txt:石川幸宏 構成:編集部
アドビ システムズ
今回のIBCでアドビ システムズ社は、Adobe Creative Cloud(CC)の次期バージョンアップに関して様々な機能拡張を発表。その概要について、アドビ システムズ プロフェッショナルビデオ&オーディオ シニアプロダクトマネージャーのパトリック J.パーマー氏に話を聞いた。
パトリック J.パーマー氏
■チームプロジェクト
パーマー氏:このIBCでの発表は、“チームプロジェクト”が一番のテーマです。それはユーザー同士のコネクティングを強化できる機能です。複数人が同じプロジェクトで作業する場合、これまでは全てのメディアとプロジェクトファイルを送る必要がありましたが、Adobe CCを使うことによって逐一データを送らなくてもプロジェクトを共有することが出来るようになりました。
今回の“チームプロジェクト”を使って頂ければ、そうした共同作業がさらにスムーズになります。例えば一人がオンラインのメディアを持っていて、もう一人がプロキシメディア(ex.6月のアップデートで可能になった4K/8Kからの低解像度メディアのこと)を持っている場合、プロジェクトファイルを使って、お互いに行ったり来たりができるわけです。
ただ、これまでの共同作業という部分で問題だったのは“バージョン違い”というところでしたが、このチームプロジェクトではそれもサポートされています。また同じプロジェクト内で、同じ部分を二人の人が操作してしまうといった編集情報の競合が起きた時の問題を解決できるというのもポイントです。このようなチームプロジェクト機能が、Adobe CCでは標準でご利用頂けます。
このソフトのバージョニングやコンフリクトの解決の諸機能は、Adobe CCメンバーであれば次期バージョンアップにてご利用頂けます。またチームプロジェクト機能は、Premiere Proだけではなく、After EffectsやPreludeといった併用するアプリケーションとも全て共有できるようになっています。共有という部分ではテロップ等で使用されるグラフィックやテキストといった情報も含めて、プロジェクト内で共有できるようになります。
また個別の作業環境内におけるフォントの有無の問題もCCのタイプキットを使えば簡単に解決できます。このチームプロジェクトのもう一つの大きな利点は、Adobe CCをオフィスとモバイルPC等の2つのPCにインストールされている場合でも、2つの違うマシンでも同環境で作業が続けられるということもあります。
■Live Textテンプレート/オーディオ機能
パーマー氏:一年ほど前に新機能として入ったものですが、今回は機能を少し変更しています。例えばAfter Effectsでモーショングラフィックスを作って頂いたときに、今回のLive Textテンプレートを使うと一つのファイルの中にフォントやアニメーションなど全ての情報が入っていて、それをPremiere Proでも使用頂けます。例えばPremiere Proの方でテキスト情報のみを変更するということも可能で、その際にAfter Effectsで作ったモーショングラフィックス情報はそのまま維持しつつ、変更が可能です。
これは他の製品でも共通に行って来たテーマですが、要はワークフローをいかにシンプルにするか?というのが大きなポイントになっています。オーディオやカラーの部分でもそれは反映され、例えばAdobe Auditionで持っているノイズリダクションやコンプレッサー、イコライザーといった一部の機能をPremiere Proから直接操作できるようになりました。これらのこれまでAuditionでした提供していなかった機能もPremiere Proのオーディオ機能の中で操作することが可能になりました。
■After Effectsのパフォーマンスアップ
パーマー氏:After Effectsについては、今まで以上にパフォーマンス機能のアップという点を重視し、機能よりもスピード=パフォーマンスという点を強化しています。次期バージョンの中で大きな2つのポイントは、Cine Renderと呼ばれるCINEMA 4Dの3Dレンダリングエンジンの統合という部分です。今回CPUを使った高速な3Dレンダリングエンジンが搭載されるようになりました。もう一つのポイントはRAWメディア(ファイルをエフェクトを掛けないそのままの状態)でもPremiere Proと同様にリアルタイム再生が出来ます。
