関連の話題としては、HDRがメインのなるのではと予想されたのだが、各社とも扱いは「地味」である。HDRは本当に素晴らしいのだが、従来方式と並べて比較しないとわかりにくい部分がある。
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メーカー以外のテレビ周辺の映像コンテンツの状況はどうなっているのかと言うと、これも新しい変化はない。NetflixのCEOがKeynoteに登壇したが、ここで語られたことはこれまでのサクセスストーリーと、新作コンテンツの制作発表、そしてさらに130カ国に事業展開をするという話だけであって、新しい話ではない。
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Keynoteに登壇するNetflixのCEOリード・ヘイスティングス氏
CES全体はどうなのだろうか?
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ではCES全体はどうなっているのか。それはひたすら多様化し、融合化している。領域を上げるのであれば、ヘルス&フィットネス、コネクテッド・カー、センサー、スマートホーム、3Dプリンティング、ドローン、ロボティクス、ハイレゾオーディオなどである。これらはすべて、いままでのパソコン、テレビ、ネットワークなどの技術の進化と融合の延長線上にある。例えばメルセデスの新しいコンセプトカーには、MacBook Proのなんと140台分のパワーを備えたNVIDIAの新しいGPUが搭載され、リアルタイムで画像分析や画像処理を行っているという。メルセデスとNVIDIAという組み合わせが、最先端のドライビングテクノロジーを提供している、というのは象徴的なことだろう。
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ではIoTがポイントかというとそうでもない。IoTという言葉自体は会場では全く見られないし、どうもモノに無理やり通信機能をつけたようなものが多く、あったとしても決してスマートでも便利でもない。デジタル技術とネットワーク技術の進化の中で、ここ数年は世界中で様々な試みが行われる。そしてそれが大企業から出るのか、スタートアップからなのかわからないが、あと数年後のCESでは劇的な変化の中身が見えてくるのだろう。
txt:江口靖二 構成:編集部
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