txt:山本 愛 構成:編集部

なぜ今、CESがアド&マーケティングに注目?

昨年、CESでは初の試みとして、Tech South 「C Space」という広告やマーケティングに特化した会場が設けられた(昨年もC Spaceという企画は存在した)。今年はC Spaceの出店企業が倍になったと発表されたが、なぜCESは今、広告やマーケティングに注目しはじめたのか。

CES2016_06_screen

C Spaceの会場

CES2016_06_8936

「C Spaceは、クリエイティブコミュニケーター、ブランドマーケッター、広告エージェンシー、デジタルパブリッシャーやソーシャルネットワークのための場。コンテンツのクリエイティビティ、テクノロジーやインフルセンサーが集まり、どう業界やブランドを向上していくか、新たな手法を発見する場」とCESは定義している。

広告コミュニケーションをテーマにする雑誌Adweekも参加企業の一つだ。C Spaceにブースを出しており、CESに関するニュースをカバーしていた。ブース担当者と話をしてみると、「我々のクライアント(広告主、広告代理店)が注目しているのだから、カバーしないわけにはいかない。年々、広告関係やコンテンツクリエイターの参加が増えてきて、CESの会場のあちこちに散らばっていたが、それを一箇所にまとめたのがC Spaceなんじゃない?」とのこと。

CES2016_06_8890

広告、ブランド、マーケティング、コンテンツ関連の参加者は、今年3万人以上と言われているが、なぜ今、広告関係者が家電ショーに参加するのか。「CESはもはや家電ショーでなくなっている」というVol.00の記事を前提に紐解いていきたい。

切っても切れない「テクノロジー」と「コンテンツ」の関係

CESの主催が「コンシューマー・テクノロジー協会」と名前を変えた事が物語るように、家電やガジェットはIoT化され、もはや家電は「テクノロジー」であるという概念。そうなると、今度はインターネットに繋がれた事により可能になるサービスやシステムの部分が評価や議題に上る。テレビで言うとNetflixなどのストリーミングサービス、YouTube、オンラインメディアやFacebookなどのソーシャルネットワークサービス、そして、その裏にあるメタデータ・プラットホームまで、参加企業が目立っていた。彼らにとって命となるのが、「コンテンツ」なのだ。

CES2016_06_9065

映像機器にとってもそうだ。YouTubeのKeynoteセッションで、GoProのCEO、Nick Woodman氏とVrse(VRコンテンツの制作会社)のファウンダーChris Milk氏の対談で、「テクノロジーとコンテンツ、どちらが先だと思う?」という質問に対して「テクノロジーがないとコンテンツは作れない、だからテクノロジーが先だけど、ほぼ同時に、すぐ優れたコンテンツがないと、テクノロジーは普及しない」と言っていた。

つまり、CESで展示されているガジェット(テクノロジー)は全て、そこに人々の心を動かすコンテンツがないと、テクノロジーがいくら優れていても普及しない、という事かもしれない。GoProは昨年、Huluのオリジナルコンテンツ部門をリードしてきたCharlotte Koh氏をリクルートし、本格的なプレミアムビデオコンテンツ産業への参入をアピールしたばかりだ。

CESでは1,000人規模の会場で行われるKeynoteセッションから、20人ほどの小さなものまで、一日50~60以上のセッションが行われているが、その中でも優れたコンテンツをどう作るか?コンテンツをどう流通させるか?をディスカッションするセミナーが目立っていたのは、テクノロジーにおいてコンテンツの重要性を世の中が気づき始めた現れなのかもしれない。

「強化された広告の未来」

CESのセッションは、カンヌライオンズがクリエイティブベースのセミナーが多いのに対し、アイデアよりもテクノロジーベースのコンテンツ/広告の会話がほとんど。C Spaceのセッションで面白かったのが、「強化された広告の未来」というセッションであった。

CES2016_06_8992

Intelのグローバルマーケ&ブランディングのVP、Penny Baldwin氏、Under Armourの広告部門VP、Warren Kay氏、Forbes MediaのCRO、Mark Howard氏、Havas Worldwideのグローバル・チーフ・コンテンツ・オフィサー、Vin Farrell氏、Creative Artists Agency(アメリカのタレントエージェンシー)のマーケティングヘッド、David Messinger氏、Nut + Bolt(コンテンツコンサル)のパートナー、Tom Flanagan氏

「コンテンツを広めるのはブランドストラテジーと言われてきたけど、今はもはやチャンネルストラテジーだ」と会話が始まった。コンテンツは、コンテンツとプラットホームを一つで考えなくてはならない。コンテンツがどんなコンテクスト(文脈)の中にあるかが重要で、消費者がそれをどのように見つけるかが大切。SNSプラットホームの面白さは表のコンテンツと同じくらい、裏のメタデータにもある。

今やエージェンシーは制作するだけでなく、その先を測らなくてはならない時代。アメリカでは4,500万人がアドブロッカーを使っていると言われていて、1年で48%増し(メディア会社の未来は?)。それに加えコンテンツにお金を払わない時代なら、どうマネタイズする?デジタル広告にディスラプション(破壊)が必要…など、ディスカッションベースで濃い内容だった。

