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txt:石川幸宏 構成:編集部
コンテンツデータセンターとしての放送局再構築
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今年のIBC2016における開催6日間(8日~13日)の登録来場者数合計は55,796名と、昨年(55,182名)を約600名ほど上回る結果となった。会場数も14ホールから15ホールへと1ホール増え、1,800社を超える出展社のうち、249社(団体)の新規参加社が含まれるなど、参加する企業にもIPを基盤とする世代交代とともに、多様化する各種ソリューションの進展・変革も顕著に進んでいるように思われる。
特にヨーロッパでは放送のIP化において、デジタルデバイスによる視聴リテラシー(通信視聴デバイスの使い方などの常識)の普及も中高年層も含めて進んでいる中で、放送局がブロードキャスト以外のコンテンツデータセンターとして再構築し、今後のマスメディアとしての生き残りをかけて、早急なIP化構築を意識しているようだ。
さらにコンテンツの差別化として期待されるHDRの分野でも、この1年で明らかにユーザー側の知識が向上しており、中にはスマートフォンの輝度測定アプリを使用して各社のHDRデバイス(ディスプレイなど)の性能を計っていく局やプロダクション関係者も増えたという。
放送方式という点でPQとHLGの規格規定が決まってきたが、反面HDRについてはあくまで最終視聴環境の問題が大きく、家庭や個人といった末端での視聴環境が、どの程度どういう規格でどのような視聴環境を提供できるかという課題は大きく、民生用テレビやデジタルデバイスの進展により、これからの展開がはっきりと見えないのが現状だ。
シネマレンズ活況
同特集の冒頭でもお伝えした通り、今年は各社から新たなレンズが大量に発表され、一大レンズ祭りとなった。ここで紹介できなかった小さなメーカーやレンズ関連商品も多く出ていたようだ。タイミング的にも、大判センサーカメラが一気に発表された2012~2013年ごろの影響もあり、カメラはあるが対応するレンズの製品層が薄いという状況だった。そのころから設計開発が始まったシネマ向けの大判センサー対応レンズ群がここに来て軒並み発表段階を迎え、一挙に表に出て来たように思われる。
IBC開催地がCooke、カールツァイス、アンジェニューなど欧州系のレンズメーカーの地元でもあることから、なおさら力が入っていた。この展開は今年11月のInterBEEでも期待できそうだ。そのほかのトレンドでは、VR関係でノキアのOZOを始め数社の出展はあったものの、今年のNABほどの盛り上がりもなく、ドローン関係は同時期にラスベガスで開催されていたドローン系展示会の影響からか、出展自体も少なかったのが印象的だった。
IBC2016 フォトダイジェスト
■ARRI
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今年春に3月に発表したALEXA SXTの実機を展示。従来の3.4K ALEV IIIセンサーを搭載、新型の基板アーキテクチャによりUHD(3840×2160)をProResフォーマットおよび4K Cine(4096×2637)で記録可能。従来のオープンゲート(Open Gate)による4:3と16:9のセンサーモード切り替えが可能で、アナモフィックレンズによるシネスコ撮影も可能。ARRIRAWとProRes記録に対応。
SXTは、AMIRAが持つカラーマネージメントエンジンを採用しつつ、ALEXAセンサーによるフィルム制作環境の広色域をサポート。ALF-2(ARRIのルックファイル2)、ASC CDL(カラーディシジョンリスト)に加え3D LUTに対応。ALF-2はARRI MiniとAMIRAと同じルックにできる。またBT.2020にも対応している。このSXTにもキヤノンEOS C700、Panasonic VARICAM PUREと同じ形状の、CODEXのメディアドライブが装着出来るので、フォーマットは違うがメディア共有が可能。ほかにもXRキャプチャードライブ、ソニーS×S、CFast2.0などが選べる。
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SKYPANELの大型ロングバージョンや、NABで発表されたハイブリッド・スタビライズシステム、TRINITYのコーナーも人気だった。日本からスタビライズカメラシステムのベテランオペレーター、金子雪生氏もIBC会場に来場し、見事なオペレーティングを披露して注目を浴びていた。
■アビッドテクノロジー
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IBCでは、ソフトウェア定義型ストレージ・プラットフォーム「Avid NEXIS」の最新技術として、大規模プロダクションや放送局向けのリアルタイム共同編集などハイパフォーマンスを提供する「Avid NEXIS | E5」エンジンや、オーディオ編集システムのProToolsの最新バージョン「ProTools 12.6」の公開、「ProTools | HD」の最新ライセンスオプションを発表したアビッドテクノロジー。その他IP、UHD関連の各種最新ソリューションやアライアンスパートナー・プログラムの発表を行った。
■朋栄
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4KハイスピードカメラのFT-ONEのカメラヘッド分離モデル「FT-ONE-LS」を参考展示。2倍速4Kのリアルタイム出力も可能で、既存のFT-ONEにくらべて暗部でのノイズが改善された。そのほかビデオスイッチャーHVS-390HSの後継機、4K対応の「HVS-490」や12G-SDI対応のフレームシンクロナイザー/カラーコレクターの「FA-9600」を参考展示・初公開。
■AJA Video Systems
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IPベースのビデオ&オーディオのワークフローをサポートする新しい2機種のミニコンバーター「IPR-1G-HDMI」「IPR-1G-SDI」を発表。プロテクションスイッチングをサポートしたSMPTE 2022-7を含むブロードキャストIPパイプラインの冗長性と信頼性を向上させる、KONA IPに対応した新機能を備えたデスクトップソフトウェアv12.5を発表した。これはKONA IPにSMPTE 2022-7を追加、シームレスなプロテクション・スイッチングを提供。ユーザーはIPネットワーク上のビデオを簡単にルーティングするために、2つの別々のネットワークを上部と下部のSFP+ケージから同じ非圧縮データストリームの送信が可能だ。さらにAJAコントロールパネルにHDR10メタデータ対応。
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省スペースで高性能かつ費用対効果の高い信号ルーティングを可能にする64入力/64出力対応の3G-SDIルーター「KUMO 6464」。ビデオとオーディオの入出力デバイスKONA、T-TAPおよびIo製品のver.12.5ドライバーとソフトウェア、RovoCamのRovoRx-SDI HDBaseTレシーバーとRovoControl v2.0ソフトウェアなどを発表。
■グラスバレー
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EDIUS 8の最新バージョン、8.22を出展。4月公開のEDIUS 8.2から、モーショントラッキング、ドラフトプレビュー、プライマリーカラーコレクションの機能を追加。プライマリーカラーコレクション機能がより強化され、GPUによる高速化や対応するカメラLogの種類を追加や、より多くのLogデータに対応するためにカスタムLUTファイルのインポートに対応し、LUTが提供されているLogデータすべてに対応しているほかBT.2020、HDRへの対応も追加された。
■RED Digital Cinema
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噂の8Kカメラ、RED WEAPON with HELIUM 8K S35 sensor[Limited Edition]を一般初公開。RED初の白い筐体に多くの来場者が興味を惹かれていた。8K HELIUMはRED本体のブースのほか、カールツァイスやLeicaのCW Sonderopticといったシネマレンズメーカーのブースにも展示してあった。
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来年のIBC2017は、同じオランダ・アムステルダムRAI会場にて、9月15~19日(カンファレンスは14日~18日)の期間で開催される予定。
txt:石川幸宏 構成:編集部
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