txt:Tom INOKWA 構成:編集部

進展するIP化への波と、ワークフロー・リノベーション

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9月初旬としては例年になく日中汗ばむほど気温が高いオランダ・アムステルダム。今年もまた欧州最大の映像・放送の展示会「IBC(International Broadcast Conference)2016」が、9月9日~13日(カンファレンスは8日~12日)の日程で例年通りアムステルダム市郊外のRAI会場で開催された。

IBCは主にヨーロッパ圏内の放送局に向けて、放送分野を中心とした最新映像・音響技術の展示会イベントとして長年親しまれているが、NABや日本のInterBEEと同様に、広く映像・音響に関わる最新テクノロジーの公開の場として、分野を超えて取り扱うようになってきている。

また金曜日に始まり、土日を挟んで火曜日までの計5日間という独特で変則的な長いスケジュールも、放送業界における社交場としての意味が重要視されてきたようで、放送設備関連の大きなブースには必ずバーカウンターが設けられ、連日午後3時を過ぎた辺りから、メーカースタッフと放送局関係者がワイングラスを傾けながら、業界裏話に興じるといった光景は、今も多く見られる。

以前はIBC開催期間の土日を利用して、各国から家族連れで訪れる放送関係者も多く、家族は観光、本人はIBC視察+業界での懇親を深めるといった趣きは、欧州ならでは光景かもしれない。

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欧州はかつて日本とは違う放送方式であるPAL圏(日米はNTSC)であったため放送設備や機材も大きく異なり、IBCで披露される最新技術もあまり日本では意味が無く、我々メディア関係者もNABほど注目するイベントではなかった。

しかし、15年ほど前からのHD化への波によりその相違も次第になくなり、さらに新たな考え方のソフトウェアや機材、次代を予感させるコア技術が欧州エリアから多く輩出される時代が来るとともに、IBCへ注目も年々増してきた。またそれによって放送関係者だけでなく、広く制作、配信等に関わる映像関係者の注目を浴びるようになったのは、他のイベントと同じ潮流だ。当然ここ近年の4K高解像度化への新規機材導入、IP化、HDR、VRなど、IBCにおける技術トレンドは、さらにそのユーザー層に変化を及ぼしており、出展社、来場者ともにまたその様相も変わってきている。

さらにここにきて、OTT(Over The Top=Netflix、hulu等)のネット配信系の映像ビジネスの世界的隆盛により、特に欧州圏内では早くからBBCのiPlayerなど、テレビコンテンツと連動したネット配信サービスが早くから盛んでTV以外での視聴リテラシーも年代を超えて普及きてしていることから、ネットコンテンツに求められる「クオリティは落とさず、制作時間は短く!」といった風潮が際立ってきている。その中で特にIP化への波は、これまでの制作スタイルや組織は変えずに、時短とコストマネジメントを効率よく推進させるための、“ワークフロー・リノベーション”としての有意義なソリューションとして大きく注目されている。

放送局=コンテンツ・ディストリビューターとしての、IP化の重要性

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今年のIBCにおけるトレンドは、春の米ラスベガスで行われたNABからの流れから、HDR(ハイ・ダイナミック・レンジ)の実用訴求においてPQとHLGの普及・実装技術などの製品発表と、日本ではまだ先といったイメージのある放送局でのIP化への波が、ここにきて大きく動いていることだろう。

HDRは最終的に家庭など、視聴端末における技術やデバイス側の問題が大きいので、制作・配信側で出来ることは限られてくるが、IP化に関しては、これからの放送局の動きとして、従来の放送に加えてネット配信のコンテンツホルダーとしても重要な立ち位置を確立することが、今後のマスメディアにおけるコンテンツビジネスを考えて行く上で重要かつ必要な条件になりつつある。

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特に先進国における放送局のあり方は、その意義の再確認として問われており、IP化へと変わって来ているようだ。IP化は別に3G-SDI/4本を1本に束ねるための技術ではない。最終的にはIP化によりデータセンターからシームレスにTVコンテンツをネット配信=ネット課金できるようなシステムを構築するインフラになるのだが、ここにきて急速にその構築が急がれているように思われる。

中でも解像度に関しては、すでに4Kスタンダードという点はネット配信のほうがいち早く対応可能なため、そこにHDRも加えた訴求システムを考える中で、コンテンツの視聴が急速にネットデバイスに移行している状況においては、IPによる早期のデータセンターの確立、立ち上げが重要だ。

フタを開ければ、シネマレンズ祭り!

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今回のもう一つのトレンドは、シネマレンズ市場がこのIBCで一気に活況を帯びて来たことだ。2012年以降、キヤノンCINEMA EOS SYSTEM、ブラックマジックデザインのシネマカメラシリーズを始め、ソニーF55やRED Digital Cinemaの動向、そして近年はパナソニックの第二世代VARICAMの登場など、各社からここ数年で多くのシネマカメラが発売された。

またソニーαシリーズなど、ミラーレスも含めた一眼ムービーユーザーも急速に増えてきた中で、その普及に伴わないのが対応するシネマレンズ群の少なさだ。特にハイエンド向けではなく、ミドルレンジでもレンタル、もしくは購入できるようなレンズの登場は、各分野で待望されていた。光学系は開発から製品化までに時間を要することから、当時からの準備でようやくこの時期に出そろって、正式発表も始まったということだろう。

その他では、ドローン関係は数社出展はあるものの、昨年までの勢いはなく、またVR関係もNABほど大々的で目立った展示はなかった。8Kといった上位方向にはまだどの国も興味を示していないのか、Future Zoneにおいて唯一日本のNHKのみの先行展示という状況はこれまでと変わらなかった。

IBC2016で発表され話題となった新製品とともに、そこから見えて来たこれからの映像技術、製品のトレンドなどをお伝えする。

txt:Tom INOKWA 構成:編集部


[IBC 2016] Vol.01