「破壊」と「再改革」

CES2016_06_8961

iHeartMediaのCMO、Gayle Troberman氏、MediaLinkのCEO、Michael Kassan氏、プレジデントのWenda H. Millard氏、GEのパフォーマンスマーケティングラボのGM、Andy Markowitz氏、Playboy誌のCEO、Scott Flanders氏、NBCUniversalのチェアマンで広告セールス担当、Linda Yaccarino氏、Coca-ColaのSVP、Emmanuel Seuge氏、Time誌のVP、Christine Wu氏

もう一つ、印象に残ったのは「Brand Reinvention(ブランド再改革)」というセッション。100年以上もの歴史を持つブランドが、この時代にどうディスラプティブな再改革を行い成功を収めているか。

それぞれの企業が、どうディスラプティブなマーケティングストラテジーを取ったか。中でも印象的だったのが、Playboy誌が売れなくなってきた事に対して行った策。伝統的なPlayboyブランドの中心にあったフルヌードを一切止める事を決断したそう。その結果、今まで40代が中心だったオーディエンスが一気に30代になり、ソーシャルメディアで8,000万人にリーチした。

クリアチャンネルというOOH広告とコンテンツメディアの会社の話も面白かった。オンラインベースのラジオチャンネルにシフトする時に、ブランドを一から考え、今まで認知されていたブランド名を完全に変えiHeartRadioと名付けた。ブランド、ストラテジーを全て一新し、体制を作るのにかけたのはわずか6週間。とにかく直感で動き、無駄なリサーチなどはしなかったという。

今の時代に必要なのは、とにかくスピード。最後に、コカ・コーラがShare a cokeのキャンペーンについて。4年前にオーストラリアで始まった同キャンペーン。自分の名前がない、とコカ・コーラにツイートした人が多く、今年サイトを立ち上げ、誰もがオンラインサイトから自分の名前のオリジナルボトルを買えるようにした。そして、ツイートした人に対しては、「このサイトで買えるようになったよ」と返信。ブランドの伝統を今の時代にフレッシュに再改革していく事が大切、とのこと。

その他のセッションあれこれ

Facebookは自らをメディアとは捉えておらず、コンサルなんだ、と言っていたのが印象的だった。FacebookとUberのパートナーシップの話(メッセンジャーの中でUberを呼べるサービス)、Facebookが行ったスター・ウォーズのキャンペーンの紹介など。

セッションはその他にも「プログラマティックTV(テレビ広告のプログラマティック取引)は現実だ」や、Spotify、Pandoraなどの音楽ストリーミング主催のものなども多かった。

ビジネスとミーティングの場

C Spaceの会場を大きく分けると

  • ブース
  • セミナー
  • 参加企業のミーティングルーム
  • がある。このミーティングルームへはひっきりなしに人が出入りしていた。ブランド、エージェンシー、メディア、サービスプロバイダーがこれほど揃っている場もそうはない。「ビジネスには最高の場だ!」と、GE(ゼネラル・エレクトリック)の広告担当者も言っていた。確かに、カンヌやSXSWとはまた少し違うダイバーシティを持つ企業が揃っており、とても刺激を受ける事ができた。ブースを出店していたのは20社弱で、主に広告効果測定システムのサービスプロバイダーや、テレビメタデータを提供する会社などがほとんどであった。

    CES2016_06_8940

    alphonsoは、テレビのメタデータを利用し、その番組やCM時にモバイルと連動させしマルチスクリーン体験を可能にするサービス。

    CES2016_06_8938

    Adstreamは、テレビ局にデータで納品するサービスプラットホーム。新しい試みとして、CMやコンテンツを視聴している間のメタデータを分析し、そのフィードバックをエージェンシーに送り、うまくいっていない場合に修正する事も可能!とのこと。プロダクションとしてはドキドキする話だが、広告をデータで評価する事が可能な時代になったということだ。

    CES2016_06_IMG_8958

    Discovery Channelのブースは独自で撮影したVRコンテンツの視聴を行っていた。彼らは今、VRコンテンツに力を入れている代表的なコンテンツプロバイダーと言っても過言ではない。2Dコンテンツを作ってきたチームとテクニカルスタッフで、昨年8月から制作開始したそうだ(Discovery VRのアプリから、Oculus/Google Cardboardで体験できるので、もしよければ試してみてほしい。2Dでも視聴可能)。コンテンツ系のセッションでは、VRはかなり話題に上っており、「必ず来る」というのがCES全体の空気感があった。

    CESで占う広告コンテンツの今

    5年ほど前に広告の形が変わると言われ、数年前からは「ブランデッドコンテンツ」がキーワードとなり、今年は最新のテクノロジーが集まる世界一大きなショーに、「コンテンツ」の文字が溢れた。それは何を意味するのか。コンテンツ単体ではなく、その裏にあるデータ、プラットホーム、コンテンツがあるコンテクスト(文脈)、ディストリビューションが話題の中心だった。これがこの先加速するのか、それとも違う方向に行くのか。とても興味深い。

    CESが面白いのは、近い未来に触れているようで、占いにすぎないという事。CESは、他の広告祭などと違い、主役がブランドではなくあくまでもコンシューマーなんだと思う。ブランドのために何をしたか?ではなく、コンシューマーのために何を作ったか、を議論し合う。だから、人間である我々がテクノロジーについていけないと、そのテクノロジーは消えてゆくし、人間の心をときめかせるコンテンツが、テクノロジーと共にないといけないのだと思う。

    txt:山本 愛 構成:編集部


    Vol.05 [CES2016] Vol.07