txt:江口靖二 構成:編集部

パーソナルライブストリーミングがなぜ話題になるのか?

CESでは会場での展示の他にも、膨大な数のセミナーが行われる。これらの中から、今年もマルチスクリーンやOTT関連の複数のセッションに参加した。それらはまさにテレビ局のマルチスクリーンへの対応や、NetflixなどのOTTサービスに関する内容であろうと思って参加したし、実際の事前のアブストラクトにはそういう趣旨のことが書いてある。ところが興味深いことに、どのセッションにおいても、話題の中心はパーソナルライブストリーミングになっていくのである。

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「Ultimate TV: The OTT – Multiscreen Experience」のセッション

ジャングルクルーズを楽しんでいる人のライブストリーミング

ジャングルクルーズを楽しんでいる人のライブストリーミング

ここで言うパーソナルライブストリーミングというのは、「Periscope」や「Meerkat」のような、スマートフォン単体ですぐにライブ動画配信を行えるものを指す。日本ではまだメジャーになっているとはいえないが、アメリカでは昨年からかなり注目されているサービスである。背景としては、Twitterの普及がベースにあり、それに「Snapchat」によって動画を共有するという使われ方が浸透した結果、ライブストリーミングに移行してきているという話。きっかけは昨年ニューヨークで発生したガス爆発事故が、一般人によるPeriscopeでの中継で一気に知名度を上げたとのことだ。

火災現場に居合わせた人?の現場からの生々しいライブストリーミング

火災現場に居合わせた人?の現場からの生々しいライブストリーミング

PeriscopeはTwitter自らが買収したサービスで、Twitter連携が容易であることが特長。Twitterのタイムラインでライブストリーミングの開始を知った人が、すぐにアクセスできるというもの。

たとえばこの原稿を書いている時にPeriscopeにアクスセスしてみると、アナハイムのディズニーランドでジャングルクルーズの中継をしている人がいたり、カナダから火災現場の生々しい中継を行っていたりと言った具合だ。こういう生っぽい(いや生なのだが)中継映像のリアル感、リアルタイム感というのは作り物っぽいテレビとは別のインパクトがある。

セッションでは、こうしたパーソナルライブストリーミングは、テレビにとって少なからざる脅威になるという話で意見が一致する。つまりYouTubeのように、「制作」を伴うものは一般人には敷居が高いが、その場所の状況をスマホで流すだけなら誰でも出来る。その「状況」が、日常だったり、非日常だったり、事件や事故だったりによって、視聴される数や価値が変化するという。要するにTwitterやFacebookと全く同じだということだ。

成長の鍵は、テレビ局がどう位置づけるのか?どう活用するのか?

これだけの数のスマートフォンが世界中に散らばっていて、それはカメラと中継装置を備えているるわけだから、テレビのある部分の役割は代替されていくだろうということだ。聞いていて思ったのは、例えば放送としてのラジオが、かつてハガキのリクエスト中心で成立していたのが、FAXになり、メール、Twitterに変わっていった。その時代のリスナーとのコミュニケーションツールがより便利でスピーディーになって来たわけだ。少なくともラジオは、こうしたツールを積極的に活用してきた。

ではテレビはどうだろう。どちらかと言うと完パケの作品を放送することが中心で、それらをニュースやスポーツなどの中継が、完パケものを補完している。映像完パケものは一般人には手を出しにくいので、テレビはさほど市場を侵食されることはなかったが、ある場所、その場の状況をスマホでHDとか4Kで伝送できるようになると、テレビ局の中継クルーがどれだけいても勝てるわけがない。

こうしたパーソナルなライブストリーミングをテレビ局がどう位置づけるのか、どう活用するのか、これからの大きなテーマになるのではないだろうか。少なくともアメリカでは、作り物の方はNetflixが担当してきている感じは否めない。

txt:江口靖二 構成:編集部


Vol.04 [CES2016] Vol.06