■HDR対応
パーマー氏:映像業界全体がHDR(ハイダイナミックレンジ)へ向かっている中で、HDRについてもHDRメタデータへの対応という新たな機能が装備されます。Premiere Proの次期アップデートでは、インポートされたHDRのデータを認識する事はもちろん、書き出しの部分でもエクスポートのデータにHDRデータを付加して書き出しということもできるようになっています。HDRはかなりテクニカルなものですが、ルメトリー(Premiere Proのカラーエフェクト)も強化され、セカンダリーでのカラーコレクションをより簡単にする機能強化が図られています。選択した特定の色成分の補正等が簡単にできます。
■360°VR機能の強化
パーマー氏:360°のVR機能についても強化しています。ビューワーでイクイレクタンギュラ(正距円筒図法=360°映像の全展開画面)のデータを表示してVRモードにする際に、以前は平面もしくはステレオ立体視のものであれば立体視の上下左右を選ぶ必要があったのですが、次期アップデートでは素材の映像を自動認識して平面視なのか立体視なのかを勝手に認識して、立体視のものであればVR表示機能がつくため作業が非常に早く行えます。
■キーボードショートカットの画面設定
パーマー氏:最後に最も重要なアップデートポイントとして、キーボードショートカットのカスタマイズ設定が画面でキーボードの図面を見ながら行えるようになりました!この機能は日本のユーザーから非常に要望が多かった機能です。
これらの次期バージョンへの機能アップデートは、2016年の後半を予定している。同社ブースではVR制作向けのセミナーなども開催され、多くの来場者が訪れるなど、終日まで賑わいを見せていた。
キヤノン
IBCでは、他の展示会では見られない(!)ユニークな展示ディスプレイで毎回来場者を楽しませてくれるキヤノン。ここ数年Canon Europeでは、変わったスポーツを題材にカメラの機動性やAFスピード、描写力などをアピールしてきたが、今年のテーマは「München City Surf」。そう、ドイツ・ミュンヘンのアイスバッハで行われている街中のサーフィンだ。激流の川の流れに乗って海のない内陸地のミュンヘンでもサーフィンを楽しむ人たちがいる。このサーフショップをテーマに各ブース内のディスプレイが行われていた。
新製品は、先述のシネマカメラの最高峰機種EOS C700の発表を筆頭に、放送用レンズ、HDR対応ディスプレイ、小型カメラなど多岐にわたる新製品を展示。
放送レンズでは、スポーツ中継等でグラウンドレベルから選手を広角で狙うための、ユーザー待望の同社初の4Kスタジオズームレンズ「UHD-DIGISUPER 27」が登場。2/3型センサー搭載の放送用カメラ向けのスタジオレンズで、焦点距離6.5~180mmの27倍の全ズーム域で4Kを超える高い光学性能を持ち、しかも従来のHDTV対応スタジオズームレンズと同等の大きさ・質量を抑えたズームレンズ。さらに、焦点距離を2倍に引き上げるエクステンダーをレンズ本体に内蔵、望遠端360mmまでの撮影領域でも4Kを超える描写性を持った高精細な映像撮影が可能だ。
HDR制作向けとして、昨年同様にMISTIKAを配したカラーグレーディングコーナーを設置。新発表の高輝度業務用4Kディスプレイの新機種、24型の「DP-V2420」と業界初となる17型「DP-V1710」を出展。DP-V2420は、HDR時代の各種方式に対応。ITU提唱の「ITU-R BT.2100-0」、キヤノンのデジタルシネマカメラの「Canon Log」「Canon Log2」「Canon Log3」などに対応。
XC15
小型4Kカメラで、映画「シン・ゴジラ」の撮影にARRI ALEXAとともに使われたXC10。その後継機種となるXC15も発表された。XC10をベースに、XLR端子のマイクが使用可能になり、またEOS C300 Mark IIと同様の色合いを持つルック(映像表現選択モード)を追加。またウェーブフォームなども表示できる機能が追加されている。EOS C300 Mark IIなどシネマ系撮影のサブカメラとしても活用できる。XC15は9月下旬からの出荷予定。
txt:石川幸宏 構成:編集部