タカザワ氏が所有する「URSA mini 4.6K EF」モデルにMilvus 1.4/85を搭載

txt・構成:編集部

タカザワ氏が選んだ交換レンズ「Milvus」シリーズ

映像業界で活躍をしているプロダクションやカメラマンは、どのような交換レンズをどのような理由で選んでいるのだろうか。レンズ選びをテーマに、前編と後編に分けて4人のクリエイターに話を聞いてみた。

タカザワカズヒト
東京写真学園プロカメラマンコース研修科卒業。出版社のインハウスフォトグラファーを経て独立。デジタルフィルムカメラを使用した映像制作を行なう。監督した短編ドキュメンタリー「おだやか家 ODAYAKA-YA」(2016)、「おぶせびと」(2017)が2年連続で海外の映画祭で複数のWINNERを獲得。ハリウッドとロサンゼルスのレッドカーペットに正式招待された。DesignAwards.Asia審査員。


――タカザワさんがこれまでに手がけられました作品のご紹介をお願いします

タカザワ氏:映像の仕事を始めた頃はプロモーション映像などを手がけまして、その後2016年夏に自主制作で1年間取材をした初の短編ドキュメンタリー「おだやか家ODAYAKA‒YA」が完成しました。東日本大震災をきっかけに、東京での暮らしから神奈川県は相模湖に移住し、自給自足のライフスタイルにシフトした一組の夫婦の物語を綴ったショートフィルムです。Amazonプライムビデオなどで視聴することができます。

私のスタイルは脚本を作ったり、映画のシーケンスの手法を取り入れて撮影していて、ストーリー性を重視しています。それはドキュメンタリーでも同様で、ドキュメンタリー作品というのは一般的にカット割りをしないのですが、私の場合は結構行っています。エンターテイメントとして観られるように作るのがコンセプトで、同様のスタイルが多い海外で好評で世界各地の映画祭で11のアワードを受賞することができました。おだやか家の公開がきっかけで、「こういうテイストで作ってください」というように仕事を頂くことが増えました。

2017年に小布施町からの依頼で制作したドキュメンタリー作品「おぶせびと」もそのような流れで完成しました。長野県小布施町のまちづくりを映像化するという漠然としたミッションだったのですが、試行錯誤の結果、小布施町に住む魅力的な人たちにフォーカスすることで作品は完成しました。

――タカザワさんの事務所は「写真映像事務所」ですが、何がきっかけで映像制作を始めたのですか

タカザワ氏:もともとは出版社で写真撮影をしていまして、映像撮影は4年前に始めました。キヤノンのEOS 5D Mark IIに動画機能が搭載され、写真家たちの間で話題になりましたが、私もこのカメラの登場が動画撮影を始めるきっかけでした。

写真を撮っていた人がいきなり映像を撮れと言われても難しくて、私も最初は何を撮っていいかわかりませんでした。当時、いろいろな動画撮影セミナーにも参加しまして、セミナーで教えていただいたミュージックビデオを作って公開したら、業界のWebマガジンで紹介して頂きました。それからは楽しくて映像にのめり込んでいきました。今では映像の人と思われているらしく、映像8割、写真2割くらいで仕事しています。

――映像の仕事でズームレンズと単焦点レンズの比率はどれぐらいですか

タカザワ氏:単焦点レンズのみでズームレンズは使っていません。映りがぜんぜん違います。また、ズームレンズを使っていると自分がどの焦点距離で撮っているのかわからなくなることがあります。単焦点であれば「ここは35mmだな」とか「ここは50mmだな」ということを考えながら先に焦点距離を決めて撮影するので、画角の説得力が増し、画作りも強いものになります。

――Milvusシリーズの単焦点レンズを使われていますが、EFレンズマウントの「URSA mini 4.6K」であれば、キヤノン純正のEFレンズという選択肢は考えられませんでしたか

タカザワ氏:Milvusの魅力は現場の雰囲気が映し取れる素晴らしい描写力と、フォーカスリングの滑らかさ、そして回転角の大きさです。マニュアルフォーカスレンズと、オートフォーカスレンズでは、フォーカスリングの回転角が圧倒的に違います。オートフォーカスレンズは回転角が小さいために、リングを少し動かしただけでフォーカスは大きく動いてしまいます。その点、Milvusは回転角が大きいため、ゆっくりフォーカスを送ることができます。Milvusは映りの面とフォーカスのしやすさの面で非常に映像向きの交換レンズだと思います。

タカザワ氏が使用しているMilvusシリーズ。発売されたばかりのMilvus1.4/25も含めて11本すべて揃えている

――Milvusシリーズの中で特にお気に入りのレンズはありますか

タカザワ氏:使っていて一番「これはいい!」と思うのはMilvus 1.4/85です。圧倒的に描写が美しいです。撮影中のモニターに思わず見とれてしまう美しさがあります。85mmという焦点距離もあって、人を立たせて撮るだけで作品になってしまいます。35mmや50mmも使いますが、「ここぞ」というときには85mmを使います。

あと、最近発売になったMilvus1.4/25は恐ろしいレンズです。映画のシーンでは人物の背景も状況説明のために画角に入ってくることが多いんですが、25mmという広角にも関わらずボケ味が美しく、主人公を立体的に際立たせてくれて、かつ背景を綺麗にボカしてくれるので、画がうるさくならないんですよ。今後多用していくレンズの一つだと思っています。

――Milvus 1.4/85はどれぐらい絞って使っていますか

タカザワ氏:このレンズは開放でもシャープですので、開放でも積極的に使っています。また、Milvusはフォーカスを合わせたい主題が際立つため、ファインダーやビューファーでもフォーカスが合わせやすく、ピーキングを使う必要はありません。撮る前から「これは絶対にきれいだな」というのが分かるのでテンションが上がります。これだけきれいに撮れているのだったら間違いがない、という感じで、撮影が楽しくなったり、自信を持たせてくれるレンズです。

――Milvusシリーズは重量のある交換レンズだと思います。撮影現場ではどのように運用されてますか

タカザワ氏:重量は確かにあります。実際のロケでは絵コンテなどの情報を見ながら、5本や6本のレンズを選んで使っていますが、シネレンズに比べれば軽いですし、値段もお手頃です。 Milvusシリーズは、価格と性能、使い勝手のバランスがもっとも優れたレンズだと思いま す。

照山氏が選んだ交換レンズ「フォクトレンダー NOKTON F0.95」シリーズ

照山明
日本大学芸術学部映画学科撮影録音コース卒業。在学中に映像と演劇の融合を目指した「ガイプロジェクト」に参画、劇団「Theatre劇団子」を中心とした舞台・映像制作に携わり、2006年には当時のメンバー数名で株式会社ガイプロジェクトを設立する。その後、映像制作会社として独立、現在は株式会社ガイプロモーションの代表として多種の映像制作を請け負う。

――どのような映像制作を手がけられていますか

照山氏:メインは企業VPになりまして7割、そのほかはDVDムック本の幼児教育用ビデオの制作が3割ぐらいになります。

――単焦点レンズとズームレンズの使用比率はどれぐらいですか

照山氏:五分五分ですね。単焦点で現場で妨げとなるのはレンズ交換です。そこで現場の内容によってズームレンズと単焦点レンズの選択を切り換えるようにしています。個人的にはズームレンズは妥協と考えています。レンズの交換の時間がある現場の場合は、必ず単焦点を選んで撮っています。

――どのような単焦点レンズを使われていますか

照山氏:カメラボディはパナソニックのデジタルカメラ「GH5」やJVCの4Kメモリーカードカメラレコーダー「GY-LS300」で、フォクトレンダーのNOKTONシリーズと組み合わせて使用しています。NOKTONシリーズは、焦点距離の異なる4種類のマイクロフォーサーズ用のラインナップをすべて揃えいます。使用頻度としては「25mm F0.95」と「42.5mm F0.95」の2本が定番で、広角レンズの「17.5mm F0.95」と「10.5mm F0.95」の2本は使うことが少ないです。

ただ、RAWで撮りたい場合は1インチセンサーでクロップファクターも大きいBlackmagic Designの「Pocket Cinema Camera」や「Micro Cinema Camera」を使うこともあります。その際は、17.5mmと組み合わせることにより標準レンズのように使うことができるようになります。ただ、RAWで撮る案件は少ないので、Pocket Cinema Cameraの出番自体は少ないですね。

マイクロフォーサーズマウントに対応したNOKTONのF0.95シリーズ。 「10.5mm F0.95 Aspherical「17.5mm F0.95 Aspherical」「25mm F0.95」「42.5mm F0.95」のすべてのラインナップを揃えている
――なぜNOKTONシリーズを選ばれましたか

照山氏:一番の理由は、フォーカスリングの動きの粘りの気持ちよさです。特に4Kなど解像度が上がるにつれて、フォーカスリングは特に重要な要素になります。しかし、一般的な単焦点レンズのフォーカスリングはスカスカな傾向があります。力を入れるとカクついたり、微妙に動かそうにも合わせづらいです。しかし、NOKTONシリーズはフォーカスを合わすときの操作性に優れているのでフォーカスの山がつかみやすいです。特有の滑らかな粘りがあり、現場でストレスを感じることもありません。

また、マイクロフォーサーズのNOKTONシリーズ第一弾として発売された25mm F0.95は、発売当時はスチル前提の交換レンズでしたが、後にクリック音を発生させず絞りリングを無段階で開閉できるTypeIIがリリースされました。その後のラインナップはいずれもクリックレスにできる仕様になっています(残念ながらここにある25mmのみTypeIなのでクリック音があるモデル)。そういうシネマレンズを意識したレンズを発売してくれるところも気に入っています。

あと、フォローフォーカスを使う際に重要なフォーカスリングの位置がだいたい揃っていることも見逃せません。私は各レンズにレンズギアを付けてますが、ほぼ同一の位置にあるのでセットアップが早いです。フォローフォーカスをずらさなくても、すぐにセットアップが可能なのも利点です。

さらに、マイクフォーサーズの最大の利点でもある圧倒的なコンパクトサイズを実現しているとろも見逃せません。Super35やAPS-C以上、フルサイズになってくると、レンズもどんどんと大きくなってくるし、現場でもかさばります。

私の場合は走ってカットをかせぐことも多いので、できるだけコンパクトなシステムにしたいと考えています。その一方で、「マイクロフォーサーズはボケない」とか「あまり被写界深度が浅くできない」という悩みもあります。NOKTONシリーズはF値が0.95なので、十分にマイクロフォーサーズのセンサーのカメラでも深度の浅さを活用した映像を撮ることもできます。

――やはり0.95だと浅い深度は可能ですか

すべてのレンズのフィルターをマグネット化。フィルターの付け替えをワンタッチでできるようにしている

照山氏:そうですね。ただ、ある程度の作品性を保つという意味では1.4以上は開けないようにして使っています。夜景のように情報さえ写ればいい場合は0.95の開放で撮ることもあります。

また、フィルターをマグネット化するXUMEマグネットフィルターアダプターを使い、77mmで全部揃えています。XUMEマグネットフィルターは、現在、マンフロットさんがその権利を買い取ってマンフロットブランドとして発売中ですね。

あと、レンズメーカーさんに要望したいのは、NOKTONシリーズは42.5mm以降のレンズが用意されていないことです。35mm換算で中望遠となる135mmぐらいのレンズをリリースしてほしいですね。

ポートレートや食品の撮影の際に42.5mmだと寄れなかったり、もう少しぐっと寄って圧縮したいときに75mm F1.8のオリンパスのレンズを使っています。コシナさんにはフォーカスリングの位置も従来のラインナップと同じ位置で、絞り切り替え機構を搭載した85mmぐらいのレンズの発売を要望したいですね。

txt・構成:編集部


Vol.05 [新世紀シネマレンズ漂流:最新単焦点レンズ編] Vol.07